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傭兵、爆発に巻き込まれて異世界に転移する(第1部完)  作者: @ルケミー
第1部 第1章 傭兵、異世界でサバイバルをする。
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サバイバル終了

『システム確認終了。機体全体の能力が従来のものより50%上昇していること及び装甲の色が鈍色から白銀色に変化していること以外は機体に異常無し。ノーム起動準備完了。マスター、いつでも動かせます』

「本当に直っていやが......ん? どういうことだ? 50%? 白銀色?」

『状況を受け入れられないかもしれませんが、実際にあの鉱石のおかげで全体の耐久力が上昇し、それによって装甲の防御力はもちろん脚力や腕力などの威力や反応速度といった単純な身体能力、さらに推進器類の最大出力などが上昇しています。まるで最新鋭量産機並みの能力です。いやぁ、とんでもないですね。もう時代遅れの型落ち品だとかポンコツだとか言わせませんよ?

 あと、装甲の色に関しては私もよく分かっていません。おそらく、ナノマシンが何らかの反応により変化させたものだと思いますが、調べようが無いです。まあ、悪影響は無いので放置で大丈夫でしょう』

「えぇ......うーん。まあ動くんならいいか。それと......やっぱいいや。

 よし、ノーム起動!」

『姿勢制御開始。ノームを立ち上がらせます』

 俺は朝起きて飯をさっさと食い終わるとすぐにノームの点検をイクスとともに行い、彼から告げられる驚愕の事実に異世界の脅威や今後の行動についてのことを一瞬忘れて思考放棄したり、帝国との戦争前に新人傭兵どもに言われたこと地味に根に持ってるなとどうでもいいことを考えたりしながらノームをゆっくりと立ち上がらせる。

 ノームは両手を地面につけしっかりと体を支えて上半身を起き上がらせる。そして、右脚を足の裏が地面につくように動かして左腕と右脚で上手くバランスを取りながらゆっくりと機体を浮かしていく。最後に左脚を足の裏が地面につくように動かしてからゆっくりと両脚で立ち上がっていく。


「操縦系に今のところ異常は無いな。ただ、立たせて軽く動かしてみると実感できるが反応が良すぎる。さらに言えば、全部が新品おろしたてみたいで、そのせいで慣れてた部分のすべてが変わってるのは少々やりづらいな。イクス、そっちはどうだ?」

『はい、マスター。こちらも問題ありません。数値は各種安定しています』

「よし、今回は南側へ行くz......っとっと......悪い悪い。機体の性能が急激に上がったせいか歩くのが大変だな。まるで初心者に戻った気分だぜ」

『私がノームに制限をかけておきましょうか?』

 ノームに異常が無いかを腕を回したり片脚を上げたりして念入りに調べてイクスからの報告を聞いた俺はそのままノームを南側へ歩かせようとして失敗する。右脚が想定以上に前に出てしまいバランスを崩したノームを倒れないように俺はとっさに地面に右手をつかせる。そこから丁寧にゆっくりと立ち上がらせて、なんとかなったと俺は一息ついた。

 ノームの操縦に苦労しているとイクスから提案があったので俺はそれに従う。


「ああ、頼む。とりあえずは従来の能力まで下げておいてくれ。さすがにまともに動けないんじゃノームを直した意味がないからな。

 周囲の反応探知はイクスに任せる。俺はノームの操縦に集中する。さっきので十分に分かったがもう完全に別物だなこりゃ。それに、森の中が歩きづらいから余計に厳しいな。攻撃手段がいまのところ機関砲と素手しかねぇから万が一に備えて機体のクセや感覚を確認して調整したいし、森の中での戦闘についても仮想訓練通りに動きたいものだ」

『承知しました、マスター。私もいきなり性能が上がったノームを動かす自信はありませんし、索敵を中心に周囲の少しの変化も見逃さないよう徹底して探知します。それと、マスターの操縦を見て私も学習しますのでマスターも調整を早めに済ませてくださいよ。できれば制限を解除できるところまでいってほしいですね』

「分かってるって。いつ何かに遭遇しても対処できるようにすぐに終わらせる。まずは現状で満足に動かせるところまではいかないとな」

 イクスが周囲を警戒しているおかげで俺はノームの操縦感覚の理解に専念することができた。森の中を障害物を避けながらしばらくゆっくり歩くことで俺はようやっといつも通りにノームを歩かせることができ、森の中という悪路でも若干の挙動不審はあれど問題なく進めることができるようになっていた。こうして俺が何とか普通の動作に慣れ始めたころ、イクスが何かを発見する。


『探知に何か引っかかりました。おや? これは......見覚えのある反応ですね。今までこんな反応は見つからなかったのに......

 まさか、私達の世界のものがそこにあるのでしょうか?』

「うん? ここは異世界なんだろ? そんなわけ......と言いたいが、何かの手がかりになるかもしれねぇ。行ってみるぞ」

『慎重に行きましょう。もしかしたら罠の可能性もあります』

 イクスが探知結果を俺に見せてくる。確かに、金属反応の様子が鉱石のときは違いハッキリと映し出され金属名まで細かく書かれている。

 まだ距離が遠かったが俺は罠に気をつけるべく慎重にノームを歩かせて反応があった場所に近づいていく。そして、何事もなく反応があった場所の近くまでたどり着くと、そこには森という常に木々や草などが生い茂っていた場所であるのに草木が全くなく不自然に開けている土の地面しかない場所があった。俺達は周囲の草木にいるかもしれない待ち伏せを警戒しつつ開けた場所の中央へゆっくりと近づく。


「周囲におかしな様子は無さそうだな。開けた場所のど真ん中にいても何も起こらないってことは少なくとも罠は無いようだ。だが、肝心の探知に引っかかったやつも見つからねぇな」

『そのようですね。念のため、少し待ってから降りて探してみましょう。この辺りすべてに反応が出ていますし、ノームでは細かいところまで調べるのは大変ですから』

「もしかしたら地面の中に埋まっているのか? 何が出るやら、実際に見てからのお楽しみってところか。そんなサプライズは頼んでないんだがな」

 しばらく開けた場所の中央でゆっくりグルグルと回って周囲を見渡しながら待機した後、罠や生命体の気配は無いと判断した俺はイクスとともにノームから降りて周囲を探索する。

 この不自然に開けている場所に何かあるのかもしれないと俺は考え、開けた場所と草木が生えている境界線付近を調査するが、草をかき分けても木の根元を掘っても特に何も見つからず、特に何の関係性がないとイクスが結論を出したので調査を止めて一度ノームのところへ戻ることにする。


「うーん、何も無いな。本当にここなのか?」

『ええ、妨害されているような感覚や不審なところもありません。根気よく探すしかなさそうですね』

「これも異世界による何らかの......うん? 何だこれは?」

 ノームの足元で休憩がてらイクスと話し合いをしていた俺は、そこそこ広い地面をしらみつぶしに探すのか、ノームで作業して壊す可能性がある以上、自力でやるしかねぇか、骨が折れるなと思いながら足元を見ると不自然に緑色をしたものが地面から顔を出していることに気づく。そして、それの周りにある土や砂を手でどかしていくと金属製の板に緑色のモニターがくっついたパネルのようなものが現れる。


「これは......認証システムか? 一体何の、というより、なんでこんなもんが?」

『おや? これはマスターのコンテナがある地下集合置き場のものでは? 少し砂に隠れていますが、上部に書いてある番号があそこのものと一致します』

「なおさら、何でここに俺達の世界の物や数字が? とにかく、絶対何かあるはずだ。開けてみよう」

 見覚えのある形をしたものが出てきたので困惑していると、イクスが気づいたことを言い、それを聞いてさらに俺は困惑する。そして、何か情報をつかめるかもしれないと考えた俺が危険性を十分に承知したうえでパネルの金属部分にスーツ腕部の端末を近づけると、それは緑色に光り認証が通ったことを示した。


「!? 俺の持ってる鍵で開くってことはやっぱりこれは......うぉっ、地震か?!」

『いえ、マスター。これは地面に設置された扉が開くようです。念のため、周囲の警戒をしておきます』

「なるほど、だから森の中でここだけ空いてるんだな。これだけ揺れるんだ、何か来そうだな。っとその前にノームを動かさないと巻き込まれるんじゃねぇか?」

『そうですね。扉がどこまで開くのか分かりませんが中央に置いていては危ないですね』

 反応があったってことは自分たちがいた世界の物か、だったらなんでと驚愕の出来事にあれこれ考えていると地面が大きく揺れ始めたので俺は思考を中断して原因を探そうとすると意外と冷静な様子のイクスから答えがきて、それを聞いて再び地面を確認する。

 地面が真っ二つに割れるように動き出したのを見てこのままだとノームが割れた地面の中に落ちるんじゃないかと俺は考えすぐさまノームに乗り込みどんどん開いていく地面の様子を見ながら揺れる大地に足を取られないよう気を付け少しずつ後ろへ下がって距離を取っていく。

 しばらく大地を大きく揺らしながら地面に偽装されていた扉が完全に開いて止まると中から金属製の板が開いた穴を埋めるように出てきた。


「これに乗れば良いみたいだな。しかし、俺はこんな場所にコンテナなんか買ってないぞ。しかも自動エレベーター付きとかこんなもん、高級地区にしか無かったはずだ」

『そうですね。マスターの故郷にあるコンテナ置き場とはパネルと番号以外全くの別物です。罠以前に何がどうなっているのか分かりません』

「とにかく、行くしかないだろ」

『そうですね。今の私達には何も分からないことしか分かっていませんから』

 目の前の物体の正体に気づいた俺はどうしてこんなものがこの異世界にあるのかと今まで以上の警戒心を持つが、現状で何も分かっていないのと情報を探る方法がないため行くしかないと判断し、イクスもそれに同意する。

 この場所にきて何度もやっているがやらないと気が済まないのでもう一度周囲を警戒した後、ノームでエレベーターの上に乗るとノームから操作しなくてもそれは勝手に動き出し、下へとノームを運びだす。ノームの姿が完全に地面の中へと消えていくのと同時に扉が閉まった。

 しばらく暗闇の中を下りていくとエレベーターが止まる。


「......止まったか。さて、ここには何が待っているのやら。まったく、俺は一体いつから傭兵から探索者に転職したんだ」

『そもそも、この世界に傭兵という職があるとは限りませんし......あ、扉が開きます。警戒を、マスター』

「これは、洞窟か? ん? なぜか灯りがあるな。だが、地面に埋め込まれてるせいか少し暗い。んー、足元は見えるが先が見えないなぁ。前に何かが潜んでいる可能性が高そうだし、なんだか俺達を誘っているような感じがするが行くしかないか」

 現在体験している出来事にワクワクしなかったと言えばウソになるが、時と場合を考えてほしいものだと自分でも理不尽なことだと分かってはいるもののどうしても思わずにはいられないと頭の中で思っていると、目の前が扉だったらしくエレベーターが止まってから少し待つと開き、扉の先は少し明るいのかわずかな光がノームを照らした。

 気持ちを切り替えて俺はしばらくエレベーターから出ずに警戒をしていたが待っていても何も起こらないので仕方なく前へ進み、ノームでも広く感じる通路のような洞窟を進んでいく。すると、さらに広い空間に出て、中央にノームより大きい長方形の箱が1つポツンと置いてあるのを見つける。

 ものすごく不自然ではあるが身構えて待機しても特に何も起こらないので俺はその箱らしき物体に近づいていく。


「あれは、コンテナか? 一体誰の......この番号は......まさか!」

『ええ、まず間違いないでしょう。このコンテナはマスターのものです。とにかく、扉を開けて中を調べてみましょう。中身まで同じとは限りません。まあおそらく、ここまで来ればそのようなことは無いと思いますが。一応念のために』

「そうだな。よし、降りるぞ。警戒を怠るなよ」

 ノームのカメラを拡大して扉付近に書かれている番号を見て自分が買ったものだと確信した俺はさらに警戒心を持つようになる。そして、俺達はノームから降りてコンテナの人用出入口に向い、パネルに端末を恐る恐る近づける。すると、ピッという音とともに扉の鍵が解除され扉が自動で開く。


「開いた。中は......融合炉が動いてる音がする。ということは灯がつくな。イクス、つけるか?」

『大丈夫です、マスター。内部に反応ありません。明るくしても問題ないかと思います』

「分かった。このまま探索を続けるぞ。

 さて、ここは本当にお......れのコンテナだ......間違いねぇ。格納庫にある機材がノーム用のものだし、資材の配置も俺の知ってるままだ。

 それに、居住区の食料保管庫にある一本食事バーもちゃんと朝昼夕とメニュー順に整理されたままだ。長期依頼前に一度整理したから覚えている。間違いねぇ......」

 中に入り電源が生きていることを確認した俺は、入ってすぐの格納庫の灯をつけ中の状態を見て回る。そして、格納庫を出て倉庫や居住区など色々と確認した俺はここが間違いなく自分が買ってそこそこ使ってきたコンテナ型居住区付格納庫であることを確信する。

 安全確認が終わった俺達は早速機械用出入口を開けてノームを格納庫へ収納し、整備用機材を動かしてノームの自動整備作業を始めてから居住区のリビングルームへ向かった。


『どうやらこのコンテナはマスターの物で間違いないようですね。しかし、そうなると色々と説明がつかないものが多いですね』

「ああ、コンテナがあることは俺達にとって有難いことではあるんだが、こうも都合が良すぎると気味が悪くなってくる。でも、この状況を考えたところで答えが出るとも思えん」

『仮説すら立てることができないくらいに異常事態ですものね。こうなったら、何か分かるまである程度は無視していくしかないのではないでしょうか? 現に今までもそうしているところがありますし。いちいち突っ込んでいてはキリが無いとこの異世界に来て学びましたし』

 自動扉を抜け部屋に入って適当な椅子に座った俺は近くのテーブルにある台座に嵌まったイクスとコンテナについて話し合う。そして、徐々に出口の無い思考の迷宮に嵌りかけるが、彼の一声ですぐに切り替え、すべきことを考えるようにする。


「とりあえず、コンテナがあるってことはここでサバイバル終了ってことじゃねぇか?

 コンテナにも融合炉があるから稼働するのに必要なエネルギーは確保できてるし、水はこの部屋に給水機があるからわざわざノームに取りに行く必要が無ぇ。それと、ここの居住区には洗濯機や風呂、トイレなんかも有るし、機内泊と比べると明らかに文明のある生活になるから肉体と精神の衛生問題も無い」

『そうですね。結局、サバイバル生活は数日で終わってしまいましたが、私としても家事ができない生活は嫌ですし。まあ、普段から家事なんてロクにする暇がなかったんですが』

「悪かったな。普段からあまりコンテナ使わなくて。ていうか戦闘補助用AIになんで家事機能が付いてんだよ」

 コンテナという拠点を得た安心感から、常に警戒をして心が休まる暇がなかった俺は異世界に来たばかりのときのように少し気楽になることができるようになり、俺と同じように緊張感が少し抜けたイクスの茶々入れにやる気のないツッコミを入れつつ、変に深く考えずにこれから先のことを考えるようにした。

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