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Writer × Reader  作者: NaHCO3
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5.ツクモとキャロル

 そして次の日……は、街に来たばかりと言うツクモの要望で宿でナナと遊びながら怠惰に過ごし、ツクモの調子もある程度整ったその次の日は……ナナに遊ぼうとせがまれて結局遊んで過ごしてしまった。


 そしてやってきた三日目、ナナに先に、今日は出かけると宣言してから二刻ほど遊び、ナナが満足したところで街へ出かけることにした。


 金に余裕ができたとはいえ、そろそろ冒険者活動をしなければまずい。しかしその為の武器が無いことに気がついてしまった。


「では、金貨5枚分のお金を渡しますけど、くれぐれも、くれぐれも無駄使いしないでくださいね!? いいですか? 私は情報を集めながら食料などを買います。ツクモ様は武器と、防具……はいらないでしょうからちゃんとした武器を買ってくださいね?」


「大丈夫だって! 無駄使いはしないからさ! 少しは俺のことを信用してくれないかな!?」


「……案内料」


「うっ……」


「……ラスク」


「うぐっ……」


 ツクモには何一つ反論できる要素がなかった。約束をした直後に散財したようなやつを信用できるはずがなかった。


「とにかく本当に慎重になってくださいね!?」


「もちろん! ……ちなみに、余ったお金はどうすれば……?」


「……使っていいです。ただし! 買ったものの質をわざと落としたら許しませんからね!」


「そ、そんなこと考えてなかったし?」


「はぁ……。……信じますからね?」


 シキはツクモと分かれて買い物に向かった。


「そこまで言われたら破るわけにはいかないよな……」


☆★☆


ある程度街を見て回ったツクモは武器屋ではなく、鍛冶屋に行くことで直接剣を作ってもらうことにした。


 オーダーメイドになるとかなり高くなってしまうが、武器屋を覗いたところ、品質的にただの鉄の剣なら作ってもらったほうが長持ちするし、長期的に見るとこちらの方が得だと判断した。


 さすがに合金で作られたものは値段相応の価値があったが、鉄の剣は刃の厚さもバラバラでいかにも量産といった様子のものしか存在しなかった。


 だから商店街のようなところから職人街のようなところに移動して、最初に目に入ったかなりぼろぼろな鍛冶屋らしき建物に入ってみることにした。


「すみませーん! ここって武器を作ってもらえますかー?」


 ツクモが鍛冶屋らしき建物に入って大声を出すと、奥からドワーフらしき職人の男が出てきた。


「……どんな武器だ?」


「金貨3枚以内で鉄の片手剣って買えるかな?」


「……その程度なら武器屋に売ってるやつでいいだろ」


 そのドワーフはぶっきら棒に答えて作業に戻ってしまった。多分これは拒否されたのだろう。


 確かに今言った条件を満たすものなら武器屋にいくらでも売っている。しかし、武器屋に売っているものは鋳造で作られたものだ。


 ツクモの求めているものは、鉄の剣では通用しなくなるような強さの魔物と戦うことができるランクに上がるくらいまで長持ちしてくれるような頑丈な剣だから、店に売っているものではダメなのだ。


 ツクモの外見は成人したての少年にしか見えないし、一応登録したての新人冒険者でもある。だから、周りから見たら高い武器で背伸びをしたい子供にしか見えないのだろう。


 だからこそ、ツクモは自分は違うんだと示すかのように条件を追加する。


「刃は、獲物を叩き斬るようなものじゃなくてなるべく切れ味を上げたもので……できるなら片刃で刀身は少し反る形のものを作ってもらいたいんだけどダメかな?」


「店に売っているようなやつじゃ嫌だってか?」


「だって店に売っているやつはどれも鋳造された量産品じゃん。あれじゃオーガすら殺せそうにないし、ぎりぎりオークを殺せるかどうかってところだよ」


 ドワーフの質問に答えると、途端に眼の色を変えて見極めるように次の質問をかけられた。


「……なぜ鋳造と判断した?」


「いやだって、厚さは均等じゃないし刃に全く切れ味はないし、一緒に置いてあった剣の形がほとんど一致してたからさ。あ、あと刀身と持ち手が一緒になってた」


「ふふふ、ふはははは!」


 急に昔見た劇に出てきた悪役のような笑い方をし始めてしまいツクモは困惑してしまった。しかし、それもすぐ収まり、鍛治師が言う。


「いやすまんな。こうして注文しに来るやつでまともな人間は久しぶりだったからな。久しぶりに来たと思ったら、それがこんな若いやつだったからつい笑っちまった」


「そうなんだよなぁ……。俺ってば今の見た目はどう見ても成人直後だからね。……というか、話し方とか変わりすぎじゃない?」


「まぁそこは気にすんな。それより、聞くからにお前が求める武器は、扱うのに相当な技術が必要だと思うが、お前が持ってるのは知識だけじゃないんだよな?」


「うーん……使い方は一応マスターしてるつもりなんだけど……」


 すると、ドワーフは立ち上がってツクモに言う。


「裏に試し切りできる場所があるから着いてこい。なに、お前のその態度から実力がないことは疑っちゃいねぇ。ただ、見せてもらうことで剣のイメージをつかみたいと思ってな」


「え? ということは作ってくれるってこと?」


「まぁな。とりあえず見せてみろ。俺くらいになれば見るだけで大体の癖を掴むことができるからよ」


 ツクモはドワーフの後を追って鍛冶場の裏に向かう。そこには様々な材質の的と剣が置いてあった。ツクモは鞘付きの剣を一本選び取る。


「ほう……ただの鉄の剣を選んだか」


「俺が見せるべきなのは技術だからね。確かに切れ味の高い剣を作ってもらいたいけど、だからといって切れ味の高い剣を使ったら技術かどうかも分からないじゃん?」


「ふっ、その通りだな。それと、わざわざ鞘がついているものを選んだということは理由があるんだろ? ならば何かを見せてみろ」


「じゃあ、残念ながら実戦では中々使う機会がないけど、技であり技術であるこれを披露しようかな。範囲内に入った敵を鞘を使って加速させた剣で敵を一閃する剣」


 ツクモは木でできた人型の的の前で剣を構えて呼吸を整える。裏庭にキンッという音が響き……しかし何も起こらない。


「……まだやらないのか?」


「いや、もう終わっているよ」


「……なに?」


 ツクモは再び剣を抜いてその先で的を突く。すると、まるで的が今切れたことに気がついたかのようにずれ落ちた。


「……なっ!? これは……なんて滑らかな断面なんだ……。ほう……抜く前から剣技は始まっていたわけか。なるほど、だから剣を反った形にして欲しいと言っていたのか……」


「その通り。どうかな? 俺の望む武器は作ることができそうかな?」


「ふっ、誰に物言ってやがる。俺ぁドワーフの中でも随一の腕前を持つガンツだぞ? 俺に作れなければ誰も作れやしねぇぞ」


「いや、知らないんだけど……」


 静寂が広がった。ガンツはキメ顔のまま止まってしまった。


「……俺がこの街に居ることを嗅ぎつけてやって来たわけじゃ無いのか?」


「いや、まったくの偶然だな……」


 どうやら、このドワーフはかなり有名な鍛冶師らしい。誇張していなければ鍛冶が得意なドワーフの中でも随一の腕を持っているのだろう。


「それで、値段はどれくらいになるのか教えてくれる? 一応、最初に言った通り金貨3枚以内だと助かるんだけど……」


「いや、俺も初めて作るからうまく形になるか分からん。そんなものに値段など付けられんよ」


「……まじで?」


「本当だが……それともあれか? 時々いる金を払わないと気が済まないとかいうやつか?」


「いやいや! 割引万歳無料最高! 拾った金は即しまう!」


「お、おう……よくわからないが、とりあえず払いたくないってことだな?」


「払わなくていいって言うなら払わない! 払わないぞ! ……ちなみに、もし買ったとしたらどれくらいの値段になるの?」


「うーむ……。俺が打ったというだけで値段がかなり上がるから……ただの鉄の剣なら丁度金貨くらいじゃないか? それを聞いてどうするんだ?」


「いや、ただ気になっただけだ。……にしても、シキが居ないのにすごい運だな……」


 金貨3枚の価値がある剣を無料で手に入れたということは実質金貨を3枚稼いだということなのでは?自分で稼いだ金なら自由に使ってもいいのでは……? ツクモはそう考えた。


 もちろんそんなわけはないし稼いだわけでもないが、ツクモは自分で展開した超理論で懐に入れることにした。


「ふふふ、これでシキにプレゼントでも買ってやろう……。最後にプレゼントしたのは……なんだったか忘れたけど、シキが買うものは俺のものばっかで自分のものを買わないからなぁ……」


「ほら、久々にやる気が出てるんだから帰った帰った! 3日後には完成させるからそれくらいに取りに来な!」


「うおっと。分かったよ、えっと….ありがとうおやっさん!」


「うるせぇ小僧! ガンツと呼びな!」


 ツクモはそのまま鍛冶場を追い出され、閂をかける音が聞こえた。


 そして、鉄を叩くような音が聞こえてきた。まだ剣を作るには早すぎるから型でも作り始めたのだろう。


「にしても、ムサシも喜びそうなレベルの剣がゴロゴロ落ちてたなぁ……」


 あれほどの鍛治師ならば、ツクモの求める剣をいや、刀を作ることもできるかもしれない。


 外に出たは良いものの、まだ空は明るくシキとの約束の時間にはまだ早い。ツクモはそのままの足でとりあえず昼食を食べてからシキへのプレゼントを探しに行くことにした。


 とりあえず良さそうなものが売ってる場所が分からないから誰かに聞こうと思っていたら、視線の先に途方に暮れたような表情をした藍色の毛並みの獣人の幼女を見つけ、目を見開いた。

 どうやら花を売っているようで、ツクモはその幼女の元へと自然な流れで向かう。


「お嬢ちゃんその花は一本いくら?」


「……買ってくれるの?」


 急にツクモに話しかけられた十歳くらいの少女は、少しビクッとした後にこちらを振り向いた。ただの冷やかしじゃないのかと疑うような目でツクモの方を見る。


 だからツクモはなるべく優しい声になるようにと心がけながら言う。


「実はお兄ちゃんねー、いつもお世話になってる女の子に何かプレゼントしようと思って良いものを探してるんだよね」


「そうなの? これ、一本で銅貨1枚だったの……。でも、朝取ってきた花だからしぼんじゃったから……」


 幼女は悲しそうに花を見た後にしゅんとしてしまった。元々は満開だったであろう手提げに入っている花はどれも少しずつ枯れ始めてしまっていた。


「そっか、じゃあ全部で銀貨1枚でどうかな?」


「……いいの? もとの値段でもそんなにしないのに……それに、しぼんでるよ……?」


 きっと素直で良い子なのだろう。そんな値段で売っていいのかと罪悪感を感じたような表情をしている。


 確かに花は枯れかけているし、百本もない。しかし途方に暮れたような表情を見た後では放っておくことなどできなかった。


 だから、なるべくこの幼女が大丈夫と思えるような条件を出すことにした。


「じゃあこうしよう! さっき言ったとおりお兄ちゃんはプレゼントを探してる。だけど、お兄ちゃんは女の子が貰って喜ぶのようなものがどこに売ってるのかすら分からない! だから銀貨一枚で案内も引き受けてくれないかな?」


「……そんなことで良いの? それでも高すぎると思うよ?」


「お兄ちゃんは暗くなるまでお嬢ちゃんを連れ回すんだぞ? もしかしたらそのまま連れ去られるかもしれない危険な仕事かもしれないんだぞ?」


 ツクモが怖いんだぞー? なんてしぐさをしながらそういうと、幼女は一瞬キョトンとした後に笑い出した。


「あはは! お兄ちゃん知らないの? 悪い人はそんなこと言わないんだよ?」


 心の中でやっと笑ってくれたと思いながらツクモは少女に再度提案する。


「まぁ実際そんなことしないからね。……で、どうかな? 案内人を引き受けてくれないかな?」


 そういうと少しだけ迷った様子を見せた後に頷いた。


「うーん……いいよ! 私でいいならお兄ちゃんがプレゼントを選ぶお手伝いをするよ!」


「よし、交渉成立だね! 行く前に自己紹介だけしよう。俺の名前はツクモ。お嬢ちゃんの名前を教えてもらえるかな?」


「私の名前はキャロルだよ! 猫人族の十歳!」


 自己紹介と共にキャロルの可愛い猫耳がピクピク動いている。尻尾は今は隠れて見えない。その小さい手と握手をしてこれで成立だねと言った。


「キャロルちゃんは十歳か! お兄ちゃんは二千から先は数えてないから何歳か分からないや」


「あはは。お兄ちゃんエルフさんじゃないんだからそんなわけないじゃん!」


「あはは。そうかもね。というわけで早速行こうか! ……と言ってもお兄ちゃんはこの街に来たばかりでどこに何があるか分からないから、さっそく案内人の出番だよ!」


「はーい! いろんなものが売ってるのはこっちだよ!」


 キャロルが先導をして歩き出したが、それをツクモが止める。買い物の前にしたいことがあったのだ。


「あ! その前にお昼ご飯を食べたかったんだけど、どこかいいお店って知ってる?」


 そう言われてキャロルはツクモの方を振り向き、躊躇いがちに聞く。


「あ、あの……お兄ちゃんってお金持ちさん?」


「え? うーん……お兄ちゃんは冒険者だからその時で変わるかな? ちなみに今はお金持ちさんだよ」


 ガンツとの約束のおかげで最低でも金貨3枚は得をした状況だし、今のツクモは確かにお金持ちであった。


「えっとね、ご飯の……予算? はどれくらいなの?」


「特に決めてないけど、金貨が必要にならなければ大丈夫かな?」


 ツクモは難しい言葉を知ってるなぁと少し笑いながら答えた。


「金貨なんて使うお店ないよ! でもそっかぁ……じゃあこっち! こっちのほうにちょっと高いけど美味しいお店があるの!」


 再びキャロルの先導でツクモは歩いていく。周りから微笑ましいものを見るような目で見つめられるが、実際張り切って案内してくれているキャロルは可愛い。


 それにこの視線は、この国では獣人に対する差別がないという確かな証拠だからむしろ安心感を覚えていた。


 しばらく歩いていると、キャロルが一つの店の前で足を止めてこちらを振り向いた。


「着いた! このお店だよ!」


「へぇ、ここがキャロルちゃんのオススメのお店か」


「うん! ここのお魚がすっごく美味しいの!」


 猫人族だからなのかただの好物なのか分からないが、とりあえずここの魚料理がおいしいらしい。思い出したようにうっとりとした表情になっている。


 しかし、いざ入ろうと思った時キャロルがピタッと立ち止まった。


「じゃあ、私はここで待ってるね!」


「ん? キャロルちゃんも一緒に行かないの?」


「大丈夫! 私お腹すいてないから!」


 そんなはずはない、それなら花を売ろうとなんてしてなかったはずだ。とは言えなかった。


 だからツクモはごく自然と言う。


「じゃあ、中でキャロルちゃんのオススメの料理教えてくれないかな? せっかくだから大当たりを食べたいと思ってね」


「うーん……。そっかぁ……。分かった! 私が教えてあげるね!」


 少し迷ったようだが、キャロルは頷いた。そのキャロルの手を引いて店へと向かう。


「お! そうこなくっちゃ!」


 二人で店の中へと入っていく。店は綺麗に整えられており、キャロルが言っていたちょっと高いということが理解できるような内装だった。


「いらっしゃい! そこら辺の席に勝手に座んな!」


 店主らしき人の指示に従って適当にキャロルと向かいあって座る。


「この中のどれがおすすめなのかな?」


「うーんとね、この包み焼きが美味しいの!」


「そうなんだ。じゃあこれにしようかな。すみませーん! 包み焼き二つお願いしまーす!」


 ツクモは迷わずキャロルにオススメされた包み焼きを()()注文する。


「あいよー!」


「お兄ちゃんは二つも食べるなんてお腹ペコペコだったんだね!」


 キャロルのその言葉をツクモは笑ってごまかす。キャロルには、それがお腹がすいていて恥ずかしいと思っていると取られたようでにこにこと笑っていた。


 しかしこうしてキャロルをよく見てみると、服などは綺麗だが顔色もあまりよくなく今にでも倒れてしまいそうだ。

 ここ最近で何か困るような事態に陥ったと考えた方がいいだろう。


「あいお待ちっ! 包み焼き二つ!」


「ありがとう。はい、キャロル。一個食べていいよ」


 ツクモが言うと、キャロルはキョトンとした後にぶんぶんと首を振った。どうやら本当に貰える可能性を一切考えていなかったようだ。


「わ、私はもらえないよ! こんな高いところで食べたらお金もすぐに無くなっちゃうし……」


「でも、ほとんど何も食べてないんじゃないの?」


「えっと……お腹すいてないから大丈夫!」


 そうキャロルが言い切った瞬間、くぅという可愛らしい音が聞こえてきた。キャロルのお腹が鳴った音だろう。

 そのことに気がついたのか、バッと顔を赤くして手を顔の前で振りながら言う。


「こ、これは違うの!」


「あははっ。やっぱりお腹がすいてるんじゃないの?」


「えっと……うんと……」


 お腹がすいているのは事実だけど、食べられないと考えて何も言えなくなって俯いてしまった。ツクモは、本当にいい子なのだと感心しながら言う。


「俺が払うから食べても良いんだよ」


「で、でも……お花も買ってもらったし……」


「だって俺は二つも食べられないから、キャロルちゃんが食べてくれないと無駄になっちゃうよ?」


 無駄になるというと、少しキャロルに反応があった。もう一押しだと考えて、更にツクモは言う。


「もし食べてくれなかったらこの包み焼きは捨てられちゃうんだよなぁ。せっかく注文したのに、一口も食べないなんてお店に申し訳ない気持ちになるなぁ……」


 すると、キャロルが少しだけ顔を上げておずおずといった様子で言う。


「……お兄ちゃんは本当に食べれないの?」


「そうだね。二個も入らないかな」


「……無駄になっちゃうの?」


「キャロルちゃんが食べてくれなかったらね」


「……お金払わなくてもいいの?」


「俺が払うから大丈夫だよ」


 そこまで確認を終えて、キャロルはちゃんと顔を上げた。そして恐る恐るフォークをもって一口切って口に入れる。


「……美味しい……」


「良かった」


 止まらなくなったように次々と口に入れていくキャロルを確認してからツクモも食べ始める。


 確かにキャロルがおすすめするのが分かるほどの美味しさで、高いはずの塩で味付けされたシンプルな味わいだった。


 魚の味が活かされた値段相応いや、それ以上の美味しさの包み焼きだった。その美味しさゆえか、キャロルもツクモもあっという間に食べ終えてしまった。


「ふぅ。美味しかった……」


「お兄ちゃん」


「どうしたの?」


「ありがとう……おいしかった……」


 キャロルは純粋だけど賢い子のようで、食べている途中にツクモがわざと二個注文したということにも気がついたらしい。

 若干目が潤んでいるようにも見えるが、そこは気がついていないふりをしてツクモはにっこりと笑いながら、ただ一言キャロルに言う。


「どういたしまして」


 店の外に出たツクモたちは、今度こそシキに渡すためのプレゼントを買うために商店街へと向かうことにした。

 先ほどはツクモの前を歩いていたキャロルは、今はツクモの隣を歩いている。


「ツクモお兄ちゃんは何しにこの街にきたの?」


「うーん……最初に着いた街がここだったから、まぁ何しに来たとかは特にないんだよね」


「……ツクモお兄ちゃんは本当に冒険者なの?」


「冒険者だよ。でも、実は冒険者に成りたてでね。つい二三日前に登録したばかりなんだよね」


 実はまだ依頼を一つも受けていないのだが、それは言わなくてもいいだろう。いや、ランクは上がっているのだから一応納品依頼を受けたと考えてもいいのかもしれない。


 実際、今日は依頼を受けることができるように武器の調達に来たわけだし、冒険者を名乗っても問題ないだろう。

 まぁ、剣が完成するのはまだ先なわけで、それはつまり冒険者として活動するということも先になってしまうのだが。本来なら適当に売っているものを買う予定だったのだからしょうがないだろう。


 そうして歩いていたら、ハッと気がついたような表情でキャロルが少し距離を取ってからこちらを向いた。そして恐る恐る言う。


「ツクモお兄ちゃんってもしかして貴族様なの……?」


「え? 貴族だと思ったの?」


「うん……。だって、冒険者になりたてなのにお金をいっぱい持ってたり、目的もないのにこの街に来たり……貴族様の遊びみたいなのかなって……」


「あはは。俺は貴族じゃないよ。だからそんなに離れたり怖がらなくてもいいんだよ」


 そういうと、安心したような表情で再び隣に戻ってきた。にこにことしながら時折話しかけてくるが、そのたびに耳がピクピク動いていてとてもかわいい。


「ツクモお兄ちゃんはこの街に来たばっかなんだよね?」


「実は今日着いたばっかなんだ。正直、行きたい場所に着くまでに荷物が串焼きだらけになっちゃうところだったよ」


「なんで串焼き?」


 キャロルがキョトンとしながらツクモに聞く。


「情報を聞くなら屋台のおじさんとかに聞くのが一番だからだよ。だけど、情報はすごく貴重だからただで聞くのはあまり良くないんだ。だから、串焼きを一本買うから教えてって言うといいんだよ。ほら、キャロルちゃんのお花を買う代わりに今こうやって手伝ってもらってるみたいにさ」


「そうなんだ! ……ツクモお兄ちゃんは私に手伝ってもらえてラッキーだった?」


「そうだね。こんな可愛い子に案内してもらえるなんてすごくラッキーだよ」


 キャロルはツクモに可愛いと言われて照れたのか、キャー!と言いながら走り出す。その後を追ってツクモも小走りになる。


「おいおい、そんなに走ったら危ないぞー?」


「あはははは……きゃっ! ……いてて……」


「ほら言わんこっちゃない……」


 キャロルは曲がり角を曲がったところで誰かに当たってしまい、尻餅をついてしまった。


「大丈夫? ……って、なんだこの人だかりは?」


 ツクモが曲がったところで見たものは、道を塞ぐように集まる大量の人々だった。

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