第1話 始まりのはじまり
そこは、部屋だった。何処にでもあるような一軒家の一人部屋。その部屋のベッドに、一人の少女が、毛布に包まりすうすうと規則正しい寝息をたてている。
時刻は朝のようだ。カーテンの開けられた窓から暖かい朝の光が差しこんでいる。
少女の枕元に置いてあるデジタルの目覚まし時計は午前9時を指している。
少女はまだ起きる気配は無く、時折寝返りをうったり、ブツブツと何と言っているのかわからない寝言を呟いている。
すると突然、部屋にドンドンとドアを叩く音と幼い男の子の声が響き渡る。
「おねーちゃーん! 起きろー! 起きろー! おーきーろー!」
だが、少女は起きる様子が全く無い。少しだけ寝辛そうに顔をしかめて寝返りをうつだけだった。
「ママー! おねーちゃん起きないよー!」
「もー! 魔理亜ー! 起きなさーい! 朝よー!」
少女はようやく目を少し開ける。
布団の中から手を伸ばし、目覚まし時計を手繰り寄せ、寝ぼけた眼で時計を見る。
「んー? ああ、おん、うう、うん」
そう言って、驚く事もなく、ノソリと身体を起こし、着替えて、階段を降りる。
「あぁっ! おねーちゃん起きた!」
「んん? あぁ、おはよ。啓斗。」
「おはよ」
少女はリビングのドアを開けて、中に入る。
「おはよ〜」
「『おはよ〜』じゃ無いわよ! いつまで寝てんのよ! もう9時よ? こんなんで高校生活できるの?」
「大丈夫だって」
「何が大丈夫よ! 今まで大丈夫って言って大丈夫だった事何回あるか言ってみなさいよ!」
「えっとー、それはー、えっとー、無いです。ゴメンナサイ」
「だったらちゃんと起きなさい。」
「分かったよ。でもさー、全寮制だよ?あの高校」
「そうだとしてもよ! こういうのは日頃の習慣からくるんだから」
「いやでもさ、寮と校舎そんなに離れて無いし、私は能力者よ? 寝坊してもワンチャンイケるよ!」
「イケるとしても、ウダウダ言わずに春休みの間にちゃんと習慣戻しなさい」
「はいはい。分かったよ」
「おねーちゃんできるかなー? できるかなー?」
「何よ!アンタ!この!」
「ワハッ!やめてよ!こしょぶったい!」
「はいはい、暴れないで魔理亜は朝ごはん食べなさい」
「あえ?もう朝ごはん食べてたの?」
「さっき言ったでしょ?9時だって。パパも仕事なんだから」
「待ってたっていいでしょ?」
「待つわけ無いじゃん。ねーちゃんねぼすけだから」
「ええ?何だってー?」
「一緒に食べたいなら早く起きれば良いんだよ」
「ううっ、弟にど正論言われた、でも別に一緒に食べたい訳じゃ無いけど」
「じゃあなんで言ったの?一緒に食べたいから言ったんでしょ?」
「否定はしないけど」
この少女は神園魔理亜。現在16歳。この物語は、この少女が全寮制の高校「聖妖学園」で様々な事件に巻き込まれつつ、学園生活を送って行く所から始まる。
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