少女と異世界交流2
「美味かった。とにかく美味かった。一本食事バーなんかよりも断然に美味かった。やべー、語彙力が無ぇ」
『そうですね。私達の世界の食事を軽く超えていますね。
マスターの食事から少々拝借して成分分析をしてみたのですが、全ての合成食材と全く違う結果で驚きました。これが本当の料理ですか。研究の道のりは長いですね。彼女から技術を学びたいものです』
「初めてお客さんにご飯を作ったんだけど口に合って良かった。そうだ、この後地下の研究室行くんだけど、来るよね?」
食べ終えた後、俺が今まで食ってきた飯は飯じゃなかったな、なんというか、味が単発で出てくるんじゃなくて様々な味が混ざりあって新しい味を創造するというか、こう、あれだ、野菜っていろんな味するんだな、と心の中で俺が言葉の羅列を紡いでいくのだがそれらを全て無に帰して俺は語彙力皆無の感想をイクスと言い合っていると、ソフィアはキッチンで食器を洗いながら俺達に尋ねてくる。
『是非、お願いします。ささ、マスター。彼女を手伝ってください』
「おい、押すな。危ねぇだろ」
「ふふふっ。大丈夫だよ。すぐ終わるから。ちょっと待っててね。あ、くれぐれも喧嘩しちゃダメだよ?」
知的好奇心を刺激されて興奮気味に俺へ体当たりして急かすイクスと何とか踏みとどまる俺のやり取りを聞いたソフィアは微笑みながら片付けを素早く終わらせる。そして、キッチンの隣にある自室へ入って研究室へ持って行くものを準備して出てくると、俺達を連れて自室の向かいにある地下へと進む扉を開けて階段を下りて行った。しばらく階段を歩いていくと扉があり、そこを開けると、通路のような空間に出る。
「凄ぇ。なんだここ。壁は人工物か? それと通路だけでも広すぎねぇか? しかも他に部屋がいくつもあるんだろ?」
『上の家の空間よりも広いですね、この地下は。見た限りですと、機械が無いようなので未知な方法で灯りや空調が通路や室内の全てにしっかり整っているようですね。一体どうやってこんなものを?』
「うーん。ここを含めてこの家はお婆ちゃんが若い頃に造ったらしいから、私もよく分かんないんだよね。色んな魔術具とか使ってるっぽいし。
ただ、整備不要で今のところ壊れたことないから色々と便利だなぁくらいにしか思ってないよ」
ここの素材、土を固めたのか? 岩とは違うようだが、金属ではないのにこの硬さはどうなってるんだ、と俺は壁を触りながら不思議な感触を感じていたり、何に使う部屋なのだろうか、と開いている何かの研究室らしき部屋の扉から見える広がる空間に驚いて足を止めたりして周りをイクスとじっくり見ながら地下通路を歩いていく。そんな俺達の様子に気づかずソフィアがドンドン先に進むので急いで後をついていく。
「保護者の姿が見当たらないと思ってたが、婆さんがここにいるのか。あとで挨拶に行かないとな」
『そのお婆さんとは是非ともここの構造についてお話をしたいですね』
「あー、言ってなかったわね、ごめんなさい。お婆ちゃんは5年くらい前に死んじゃったの。それと、私、お婆ちゃんに拾われたからお婆ちゃん以外に親はいないの」
どこかの部屋にいるのか? この中から人物を探すのはイクスの探知がなきゃ大変だなと思いながら俺はイクスとともにソフィアのお婆さんを探そうと辺りを見渡してみるが、その前にソフィアが少し表情を暗くして言った。そういえばこの辺りって他に人がいる感じがしなかったのと家に来てから家族の話もなく家具とかも少なかったなと今更気づいた俺は彼女に謝罪をした。
「あー、それはすまない。こちらの配慮が足りなかった」
「大丈夫。お婆ちゃんから色々と教わったし、ここみたいに多くのものを残してくれたから、そんなに辛くはないわ。むしろ毎日楽しく暮らしてるかな」
『9歳からお一人でここに暮らしているのですか。凄いですね。何かと大変でしょう。マスターなんかその頃はとてもやんちゃで......』
「生活に必要なものは大体ここでも揃うから大丈夫よ。それよりも、ミハエルさんとイクスさんって結構付き合いが長いの?」
俺も突然異世界に来ちまって家族と永遠に分かれたようなもんだが、そもそも前から喧嘩別れしてるから全然違うし、ソフィアになんて声かけようかね、と俺は少し気まずくなり、なんとか頑張ってフォローしようとするが、イクスが励ましのつもりか途中で変なことを言い出す。俺たちの心情を察したのか少し笑顔に戻ったソフィアがイクスの言ったことに対して聞き返してきたので、俺はいったん会話に割り込み彼が彼女に変な情報を吹き込まないように釘を刺そうと小声で試みる。
「おいちょっと待て、イクス。人前で俺の過去について適当なこと言うな。そもそも、イクスを買ったのは俺が18のときだぞ。あの時もだがどうやって俺の子供の頃を知るんだ」
『簡単ですよ、マスター。貴方の知り合いから聞いたのですよ』
「はぁ? なんで俺の知り合いをお前が知ってんの?」
『時折、個人的に連絡を取り合っていましたので。この情報を提供してくれた方はたしか、マスターのいた学校の同期の方の1人でしたね。双子の二刀流使いの方の』
「はぁ?! い、いつの間に。はぁ。どうせ、あいつのことだ、ロクでもねぇこと言ってたんだろうな。前の話の内容からして何となく予想はつく」
『えぇ。その通りです。マスターの性癖についてもあの方から教えてもらいました』
「なるほど、そういうことか。できるなら、あいつを今すぐとっちめてやりてぇ」
俺はほんの少し釘を刺すつもりがイクスの持つ情報の提供者が判明し、それが俺にとっても当時色々とあった輩の一人だったので、いつの間にかそいつに関する話をしてしまう。そして、そのもう会えない軍学校の同期とイクスの相性の良さに俺がこめかみを抑えていると俺達のやり取りを一部始終見ていたソフィアが微笑みながら見ていた。
「ふふふっ。貴方達、仲良いわね。最初に喧嘩してる時は焦ったけど、信頼しあってるみたいだし。少し羨ましいわ。あ、でも喧嘩はほどほどにね。
さあ、早く研究室へ行きましょ。凄いもの見せてあげるから」
「あ、ああ、本当に何度もすまない」
『申し訳ないです。時間を取らせてしまって』
ソフィアを励ますつもりが結果として変なふるまいをしてしまい心の底から謝罪をしてから俺は先に進み始めた彼女の後をついていく。
その後、俺達は何事もなく目的地の研究室に到着する。
「さて、今回はこのフォレストウルフの魔石を使って研究中の魔術具の試作品開発に着手するわ」
「そういばあの塊はどk......え? 今それをどこから?」
『そういえば、いつの間に回収したのでしょうか? そもそも荷物を入れるものを最初から持っていませんでしたね』
目的の研究室に入り、様々な器具が置かれている机の前に来たソフィアが今から行う実験内容を俺達に告げて右の手のひらを胸のあたりまで持ってきて上に向けると、突然手のひらに狼から取り出した塊を取り出す。俺とイクスは今までの彼女の行動を思い出し、あの塊はどこにしまったんだと思っていたら、急に起きた目の前の出来事に驚愕する。
俺達の反応にソフィアが困惑していたので、これは早めに俺達の事情を話したほうがよさそうだなと俺とイクスは判断する。
「え? 普通の収納魔術だよ? 保存ができる優れものでよく食材保存に使うやつなんだけど、知らないの?」
「あー、すまねぇ、ソフィア。後で話そうと思ってたんだが。実はだな、その、俺達はな、上手く説明できないんだが......」
『こことは異なる世界、つまり異世界から来た人間なのです。ちなみに私は戦闘補助用AIであって断じてマスターの使役獣とやらでも召喚獣とやらでもないです。
ちなみに......』
常識......のようなものだよ? とキョトンとしたソフィアに対し、どうしたものかと悩み、言葉を選びながらゆっくり話す俺をよそに、イクスが割り込んでスラスラと話し出したので、後の説明は全て彼に任せよう、足りない部分は適宜口を挟もうと俺は思いつつ、このやり取り前にやった気がと既視感を感じていた。