3.冒険者ギルド
「へぇ、ここが冒険者ギルドか。ここで登録をすれば良いの? ……めんどくせぇ」
「もう、しっかりしてくださいよツクモ様! 手っ取り早く身分とお金が手に入る場所を教えてくれって言ったのはツクモ様の方じゃないですか!」
「ごめんってば、怒らないでよシキ」
昼を過ぎて少し経ったくらいの時間に、アイフェンドルフ王国の辺境にある都市マルクの冒険者ギルドの前で十五、六歳くらいの見た目の成人したてといった風貌の白髪の少年と、同じくらいの年齢に見える黒髪でおかっぱのような髪型の少女の二人組が言い争っていた。
ツクモとシキである。
「全く、衛兵さんからお金を借りているのですから早く登録しないと申し訳ないですよ!」
「うーん……でもまさか手持ちの金が使えないとは思っていなかったんだよ。しょうがないじゃん?」
本当に不測の事態だったのだといった表情のツクモを見て、何を言っているんだと言わんばかりの表情でシキが言う。
「あれが一体いつのお金だと思っているのですか。あんなものそこら辺の骨董品屋さんで買い取ってもらえるかってところですよ!」
「そんなに昔のものか? でも、この国の名も聞いたことないしそんなもんなのかなぁ……」
「とりあえず私たちは一文無しなんです。こんなところで立ち往生していたら邪魔になってしまいます! 早く中に入りますよ!」
「……うへぇ……俺も行くのか……」
「何か言いましたか!?」
二人は冒険者ギルドの中に入っていく。
森を出て門に近づいて行ったら、街へ入るためには、身分証がない場合は保証としてのお金が必要だと言われたのだ。
もちろんそういう税があることも知っていたし、お金も用意していた。だが、自信満々にツクモが持っていたお金を言われた量渡したら、何だこれ? と言われて使うことができなかったのだ。
もしその相手が厳しい衛兵だったら入れて貰えないのだが、運のいいことに優しい衛兵がお金を立て替えてくれたおかげで入ることができた。
代わりに、身分証さえ発行すればこのお金は返ってくるからあとでもう一度来てくれと言われている。
中に入ると、二十歳くらいの人族の女性が受付に居た。二人はそこへ進む。
「ようこそ冒険者ギルドへ。依頼ですか? 登録ですか?」
「えっと……なんだっけ?」
「はぁ……登録でお願いします」
ツクモのフォローをシキがため息をつきながらしている。
普通なら冒険者になりたいという男の子に女の子が引かれてやってくることが多いのに、なんというか異常な光景だ。
「は、はい。かしこまりました。二人共登録で良いのですよね……?」
「はい、それでお願いします」
「では、こちらの台紙に必要事項をお書きください。代筆は必要ですか?」
「大丈夫です。二人とも文字は書けます」
「えー、書いてくれるなら書いて貰えばいいのに」
「そうやってめんどくさがらないでください!」
この会話を聞いていた受付嬢は愛想笑いを続けられずに苦笑いだ。それどころか、心なしか頰が引きつっている気がする。
書けない人のための代筆であって書くのが面倒な人のためじゃねぇ! と言ってやりたくなったが我慢だ。受付嬢は常に笑顔でいなければいけない。
それに、この程度がなんだと言うのだ。今までも無理やり飲みに誘ってきたり、報酬にケチをつけたりしてくるやつらを相手にしてきたのだ!
ただのめんどくさがりなど私の敵ではないと!
「名前はツクモで、主要武器? なぁシキ、俺が使う武器ってなんだっけ?」
「ツクモ様が主に使う武器は剣ですよ。全く……そんなことも忘れてしまったのですか?」
「ずっと寝てたんだし、大体なんでも使えるようにしてきたからどの武器をいつも使ってたか忘れちゃった。それよりもシキがいつもより冷たくて辛い」
「どうせこういうものはただの参考程度に書くだけですからなんならフライパンとでも書いておけばいいんじゃないですか?……それにその態度、まだ寝ぼけてるじゃないですか。シャキッとしてくださいシャキッと!」
受付嬢は耐えていた。突っ込んだら負けだと耐え切った。
本当なら、なんで自分が使う武器が分からないんだよ! とか、同い年くらいの女の子にツクモ様って呼ばれるとかどんな身分やねん! とか、ずっと寝てたってなんや! とか言いたかった。
だがしかし、受付嬢は常に笑顔が鉄則だ。どんな人が相手でも、常に笑顔でいれば大体解決することができるのだ。
だが、自分にはもしかしたらツッコミの才能があるのかもしれない。こんなクソみたいな仕事はやめて、最近流行りの体を張るタイプでなく、話で盛り上げる大道芸人でも目指そうかしら? いやでも、受付嬢の給料は魅力的だし……っていやいやいや!
「……さん? あの、聞いてますかー?」
「はっ! 何でしょうか! 何か不明点がございましたか!?」
「あ、気がついた。えーと、出身地は森の中にある村? みたいなところだったんだけど、村の名前が分からないんだよね……いでっ!」
「まったく……起きるまで喋らないでください。私たちが住んでいたのは、かなり寂れた、森の中心あたりの村なのですが、名称が分からない場合どうすればいいですか?」
「なるほど、自分の住んでいる村の名前って知っているようで知らない方が多いので、分からないという事も良くあることです。少し待っていてくださいね」
受付嬢は地図を広げる。本来なら見せて確認させた方が早いのだが、地図は機密情報として扱われているから迂闊に見せるわけにはいかないのだ。
他国に流出でもしてしまえば、一瞬で戦争になって負けてしまう。もしも流出でもしてしまったら一発で首が飛ぶ案件だ。比喩ではなく物理的に。
「森の真ん中らへんの村は……魔の森には村がないというかあるはずがないから……あった! えっと、中心部の村の名前はダイス村ですね。一個だけポツンと離れたところに存在しているから間違い無いと思います。聞いたことありませんか?」
「おー。ダイス村か。あんな場所にも名前が付いていたんだね。シキは聞いたことあったか? ダイス村」
「そうですね……。一度だけ行商人が来たときにダイス村と言っていた記憶がある気がします。ツクモ様、あそこはダイス村です」
シキが村の名前をダイス村という事にしてしまったがツクモは特に気にしない。実は、出身地は記入の必須項目となっているが、その理由はスパイかどうかを判断するために存在した昔の制度が残っているだけで、既に国から独立した組織になった今では意味をなしていないのだ。
だから適当に書いている人も意外と多いし、受付嬢も気にするようなことではなかった。
「んじゃダイス村っと。よし、できたぞ……いてっ! ねえシキ、何回叩くの?」
「ツクモ様、いいですか? よく聞いてください。冒険者は基本的に荒くれ者の集まりとされているのです。身寄りのないものが多く、どこからかやってくる根無し草。そのくせ魔物を倒せるくらいの力はある。ここまでは良いですか?」
「そうだね。確かに冒険者は、強くて犯罪をしていないだけでどこでも身分が保証される不思議な職業だからね」
受付嬢は心の中で叫ぶ。そうだけど違う! 冒険者ギルドの信用が高いと言ってくれ! と。
「その通りです。でも、もしもここの領主が殺されたとして犯人が見つからなかった時、疑われるのは冒険者です。間違いありません。これは絶対的なことです」
「なるほど、でもそれが何で俺が叩かれることに繋がるの?」
受付嬢は声に出すのを耐える。なるほどじゃないから! 間違ってるから! 冒険者を犯人にするようなことをしたら、その国から冒険者ギルドが撤退して国が滅びるから! と言いたい。
「まず、犯人が見つからないということは、民を守るという貴族としての面目が立たないのです。でも、そこら辺の浮浪者をこいつが犯人だとして持ってきても犯人として信じられるはずもない。そこで使われるのが冒険者です! それも素行の悪いと評判で、ある程度力のある感じの冒険者!」
「確かに。貴族って確かにある程度武器を扱えるようにしているし魔法も使えるから、さすがに浮浪者じゃ殺せないかな。あれ? でも、毒殺だったら大丈夫じゃない?」
受付嬢はギリギリ耐える。殺し方の問題じゃねぇから! というか殺される前提で会話すんなよ! そもそもそんな話をここですんなや! と言いたい、叫びたい。
「甘いですね。毒殺なら毒を使う斥候が疑われます。そして扇動された街の意識は疑われた冒険者を犯人へと仕立て上げまでしまいます。あいつはやると思った、あいつはうちの店でこんな事もしていた! あいつが犯人だと!」
「うわぁ……煽動されて犯人に仕立て上げられるのは嫌だなぁ……。良い噂は広がり辛いのに悪い噂が広まるのは一瞬だからね」
「その通りです。……とにかく! 冤罪を避けるには周りの人に敬語で接することで、そんなことをする人には見えないと思わせることが大事なのです。だからせめて受付嬢の前でだけでも敬語で話しましょう!」
「そうか……。確かにシキの言う通りだね。ということで、今までごめんなさい受付嬢さん。これからは素行を良くするので領主殺しの犯人にしないでください」
受付嬢はそれを聞いて耐え……きれなかった。
「受付嬢に愛想良くしようって話を私の前でしてんじゃねぇよ! 本人に聞かれたら意味ねぇだろうが! というか受付嬢受付嬢呼ぶんじゃねえよここに名前書いてんだろうが! カーラって名前がよ! そもそも冒険者は不遇職じゃねぇから! あーもうこの際全部言わせてもらうわよ!」
「ひうっ!」
「は、はい」
受付嬢もといカーラは深呼吸をする。つい叫んでしまったが、今登録しに来たばかりの成人したての子供なのだ。村の大人から聞いたことで色々なイメージを持っていても仕方がない。
むしろ、それを正してあげるのが私の受付嬢としての最初の役目なのだ。そう考えて落ち着いてから話を始める。
ちなみに、この国での成人は十五とされているから、誕生日を迎えてそのままやってきたのだろう。
「まず、冒険者が荒くれ者の集まりとされていることは事実です。そして、素行の悪い人がいることも事実です。今はいないけれど、このギルドにも新人に絡むような人は居ます。ここまで良いですか?」
「はい」
ここまではシキが言ったことと全く同じだ。でも、それ以降は違う! なぜなら、組織というものはメリットがデメリットを上回っていなければ存在することはできないのだから!
「まず、犯人にされることはありません。決定的な証拠が無いのに冒険者へ不当な扱いがあった時点でギルドと国が対立することになります。いくら貴族に私兵があっても、魔法が使える人が多いとしても! 冒険者無しでは魔物を討伐しきれずに国が滅びます!」
「滅びるのですか……!」
「ふむ、だから横暴になるやつがいるわけなのかな。俺が守ってやってるんだぞ! みたいな?」
「いえ、素行の悪い冒険者は基本的に中途半端な力しか持たずに腐っている人たちです。大した努力もせずに伸び悩んだ程度でイラついて、新人に絡むことで自尊心を満たしているんです!」
「ふーん、どんぐりの背比べというやつだね」
「はい。逆に、実力がある冒険者は素行が良いです。ランクが上がると貴族と接する機会も増えていきますし、素行だけでなくマナーもランクと共に上がっていきます」
今日は運がいいことにそういう人たちが居なかったけれど、昼から飲んでは怒鳴り散らすということを繰り返す冒険者もいる。もしそれが今居たとしたら、この二人など成人したてで冒険者になりにきた新人という、まさに連中の格好の的だろう。……じゃなくて。
「まず! 冒険者は敬語は極力使いません。下に見られて舐められたり無駄なトラブルの元になるので敬語は非推奨です! 敬語を使うのは貴族から依頼を受けて直接話すときくらいです!」
「なるほど……その理由なら納得です。でも、私はこの話し方が素なのでそこら辺はツクモ様に任せましょう」
「え? 任されたのか? ……あれ? そういえば冒険者カードは身分証になるんだよね?」
そこが冒険者のいや、冒険者ギルドのすごいところなのだ。
「なりますよ。身分証にすることができる主な理由はギルドは独立組織だからです。だから国から依頼が来ることがあっても国は冒険者に対しての命令権は持ちません。つまり、国に縛られることがない組織なのです。大きな組織だからこそギルドカードを身分証にすることができたり、ランクによって宿の割引きなどの特典があります。……ただし! スタンピードなどが起きた時は強制招集で、それを破ると最低でもギルドカードの剥奪です」
「なるほど、滞在している町を守ることを交換条件に特権が存在しているのか。上手くできてるもんだね」
冒険者ギルドは、冒険者カードを身分証と認めさせる代わりに、スタンピードなどで魔物が迫ってきたときは街を守るために最後まで戦うと約束を交わしている。
「こういう説明は普通登録してから説明するんですけど、二人ともまだ未登録じゃないですか。紙を預かっても良いですか?」
「お願いします」
「どうぞー」
紙を受け取ったカーラは手続きを完了させていく。名前などの必須項目の中でおかしなところがないかを確認する。
ダイス村が出身なのかは疑わしいがまぁそこはどうでも良いだろう。魔法適性は記入なし。
「魔法適性は、あるとそれだけでパーティなどに誘われやすくなるので、ギルドの方で無料でお調べしておりますが、どうなさいますか?」
「うーん……。身体強化は使えるし調べなくても良いかな。シキは?」
「私は把握しているので大丈夫です」
「まぁ、属性魔法なんて貴族か、多大な魔力を持って生まれて良い師に巡り合えた人くらいしか使えませんからね」
貴族には基本的に魔法が使える者が生まれるが、両親のどちらかから一属性を引き継ぐことが多い。
稀に両親から引き継いで二属性、隔世遺伝として祖父母の代以前の属性が発現して三属性、四属性……と数多く使える者も居るが、使える属性の数が増えるほどその人数は反比例的に減っていく。
更に、使える属性が多くても魔力が少なくて魔法を使うことができないという例もあるし、一属性を極めて宮廷魔導師になっている者も居るため属性量だけが全てとは言えない。
そうは言っても魔法は魔力がないと使えないし、あればあるだけ有利なため、魔力が多い、それだけで貴族の妾や養子、養女となることができたりもする。
遺伝魔法などの例外もあるが、今は関係ないから良いだろう。
基本情報を入力して、魔導具を起動させる。最後にこのカードに使用者の魔力を流せば完成だ。
「はい、完成しました。こちらに魔力を流してもらえれば完成です。登録は無料ですが、小さくても冒険者カードは魔道具なため、再発行には金貨一枚かかるので注意してください」
「これが冒険者カードですか……」
「もう依頼って受けてもいいのかな?」
「少々お待ちください。依頼などに関する説明があるのでそれだけ聞いていってください。……といってもさっき半分くらい説明したんですけどね」
「そういえば詳しい説明を聞いていませんでした。 ツクモ様、情報は大事ですししっかり聞きましょう」
「そうだなぁ。よろしくお願いします」
その言葉を聞いてカーラの顔が喜色がに染まる。
「情報の大切さを分かってくれますか! これを言うと大抵の人が嫌な顔するんですよね……。こっちは丁寧に情報をまとめているのに誰も聞きゃしないし……あぁ、愚痴みたいになってしまいました。でも、ちゃんと聞いてくれるならしっかりと説明させていただきますね!」
カーラは一冊の冊子を取り出す。嫌な顔をしたり手短にと言ってくる人たちには、必ず説明しなければならないランク分けとランクアップの条件、受けることができるクエスト程度を話しておしまいだ。
しかし、ちゃんと聞いてくれる人にはカーラお手製の冊子を1グループ一冊プレゼントしている。
この中にはなんと、絵付きで薬草の採取の仕方が書かれていたり、文字だけだが魔物の名前と討伐証明部位が推奨ランク別に書かれている。
品質で買取価格が変化する薬草を採取しなければいけない低ランク時は、これがあるだけで生活の質が変わるだろう。
手短に済まそうとする人にもこれを一冊渡せば済むだろうと思うかもしれないが、これは備品ではなく手作りなのだ。
そんな人には渡したくないというのが当たり前だろう。
他の受付嬢がカーラのように冊子を作っているかは分からないが、受付嬢という職業自体こういった知識がなければなれないのだ。
「まず、この冊子をプレゼントします。この中には薬草の採取方法やモンスターの討伐部位が書かれています。後で目を通しておいてください」
「こんなものがあったのですね……」
「なんだか、これだけでお金が取れそうだね」
「あはは。低ランクの時は参考になると思うけど、ランクが上がってくると当たり前の知識ですから、こうしてちゃんと話を聞いてくれる人にだけ渡しているんですよ。といっても、まだ三組にしか渡していないんですよね」
「数分間長く話を聞くかどうかでこれが……損している人が多過ぎます」
実際そうなのだからカーラは苦笑いだ。そして本当に今日は誰もギルド内にいなくて良かったと改めて思った。
もしいてその人がカーラから受付をしてもらった人だとしたら確実に文句を言いに来ただろうから。
「さて、気を取り直して説明させていただきます。一つ説明終わるごとに区切るからその都度質問してくださいね」
「分かりました」
「はーい」
「まず、ランクについて説明しますね。冒険者にはFランクからSランクまで存在しますが、Fランクは冒険者の仮の免許のようなもので、1つの依頼を達成することでEランクに上がることができます。つまり今のシキさんとツクモさんはFランクですね。
FからDまでは依頼の達成回数でランクを上げることができますが、そこから先は達成回数に加えて試験が必要になります。そして、Sランクに到達するには国から承認してもらう必要があるので実質Aランクが最高ランクですね。
まぁでも、Cランクに到達できる人すら一握りなので詳しい試験内容はその都度変わりますが、盗賊討伐が多いです。理由はCランクからは護衛依頼が増えるからなのですが、たとえ盗賊であっても人を殺したくないという人はDランクで止めている人もいます。
ここまでで不明点はありますか?」
「あの、実は門から入るときに持っていたお金は使えなくて……優しい衛兵さんにお金を借りている状態なんです。身分証を見せに行くかお金を持っていかなければいけないのですが、Fランクの時点でも冒険者カードは身分証になりますか?」
「それでしたら大丈夫ですよ。登録を行った街に限りですが、身分証として有効です。……それより、宿などのお金は大丈夫ですか? よろしければ貸しましょうか? 大丈夫です! こう見えてギルドの受付嬢はかなりの高給取りですし、将来のために貯金もあります! 長年貯めた……あー、そうなんですよね、長年相手が見つからず貯金ばかりが溜まってく一方で……同期はみんな結婚して居なくなりましたし、もうすぐ適齢期が過ぎてしまいますよ。……あ、お金がないんでしたっけ? とりあえず金貨10枚ほど貸しましょうか? なんなら返さなくても大丈夫ですよ」
「はわわわわわ。あの、換金できるような素材は持っているから大丈夫です! それに、きっといい男性は見つかりますよ! ツクモ様……はダメですけど、冒険者は荒くれ者で……はわわわわ」
「落ち着いてシキ。こういう時はそっとしておくのが一番だよ」
二人はしばらく見守ることにした。
カーラは現在二十歳だ。貴族なら婚約者がいるのが当たり前でほとんどが成人と同時に結婚をし、平民でも二十歳前後でほとんどが結婚する。
美人で優秀なのだが、なぜか相手がいないという状態で時々闇モードに落ちる。
受付嬢が結婚するのは優秀な冒険者が多いが、カーラは誘ってくる冒険者を片っ端から振っていたせいなのかもしれない。欲望が見え透いた目で見られると反射的に断ってしまうのだ。
「……はっ! 失礼、取り乱しました。あと説明することは……あ、そうでした! 最近行方不明者が多発しております。まだ噂の段階ですが、誘拐の可能性が高いと言われています。充分に注意してくださいね」
「誘拐……ですか? 魔物の仕業という可能性は無いのですか?」
「それが、どうやら貴族まで居なくなった人がいるらしく、さすがに私兵が一人も逃げられないのは魔物であってもおかしいという話になって街を調査したところ、様々な人が行方不明になっていたのです」
「ふーん、つまり魔物と関わりようがない人まで行方不明になっているし、その人たちが街の外に出た記録がないからありえないって話になっているわけか。ここの街の門番は真面目そうだったからサボっているうちに……ってこともなさそうだったしね」
「そ、その通りです! 男女も年齢も関係なしに居なくなっているし、そこそこ強いはずのCランク冒険者も居なくなった人が居ます。だから、どうか気をつけてください……」
カーラが心配そうに二人に言うが、言われたツクモとシキは心配した様子が一切ない。
「大丈夫ですよ、私たちは居なくなりません。もしかしたら解決するかもしれませんよ?」
「そうだなぁ。ま、解決云々は置いておいて、これでもそこそこ戦えるし無理な時は逃げるから安心してよ。……もしかしたらおねぇさんの知り合いが居なくなったのかもしれないけど、俺たちは居なくならないからさ。だって俺たち運がいいしな」
「そうですね。優しい衛兵さんに助けてもらって、こんなに優しい受付のお姉さんに出会えましたから絶好調ですよ」
カーラは、多分表情に出てしまっていたのだろうと気がついた。ツクモが言う通り、知っている人が何人か行方不明になってしまっているのだ。
もし魔物の仕業ならまだ低ランクの二人に問題はないけれど、誘拐なら低ランクだからこそ危ない。
そんな想いが表情に出てしまっていたからこそ、解決するかもなんていう冗談まで言ってくれたのだろう。
「そうですね。いつもは酒場にいる絡んでくる冒険者も今日はいませんし、本当に運がいいのかもしれませんね」
「では、冒険者活動は明日からすることにして、今日はとりあえず長居できる宿などを探したいと思います。また明日お姉さんが居たらそこに並びますね」
「ふふ、分かりました。お待ちしておりますね」
ツクモとシキはそのままギルドの外へ出る。長話していたとしても、時間はまだ日が傾き始めたかどうかというところだ。
この時間なら宿も探せばすぐに見つかるだろう。
「それにしても、俺たちが住んでいた場所にも名前ってあったんだなぁ。ダイス村だっけ?」
「あぁ、それは違いますよ。というか、家が一軒しかないのに村なんて呼び方がされるわけないじゃないですか」
「え? そうなの?」
「そうですよ。だって森から出て最初に会った衛兵さんも言っていたじゃないですか。ここは魔の森と言われている危険地帯だぞって」
「そういえばそんな事も言ってた気がするなぁ……あ」
「どうしましたか?」
「換金忘れてない?」
「……戻ります。ここら辺で待っていてください……」
「え? 付いていくよって……はや! ……ったく、ここら辺で待つかな」
シキが冒険者ギルドまで素材を換金に行ってしまったので、ツクモは近くにあった噴水のところに腰掛けて待つことにした。