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Writer × Reader  作者: NaHCO3
15/15

15.エピローグ

 その日、マルクの街は騒然と驚愕に包まれた。


 南門から出た先にある森の中で、あり得ない数の死体が発見されたのだ。その死体は突如現れ、人々に恐怖を与えた。


 その森がある道は王都に繋がる大事な経路。定期的に魔物の駆除も行われていたし、なんなら行方不明者の捜索のためについ先日その森の中に騎士団が入ったばかりだった。


 死体が見つかった場所は、騎士団が魔物を間引くために森へ入る時の最奥。つまり、騎士団によって安全が保たれているはずの場所だった。


 当然その場所の確認は行われたし、死体がないことを何人もの兵隊が確認していた。だから本当に突然の出来事だった。


 発見された死体の数はおよそ500人。行方不明者とされていた人々の九割を含み、その死体の中にマルクの街の住人は400人ほど存在した。


 残りの100人は、王都からやってきたのかマルクの街から出ていったのかは分からないが、貴族や商人がそのほとんどを占めていた。


 だが、マルクの街の住人以外で行方不明になった者のほとんどに黒い噂が流れていたり、裏でしていることは確定しているのに証拠を上げられないような者たちだった。


 その後犯行が一切行われなかったことから事件は終息したと判断されたが、結局詳しいことは分からず仕舞で凶器不明、犯人不明、動機不明で、快楽殺人者による犯行ということで事件は片づけられた。


 そして、本当に事件を解決した者は、街の宿屋で伸びながら大きなあくびをしていた。


「……ふあぁ……。疲れが取れない……」


 一日で完全回復とはいかなかったようでツクモはとても眠そうにしていた。


 ツクモは翌朝、シキの腕の中で起きた。人前で本から人に変化するわけにはいかないため、基本的には朝変化することにしている。


 本の状態では視覚などの五感がほとんど存在していないが、僅かに触れられたという感覚は存在している。


 意識としては微睡の中にいるようなもので、シキに振ったり叩いたりしてもらうことで気がついている。ぺちぺちという衝撃が外部から伝わってきたら起きる合図なのだ。


 まぁ、なぜシキの腕の中で起きることになるかというと、本状態のツクモをシキが何がなんでも手放さないからだ。


 ツクモが本になった時にシキが守るのは当然のことになっているのだが、シキは死んでも話しませんと言い切っている。


 シキにとってツクモという存在と一番密着して過ごすことができるのはツクモが本の状態であり、ツクモの意識がほとんど無い時だからそれがシキの楽しみでもあった。


 本になったらシキの腕の中で起きる、そのことにもう慣れてしまっていた。


「お兄ちゃんおはよう!」


「ツクモお兄ちゃんおはよう! シキお姉ちゃんのいう通りもう人になってる!」


 ツクモが宿屋の二階から降りると、すぐさまツクモに駆け寄る小さな影が二つ。とりあえず、ツクモはよっこらせと言いながら椅子に座る。


「ん? おお、キャロとナナか! 二人ともおはよう。まぁある程度回復したからって……というか俺が本だってことに驚いてないの?」


 普通は怖がるんじゃないかと思いツクモは聞いてみたのだが、二人は怖がるどころか興奮した様子でツクモに詰め寄ってきた。


「お兄ちゃん変身! かっこいい!」


「すごかったの! ツクモお兄ちゃんはそういう種族? キャロもお耳とか違うよ?」


 そんな二人の後ろからシエラが歩いてきて笑いながら言った。


「ふふっ。ツクモさんはキャロルちゃんにとって救世主ですし、その程度と言っていいのか分かりませんが本になれるくらいで嫌ったりしませんよ。……まぁ、私は最初はすごい驚いたんですけど、それ以上に感動したというか……」


「そっか。それは良かった」


 ツクモはホッとした気持ちになり、ナナやキャロルを膝の上に乗せて撫ではじめた。


 二人ともくすぐったそうに身をよじっているが、撫でられることは嫌ではないようでされるがままになっている。


 そんなことをしながらうとうとしていると、シキが二階から降りてきた。


「ツクモ様、シエラさんが言っている感動は多分ツクモ様が想像しているものとは違いますよ」


「なんだシキ、聞こえてたの? ……え、俺の剣技に感動したとかじゃないの? あれ、ムサシと一緒にめちゃくちゃ練習した技なんだけど……」


「あれが流離の剣士から教わった……! こほん。そ、それもあるんですけど、どちらかと言うと想像上の人物に会えたというか……」


 シエラは煮え切らない言い方をしている。そこにシキが補足をする。バッグから一冊の本を取り出して。


「ツクモ様、この本覚えてますか?」


「ん? それって、昔シキがずっと書き続けていた日記じゃないの? 確か、俺に一回も見せてくれなかったはずの」


「そうですよ。はいどうぞ」


 シキはツクモに本、大災厄の原本を渡す。


「え、いいの?」


「はい。どうぞ読み込んでみてください」


「じゃあ遠慮なく。『読込(ロード)』……ッ!?」


 ツクモは、能力を使って本を読み込む。そして次の瞬間ビクッとなった。そして叫んだ。


「いや誰だよかっこよすぎるわ! 脚色されすぎだろ! それに人が死にすぎだから!」


「ほとんど内容に沿ってるのでアダプテーションの域です」


「いやだって……大災厄みんな死んでるじゃん……。死んでから物語化する今回のメイのケースはレアだからね?」


 ツクモが物語を取り出す行為には憑かれてる人物には一切影響がない。あっても少し意識を失う程度だ。


 だが、もしもその憑かれている人物が既に死んでいたら、物語を取り出した後に死に向かってしまうし、姿も元に戻ってしまう。姿は変わっていなかったが、まさにメイのようになる。


 だけど、そもそも死んでから物語化すること自体ほとんどないし、死んでない状態で物語をツクモが攻略すれば、物語から解放されるだけで死ぬことは無いのだが……シキの書いた大災厄では敵キャラ即ち大災厄が全員死んでいるのだ。


 物語化していた人は解放されると同時に物語に関する記憶を忘れてしまうから、その事を死んだと表現したのかもしれないが……。


 そのことを伝えるとシキが少し恥ずかしそうにしながら言う。


「も、物語としては敵は敵で味方は味方で統一したほうが良かったんです! ツクモ様だって、いっぱい改編してるじゃないですか!」


「そう言われるとそうなんだけど……というか、シエラさんが感動してる理由ってなんなの?」


 これではただシキが自作した本を読まされただけだ。ただツクモもシキも恥ずかしがったという誰も得をしない結果しか残っていない。


「実はこの本、保存用にもう一つあったのです」


「うん? それで?」


 あまりにも神妙に言うシキを見て、誰かに見せるわけでもないのに保存用とは何なのかとか、それならもう一冊は何用なのかと色々突っ込みたいところはあったが、とりあえず続きを聞いてみることにした。


「ほぼほぼ完成までは二冊あったのですが、大災厄がラスト十個くらいに迫った頃に失くしてしまいまして……」


「それなら二冊書いてて良かったじゃん。こんなもの誰かに見られてたら恥ずかしくて表を歩けなくなるよ」


 作家になるつもりが無ければ自作した物語などただの黒歴史にしかならないだろう。例えアダプテーションした実話だったとしても誰かに見られるのは恥ずかしいに違いない。


 一番親しいというか、モデルになったツクモにすら見せていなかったのだからきっとそうだろう。そう考えて言ったのだが、シキから帰ってきた言葉は全く予想だにしないものだった。


「いえ、広まってます」


「……え?」


 聞き返したツクモにシキが満面の笑みを浮かべて言う。少し恥ずかしそうに見えるが、心なしか誇らしそうにも見える。


「大ベストセラーです。もう、世界で一番広まってる本と言っても過言ではありません」


「……なんで?」


 その一言しか言葉を出すことができなかったツクモ。


「誰がそうしたのかは分かりませんが、すべての教会に必ず置かれている本になっていますから」


「……まじ?」


「まじです。私も驚きましたよ。情報収集のために教会に行ったら置いてあったんですから。恥ずかしくなってバッと本を取ったらまさかの複写で、神官さんに聞いてみたらその本が教義の一つだと言われてしまいました……」


 シキにまじだと言われたツクモは、シエラの方を向いてもう一度聞く。


「……まじ?」


 シエラは若干身を乗り出しながらツクモの問いに答える。


「ほ、本当です! 私が特に好きなのは八———」


「———あーあーあー! 知らない聞こえない! 嘘じゃん……。俺があの気障なセリフを吐いたことになってるの……? ……もうやだ、寝る……。『隠す(ハイド)』……」


「あ、ツクモお兄ちゃんキャロもいく!」


 ツクモはシエラの言っていることが本当だとわかって、それ即ちシキの言っていることが本当だということに気がつき、不貞腐れた。


 そして、能力で本を消してから二階へ向かうその後をキャロルがトコトコとついていく。


「ちょっ! 私の本をどこにやったんですか! 今から大災厄リターンを書かなければいけないんですから! というか今の能力なんですか!?」


「『隠す(ハイド)』と『見つける(シーク)』心優しい森の守神が持つ能力だよ」



 場所は変わって、マルクの街の領主館にて、領主の執務室に一人の衛兵が訪れた。まるで何日も寝ていないかのようで、その顔色は優れない。


「ヴェルナー様。兵隊長のルーファスです」


「入れ」


「はっ。行方不明事件について纏めた報告書をお持ちしました」


「こちらへ」


 マルクの街の領主であるヴェルナー・マルクはこの街の衛兵隊長であるルーファス・ヒュープナーから報告書を受け取る。


「そこで待て」


 報告書には、現在身元が判明している死体についてと、現在判明している事件の概要が書かれていた。


 だがその報告書は、真面目な性格をしているルーファスが書いたとは思えないほど内容が薄く、曖昧な表現が多用されたものだった。


 これでは街での噂とほとんど大差がないと思い、待機させていたルーファスに聞いてみることにした。


「どうして、こんなに曖昧な表現が多いんだ? この報告書をお前が書いたとは思えないんだが」


「それは……」


 ルーファスは言い淀む。


「なんだ? あぁ、お前が怠慢な仕事をするとは思っていないから安心しろ。正直に言ってみろ」


「はっ。今回の事件には不明点や謎が多すぎてこれが精一杯でした。正直、推測すら見当がつきません」


 どんな考察も役に立たず、もしこの事件を可能にするには二か国以上の他国が協力して攻めて来でもしないといけないという結論が出た。


「不明点や謎か。詳しく説明してもらえるか?」


「はっ。まず一つ目は一体どこで行方不明になったかが分からない者が多すぎます」


 確かにその話は一番最初に調査したときにも挙げられていた。犯人も犯行現場も何もかもが不明……と。しかし身元が判明したものすら分からないとは一体何事か。


 だが、全員とは言っていなかった。


「多すぎるということは判明している者もいるのか?」


「はっ。主に今回死体が見つかった森と東の森を抜けた花畑で居なくなったとさせています。それ以外は、門を越えた記録すらありませんでした。念のため外壁に穴などがないか調べましたが、そんなものも存在しませんでした」


 今回の事件の犯行現場は死体が見つかった森だろう。そうでなかったとしたら全ての死体を運んできたことになるし、血だまりができることすらおかしいということになってしまう。


 だが、誘拐現場が街の外ではないとなると、街の中と外を繋げる何かが存在してしまっているのだろう。


 上には壁があるが、地下まで対策できているわけではない。だからもしかしたらどこかに森まで繋がる地下道を作られているのかもしれない。そう考えて、一度大幅に調査する必要があると考えた。


「なるほど。では、他にはあるか?」


「はっ。死体に関してですが……死体が綺麗すぎました」


「綺麗すぎる……とは?」


「首ですが、全ての死体が一太刀で斬り落とされており、他に傷は存在しませんでした」


「一太刀……か……」


 首というものは、太い骨が通っているため相当な実力者でなければ一太刀で落とすことなどできない。


 しかも連れ去られて抵抗しなかったはずは無いから、その抵抗をもろともせずに倒せるほどの実力者。それを可能にするとしたら犯人は屈強な男か、剣に魔力を通すことができる者や魔剣の所持者くらいだろう。


 そして行方不明者になったものは老若男女関係なしに存在したはずだ。つまり……。


「女性に強姦された後のようなものすらなかったということか?」


「その通りです」


 女が目的で誘拐したわけではない……と。


「犯人の目処すら付かないか……」


「はい。ですが、手がかりになるかは分かりませんが、全ての死体に腐敗すら存在せず、それどころかまるで殺された直後かのように綺麗でした。まだ血が流れ出ている死体もあったと報告を受けています」


「なっ……!? それは本当か……?」


 行方不明者事件が判明したのはつい先日のことだが、最初に被害があったと考えられているのは一月ほど前だ。


 そして死体は全部で500体も発見されている。それなのにそれら全ての死体が新しかったということは……。


「まさか、時魔法か……? いやでも、時魔法は遺伝魔法であり、あの方が王都から離れているはずがない……」


 遺伝魔法とは、親から遺伝する魔法であり、男女関係なく第一子にしか伝わらない魔法である。それぞれが強力な魔法となっており、遺伝魔法一つで軍に匹敵するとまで言われている。


 今回の全ての死体が新しいということを可能にするには時魔法による死体の時間操作が必要だろう。だが、遺伝魔法は国の防衛の要、一ヵ月もの長い間王都から離れるはずがなかった。


 そしてルーファスが付け加える。


「それに、あれほど厳格な方が無用心な事をするはずがありません」


 無用心なこととは隠し子のことだろう。歴代の者たちも含めて時魔法使いは、時魔法のせいか寿命が長いため子孫を残すということについてとても消極的なのだ。


 それは、王命でやっと子孫を作るほどであり、それでも現在は親子孫三代が国に存在している。だが、今回の事件は他にも謎が存在している。


「時魔法があっても、いきなり死体が森に出現した理由にはならない……か」


 時魔法で死体の損傷を遅らせることができてもいきなり出現させることは不可能だ。もしもそれを可能にするのなら空間魔法という他の遺伝魔法が必要だ。


 昔は多く存在したらしいが、時魔法使いは今ではアイヒェンドルフ王国にしかいないとされている。


 だから他国の仕業とは考えられないし、まずこんな辺境の地を狙ったところで何の意味もないだろう。


 他国には空間魔法という空間を操ることができる魔法の使い手がいるらしいが、そんな人物を動員するはずもないしその国には時魔法使いが存在しない。


 結局この事件の謎を追求する手がかりはないとして話を切った。ルーファスが次の報告へと移る。


「そういえば、解呪石の件ですが……」


「ああ、もう安心していいと言われた。もう呪いは完全に解けたようで目を覚ますのも時間の問題のようだ。……行方不明事件のせいでごたついていたが、まだ現れていないのか?」


「はい。冒険者登録以来ギルドに来ていないそうです。幸い、行方不明者の中には含まれていませんでしたので、時間の問題でしょう」


「そうか……。では、この件が片づき次第呼び出してくれ。直接礼がしたい」


「はっ。そのように手配します」


 ルーファスが執務室から出ていき、それを確認したヴェルナーは椅子にもたれかかった。


「はぁ……。どうしてこんなに我が領では厄介ごとが続くのだ……」


 ルーファスと入れ違いになるようにヴェルナーの妻であるシャーリーが執務室に入ってきた。


「あなた、私たちを助けてくれたSランク冒険者は見つかったの?」


「あぁ、シャーリーか。残念ながらそんな人はギルドに現れていないと言われてしまった。だが、解呪石は偶然手に入ったのだから良かったではないか」


 そういうヴェルナーにシャーリーは首を横に振りながら言う。


「いいえ、私たちはあの方がいなければシルバーウルフに殺されていたのよ。だから、黒髪とメッシュの髪の男女の冒険者を探しだしてお礼をしなければいけないのよ」


「そうだな……。それにしても、黒髪の少女とメッシュの青年……か」


 ヴェルナーはフッと笑いながら呟いた。


「どうしたの? そんなに微笑んで」


「いやなに、黒髪の少女とメッシュの少年が活躍する物語があったなと思いだしただけだ」


 ヴェルナーがそういうとシャーリーは納得した様子を見せた。


「大災厄……ね。行方不明事件も案外大災厄の一つだったりして」


「ふっ、そんなわけないじゃないか。あれはただの創作だ。あんなものが存在していたら今頃世界は存在していないだろう」

需要が存在していないようなのでここで完結とさせていただきます。

10万文字に行ったのでオーバーラップ文庫小説大賞に応募します。

いわゆる記念応募的なやつですね。

もしも万が一奇跡的に引っかかったのなら続きだします。

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[良い点] 面白かったです。
[一言] え、終わりなの? 怖いとこ除けばおもしろいのに 引っかかるの期待しておきます
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