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プロローグ

「いっつつ......ここは......」

 目が覚めた俺は意識がぼんやりとしつつ頭の痛みを和らげるべく手を当てようとしてヘルメットに阻まれ、今は戦闘用スーツを着ていることを理解する。そして、周囲を見渡して赤く点滅する薄暗い空間にいることを確認する。


「ここは......[ノーム]の操縦席か。そうか、思い出したぞ」

 痛みが引き、冷静になてきった俺は先ほどよりも注意深く周囲を確認することで自分がいま操縦席の中にいることと、強制的に参加させられた戦場で突如空から隕石が落下するように現れた複数の超大型兵器の暴走による大爆発に巻き込まれたことを思い出す。


「てっきり、死んであの世に逝っちまったかと思ったが、なんとか生きてるみてぇだな。身体も問題は無さそうだ」

 きちんと身体の感覚があるな、と薄暗い操縦席内で両手を顔の目の前に持ってきては閉じたり開いたりしたり、両足を交互に足元を何度も踏み込んだりして確認した俺はヘルメットを外し、目にかかった髪を軽くかきあげながら一息をついてから、目の前の台座に嵌め込まれている赤く点滅する金属製の球体に声をかける。


「イクス、大丈夫か? おいイクス! 起きろイクス!!」

『原因不明の事象による強制停止を確認。起動前点検開始......全て異常無し。イクス、起動します......ピポポポポッ。ピーッ。ガーッ。ビーッ。ビヨンビヨンビヨンッ』

「いつの時代の音だよ。寝ぼけてんのか?」

 普段からよく聞いている抑揚のない男性の声がイクスからしたと思ったら、突然、変な音が聞こえてきたため俺は呆れながら言葉を返す。


『失礼しました、マスター。てっきり、死んでしまったものかと思いまして、動揺してしまいました』

「AIが動揺するんかね。まあいい、とにかく無事みてぇだな。

 そんじゃ、起きたばかりで悪いが早速働いてもらうぜ。機体の電源が落ちてるみたいなんだ、復旧できそうか?」

 赤く点滅するのを止めたイクスを見てとりあえずは無事そうだなと判断した俺は座席のひじ掛けの先端にある手のひらに収まる大きさの操縦球に手を置きながら彼に明かりが付けられないか尋ねる。

 

『御任せを、マスター。先の爆発で主電源が故障している可能性がありますので念のために予備電源を確認してから動かします』

 イクスがそう告げてからしばらくすると操縦席内が明るくなる。

 そして、明るくなったことで自身が着ている戦闘用スーツの深い緑色を認識すると同時に自分が座席ごと後ろに倒れかけていることが分かり、すぐに彼に追加の指示を出す。


「予備は無事なようだな。よかったよかった。

 さってと。この感じだと、機体が何かに仰向けでもたれかかった状態になってるのかな? まあいい、イクス、操縦席内の重力制御装置は動かせるか?」

『問題ないかと。すぐに起動させます』

 イクスが答えてからしばらくすると、装置が作動し操縦席内の様子が俺の身体を含めてノームが立った状態になる。

 俺は楽な体勢になったので一度体を伸ばしてほぐしたい欲求にかられるが、やるべきことがあるのでそれを優先すべく頭を働かせるために会話を続ける。


「ふぃー。長い時間ずっとこのまま気絶してたからか、背中が痛え。いくら戦闘用スーツが特殊繊維と軽量装甲によって軽くて丈夫で超優秀でもずっと同じ体勢はキツいな」

『私の保有する時計では爆発から今に至るまでそんなに時間は経っていません。気のせいでは? それかもう歳なのでは、マスター? まあそれは置いておいて。

 マスター、如何しましょうか』

「おい、置いとくんじゃねえ。俺はまだ28だぞ。ってAIに歳の話ししても意味無ぇわ。

 ったく、とりあえずは機体の点検からだな。とにかく、動力源である融合炉が動かせるかどうかそれによる」

『あ、AI差別ですよ、マスター。今訴えたら私が勝ちますね。

 まあ、今はそれどころでは無いので真面目な私はそれを華麗に無視して機体点検を開始します』

「はいはい。頼むよ」

 今度は変な音を出さず、代わりに変なことを言ってから動き出したイクスを見ながら俺は座席のベルトを外し、彼の仕事が終わるまで軽く伸びをしたり装甲越しから肩や腰をたたいたりして体の凝りをほぐす。


『......機体点検が終了。人型機械、機体名[ノーム]の左腕と左脚は欠損状態、その他に大きな損傷は無く、左半身の外装に傷と焦げ付きが多くある以外問題無し。融合炉や伝達機器、推進器系その他内部システム異常無し。今回の戦闘に関する記録映像も破損はありません。機体姿勢はマスターの指摘通りの状態です。現在の保有武器は無し。頭部機関銃の残弾数は無し。現状の攻撃手段は胸部E(エネルギー)機関砲のみですが、念のために左側を使用するのは控えたほうがよさそうですね。

 マスター、次の指示を』

「マジか。爆発から逃げる時に推進器や脚部を酷使したし、大盾で防いだとはいえ、あんだけの威力で左半身のみやられただけであとはほとんど異常無しかよ。だが、攻撃手段が無さすぎるのがなぁ。うーん。まあ、融合炉含めて諸々無事だったことを鑑みれば十分か。

 よし、イクス、融合炉を起動して予備電源から主電源に切り替えてくれ。そして、周囲の調査を行うぞ。間違いなく、あの爆発で戦争は終わってるはずだ。外からの振動が伝わってこないしな。あれほどの威力なら近くの町や観測機が見ていてその情報が傭兵ギルドを含めて世界に拡散されているはず。となれば、俺達は戦死扱いにはなっていないが間違いなく戦時中行方不明者になってるはず。じゃなきゃ困る。

 んで、この状態じゃ動けねぇのと攻撃もできねぇのとでまだまだ危機的状況だから、まずは自分がどこにいるか確認しないとな。爆心地からかなり離れていたからそこまで吹き飛ばされてないはずだ」

『承知しました。周辺情報の収集を行います。マスター、救難信号はどうしますか?』

「あー、公国以外の近くの傭兵ギルド宛てに信号は出してくれ。無差別だとすぐに誰か来る可能性は高くなるが死体漁りか盗賊が来るかもしれぇ。下手すりゃ、どちらかの軍の生き残りが来るかもしれねぇ。いくらノームが頑丈でその辺のゴロツキにゃ手も足も出ねぇ代物とはいえ、変な輩に囲まれてちゃ救助隊が来にくくなるだろうからな」

 あらかたイクスに指示を出し終えた俺は指を動かしピッピッと音を立てながら操縦球を操作して自分の周囲にいくつものディスプレイを出現させる。


 現れたもののうち正面にあるものにはノームの全体図が映し出されていた。正常であるなら機体の色である鈍色をししているが、現在では左腕は方から先が、左足は腿から先が黒く、左肩と残っている左半身は黄色くなっている。

 カメラ機能のある右目と左目が無事なのと重要な内部機器に異常がないことは幸いだなと俺は思いつつ、時刻やエネルギー残量など様々な数値が示されている計器類をさらにピッピッと音を立てながら1つずつ確認し、それを終えると次はスーツの右腕部に付属する端末を操作してサバイバルマニュアルを別のディスプレイで開いて中身を確認する。


「しっかし、ここに来て初めての救助までのサバイバルか。今までは安全第一でやってきたけど、今回の依頼は違和感しかなかったしそのくせ強制参加で色々とヤバかったな。まあ、絶対にこの後は面倒ごとに巻き込まれるだろうなぁ。とりあえずはノームのカメラで撮った映像が無事だったからそこまで面倒ごとにはならなそうかな。まったくもって勘弁してほしいところだが、生きてるだけで儲けもんと考えるべきかねぇ」

『マ、マスター! た、大変です! 周囲にAI反応と機械反応、電波反応がありません!』

 俺がサッサとマニュアルを流し見で読みながらこれまでの経緯とこれからのことについてを大雑把にまとめた独り言の愚痴のような話をイクスに話して彼からの反応を待っていると、彼が慌てたように声を上げたので、俺は一度読むのをやめ、彼の言ってきた内容を一度確認してから、何言ってんだこいつは、と訝しげに彼を見た。


「んん? あの爆発で一番近くにあった国境警備用AIとか戦場に出ていた兵器や戦場にあった構築物とか諸々かなりの数が探知可能範囲外に吹き飛んだんだから探知に引っかからねぇんじゃねぇか? それに周辺が爆発の余波で乱れて電波が上手く飛ばねぇんだろ。確か、昔にどっかの企業が実験したとかで証明されてたはずだ。まあ、しばらく待ってれば直るって」

『いえ、マスター。こちらの電波探知はきちんと機能しています。なので、周辺が乱れていることはありません。

 それに、AIや機械などが吹き飛ばされても必ず僅かな反応をその場や周囲に残すはずです。それらを踏まえて何も反応がないのです』

 俺はイクスの言った内容について冷静にかつ一つずつ丁寧に否定していくが、彼はまだ納得いかないようであるので、仕方なく奥の手の指示を出す。


「うーん。各種反応探知機能で分からないんじゃあ、頭部カメラを使うか?」

『よろしいのですか、マスター? 頭部カメラを動かせば抗戦の意思ありと捉えられてしまいますが』

「この際しょうがない。それに、周囲に諸々の反応は無いんだし万が一敵がいたとしても機械相手じゃなければ十分に対処はできるはずだ」

『承知しました、マスター。頭部カメラを起動します。カメラからの映像をメインスクリーンに映します』

 そして、イクスによってノームの頭部カメラの映像が操縦席内の前半分を覆い尽くすメインスクリーンに映し出される。


「......」

『......』

 目の前に現れた光景がとてつもないほど予想外のものであったため、俺とイクスは言葉を発することはせずただただ茫然と佇むのであった。どれくらいたったのかは分からないが、しばらく操縦席内では俺たちの無言の時間が続いていた。


「な、なあイクス。これは......カメラの故障かな? こ、ここは何処なんだろうなぁ? 俺、初めて見る景色なんだが」

『ええっとですね、マスター。カメラに異常はありませんでしたよ? そして、この木や草といった自然物の集合体は森林ではないでしょうか?』

 スクリーンに映し出された雲ひとつない青い空の下、緑あふれる明らかにノームより大きい木々や色鮮やかな草花が時折吹かれる風によってユラユラと揺れる様子を俺とイクスはしばらくぼーっと見ていたが、かなりの時を経て俺は操縦席内の沈黙を破るようにようやく言葉を発するとイクスがそれに答える。


「おいおい。こいつはヤバいって! ここってどっかの国か金持ちの私有地の自然公園じゃないか?!

 不味いぞ不味いぞ。不慮の事故とはいえ、無断侵入がバレたら最悪死刑だ。どうするイクス!?」

『落ち着いてください、マスター。ここはおそらく、自然公園では無いと思います』

 イクスの森林という言葉を聞いた俺が真っ先にここがどこなのかの大体の見当をつけると同時に現在の状況がいままで以上にとんでもないことになっていることを瞬時に把握し、慌てながら頭を抱えていると、彼は俺に待ったをかけ俺の考えを否定するように冷静に説明を始める。


『いいですか、マスター。まず、先の探知の件で明らかになっていることとして、ここの周囲に管理者や管理用AIの反応がありません。それに、普通、監視用衛星によって私達のことは即座に通報されているはずですが、警備はおろか誰か来る気配すらありません。

 次に、ここの自然物は人やAIによる何かしらの痕跡がありません。自然公園は人やAIによって徹底管理されているので必ず痕跡があるのです。

 最後に、これが1番の理由なのですが、自然公園付近での戦闘は国連の条約によって禁止されています。私達が参加した戦争の周囲に自然公園はありませんでした』

「爆風に吹き飛ばされて何処かの公園に落ちたとかは?」

 イクスが淡々と話す中、彼の落ち着いた様子につられて冷静になり始めた俺はありえないと思いつつも念のために彼に可能性の話として質問をするが、それを聞いた彼に鼻で笑われてしまう。


『フンッ。マスターはいつから肉体超人になったのですか? 少なくとも戦場から一番近い自然公園に吹き飛ばされたとしても、かなりの距離まで吹き飛ばされる速度で地面に激突すればいかに丈夫なノームとて衝撃で機体はバラバラに分解されて中にいるマスターはミンチになっているのですよ?』

「はぁ? そんな風に言わなくてもいいじゃんか。

 じゃあ、ここは何処だっていうんだ?」

 なんとなく答えに辿り着いている様子のイクスであったが、答えが分からない俺は彼に尋ねる。


『ここは、おそらく私達がいた世界とは別の世界。すなわち、異世界の可能性があります、マスター』

「......は?」

『いくつかの根拠を挙げるならば、まず、人以外の生命反応があることです。

 私達の世界では自然は崩壊し、完全な天然物は存在せず、なんとか復元させた物が僅かな土地で人の手とAIにより管理されています。そして、人以外の動物は完全に絶滅しています。それなのに、ここには様々な生命反応があるのです。

 それに、スクリーンの右端をよく見てください。私の保有する図鑑内情報には載っていない四足歩行の生物がいます。他にも左端上部や中央下部にもいます。

 次にですね、この木の大きさなんて......』

 最初は普通に話していたが、徐々に早口で若干興奮気味に喋り始めたイクスを見ながら、あまりにも非現実的な状況に俺は一旦心を落ち着かせようと大きく息を吸う。


「どぉしてこぉなったあああああああああ!!!」

『そのことですが、マスター。私の推測に過ぎないのですが、爆発による膨大なエネルギーによって時空間に歪みが生じ、穴が空いたと思われます。そして、ちょうど私達がいた場所に穴が空き時空の狭間に飛ばされ、ここにやってきたのでは無いでしょうか?!

 過去に別空間の理論や時空間の穴について、別世界に関する議論などが様々な国や機関でいくつもされてきましたが、まさか本当に異なる世界が存在するとは思いもよらず、私達が実際にそれを体験するとは!!

 これは論文にして提出すればとんでもないことになりますね!』

「うっせぇ! ドヤ顔で言うな!? それとなんだか楽しそうだなぁおい! 論文まとめても出すところ無ぇだろ!」

 知的好奇心が刺激されたからか、イクスが若干おかしな方向に暴走し始め、心を落ち着かせるどころかガタガタに揺れている俺はイクスに全力でツッコミをした後、頭を抱えながら現実逃避としてこれまでの経緯を思い浮かべることにした。

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