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Writer × Reader  作者: NaHCO3
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7.想像

 そのままキャロルを背負ったままキャロルの夜ご飯と朝に食べるパンを購入し、キャロルの家まで送っていった。


 キャロルの家は森の隠れ家から五分程で着くくらい近くにあり、迎えに行くときも安心して向かうことができそうだった。


 明日の朝向かうということを指切りをして約束してからシキが待っているであろう宿へと向かう。案の定、シキは宿の前に立っていた。


「おーい! ちょうどいい時間だったかな?」


「そうですね。私も今さっき帰ってきたところでした」


 ツクモはシキと共に宿の中へと戻っていく。そして、宿に戻ったツクモは夕食を食べにシキとどこかへでかけた……わけではなく、宿の中にいた。


 シキは厨房で料理の盛り付けを行っている。


「完成です。私が知ってる調味料が少なくて少し戸惑いましたが、美味しくできたと思います」


「おお、さすがシキ! 本当に美味しそうだね!」


「この宿が料理を売りにしていただけあって、器具もかなり高性能なものが揃っていたからこそです。でも美味しく作ることができた自信はあるからどうぞ召し上がってください。まぁ、まさかお金がない訳でもないのに夕食を作る事になるとは思っていませんでしたが……」


 そう。今夜の夕飯はシキが買ってきた食材で料理を作ってくれたのだ。もちろん、最初からシキが作る予定ではなく元々は昨日一昨日同様どこかの店で夕食を済ませる予定だった。


 しかし、やむを得ない理由からこうなったのだ。


「わぁ! すごいすごい! 見たことないお料理ばっかだ!」


「あの、本当に私たちも頂いていいんですか?」


 ナナがシキの料理を見てはしゃぎ、シエラは申し訳なさそうな顔をしてこちらを見ていた。


「シエラさんはお菓子しか作れないんでしょ?」


「うぐっ……作れはしますけど食べられるだけのものです……」


「なら遠慮せずに貰っちゃえばいいじゃん。ほら、ナナちゃんも食べたそうにしてるよ?」


「……おねぇちゃん食べないの?」


「で、でも私が作ったお菓子は買い取ってもらっているのに……」


「まさかお店が酒場くらいしかやってないなんて普通分かりませんし、しょうがないですよ」


 そう。行方不明事件のことが領主の名前で発表されたことによって噂が事実となり、危険を避けるために暗くなった途端にほとんどの店が閉店してしまったのだ。


 街にある店が夜に開かないと困るのではないかと言われているが、行方不明事件を怖がって夜は家から一歩も出ない人間がこの街の半数は存在している。


 冒険者ギルドに隣接されている酒場は開いているらしいが、そんな場所にナナを連れて行くわけにもいかないし、ツクモとシキは酒場料理ではなく普通の食事を食べたかった。


 そのため街で買い物をしていた時にその情報を得ていたシキが食材を買っており、宿の厨房を借りて夕食を作った。


「じゃあさ、明日から一人ここに泊まらせたい子がいるんだけど、その子に時々でいいからお菓子をサービスしてくれないかな?」


 シエラが金銭関係で躊躇っているならとツクモはそう提案する。しかしシエラが返事をする前にシキがゆらりと立ち上がった。


「……ツクモ様? そんなこと聞いていないんですけど、どういうことか説明してくれますよね?」


 顔を上げたシキの目には心なしか、ハイライトが入っていない気がする。笑っているようで笑っていない微笑みと突き刺さるような目線がとても痛い。


「あ、あとで部屋に戻ってからちゃんと説明するから!」


「言いましたからね? 私が納得できる理由でなかったら……分かってますね?」


 なんだかだんだん辺りが寒くなってきた気がする。おかしい、今は花がきれいに咲く季節のはずだ。横目で見るとナナとシエラもブルブルと震えているように見える。


「だ、だだ大丈夫だ。マークがあったからだから! それより漏れてるから抑えて!」


 そういうと、目に光が戻り椅子に座りなおした。


「なんだ。そういう事ならそう言ってくださいよ。てっきり、武器を買わずに女を買ったのかと思ってしまいました。……あれ? そういえば武器はどこですか?」


 しかし、武器がないということに気がついたシキがまたもや立ち上がろうとする。ツクモの武器は作ってもらっているところだから今は丸腰だ。

 確かに、何も言わなければ何も買っていないとしか思えないだろう。だが今回は長持ちする良い剣を注文することができたはずだから文句は言われないはず。


「注文中だから! と、とりあえず冷めちゃうから食べよう……な? シエラさんもその条件でいいでしょ? 良いよね!?」


「は、はい! 食べさせていただきます! ナナも食べて良いんだよ!」


「うん! 食べるー! ……わぁ、おいしい! すごいすごい! 綺麗で美味しいお料理だ!」


「はぁ……今日何があったかあとで聞かせてくださいね?」


 ひとまず嵐は過ぎ去ったようだ。ツクモは、シキを説得する自信はあるとはいえ、本当に大丈夫かと少しだけ心配になっていた。


 夕食も食べ終え、ツクモとシキは部屋に戻った。とはいえ、ツクモはまずはシキにかけられた疑いを晴らさはければいけない。


 夕食を食べていた時間が空いたことで時間ができたが、シキの目はまるで氷のように鋭った。


「ふぅ、それでは今日何があったのか説明してもらえますか?」


「うん。まず、重要じゃないことだけど腕の良い鍛治師に剣をいや、刀を作成してもらうことにした。本来は金貨3枚だったんだけどなんやかんやあってただになった」


 ツクモにとってこの情報は重要じゃないが、ある意味重要な情報だった。……シキとの約束的な意味合いで。


「刀を知っている鍛治師が居たのですか? あんな古くてマイナーな武器を知っているとは……」


「いんや、薄くとか片刃とか指定した。初めて作るから値段はつけられないってことでタダになったんだよね」


 実際ガンツは自称したようにドワーフ随一の鍛治師だ。自分の作品が失敗作だと少しでも判断すれば、普通の鍛治師よりも出来が良くても捨て値同然で売っている。

 昔いた場所では、失敗作を狙う者たちが溢れかえっていたほどだ。……もっとも、それが嫌でこの街へとやってきたのだが。


「それは……自分の打ったものにかなり自信があるようですが、実際実力はどんな感じなのですか?」


「んー、ムサシが喜ぶレベル」


「それはすごいですね……。では、お金は金貨5枚が残ったのですか?」


「いや、2枚だね」


 そう答えた瞬間、空気が一気に凍えた。


「……ツクモ様? 私言いましたよね? 無駄使いはダメだと。言いましたよね? 銀貨10枚くらいは無駄に使われるとは覚悟していましたが……金貨3枚とは何事ですか! そもそもーーー」


「無駄使いじゃなくてシキへのプレゼントを買ったんだ!」


「ーーー一体何を買った……プレゼント?」


 ブリザードから一転、シキはキョトンとした顔で聞き返してきた。


「あ、あぁ。これなんだけどさ、開けてみてくれる?」


 ツクモはネックレスが入ったケースをシキに渡す。


「……これは、ネックレスですか? 同じものが二つ?」


 やはり、同じものが二つあることに疑問を感じているようだ。その理由をツクモは店員さん……じゃなくて店主に聞いている。


「二つあるのは俺とシキが一つずつ着けるからで、ペアリング?って言うんだって」


「ペアリングだったのですか。……ツクモ様はペアリングの意味を知っていますか?」


 キャロルは確か、二人が仲良しだと言うことを簡単にわかるようにするものだと言っていた。つまり……。


「親しいもの同士で付けるものでしょ? 貴族の家紋みたいな感じで」


「え、えぇ、大体その通りなのですが……いえ、大丈夫です。ところで、これはいくらだったのですか?」


「それ二つで金貨3枚だぞ」


「き、きき、金貨3枚ですか!? ……金貨3枚でペアリング……ペアリングで金貨3枚……」


 値段を伝えるとシキは顔を赤くしながら大声を上げたあと、何かを考え込むように下を向いてしまった。やはり、金貨3枚は高すぎただろうか……。


「いや、でもさ! もしも刀を買っていたら金貨3枚だったわけだし? 実質ただみたいなものって……シキ?」


「金貨3枚のペアリング……っ!? は、はい! こ、今回は許します!」


 許すと聞き、ツクモは安心したように微笑んだ。


「そっか、良かった。ほら、そのネックレスさ、白と黒のマダラ模様でしょ? 俺とシキそれぞれの髪の色をイメージしてるんだよね。あと指輪にもなるらしいから気分によって付け替えてね」


「ゆ、指……そ、そうですね! 今はネックレスにしておきたいと思います!」


 仕方なくみたいな言い方をしているが頬が緩んでるし、かなり嬉しそうだ。しかし、これで重要ではない話はおしまいだ。次は重要な話をしなければいけない。


「で、そのネックレスを一緒に選んでくれた女の子が居たんだけど、その子にマーキングがされていた。レベルは3、まだ強制転移は不可能だった」


 それを聞いてシキの雰囲気も一気に切り替わる。


「……マーキング……。ということはやはり?」


「あぁ。この行方不明事件の犯人は神隠しだ」


「……その女の子のことを教えてください」


「うん。話そうと思ってたからね」


「まず、種族は猫人族で十歳の女の子。名前はキャロル。そして……両親が行方不明になっている」


「そう……ですか……」


 シキが悲痛な顔で言う。


「マーキングされた場所は裏道か森か……いや、キャロはまだ十歳だしレベル3なら……あぁ、花が採れるところかな」


「その、キャロルちゃんは今どこへ?」


「本当は今日からこの宿に連れてくるつもりだったんだけど、俺がシキにプレゼントするのを邪魔したくないって言われて今は自分の家にいるよ」


「……その、レベル3だったのですよね? 大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。神隠しは強力な代わりに発動条件と範囲が厳しい。それに、明日の朝迎えに行くから家から出ないように言ってるからね」


 ツクモはキャロルを家まで送ったし、神隠しの発生条件は家の中では満たすことができない。だからキャロルは家から出ない限り安全なのだ。


 ツクモはシキに買い物と同時に頼んでいたことを聞くことにした。


「俺の方でも確認はしたけど、シキから見た行方不明事件の話の広がりようを教えてもらえる?」


「はい。まず、行方不明事件の話はこの街に限っていえばほぼ完全に広がりきっていました。そして、領主から出された御触れによって知らない人は居なくなったはずです。……ですが、香辛料を販売していた行商人に聞いたところ、そんな情報はこの街へと来て初めて聞いたそうです」


 行商人が知らなかったという情報以外はツクモが得た情報と同じだったが、これはいい誤算だ。


「神隠しは都市伝説級か……。街に噂が広がりきってるから、一応伝説級として対処にあたろう。……これ以上は犠牲者を出さないように終わらせないといけない」


「そうですね。では、明日はキャロルちゃんのところへ私も向かいましょう。こんなに良いものを一緒に選んでくれたのですから」


 シキが微笑みながらネックレスを掲げ、そう言った。


「ははっ……シキに気に入ってもらえたならキャロはもう安心だね。とても運がいい」


「えぇ……そうですね」


 そして二人は眠る。キャロは十歳だし、ナナの友達にもなってくれそうだ。しっかりした子だからナナのお姉ちゃんをしてくれるんじゃないかな。


 でも、少し活発なところもあるからあまり目を離さないようにしないといけないかもしれない。


 そんな事を考えながら意識を落とした。


 しかし、そんな楽しい想像も次の日打ち砕かれる事になる。

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