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海斗の勇気
今日は卒業式だ。
高校を卒業したらついに社会人になる。
「ついに卒業だな」
「早かったな」
友人が肩を組んできたのでそれを払いながら言う。
卒業アルバム交換もそこそこに俺は千鶴の教室に向かった。
しかし途中で後輩の女子に声をかけられ呼び出された。
「海斗先輩、第2ボタン下さい!」
女子の顔は真っ赤で友達が影から応援しているのが見える。
「ごめんな、第2ボタンはあげたいやつがいるんだ。ほかのボタンでもいい?」
「それって千鶴先輩ですか?」
千鶴の名前が出たことに心臓がドクリとする。
「そうだよ、ごめんね」
俺は代わりのボタンを差し出す。
「わかりました。ありがとうございます」
女子はそれを受け取るとお礼を言って去っていった。
俺ってそんなわかりやすいのか・・・?
「千鶴、もう帰れる?」
いつも通り千鶴を迎えに行き、一緒に歩く。
これは今日で最後だ。
「海斗、私もボタン欲しかったな」
千鶴の言葉に驚いた。
「あるよ、千鶴の分」
そういって俺は誰にも渡せなかった第2ボタンを千鶴の掌に置いた。
その時の千鶴の嬉しそうな表情を俺はいつまでも忘れないだろう。