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Writer × Reader  作者: NaHCO3
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6.吐露

初の朝投稿

似たような名前の書籍本を見つけたので名前を変えさせていただきました。混乱した方は申し訳ありません

 なにやら言い争いをしているようで、それを中心に野次馬ができ、完全に道が塞がれてしまっていた。


「消えた人間は悪人ばかりじゃないか! だから事件を起こしてるのは義賊だっていってんだろ!?」


 奥にいる男がそう叫ぶ。そうだそうだ!とその男の周りの者たちも同調する。


「あぁ!? なら薬師のねぇちゃんとか飯屋のオヤジはどこにいったんだよ!? あいつらが何か悪さをしてたとでもいうのか!? あぁ!?」


 しかし、手前にいる男がそう言って食い下がる。


 キャロルがぶつかったのは、二つに対立して意見を言い合う集団だった。どうやら行方不明事件について言い合いをしているようだった。


 両者の間には張り紙がされており、領主から出された発表が書かれているようで、文字を読めるものが新しく来た人に書かれている内容を教えているようだ。


 張り紙には、今回の行方不明事件が本当に起きているということとその調査を本格的に執り行うこと、そしてその被害にあっていると思われる人数が書かれていた。


 その数は現時点で判明しているだけでおよそ200名。スラムなどでいなくなった、行方不明事件との関連が不確かな人数も合わせれば300名は余裕で超えるだろう。


 さらに、名誉にかかわるため名前は伏せられていたがこの街へ向かっていた貴族がいなくなったことや到着していない商隊がいくつかあることなども明記されていた。


 ツクモがそれを読んでいる間にも、対立している両者の言い争いは更に苛烈を極めていく。


「別の街に逃げただけじゃないのかよ! 居なくなったのだって噂が広まり始めた頃じゃないか!」


「あいつらがそんなことするわけねぇだろうがよ! 薬師のねぇちゃんなんて商売道具が置きっぱなしで居なくなってんだぞ! おっちゃんだって開店準備がほとんど終わってる状態だったらしいじゃねぇか! なんでそんな中途半端な状態で逃げる必要があるんだ!? あぁ!?」


 両者は義賊による犯行なのかただの犯罪なのかで対立をしているようだ。


 ……いや違う、義賊の犯行だと思い込まなければやっていけないのだ。


 知り合いが次の日に忽然と姿を消す恐怖。次は自分かもしれないという不安。犯人どころか、被害者すら一切姿を見せないという焦燥。


 そんな中にもたらされた怪しい噂があった商人、素行の悪い冒険者、裏を仕切っていた闇組織が消えたという事実。そして流れるそれらが行方不明事件と関係があるという噂。


 不安に押し流されそうになった者がそれに縋ったのは、ある意味当たり前の流れだったのかも知れない。犯人は悪いやつではない……と。


 例えば黒い噂を持つ者が10人いなくなったとしたら、その間に悪い噂など一切ないただの人が50人いなくなってしまっているだろう。


 だが、その事には一切目を向けない。気がつかないふりをする。隣人が消えたのはただ避難しただけで、事件とは関係がないのだと。


 正体の分からない理不尽よりもこじつけのような正義を取ってしまう。取らざるを得ない。そうじゃないと、耐えられないから。


「じゃあ何だっていうんだよ! 人身売買の噂があった商人は商隊ごと消えたし、街を荒らしてた冒険者もいなくなったって噂じゃねぇか! 実際最近の街の治安はどうだよ! 少し活気が減ったかもしれねぇが平和そのもの! これが義賊の仕業じゃないとしたらなんなんだ!?」


「そ、それは……」


 答えることができない。理想を掲げていると分かっていても、残念ながらその犯人は一切分からない。手掛かりすらないし、相手を言い負かすほどの何かがあるわけでもない。


 正論が負け、理想論が勝つ。言い争いはそんな結末を迎えるかのように思われた。だが、その言い争いも終わりを迎える。


「両者とも言い争いをやめよ!」


 一触即発の雰囲気だった両者の間に街の衛兵と思われる鎧を着た人物が数人入ってきた。騒ぎが大きくなりすぎたため駆けつけてきたのだろう。


「行方不明事件については我々が領主様の命にて責任を持って調査をする! 憶測だけで物事を語るな! 根拠のない言葉が皆を不安にさせていると気づかんか!」


「あ……申し訳ありませんでした……」


「はい……熱くなりすぎました。その……よろしくお願いします。俺も知り合いが何人か行方不明になっているんです……。領主様が調査してくれるなら信じて待てます」


 両者のリーダー格だった二人はすぐに衛兵に謝る。それを受け、衛兵も満足そうにうなずく。


「任せておけ。領主様の人柄は知っているだろう」


 言い争っていた人たちから領主様なら安心だとか、これで解決したも同然だという声が聞こえてくる。この街の領主は平民にかなり信用されているいい領主のようだ。


 それと同時に、行方不明事件がすでに領主が動く事態になるほど広まっていることに驚いていた。


 衛兵が来たことで野次馬が去っていき、言い争いをしていた人たちも帰って行ったことで騒ぎが収まり塞がっていた道が通れるようになった。


 だからツクモは移動を再開しようとした。


「さて、そろそろ俺たちも行こうか。……キャロルちゃん? キャロルちゃんどうしたの?」


「ツクモお兄ちゃん……。……私のおとうとおかあが帰ってこないの。私、悪いことをしちゃったから帰ってこないのかな……?」


 キャロルは泣いていた。ボロボロとその大きな瞳から大粒の涙を流しながらツクモに問いかけた。


 約五日前、キャロルの両親は仕事に行ったっきり帰ってこなくなった。帰りが遅いことを不思議に思ったキャロルが両親の勤めている商店を訪ねてみたが、もうすでに帰ったという答えが返ってきた。


 キャロルのまだ帰ってきていないという言葉を聞いて、商店の従業員たちにも協力してもらって捜索を行ったが、発見することはできなかった。


 夜も遅かったし、きっと明日になれば戻ってくると信じて眠ったが、一週間たった今でもまだ両親は帰ってきていない。


 両親は行方不明事件に巻き込まれてしまったとされて、キャロルは一人になってしまった。働くこともできない年齢で保護者の存在が消えてしまったのだ。


 しかしいくら同じ従業員の子供とはいえ、両親と同じ商店に勤めていた者たちでさえいきなり十歳の子供を引き取って育てることなどできるはずがない。


 家を売って孤児院に入る選択肢もあったが、両親と住んでいた家を手放したら両親の死を認めてしまうと思って、どうせ一人ぼっちならせめてこの家で過ごしたいと留まった。


 この家さえあれば、この家に住んでいればいつか両親は帰ってきてくれる、周りが何と言おうと衛兵にもう死んでしまったのだと処理されてしまったとしてもキャロルはそう信じていた。


 つまり、キャロルが花を売っていたのは生きるため。信じるためだったのだ。


 違法でないか知り合いでない限り、基本的に成人していない者を雇ってくれる店など存在しない。しかし、生きていくにはお金が必要だ。

 だが、両親が家に残していたお金はキャロルが日々暮らしていくのには少なすぎた。一日に一食しか食べないで過ごしていたが、すでにお金は底を尽きかけている。


 だから、自分で採ることができる花を売ることでお金を得ようとしたが、街が混乱している中で花を買ってくれるものなどほとんどおらず途方に暮れていたところ、ツクモと出会った。


 同情なのか気まぐれなのか分からないけれど、花を法外な価格で買い取り優しくしてくれた。そればかりか、失敗を装って美味しいご飯を食べさせてくれた。


 優しくされたからなのだろうか、久しぶりに心が温かくなったからなのだろうか。開かないようにかけていたはずの心の鍵が、考えないようにとしっかり蓋をしたはずだった感情が、緩んでひび割れて少しだけ、ほんの少しだけ溢れてしまった。


 ハッと気がついた時にはもう口に出ていた。目から涙がこぼれてしまっていた。

 失敗した。だけどもう失敗しないように、もう開かないようにしっかりと蓋をしようと思った時、温かいものにギュッと抱きしめられた。


「……ツクモ……お兄ちゃん……?」


「キャロルちゃんの両親は悪いことなんかしてないよ」


 大丈夫とかきっと無事とかいうありふれた言葉は言わない。


「だってキャロルちゃんはこんなにまっすぐで良い子なんだから」


 キャロルは真っ直ぐで良い子で賢い子だから。


「キャロルちゃんをこんなにまっすぐ育てることができる人たちが悪い人たちなはずがない。だけど、」


 まっすぐで賢いからこそ気がついてしまっているんだ。


「キャロルちゃんはまだ子ども。生まれてからまだたった十年しか経ってないんだ。だから、」


 街で行方不明事件が多発していることも、誰も帰ってきていないことも。だから。


「辛くなったら誰かに頼ってもいいんだよ」


 もう両親が帰ってこないということに、もう会えないという現実に耐えられなくなったら。


「泣きたくなったら泣いてもいいんだよ」


 キャロルちゃんに声をかけたのは、生きようとしていたから。諦めていなかったから。希望を捨てていなかったから。気まぐれなんかじゃない。だから見捨てたりしない。そう心の中でつぶやく。

 キャロルがゆっくりとツクモの背中に手を回す。


「おに……ちゃん……」


 キャロルは辿々しく話す。


「キャロね、気が……ついてたの……」


「うん」


「おうちも……静かでっ……誰も……帰ってこなくて……」


「うん」


「寂しい……よ……」


 たった十歳の子供が一人でご飯も満足に食べることができずに過ごす。その小さな世界は静かで孤独で冷たくて……ただただ寂しかった。


「決して親の代わりにはなれないけど、お兄ちゃんは絶対にキャロルちゃんの前から黙って居なくならないよ。だから……一人でよく頑張ったね。これからは俺が守ってあげるからね」


 キャロルは声を上げて泣いた。両親がいなくなってから初めて我慢せずに大粒の涙を流した。ツクモは、キャロルに自分はここにいると教えるように強く抱きしめ続けた。


 ツクモは冒険者なのだ。いつか街を出る時はお別れになってしまうだろう。でもそれは一ヶ月後かもしれないし一年後かもしれない。


 そんな先の未来のことはその時考えるとしても、決して黙って居なくなったりはしないとこの小さな猫人族に誓った。


「……ん……ツクモお兄ちゃん少し苦しい……」


「おおうっ! 少し強かったかぁ」


 痛いと言われたツクモは抱きしめる力を少し緩める。キャロルの涙は止まったようで、心なしか少しすっきりしたように見える。


「ん、大丈夫になった。キャロ、もう少しこうしててもいい?」


「大丈夫だよ。なんなら肩車をして歩こうか?」


「えー、んー、じゃ、じゃあ……んっ!」


 キャロルは、んっ!と言いながら手を伸ばした。それをツクモが肩まで引き上げる。


「よいしょっと! 軽いなぁ! ちゃんと捕まっていてね!」


「わぁ……高いね!」


 肩車をされて喜ぶキャロルを視界の端に入れながらツクモは歩きだす。可愛い尻尾が首に巻きついてきて少しくすぐったい。


「キャロルちゃんには、このままオススメのお店を教えてもらおうかな?」


「……キャロ」


「ん? なになに?」


「キャロのことはキャロって呼んで欲しいの! 呼んでくれないと教えてあげなーい!」


 目を拭ったキャロルは大声でそんなことを言った。一人称も変わっているし、かなり甘えるような態度になったけれど、とても可愛い。


 言うならば年相応。多分、これが本来のキャロルであり、さきほどまでかなり無理をしていたのだろう。


 しかし、泣き出して吐き出したことでツクモに完全に懐き、本来のキャロルに戻ったのだ。


「ふふ、キャロよ、最初のおすすめの店を教えるのだ!」


「今通り過ぎたところ!」


「今かよ! ならもう少し早く言って欲しかったかな!」


 ツクモはキャロルを肩車したまま店内へと入る。キャロルの頭が扉に当たらないようにだけ気をつけて扉をくぐった。


「いらっしゃいませー……? あの、お客様? お店を間違えていませんか?」


「えっと、いつもお世話になってる女の子にプレゼントを買うのにオススメのお店って聞いたらここだって今肩車している子に聞いて……」


「え? あぁなるほど! 分かりました、任せてください! 絶対に成功させましょう!」


「ん? そうだな、せっかくなら喜んでもらいたいし任せようかなぁ。あ、キャロも良いと思ったのあったら教えてね」


「うん! 任せて!」


 裏に戻った店員さんは、いろいろな商品のレプリカらしきものが入っている箱を抱えてやってきた。キャロルはキョロキョロと展示されている商品を見ている。


 さすがに見にくかったようで肩から降りてきた。でも、尻尾はツクモに絡ませたままだった。


「まず、お贈りする方のことを教えていてもらえますか? 年齢や髪色などできれば詳しくお願いします!」


「そうだなぁ……。髪は俺とは対照的に真っ黒で、肩くらいまでしか長さがない。見た目は俺と同じくらいかなぁ? あ、一応一緒に冒険者登録したから、武器を使う時に邪魔にならないようなものとか無いかな?」


「ふむふむ、ちなみに予算を教えて貰えますか?」


 ツクモが今持っているのはほぼ金貨5枚だ。キャロルに銀貨1枚とご飯と串焼きに多少の金を使ったが誤差の範囲内だろう。

 しかし今回は、もし剣を買っていた時にかかったであろう値段までしか使わない予定だった。

 でも、こんなに気合を入れて選んでくれているのだから多少値段が上下しても構わないだろう。


「予算は金貨3枚で、多少ならオーバーしても大丈夫なんだけどさすがに足りるよね?」


「き、きき金貨3枚ですね!? ということはそういう事ですね! 足ります! この店にある大体のものを買えますよ!」


「わぁ、ツクモお兄ちゃん頑張るんだ! キャロも応援してるね!」


「そうだなぁ、喜んでくれると良いんだけどね」


 店員さんが先ほどから濁した言い方をしていて少し気になるが、やる気はかなり入っているみたいだし、気にしないことにした。


「髪が黒……なら暗めで合わせる? いや、せっかくだしお兄さんの髪色と……冒険者なら指輪はダメだけど、でもこれなら? いや、金貨3枚なんだからペアじゃないと……それなら、よし! 決めました!」


「お! どんなやつか教えてもらえる?」


「はい! まず、冒険者ということだったのでネックレスにすることもできる指輪にしました! 魔物などと戦う時はネックレスとして、普段は指輪として使えるようなものです!」


「それは良い感じだね。……大人しめの子だから派手だと付けてくれないと思うんだけどどんな見た目なのか見せてもらえる?」


「はい! えっと、あった! これです! 開けてみてください!」


 中には、黒と白が入り混じった指輪が入っていたが、なぜか二個ある。


「えっと、何で二つも入っているの? 違いがあるようには見えないし、どっちか片方を選ぶって感じでいいのかな?」


「これはつまりペアリングです!」


「ペアリング?」


 ツクモの疑問に答えてくれたのはキャロルだった。


「お兄ちゃん、ペアリングっていうのは、同じものを付けて二人が仲良しってことが簡単にわかるようにするものだよ! だから二つあるの!」


 キャロルに言われたことが本当なのか確認するように店員さんの方を見ると、頷きながらさらに力説された。


「その通りです! それに加えて、黒鉄とミスリルを使用することで、お相手の黒い髪とお兄さんの白い髪を表現できるんです! これ以上にぴったりなものはないと思いますよ!?」


「そ、そうか……。ちなみにこれでいくらくらいなの?」


「二つで丁度金貨3枚です! なにせ、金貨3枚用の商品なので!」


「金貨3枚だもんね!」


 勢いに押されている感はするけれど、もしかして、この店は値段ごとに商品を取り揃えているのだろうか?もしそうならツクモはキャロルにとても良い店を紹介してもらったのかもしれない。


「じゃあそれを買わせてもらうよ。……キャロは何か良さそうって思ったやつはあった?」


「んーとね、最初はこの赤いリボンがいいと思ったけど、ネックレスの方がいいと思ったから大丈夫!」


「そうか……。店員さん、そのリボンも買うよ」


「毎度ありがとうございます! 私からの応援として二つ合わせて金貨3枚で大丈夫ですよ!」


 店員さんにはツクモが考えていることがわかったようで、ニッコリと微笑まれてしまった。


「そうか。ありがとう」


 でも、その会話を聞いていたキャロルが焦りながら言う。


「え? 買わなくてもいいんだよ! せっかくペアリングで選んだのに台無しになっちゃう!」


「違うよ。このリボンはこうするんだよ」


 ツクモは、キャロルの猫耳に似合うように赤いリボンを着けてあげる。少しくすぐったそうにした後に目をぱちくりとした。


「……キャロに?」


「うん、キャロの藍色とリボンの赤はすごく合うって思ってたんだよね。手伝ってくれたお駄賃だよ」


「も、もうキャロは銀貨をもらってて、ご飯も、だから、その……」


 例のごとくキャロルはあたふたしてしまったが、ツクモはそんなことは気にしないと言わんばかりにキャロルに聞く。


「誰かに何かをして貰ったら何で言えば良いと思う?」


「えっと……あ、ありがとう……」


「その通り。良いものが選べたのも全部キャロのおかげだから、そのリボンはもうキャロのもの。貰ってもいいんだよ」


 キャロルは照れたような仕草のままツクモの背中によじ登って、そのまま顔を隠してしまった。


「はは、じゃあ店員さん、そろそろ俺たちは戻るね。良いものを選んでくれてありがとう!」


 ツクモは礼を言って店を出る。


「いえいえ、応援していますよ! あと、私は店員ではなく店主です!」


 それは失礼なことをしてしまったと思いながら空を見上げる。まだ空は明るい。

 でも、そろそろシキの元へ向かえば丁度いい時間なのかもしれない。


「俺はそろそろ待ち合わせに向かうけど、キャロはどうする? もし良ければ俺たちの泊まってる宿に泊まりに来る?」


「ほんと!? あ……でも……うん。えっとね、すごく嬉しいんだけどね、今日はやめとく!」


 一瞬目を輝かせたキャロルだったが、すぐに辞めておくと言い出した。


「どうしたんだ? あ、お金なら気にしなくて大丈夫だよ。かなり余裕があるからね」


「あのね、ダメなの。せっかくの金貨3枚がキャロがいたら台無しになっちゃう」


「そんなことないよ? 逆に、一緒に選んでくれた人って紹介すると相当喜ぶと思うんだけどなぁ……」


「でも、でも……。やっぱりダメなの! 今日だけは一緒じゃダメだよ……」


 多分キャロルは、ツクモがシキにネックレスを渡したときにもしも受け取ってくれなかったらどうしようと考えているのだろう。


 そしてそれが原因でもしも突き放されてしまったとしたら……ツクモがそんな事をしないと理性は分かっていても、一人になってしまったという経験が恐怖心として本能を働かせてしまった。


 理性と本能が葛藤して、最終的に出した結論が明日からというものだったのだろうとツクモは推測する。……もっとも、無駄使いだとシキに怒られる可能性はあっても関係が険悪になることなどあるはずがないのだが。


「分かった。なら明日連れと一緒に迎えに行くから家で待っていてね? お兄ちゃんが泊まってるのは森の隠れ家っていう名前の宿だから」


「わかった、待ってる! でも、あんまり遅かったら迎えに行くからね!」


「はは、迎えに行くつもりが迎えに来られちゃったら大変だなぁ……」

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