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Writer × Reader  作者: NaHCO3
10/15

10.発見

 シキは走る。門をくぐり、商店街を抜け職人街の方へと休むことなく走り続ける。

 朝早く、まだ準備が完了したばかりの屋台が並び、仕事をするために移動を始めた人たちがちらほらと歩いている。


 シキは手当たり次第に話しかけ、情報料を払ってガンツの鍛冶場を探す。思っていた以上に時間がかかったが、無事ガンツの鍛冶場の前までたどり着く。


 扉に鍵などはかかっていない。そのまま扉を開け、中へと入っていく。


「こちらがガンツさんの工房で間違いないですか?」


「……朝から何者だ?」


 今の今まで鍛治をしていたようで、シキが呼ぶと同時に奥の扉が開き奥から槌を持ったドワーフ、ガンツが出てきた。シキはしっかりとあいさつをする。


「ツクモ様の代わりにこちらへ来ました。シキと申します」


「ツクモだぁ? 完成は二日後の予定だったはずだが……こんなに早く取りに来られてもまだ完成してないぞ?」


 それはそうだろう。ガンツほどの鍛冶師が三日後と言ったのは、三日後にはできているという意味で言ったのではなく、三日後までには何とかしてやるという意味だ。


 三日どころか、まだ一日も経過していないのに刀が完成しているはずがなかった。それはシキも承知の上だ。


 だからシキは失礼なのを承知で頭を下げて頼み込む。


「完成品でなくても構いません、料金も支払うので刀を一本譲っていただけませんか?」


「……俺に失敗作を売れと?」


 ガンツが明らかに不機嫌な声でシキに返す。当然だろう、ガンツは気に入らない作品は捨て値同然で売るような職人だ。未完成の品を売るなんてことをするはずがない。


 ツクモに頼まれたものはいつも打っているただの剣ではなく、全く新しい刀という未知の武器。未だ試行錯誤を繰り返している最中であり、やっと掴めてきた程度の進捗状況だ。


 そしてその刀の出来は、捨て値同然だとしても売りに出す気になれないレベルの低いものばかりだった。


「お願いします。どうしても今日ツクモ様に武器が必要なのです」


 シキは言い訳せずにただただ頭を下げる。ツクモとシキはつい先日街に来たばかりであり、この街に詳しくない。


 普通ならば街に売ってある武器を使うべきなのだが、街で売っている剣の質はかなり低いということを知っていた。


 加えて、ツクモが今から挑もうとしているのは失敗の許されない強大な敵だ。なるべく使い慣れた形状の武器が欲しかった。


 今は大至急ツクモが使う武器が必要であり、ツクモが使うという信用に足りる鍛治師であり刀に一番近いものを制作することができる鍛冶師をシキはガンツしか知らなかった。


 そんな思いを込めて頭を下げ続けるシキに何かを思ったのか、ガンツがゆっくりと言葉を発する。


「……頭を上げな。見たところ何か事情があるようじゃねぇか。理由次第ではくれてやる」


 シキは頭を上げて、神妙な顔で言う。


「神隠し……行方不明事件に巻き込まれた女の子を助けに行かなければいけないのです。彼女が生きているうちに助け出すには最低でも今日中にはいかなければなりません。その為にはツクモ様にあった武器が必要なのです」


「行方不明事件だあ……? そりゃあ犯人の手がかりどころか被害者の目撃情報すら出でないはずだ。それに巻き込まれた女の子を助けるってことは……それを解決するってのか? あんたらが?」


 シキが言うと、ガンツが怪訝そうな顔で聞き返す。確かにそうだろう。犯人の証拠も手がかりも何一つなく、街の衛兵ですら一切進展のない事件を解決すると言い切ったのだ。


 シキとツクモはどうみても成人したての初心者、ツクモの剣の扱いは一流だと知っているがそれだけだ。どう考えても解決できるとは思えない。


しかしシキははっきりと


「ツクモ様は女の子を無事に助けて事件も解決します」


 そう断言する。

 その目にはツクモを信じ切っているシキの強い意志と絶対的な信頼が宿っていた。


 ガンツはその様子を見てハッと笑ってから言う。


「なるほどな! いいぞ、譲ってやる」


「……よろしいのですか?」


 譲ってもらえることは好都合だが、あまりにも話がスムーズに行き過ぎてしまっている。だが、そんなシキの疑問を晴らすかのようにガンツが続ける。


「はっ! 勘違いすんじゃねぇぞ! お前さんはツクモの小僧と同じ目をしている。絶対的な自信が浮かんだ目をな! 長いこと鍛治師をしてるとわかるようになるんだ。理想や妄想を語る奴と真実を語る奴の目の違いがな……」


 確かにシキはツクモが負ける可能性など微塵も考えていなかった。そしてキャロルが生きているということも信じていた。


 行方不明事件を解決するなどというこんな突拍子のないことを信じたというわけではなく、ツクモと同じ自信にあふれた目を信じてくれた。だから、ガンツに礼を言う。


「ありがとうございます!」


 シキは再度深々と頭を下げる。これでツクモは戦える。キャロルを救い、神隠しを、行方不明事件を終わらせることができる。


 やるべきことはやった。あとはツクモの努力次第だ。どれほど早く鍵を見つけることができるかどうかですべてが変わるだろう。


「十分間その椅子に座って待ってろ」


「はい!」


 ガンツはそう言ってから裏の鍛冶部屋へと入っていった。言われた通りシキは椅子に座って待つ。誰が見ても満点をつけるようなきれいな姿勢で座る。


 そしてすぐに奥から金属を叩くような音が響いてきた。待ち時間は十分間なのだから、きっとこれは仕上げなのだろう。


 そして約十分後、ガンツが一振りの剣を持って奥から出てきた。


「これが今のところ一番ツクモの坊主が望むものに近い物だ。今急いで持ち手を整えて鞘を付けたが、完成品はこれより上だと覚えておけ」


 反りもなく、ただ刃が片方にしかないだけのそれは刀と呼ぶよりは刀に寄せた剣という感じだったが、それでも確かにツクモのことを考えて作られた一振りだった。


「本当にありがとうございます。……少ないですが金貨一枚を代金としてお受け取りください」


 シキはさっとお金を出して台の上に置くが、


「こんな失敗作に金なんかいらねぇよ」


 と言って受け取ろうとしない。しかし、シキもこのお金は受け取ってもらわねば納得することができそうにない。だから渡し方を変えてみる。


「では、ガンツさんのプライドを傷つけた事に対する賠償とでも思っておいてください」


「ちっ……。おい、これも持っていけ。嬢ちゃんも武器を持っていないだろ」


 そう言う言い方をされてしまえばもうガンツにつき返すという選択肢はなくなってしまう。


 もし、受け取らなかったらプライドが傷ついてないということつまり、渡した剣は失敗作ではないということを言ってしまうようなものだ。


 だから受け取ることにしたが、ガンツは金貨を渡されて終わるような男ではない。だから代わりの物を用意した。


 金貨をつき返す代わりにガンツが無造作に取り出したのは二本の短剣だった。それは、シキのような女性でも使えるような重さであり、ガンツのものらしい刻印が刻まれていた。


 その短剣は誰がどう見ても失敗作じゃない、とてもじゃないが金貨一枚に釣り合うような物ではなかった。少なく見積もっても金貨50枚の価値はあるだろう。


「……ありがとうございます」


 だが、シキは素直に受け取り礼を言う。これは値段の問題ではなかったのだ。


「おうよ。代わりに、必ず解決して帰って来いよ?」


 そう。この短剣はシキが使うと思って渡したものではない。この短剣は貸しだ、貸しは必ず生きて返しに来いということだろう。


 それほど気に入られたのかそれともほかの理由でもあったのかは分からないが、ガンツなりの不器用なそれでいて想いのこもった激励を受け、シキはフッと微笑む。


「大丈夫です。この物語はバッドエンドでは終わらせませんから」


 シキはもう一度だけ礼をしてから出口の方へと向かう。そのシキにガンツが再度声をかける。


「そうか……最後に! 犯人の名前を教えてくれ」


「神隠しです」


 シキはそう言って工房を出る。一人残った工房にガンツの呟きが残る。


「神隠しって……大災厄と同じ名前じゃないか……」



 ツクモは焦っていた。マーキングを見ることができるのはツクモだけであり、誰かから情報収集することもできないのだ。


 今、行方不明事件としてこの街を騒がせている神隠しだが、そのせいで街の外へ行ったり人が少ない裏道を通る人がほとんどいなくなっていた。


 だから、ただでさえマーキングが着く条件は厳しいのに更にマーキングを受けている人数は少なくなってしまっているのだ。


「くそっ、どこにいる? いや、落ち着け……。マーキングは森か裏道で付く。裏道を探すか……? スラムなら銀貨を渡せば来てくれるんじゃないか……? いや、スラムの人を花畑まで連れてくるのは不可能だ……だが、どこを探せば……」


 神隠しが、キャロルが居る場所に転移するにはレベル3以上のマーキングをされた人が必要だ。しかし、その肝心のマーキングされた人、鍵を見つけることができていなかった。


 しかも、転移を受ける場所は裏道ではなく花畑が理想だ。だから外へと行ける人材が必要なのだが、こんな突拍子もないことを信じてくれるような人がいるとも限らない。


 そもそも、マーキングされた人を見つけるまでも困難なのに、その後に花畑まで言ってくれる可能性も低いのだ。最悪、行方不明事件の犯人として訴えられる可能性さえあるだろう。


 金貨程度で解決するのならいくらでも出したが、辺境という人口が多く行き来が激しい街で、何の特徴も共通点もない3人を探し出すのは至難の業だった。


「あーもう! 見つからない! ……運が悪いのか? いやでも、シキの能力が効いていないはずがないからこれで充分運がいいということかそれとも、他の者に流れているのか……?」


 もしくは、キャロルが無事にまだ生きている、それだけで運が良い状態なのかもしれない。確かにそれならば納得だが、運が良い状態というものはずっとは続いてくれない。


 つまり、いつかは運も消えてしまう。だから急ぐ必要があった。


 こうしている間にもキャロルは死に近づいていく、そう考えると焦りやキャロルから目を話した自分に憤りが生まれ始めるがキャロルを信じることしかできない事実に歯噛みする……。


「くそっ……ここにもいないか。焦るな……。落ち着け、キャロなら大丈夫だ……。まずはマーキングを見つけ———」


「———お兄ちゃん何してるの?」


 再び街を見て回ろうかと考え走ろうとしたその時、突然誰かに話しかけられた。


「へっ? え、ナナちゃん? こんなところでどうしたの?」


 そこに居たのは、ツクモが今泊まっている宿にいる女の子、ナナだった。なぜナナがここにいるのだろうか。


 今ツクモが居るのは宿から随分離れた、危険というわけではないが店も屋台も無いただの住宅街のような場所だ。とてもじゃないが幼女一人で来ることができる距離ではない。


「ナナはね、おさんぽだよ! お兄ちゃんは何してるの?」


「お散歩かぁ。お兄ちゃんは人探しをしてるんだ。言っても分からないと思うんだけど、ちょうどこの背中らへんにマーキング……ッ!? まじかよ……。ははっ……運が良いのか悪いのか分からないな……」


 ツクモはナナの背中を指さした直後、突然目を見開いてナナを見た。それを不思議に思ったナナが問いかける。


「お兄ちゃんどうしたの?」


 ツクモは焦る気持ちを抑えながらナナに問いかける。


「……ナナちゃん。最近いや、今日起きてから森か街の裏道を通ったりしたかな?」


 今朝あった時にはそれなかったはずだ。だから、もしそれが付けられたとすれば今朝起きてから今までのわずか数時間の間。


「今うらみちを通ってきたよ! ほんとはお花畑とかに行きたいんだけどね、外は……危ないからダメってお姉ちゃんから言われてるの」


 そうだ。ツクモが居るのは宿から随分離れた場所。幼女が一人で来ることができるような距離ではない、()()()()()()()()()()()()


 ツクモに見えた、見えてしまったナナに付けられたマーキング、そのレベルは3。まさに探していた通りの条件。


 これでキャロルの元へ行くために必要なものは揃った。だが、実際に行くには———。


「———ナナちゃん、ちょっとシエラさんとナナちゃんにお願いしたいことがあるから一緒にお宿に戻らない?」


 そう、シエラの許可を取らなければいけないだろう。ナナなら多分訳も分からずに良いよと言ってくれるだろうし、こんな幼女を街の外へと連れ去ることなど容易い。


 だが、それではただの誘拐犯だし、ナナからの好意を利用した最低な手段だ。だから、ツクモはシエラに許可を取りに行く。


「うーん、疲れたから少しやすみたーい」


 ナナは一人でここまで歩いてきて疲れてしまったのだろう。多分、今も休憩する場所を探していたのだと思う。


 だが、せっかく見つけることができたマーキング、取り戻す鍵。正直そんな暇は無いと言いたいところだが、ナナに無理をさせるわけにもいかない。

 それならばと思い、ツクモは別の手段をとる。


「よし! 疲れたならナナちゃんを肩車してあげよう! 早く戻れるし、高くて……そう、楽しいよ!」


 その提案に、案の定ナナは乗ってきた。


「ほんと? 良いの!? のせてのせて!」


「ははっ、いいよ。……それっ! 軽い軽い! せっかくだから走ってあげるね!」


 言葉巧みに自分が求めることとナナがしたいことを合わせて走り出す。


 街にはやいはやい! というナナの声が街に響き渡る。本当は裏道を通りたいが、今通ってしまうと神隠しに合ってしまう。武器もない状態で、しかもシキにもシエラにも何も言わずに行くのはダメだ。


 だからツクモは人目のある道をナナが楽しめるギリギリの速度で走る。はやる気持ちを抑えて、キャロルの無事を願いながら。


 街は、行方不明事件のせいかおかげと言っていいのかわからないが、人通りはほとんどなく、止まることなく宿まで辿り着くことができた。


「ツクモ様! どうでしたか! 見つかりましたか!?」


 宿の前にはシキがソワソワした様子でツクモを待っていた。その手にはガンツから受け取ったであろう剣が握られていた。


「うん。レベルは3、これで条件は揃ったよ」


「そうですか。それで、そのマーキングを受けたという人は……ッ!? まさか!?」


 シキがツクモに肩車をされているナナを見て息を呑んだ。シキも気がついてしまったようだ。こんな時にツクモが悠長に肩車などをしているはずがない。つまり……。


「そう、そのまさかだよ。ナナちゃんにあった。被害に遭う前で運が良かったのか、目をつけられて運が悪いのか分からないね……」


「そう……ですか。では?」


「まずはシエラさんにお願いしてみよう。大丈夫、俺はキャロを信じるよ。いや、俺が信じなければいけない」

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