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傭兵、爆発に巻き込まれて異世界に転移する(第1部完)  作者: @ルケミー
第1部 第2章 傭兵、異世界人と遭遇する。
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魔術講座

「えーっと、異世界から来たってことは、貴方達は召喚された異世界の勇者なの?」

「ん? 召喚? なんでここで勇者なんて言葉が出るんだ? それより、異世界から来たって話、信じるのか?」

「ええ、信じるわ。ここでは異世界から人を勇者として召喚する話が昔からそこそこ行われてるって昔にお婆ちゃんが言ってたし、今でもやってる国はあるもの。でも、その様子じゃ、貴方達は勇者として召喚された訳じゃ無さそうね」

 イクスが先に言ってしまったがそれなりに覚悟を決めて話したつもりでいた俺は、ソフィアの大して驚いた様子のない態度とサラッと言った言葉に困惑してしまう。異世界から人が来るのってよくあることなのか、そもそも異世界ってイクスの懸念したとおりにいくつもあるのかと俺が驚いてしまったが気を取り直して自分達の事情をソフィアに説明する。


「あーっと、まあ、異世界から来たという訳でな、俺達は魔術というものがよく分からないんだ。できれば、諸々教えてくれると助かるんだが......」

「良いよ。教えてあげる」

『良いのですか? 情報や技術は一種の財産ですよ? 貴方はそれを使って私達に何らかの要求が......』

「もちろん、タダじゃないわ。貴方達の世界のことを私に教えてよね。あの不思議な食べ物のこととかミハエルさんやイクスさんのこととか。あと、どうやってこの世界に来たのかとか」

 何やら別の異世界についても知っている様子である目の前の少女に、情報屋や商人、他の傭兵から情報を仕入れるときの癖で、魔術を教えてもらうついでにこの世界について色々と聞き出したいが、こちらの提供する情報はどうするかと、俺は考えながら話していると彼女はまだ俺が話し終えていなのにもかかわらずアッサリとうなずく。これにはイクスも驚いたらしく、対価を要求しないのかと正直な話をしてしまうが、ソフィアは俺達が考えるようなことはせず純粋な興味本位や知的好奇心で俺達のことを知りたいと言った。


「あ、ああ、構わないよ。でも、俺達自身、どこまで話せるかは分からないが」

『私達の世界ではマスターは一応、一般市民でしたので専門的な話は詳しくなく、AIである私でも重要機密類はどうしても知り得ないのです。それでも良いですか?』

「大丈夫よ。私も物心ついた頃からこの家や周囲の森から出たことなんて買い物以外に殆ど無いし、知識の大半はお婆ちゃんから教わったものだから。この世全てを知ってるわけでも理解してるわけでも無いわ」

 善意で教えてくれる一般人相手に俺は色々と邪推してしまったと俺は心の中で反省しつつ、話せるところはすべて話そうと思い、まずは持っている知識が完全ではないことをソフィアにしっかり伝える。すると、彼女は意外な一言を言ってから説明を始める。


「魔術というのはね、簡単に言えば人間が持つ魔力を使って火や水などの現象を起こさせる術なの。例えば......ほら、こんな感じ」

「おおー、凄え! 手のひらから炎が出たぞ」

『確かに炎ですね。これはこの世界の人間なら誰でもできるのですか?』

 軽く説明を終えたソフィアが塊を手のひらから出現させた時と同じように手のひらを上に向けていると、突然彼女の手のひらに炎が現れた。それを見た俺はどうなってるんだ、手は熱くないのかと驚き、イクスは冷静に観測して分析し、彼女に質問をする。


「ううん。ロウソクの火みたいな小さなものなら誰でも使えるけど。この炎みたいな魔術と呼べるようなものは誰もが使える訳ではないわ。魔力量がそれなりに多くないとできないの」

『それはどうしてですか?』

「うーん。お婆ちゃんの研究資料に、〔森羅万象を司る魔素を人間の力で行使するには大きな力が必要。〕とか書いてあったけど、イマイチ私には分からなかったわ」

『興味深いですね。あとで研究資料を見ても良いですか?』

 サッと手のひらを閉じて炎を消したソフィアとイクスが話をしている間、俺にもできるのか? 出来たら何かと便利そうだな、と俺は思って見様見真似で右の手のひらをグッパッと閉じたり開いたりして魔術を使ってみようと頑張っていた。


「イクスさん達なら良いよ。悪用しないだろうし。それと、誰かが研究資料を役立てたほうがお婆ちゃんが喜ぶかもしれないしね。後で資料室を案内するわ。

 ミハエルさん、魔術を使うには発現するための想像力が必要なの。それと、申し訳ないけど近くで見た感じ、ミハエルさんには魔力が無いわね。指先くらいの火すら出ないわ。

 ......ん? じゃあ、あのときは一体......?」

「うっ、そうなのか。残念だな。

 ところで、魔術は人間だけが使うのか?」

「......あっ。いえ、魔物も魔術のようなものを使うわ。正確には魔法ね」

『魔術と魔法の違いは何ですか?』

 なかなかできないな、小さな火すら出ないぞ、と俺はジィッと手のひらを見つめているとソフィアに俺には魔力が無いため魔術が使えないと言われてしまった。魔術未満のものさえできないのか、とショックを受けた俺は途端にさっきまでの行動に恥ずかしさを覚えそれから逸らすように彼女に尋ねる。何か考え事をしていたのか、俺の質問を聞いた彼女はハッとした後なんでもないかのように答える。さらに、イクスが質問をはじめ、彼女は考え込みながらゆっくり答えていく。


「えっと、魔術は人間が使うもので、魔法は自然現象のようなものってところかな。この辺もよく分かんなくて、昔から区別するためにそうされてるとしか言えないわ」

『ふーむ。なぜ区別したのか、気になりますね。ところで、魔物というのは?』

「貴方達が倒したフォレストウルフが魔物よ」

「『?!』」

 再びイクスとソフィアとの会話になり、魔術や魔法についてある程度の話を終えると彼が魔物について彼女へ質問をする。そして、彼女が先ほど戦った狼が魔物であると告げると俺達は大きく驚き言葉に詰まり、その様子を見た彼女は驚くよりも少し呆れたような顔をして説明を続ける。


「し、知らずにあの数を圧倒してたのね......

 あーこほんっ、魔物は体内に魔石を持ってるの。ほら、さっき見せてたこれね。魔物は魔石にある魔力を使って魔法を出すの。それと、魔石が大きいと貯められる魔力も大きくなるのよね。そして、強い魔物は大きな魔石を持ってるからその魔物から繰り出される魔法は人間を簡単に殺すことができるわ。だから見つからないようにするか、遭遇したら逃げるのが一番なのよ」

「......な、なあ、ソフィア。もしかして、魔物ってやつには緑色の猪や熊なんかもいるのか?」

「え? 緑色の猪や熊って......フォレストボアとフォレストベアーのこと? なんでそんなこと......ってまさか、貴方達、あれ倒したの?!」

「あ、ああ。そのフォレストボアってやつの魔石なら今持ってる。ほら」

 もしや、あの猪とか熊とかって実は魔物だったんじゃ? と俺はソフィアの説明を聞きながら考え、話の区切りがよさそうなところで恐る恐る彼女に聞いてみる。最初、ソフィアは何を急にそんなことを聞くのかという様子だったが、すぐに察したのか、ありえないという顔をして俺達に確認を取ってきた。

 そんな彼女に俺は証拠として腰のケースから猪から取り出した例の物質の塊を取り出して目の前に差し出すと、彼女は固まってしまった。


「......ちょ、はぁ?! な、なんてもん持ってるのよ!

 本当に倒したの?! あの危険度特級に近いやつを?!」

「き、危険度がどのくらいかは分かんないが、そ、そんなに大変じゃなかったぞ?」

「いや、いやいや、いやいやいや。ここの危険度上級以上の魔物なんて魔法で常に森に溶け込んでいて、見つけるのが大変なのと、草で視界が悪かろうが木の根が阻んでいたり地面がぬかるんでいたりする悪路だろうが平気で突っ走ってくるのとでとてつもなく凶悪なのよ?! まあ、普段は森のかなり奥にいてこの辺りに来るのはすごく稀だから遭遇することはないんだけどね。一応、私の隠蔽魔術なら見つかることはないんだけど、それでも私なら絶対に遭遇したくないわ。なのにそれを簡単に......」

「イクスがいるからなぁ。それに手持ちの武器が通じたからな」

『そうですね、マスター。ノームを使わずとも発見できたのですからあれで隠れて接近し襲撃するつもりだったとは舐めているのでしょうか』

 固まった状態から復帰したと思いきやソフィアは頭痛を抑えるように両手でガッチリと頭を抱えながらあれこれとかなりの早口でまくしたてるように説明をしてきた。

 そんなに危ないやつだったのか、と自分が迂闊な行動をしていたことに驚くが、それでも脅威とされている相手に対して探知での捕捉やハンドガンで簡単に仕留めることができたのでこの世界で生きていける可能性が大きいと分かり、それはそれで良いことだなと俺はイクスと話しながら気楽に切り替えることにした。

 そんな俺達の態度が彼女をさらに混乱させる。


「なんなのよもう。これが異世界人なの? うーん。まあいいわ。どうせそのことも含めていっぱい聞くことができるんだから。

 ......いや、待てよ。もしかしたら......」

「どうした? ブツブツ何かを言ってるようだが......」

「ねえ貴方達。この後どうするつもり?」

 まるで魂が抜けたかのように茫然と突っ立っていたと思いきやすぐに顔に生気が宿り口元に右手を当てて小声で何かをしゃべり始めたソフィアを見て、だ、大丈夫か、この娘? と俺は少し心配したので声をかけるが、いきなり彼女がものすごい勢いで俺の方へ顔を向けてきて問い詰めるように聞き出したので、俺は驚いて固まってしまった。


「え? この後? うーん。特に決めてなかったな。イクスは?」

『そうですね。異世界人と友好関係を持てたのと、ある程度の情報を得られたのとで、それらをもとに今後の予定を決めた方が良いかと思っています』

「じゃあさ。私と旅に出ない?」

「は?」

 何か、答えを間違えたら斬りかかってくるのだろうか、と俺は今まで以上に警戒心を持ってあくまで普通に振る舞うかのようにイクスへ今後の計画について聞いた。そして、イクスもごく自然な様子で理由とそれに基づいた当たり障りのない行動計画を話す。

 さあ、どう出る、と俺がいつでも対処できるように身構えているとソフィアが一言告げた。

 その一言に俺は戸惑い、変な声を出すが、彼女はさらに畳み掛けてくる。


「せっかく異世界に来たんだもの。一つの場所に籠ってちゃ勿体無いわ。私が言うのもなんだけど。

 貴方達は力があるんだし旅に出ても大丈夫なはずよ。それに常識面なら私に任せてよ。少なくとも買い物くらいはできるから。むしろ私を旅に連れて行って欲しいわ」

「ま、待ってくれ。いきなり旅に出ろなんて言われても。それに連れて行けなんて。ここはどうするんだ?」

「大丈夫よ。ここにはお婆ちゃんの魔術でお婆ちゃんか私が許可したもの以外は近寄れないようになってるし、必要なものは収納魔術で持ってけるわ。ね? お願い」

『その本音は?』

 急展開な状況についてこれず混乱している俺を丸め込もうとする勢いで喋ってくるソフィアに混乱しながらも俺はどうしたものか悩んでいると、イクスが核心をつくように切り込む。


「うっ。えぇっとぉ。そのぉ。親切心?」

『私と同じような匂いがしますね。ですが、もう少し隠してくれませんかね。悪意が無いのは分かっていますが、流石に危ないと言いますか』

「どういうことだ、イクス?」

『要は知的好奇心からくる暴走のようなものです。何かしらの理由や事情から私達のことについて色々と知りたいと思いそのために強引にことを運ぼうとしているのでしょう。気持ちは分かりますが、きちんと制御しないと危険ですよ』

「ごめんなさい......」

 先ほどまでの勢いはどうしたと突っ込みたくなるほど急に勢いが無くなって歯切れが悪くなったソフィアがイクスに軽く説教されて項垂れるさまを見て、俺はまず何の話をしているのかをイクスに聞いた。そして、彼の話を聞いたが全く理解できず、とりあえず何か悪だくみをしたソフィアが反省したのかな? もうしないようだし、これ以上叱るのも可哀想だなと思ってしまったので、俺は仲裁に入ることにする。


「ま、まあその辺で良いじゃないか、イクス。彼女も悪気があった訳ではないんだし。それに旅ってのも良いもんじゃないか。俺は好きだぞ、旅」

『マスターは年下の女の子には甘いですね。ですが、いいでしょう、私達でこの世界を旅するのも。もちろん、貴方も一緒にですよ、ソフィアさん』

「え? いいの? 本当に?!」

 なんだかイクスから厳しい視線を感じるが、とりあえずは彼もソフィアのことを許すようなので、俺は内心で良かったと胸をなでおろす。俺達のやり取りを聞いたソフィアは落ち込んだ表情から一転して今まで会ってきた中で一番の笑顔を見せた。その笑顔が妹に似ていたため俺は内心でドキッとするが顔に出ないようなんとか堪えて話の続きをする。


「あ、ああ、そのためには一旦俺達のコンテナに戻らなきゃならないんだ。だけど、実験を見学してからで良いか?」

「うん。大丈夫。でも、今から実験開発を中断してついて行きたいわ。」

『凄いですね、この子の好奇心。ちゃんとものは見せてください。そういう約束でしょう?』

「ごめんなさい。すぐに終わらせるわ。」

 もの凄くやる気を出したソフィアによって彼女の実験はあっという間に終わったのだが、俺は全く理解することができず、そのままの勢いで彼女に押されるようにコンテナへ向かうのであった。

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