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傭兵、爆発に巻き込まれて異世界に転移する(第1部完)  作者: @ルケミー
第1部 第1章 傭兵、異世界でサバイバルをする。
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今後の指針

「さて、コンテナが見つかったわけだが、ここで新たな問題が浮上する」

『それは何でしょうか、マスター?』

「次なる目標だ。俺達は生きるためのやるべきことを立てながらここまで来たわけで、コンテナという実質俺達の砦と領土を手に入れてかなり生存率が上がった。そうなれば、次に何をするかが重要になってくると思わねぇか?」

 いくら自動洗浄機能があっても着っぱなしは不衛生だよな、精神的にと思った俺はリビングルームでスーツを脱ぎタンスの中から適当な部屋着を引っ張ってきてそれに着替え、脱いだスーツを専用の洗濯機に入れて洗浄をする。そして、部屋の保管庫から一本昼食バー(ハンバーガーセットコーラ付き※あくまで風味)を取り出し椅子に座って食べながらイクスと今後について会議を行おうとしたが、落ち着いたおかげでふと思い出したことがあり、それを彼に聞いてみることにする。


「ん? そういや......

 イクス、爆発による高いエネルギーによって俺達が異世界に飛ばされたって言ったよな?」

『はい、あくまで可能性の話ですが』

「となると、ここで同じようなことが起これば俺達の世界に帰れるんじゃないのか?」

 ノームの中で目覚めてからスクリーンいっぱいの自然を見てイクスが自分達が異世界に飛ばされたことをある程度納得できる理由付きで話していたが、当時脳が追い付いておらず感情的になってそれを突っぱねていた俺は彼が言っていた原理について思い出し、これを利用した元の世界への帰還方法についてイクスに提案してみるが、彼の反応は良くなかった。


『無理ですね。まず前提となる時空間に穴を開けるほどの高いエネルギーを用意することが現状の私達では出来ません。

 そして、たとえ用意できたとしても世界を越えるほどの高エネルギーの衝撃波を受けて絶対に無事でいられる保証がありません。特に、あの爆発の近くにいた公国軍や帝国軍がどうなったか分かりませんが高確率でチリすら残っていないと思います。私達は運よく異世界に飛ばされて生きていると考えたほうが良いでしょう。この世界に私達と同じようにあの戦争に参加していた人間がいれば話は変わりますが。

 最後に、無事に世界を越えられたとしても異世界が一つだけとは限りませんし、飛ばされる場所を指定する方法がありません。それと、時間の流れについても不明です。過去や未来へ飛んでしまう可能性を含めて考えると迂闊にはできません』

「むぅ。そうか......」

『妹君のことが心配ですか?』

 イクスからの返答を受けて俺は少し落胆し、元の世界にないものであふれている異世界は楽しく素晴らしいが、やはり元の世界に戻れるのなら戻りたいな、なんて思っていたら彼が俺の心の中を見透かすようなことを言う。


「まあな。あまり干渉しちゃいけねぇってのは分かってんだが、あいつには不自由なく生きてほしいというかなんというか」

『マスターは子供の頃から色々と苦労されてきましたからね。その結果がシスコンなのはとても残念ですが。そういえば、マスターの死亡時には遺産や傭兵に関する手当がすべて妹君にいくようにしていましたね』

「うるせぇ。適当なこと吐かすな。はぁ。もういいや。本来の話に戻そう。

 で、この後どうするよ」

 最後に会ったのはいつだったか、あっちでは俺が死んだことになっているのだろうか? 泣いてなきゃいいが、そんなことを思いながら妹のことを考えていた俺にイクスが事実無根なことを言い出したので、俺は変なことを言われる前に少し強引に本来の話し合いを始めた。


『まあそうですね。先程までは周辺の探索と異世界人の捜索でしたが、ここを手に入れたので私は戦力強化に力を入れたいですね。どこまで対抗できるか分かりませんが、ここなら設備が充実しているのであの鉱石を使って色々と造っておきたいです。

 あと弾薬も製造しておきます。金属のみでの生成ですのでかなりの数の金属を消費しますが、E耐性を持つ敵が現れないとは限りませんので念のために。それと、金属の質からおそらく従来のものより性能が格段に上がっているものができるはずですが多く生産することができないということも念頭においてください』

「なるほど、確かにな。異世界人の捜索よりもそれにかかる時間を使って力を蓄えておけば、万が一にも対応することができるかもしれねぇ。それに、十分な戦力があれば下手な衝突は避けられそうだしな。あくまで相手の戦力がこちらの戦力を大幅に超えなければだが、まあ今はノームの武器がほとんど無ぇからやらないよりマシだ。本来は機械の部品を製造するためのもので個人による兵器や弾薬製造への転用は禁止されてるんだが、ここは異世界だし問題は無ぇよな。監視機能も生きてないし。

 よし、方針が決まったな。イクスは兵器開発とノームの整備と調整。俺は材料を採ってくるのと訓練で性能の上がったノームに慣れることと生身での戦闘技術を磨く。これをしばらく続けるぞ」

『あ、でしたら私に料理研究をさせてください。ここの機材でキッチンを造りますのでマスターは余裕がある時に食材の調査と確保をしてきて欲しいです。もちろん、その時は私もついていきます』

 未だに異世界人に対する脅威度が判明していないのでコンテナにある設備を最大限に使って戦力を増強し、ノームの操縦に慣れて十分な戦闘を行えるようにするのと生身での戦闘を想定した訓練を行うなど、今後の行動指針を決めた俺達は早速動くことにした。

 俺は洗濯と乾燥が終わった戦闘用スーツに着替え、脱いだ部屋義を洗濯機の中へ放り込んでから整備の終わったノームに乗り込む。そして、操縦席から遠隔で出入り口を開けてノームを外へ歩かせてエレベーターへ向かい乗り込む。

 動作を阻害するものが少なくなったのか動きがなめらかになったおかげでエレベーターの地上扉は地揺れを起こすことなく開閉するようになった。これにより、出入りをする際に必要以上に警戒をすることが無くなり、俺達は少し気軽に外へ出られるようになった。


「まずは鉱石採りだな。ノームが使えるようになったからガンガン掘って採れるようになるぜ」

『あまり山を削り過ぎないようにしてくださいね、マスター。痕跡を残さないようにするのはもちろん、異世界とはいえ、無闇な環境破壊は気が引けますので』

「分かってるよ。なるべく付近の地面にするから。掘ったら埋めればいいんだし。それに、少し掘ればたくさん出てくるんだ。そんなに掘らないって」

 地上へ出た俺は前回のノーム修復のために鉱石を採った場所と同じ山へノームを向かわせ、ノームの手を使いゴッソリと掘りだして穴から出てきた鉱石をノームから降りて採っていく。ある程度採り終わるとノームに乗り込んで再びノームの手を使って穴を埋めていく。ついでに俺が生身で掘ってそのままにした穴を埋めていると、イクスから接近する反応があると警告され作業を中止して反応があった方向を向いて身構えた。


『マスター、反応です。これは人間ではないようですね。どんな動物なのでしょうか』

「とりあえず、こっちきてやる気あるんなら相手しないとな。こっちとしてもノームのリハビリになるからありがたいぜ」

 異世界で初めてのノームでの戦闘だなと緊張した面持ちで待っていると小型機くらいの大きさで緑色の熊のような動物が3匹、四足歩行で草むらをかき分けて出てきた。猪と同じようなものか、だったら異世界の動物がノームにどれだけの損傷を与えることができるのか異世界人と遭遇する前に調べておいたほうがよさそうだな、危険ではあるが動物相手にノームが負けるようではどちらにしろこの異世界で生きていくのは難しい、と判断した俺は熊に先手を譲る。


 先頭に立つ熊はノームへ接近すると後ろ足で立ち上がり、右前足の爪でノームの右脚を攻撃するが、ノームはびくともしなかった。そして、残りの3匹も左脚を爪で引っかいたり牙のような歯で噛みついたりするがノームに傷一つつくことはなかった。ノームの状態をイクスとともに逐一確認していた俺は異世界の動物による物理攻撃ではノームを傷つけることは不可能であると判断して、これ以上の検証は不要ということでノームを後ろへ跳躍させて距離を取り、胸部機関砲から射出されたE弾をそれぞれ二足歩行状態の熊の頭に喰らわせて絶命させた。


「あまり戦闘訓練にはならなかったが良い情報は得られたな。それと肉が採れたな。頭が消滅して首周りが少し焦げたが他は問題無さそうだし、このまま川で解体するか?」

『そうですね。ノームがいれば運搬も楽になりますし、解体をしたらそのままコンテナまで運んでしまいましょう。帰ったら早速研究です。無駄なく使いきることが相手への供養となると昔の狩人は言っていたらしいのでとことん使い切ってあげましょう』

「俺達はべつに狩人じゃないんだがな。

 それにしても......うーん、今考えてみると少し手が足りない気がするな。それぞれ別行動するはずが、結局一緒に行動している。イクスに手足が無いと色々面倒だな。しかし......」

 倒した熊の処分についてイクスと話し合った後、熊って状況に応じて歩行形態を変えるんだな、と動物の生態に驚きながら全ての熊をノームの左手に乗せ、川へ向かう途中で、俺は計画の練り直しを考えているとイクスから提案を受ける。


『それについて、私に考えがあります。というより、私の中にある開発情報にあったのですが、どうやら、人間型素体が開発計画に組み込まれていたようです。

 ですが、計画途中で国連の条例によりAIの人型化禁止令が出てしまい計画が白紙になったそうです。

 その設計図が私のブラックボックスにありましたので、これを使って造りたいと思います。これなら作業を分担することができます。如何でしょうか、マスター?』

「お前、ブラックボックスって、普通、開発者かその関係者くらいにしか中身が見れないはずじゃ......まさか、制限解除の影響か? それを早く......って言っても無駄か。

 まあいい、作業効率が上がるならそれで。どうせ国連も条約も管理局もいないんだ。適度に好きにやれ」

『ありがとうございます、マスター。私の力、マスターのために役立てます』

 イクスの衝撃すぎる報告に呆れるよりも内容から今後の活用について考えたほうが間違いなく有意義であると即座に判断した俺は、どうせ言っても言い負かされるのがオチだと心の隅で思いながら彼に指示を出す。

 そして、川で熊の解体を終えてコンテナに帰った俺達は、熊を格納庫の空いている適当な場所に置いてから早速採ってきた鉱石を使ってイクスの身体を造ることにした。


『えー、設計図には3つの型があるみたいですね。なになに......金髪美少年執事型......おお、これは私の通信時のアバターじゃないですか。それと他には......黒髪長髪美青年執事型と白髪白髭美高年執事型。ふむふむ。どれが良いですかね、マスター?』

「設計者が誰かすぐに分かったわ。てか、最重要部品や情報を収納するためのブラックボックスになんてもん入れてんだ。

 とりあえず全部作っておけば? それぞれ違う容姿をいくつも用意しておけば諜報活動にもってこいだろうしな。諜報する相手がいればの話だが」

『そうですね。何もなくても、私達がここを留守にしている間はここの管理用と警備用として使うことが出来そうです。

 ここの部品製造機械でも造れるみたいですね。早速やりましょう』

 設計図のラインナップを聞いて押し売りをしてきた一応開発者の顔を思い出してしまった俺は、そういえば、あの人無駄に執事機能にこだわっていたな、というくそほどどうでもいいことまで思い出していた。

 製造するものを決めた後、イクスが準備と製造に取り掛かり、俺は彼の手伝いをしたり動物情報を閲覧していたりして時間をつぶす。少しして、イクスから製造が完了したという報告を聞いて機械のほうへ向かった。


『早速、少年型が1体できました。マスター、すみませんが球体のほうの私を持っていてください。それでは、接続を開始します......』

「接続完了。早速起動します。......おっとっと、ノームと違って補助なしの二足歩行って意外と難しいんですね。っと、よし制御が上手くいきました。

 どうですか、マスター? 私のこの姿は」

「おお、凄ぇ。見た目ほぼ人間だな。髪や肌を触った感じも金属のような硬い感じがしねぇ。どうなってんだ?」

 大きい機械の中でこぢんまりと横になっている少年執事を見ながら俺がイクスを右手で持っているとすぐに目の前の機械の中で少年執事が起き上がり、そして立ち上がろうとしてバランスを崩して右手をつく。その後、少年は普通に立って歩き始め、機械の大きな扉が開くと中から外へ出て俺の前に来る。そして、くるっと回って俺に感想を求めてきた。

 一連の流れを見た俺は普通に驚き、少年の顔を触って感触を確かめたり腕を軽くつついたりして人間との違いを探すが違いを見つけることができなかった。


「そこら辺の説明を簡単にするのは難しいのですが、ナノマシンの可能性とだけ言っておきます。

 因みに、この状態でも本体との通信や連絡、操作なんかは......」

「『ほら、この通り、できますよ』」

 俺の右手の中に納まっていた球体が浮き始め、少年と同じタイミングで喋り出すのを見て俺は詳しい原理は分からずとも何となくAIが制限される理由を理解する。

 その後、人間の姿を堪能したのか、少年が邪魔にならないところへ移動したと思ったらすぐに座り込んで動かなくなった。


『やはり、本体の方がしっくりきますね。さて、残りを造ってしまいましょう。そして、作業をどんどん進めていきましょう』

「なんか嬉しそうだな、イクス」

『そうですね。私も正直驚いています。自分が本当にマスターの役に立てているという事実を実感できて少し興奮しているようです』

 コツをつかんだのか2体目以降はサクサクと作業が進んでいき、あっという間に出来上がった素体達と共にイクスはなんだか生き生きととした様子で兵器の開発や料理の研究などを行なっていく。そんなイクスの姿を見て俺は少し微笑んだ。


 こうして、俺達がコンテナで順調に作業を行なっているとき、別の場所ではある人影がコンテナのある方向へ忍びながら向かっていた......

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