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Writer × Reader  作者: NaHCO3
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4.ツクモとナナ

「あー、そういえばご飯まだ食べてないんだよなあ」


「お兄ちゃん何してるの?」


「というか、換金って何円くらいになるんだろう……。まぁ、シキが行ったんだから問題はないと思うけど……」


「お兄ちゃんお腹空いてるの?」


「ん? もしかして俺に話しかけてた?」


「うん! 全く反応がないから心配しちゃった!」


 ツクモが噴水の前に腰掛けていたらまだ二桁も行っていないような幼女が話しかけてきた。


 見たところ、周りに親の姿はないし幼女は一人のようだが……。


「心配かけてごめんね? ぼーっとしてたから聞こえなかったんだ」


「そっか! 良かった! ……お兄ちゃんお腹空いてるの?」


 どうやらさっきの独り言を聞かれていたらしい。隠すことでもないが、どうせすぐに解決する問題だし、


「少しだけ空いてるけど大丈夫だよ。今お兄ちゃんの友達が素材をお金に変えて持ってきてくれるからね」


「素材ー?」


「そう! 素材。お兄ちゃんは冒険者だからね!」


「わぁ、冒険者!? すごいすごい! 冒険が終わった後だからお金がなかったの?」


「うぐっ……ま、まぁそんなところかな?」


 ナナが首をコトンと傾けながらツクモに聞く。


 嘘はついていない。しかし、シキが換金しに行った素材は冒険者になる前に取ったものだし、ランクもまだ取りたて仮免Fランクだ。


 しかしまぁ、森を抜けてきたのだから冒険を終わった後と言っていいだろう。うん、あれは冒険だった。一応魔物にも遭遇したから冒険だ。


「お兄ちゃんお腹空いてるなら……んっと、あった! これあげる! ナナの大好きなお菓子なの!」


 ナナから渡されたものは今まで見たことがないお菓子だ。すごい美味しそうだが、幼女からお菓子をもらうというのは気が引ける。


「んん? これはなんていう名前のお菓子なのかな?」


「これはね! ラスクって言うの! ナナのお店のお菓子だよ?」


「へえー、お店してるんだ。何のお店をしてるの?」


「んーとね、お宿!」


「宿か! 実はお兄ちゃんたちまだ今日の宿が決まってないんだけど、ナナちゃんの宿の部屋って空いてるかな?」


 うまく話をそらすことに成功したし、それどころか今日泊まる宿まで見つかりそうだ。


 しかし、宿の話を振った途端ナナは暗い顔をして俯いてしまった。


「ナナのお宿、悪い噂があるみたいで人がきてくれないの。……お兄ちゃん泊まりにきてくれるの?」


「んー? ただの噂だろ? それくらいなら気にしないよ。それより、もう一人居るんだけど……お、来た来た。シキ! こっちだ!」


「あ! ツクモ様! そんなところにいたんですか! って……何で幼女に絡んでるんですか? いつの間にそういう趣味ができたのですか?」


 シキが換金から戻ってきたと思ったら、その直後にツクモがナナに絡んでいるような勘違いをされてしまった。

 だが、ツクモは話しかけられた側だし、今日泊まることができる宿屋を見つけることができたかもしれないのだ。


「完全なる冤罪だからね? それに俺はシキがいるからね」


「ななななな、何をおっしゃるのですか?!」


「えっと、お姉ちゃんがお兄ちゃんとお宿にきてくれるの?」


 シキはあわわわっとしていたが、ナナの言葉を聞いて正気を取り戻した。


 いや、今も若干赤くなったままな気がするが指摘したら怒るから指摘しないでおこう。


「はっ! ……こほんっ。って、お宿ですか?」


「そうそう。この子、宿屋の娘さんみたいなんだけど、せっかくだしここに泊まろうかなって。あ、そうだ。換金したお金ってどれくらいになった?」


 そう質問すると、シキは説明を始めた。


「なるほど、そういうことでしたか。お金は、本来の買取価格なら銀貨15枚程度だったのですが、まず、持っていった素材の中にタイミング良く、薬師からランク問わずで張り出されていた解毒草があったので、その依頼を達成したことにしたためランクがEに上がりました。そして、ツクモ様が投石用に持ってきた石を誤って出してしまったところ、領主様がギルドに緊急の依頼として出される予定だった依頼の品である解呪石だったことが判明したため、そちらを達成ということになりました。ですが、Aランクへ依頼する予定だったらしく、そのままではランクの都合上受注ができないため、報酬はそのままでEランク依頼として発注してもらい達成したため二回分の貢献度となり、全部で金貨102枚と銀貨32枚でした。そのうちの92枚をギルドに預けてきたので手持ちは金貨10枚と銀貨32枚です」


「……なんて?」


「ええと……本来の買取価格なら銀貨5枚程度……」


「待て待て待て待て! ストップ! 一旦止まって!」


 シキが一気にズラリと説明してくれたが、半分以上理解することができなかった。辛うじて聞き取れたものはツクモが拾った石にすごい価値があったということと、悪いことにはなってないということが分かった程度だ。


「シキ、簡潔に短く要点をまとめて言ってもらえると助かるなぁ……」


「そうですね……。Eランクに昇格、偶然特殊な依頼達成、お金ガッポガポ」


「……ガッポガポか」


「……ガッポガポです」


「ガッポガポなの?」


 お金ガッポガポ、それだけ分かってしまえばもう満足だった。


「シキよ、金貨1枚は銀貨何枚分なのかね?」


「100枚です。昔と変わりありません」


「ちなみになんだけど、ナナちゃんの宿って一泊いくら?」


「んーとね、ご飯なしで銀貨3枚!」


「ふむふむ、なるほどなるほど。つまり既に1000日以上宿に泊まれてしまうわけか!よくやった、でかしたぞシキ!」


「いえ、それほどでもあります」


 あるんかい! と突っ込みそうになったが、確かにこれはシキの功績だと思っていい留まった。それに、金持ちは余裕を持たなければいけないのだ。


「シキ、銀貨を10枚ほど」


「はい、どうぞ」


「ナナちゃんや、我々を宿に案内してくれたまえ、これが案内料だよ」


「はーい……って、案内に銀貨なんて要らないよ! ただでさえナナのお店にきてくれるのに……」


 ナナは突然渡された銀貨に驚いてしまったが、ツクモは偉そうな態度を崩さない。


「ナナちゃんよ、この世界には情報料と紹介料というものがあるんだ。だから遠慮なく受け取るがいい」


 一般的な成人の月収入は銀貨30枚前後と言われており、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚の価値になっている。


 ナナがツクモに渡されたお金は銀貨3枚。情報料だとしてもいささか多すぎる金額だ。


 ツクモは完全に調子に乗っていた。ナナは宿屋の子供なだけあってお金の価値を把握しており、あたふたしていた。それに若干涙目だ。


「えーと、んーと……あ、そうだ! 代わりにお兄ちゃんお姉ちゃんこれ貰って! お兄ちゃんにラスクあげようと思ったのに忘れるところだったの!」


「では遠慮なく頂きましょう」


「俺も食べさせてもらおうじゃないか」


 ツクモとシキはラナナからラスクを貰った。食感なサクサクしていて、全体的に砂糖のようなものがまぶされていてとても美味しい。


「じゃあ宿に案内するね! こっちだよ!」


「あ、ツクモ様。稼ぐまでは追加でお金は渡しませんからね」


「なんで!? 今回の大半のお金って俺が拾った石じゃなかったっけ!?」


「石を拾ったのはツクモ様でも、石を冒険者ギルドで間違えて出したのは私です。ツクモ様は価値がない石を拾っただけで、その石を金貨に変えたのは私です。石から金、錬金術師と呼んでくださっても構いませんよ」


 なるほど、確かにツクモは偶然その石を拾っただけ。その石を価値あるものに変えたのはシキだから金貨は全てシキの手柄に……。


「ならないよ! 百歩譲って全部シキの能力によるものだとしてもせめて一割くらいはくれないかな!?」


「しょうがないですね……」


「なんでそんなに渋々なの!?」


「だってツクモ様にお金を渡すと、いつも調子に乗ってすぐに使い切ってしまうじゃないですか!」


「うぐっ……それは申し訳ないと思ってる……」


 すぐに使い切る自覚はあったツクモはぐうの音も出ない。


「着いたよ! ここがナナのお宿!」


 ナナに案内されて着いた宿屋は、森の隠れ家という名前の、年季がかなり入っているであろう見た目の建物だった。


「シキさんシキさん、宿代は出してもらえるのでしょうか……」


「うーん、どうしましょうかねぇ……」


「ごめんって! もう調子に乗って散財しないようにするからさ! これ以上減ったら何も買えなくなっちゃう!」


「もう……しょうがないですね。今回だけですからね!」


「ありがとう! 愛してるぞシキ!」


「あいっ……!? と、当然です!」


 何も買えなくなっちゃうと言っている時点で既に散財しそうだとは気がつかないシキ。


 なんだかんだ言ってシキはツクモにめちゃくちゃ甘かったし、側から見れば典型的なダメ男との会話としか思えないだろう。


「お姉ちゃんただいまー!」


「ナナ! 遅いから心配したのよ……って、誰!? ……悪いけど、うちは本当に事件と関係ないから帰ってもらえる?」


 宿屋に入った直後、ナナのお姉ちゃんと思われる人物から睨まれてしまった。


「事件とは何のことかわからないけど……俺たちは泊まりにきたんだよ。ナナちゃんそうだよね?」


 シキがそんな話聞いてないんだけどと言わんばかりの顔でこちらを見てくるが、ツクモはナナだけを見る。


 金貨で舞い上がって言うのを忘れていただなんて口が裂けても言えない。言ったら確実に怒られてしまうだろう。


「えっとね、お兄ちゃんに変な噂が立っていてお店に人が来ないって言ったらそんなの気にしないって!」


 ナナのその言葉を聞いてバツの悪そうな顔でこちらを見る。


「そ、そうだったんですか?」


「まぁ、そんな感じかな?」


 どうやらそれが本当のことだと気がついたようで、ナナのお姉ちゃんはバッと頭を下げて謝った。


「ごめんなさい! 私、来てくれたお客様を勘違いしてしまって……でも、悪い噂が立っているのは本当なのですが本当にいいんですか? あ、もちろん言われていることは事実無根なのですが!」


「まぁ悪い噂って言われても、俺たちは他人から聞いたことより自分の目で見て判断するからね。……といっても、見たところ大丈夫そうだしこの街にいる間はここに泊まろうと思うんだけど、シキ的にはどうかな?」


「そうですね……。ツクモ様が決めたのならここに泊まることは構いませんが、噂というものを教えてもらってもいいですか?」


 シキはツクモが決めたことだからと泊まることには賛成したが、噂というものは把握しておきたいようだ。

 すると、ナナのお姉ちゃんは噂の内容を話しはじめた。


「最近、この街で行方不明者が多発しているのは知ってますか?」


「えっと、男女年齢関係なく多くの人がいなくなっているんだっけ?」


「そこまで知っているなら話は早いんですけど、居なくなった人の多くが最後に森へ行ったらしくて、うちが森の隠れ家っていう名前の宿だから関わりがあるっていう根も葉もない噂が流れているんです。うちが厳しいからってそんなことするわけないんですけどね……」


 ナナのお姉ちゃんはため息をつきながらそういう。確かに、名前に森と入っているだけなら根も葉もない噂にしかならないだろう。


「えっと……厳しいとはどういうことか聞いてもいいですか?」


「そうですね……知られていることなんですけど、半年前くらいに両親が死んでしまって、私が務めていた菓子屋を辞めて宿を継いだんです。ここの宿の売りが料理だったんですけど、私はお菓子は作れても料理を作ることができなくて、料理目的のお客さんが離れて行ってしまったんです」


「それは……大変ですね。でも、ラスクでしたっけ? あれはとても美味しかったです」


「ありがとうございます。だから生活は少し大変になりましたが、それでも生活できないほどではなかったんです。でも、噂のせいで見ての通り誰も来なくなってしまってお菓子も売ってぎりぎりという感じになってしまい……」


 だから宿屋なのにラスクというお菓子が売っているというチグハグな状況になってしまったのだろう。それに、ナナのお姉さんがお菓子作りの道に進んでいたわけだし、もしかしたら宿はナナちゃんが継ぐ予定だったのかもしれない。


「まぁ完全に言いがかりでしかないようですし安心しました。事件が解決するまでの辛抱ですね……。ではとりあえず一週間お願いしてもいいですか?」


「はい。一週間で一人部屋の場合二人で銀貨四十枚です。二人部屋なら三十枚になります。あと、さっき言った通りご飯を出すことはできないのですが、一泊あたり銅貨五十枚でお菓子をつけているんですけどどうしますか?」


「宿には基本的に夜にしか戻らない予定なのでお菓子は大丈夫です。二人部屋でお願いします」


「分かりました。部屋は二階の奥になります。何か困ったことがあったらいつでも言ってください。私はナナの姉のシエラって言います」


 男女で二人部屋と言うと恋人同士と思われがちだが、二人は成人したてにしか見えないため、シエラは二人のことをなりたての冒険者だと考えた。


 恋人同士かな? と一瞬考えはしたが、ツクモ様と呼ばれていたことからそれは無いと判断した。


「あ、そうだ。シエラさん」


「どうしました?」


「ラスクを銀貨3枚分お願い! すごく美味しかった!」


「えっ本当ですか! ありがとうございます! あれは私が作ったお菓子の中でも一番の自信作なんです! でき次第持っていきますね!」


 ナナに貰ったラスクを気に入っていたツクモは必ず買おうと決めていた。

 しかし、買うことができてウキウキな気分のツクモにシキが言う。


「……ツクモ様? さっき散財はしないようにするって言いったばかりですよね?」


「これはノーカン! しない宣言した時には買うことを決めてたから!」


「でもこれでツクモ様に渡したお金が一刻も経たずに六割消えたわけですが、どう言い訳するんですか?」


「で、でも美味しかっただろ!? シキもまた食べたいって思っただろ!?」


「そ、それは思いましたけど……それとこれとは話が別です!」


 ラスクは確かにツクモもシキも食べたことがないくらい美味しいものだった。


 だけど、だからといって大量に買っていいというものでもない。


 今回は臨時収入が入ったが、基本的にEランクの依頼では無駄使いできるほどのお金は手に入らない。


 そういったことを考えてシキは無駄使いをしないようにと言ったのだが、ツクモは見当違いなことを言う。


「分かった! ちゃんと分けるしあーんもしてあげるから!」


「なななな、何をおっしゃいますか!? そそ、そんなことで誤魔化されると思わないでください!」


「昔はよく喜んでたのに……」


 そう言いながらもシキの顔は真っ赤だ。意外と見当違いではなかったのかもしれない。


「え、買うことは確定してるんだけど分けなくていいのか?」


「いります!」


「あーんしなくていいのか?」


「いらな……うっ……してください!」


 その様子を見ていた二人は呟く。

 

「もしかして恋人同士で当たってた……?」


「二人とも仲良しだね!」


 結局、ラスクはツクモの自費で購入することになったが、銀貨3枚分だとかなりの量になるため明日の朝受け取ることにした。


 宿は森の隠れ家に決めて借りたが、昼過ぎに冒険者登録をしてそのままここに来たため、まだ日も沈んでないくらいの時間だ。


 加えてこの宿では残念ながら食事を取ることができない。だから二人は、買い物をしてから夕食をどこかで食べることにした。


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