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08―会議

 来年に戦争が始まってしまうかもしれない。そうなってしまえば、この施設の人間は、少なくとも子供たちは皆戦場に駆り出される事になるだろう。そして多くの死者を出す事になる。魔法なんて生身の人間が簡単に使える程の代物では無いのだから。

 「生きて帰れるかも分からない、もし生きて帰れたとしてもどうするかとか、無いとは思うけど、いっそのことここから逃げるか。それを話したいなって思ったんだ」

 ノアはそう言った。机を囲んで定位置の場所に座っている。ノアは四人の顔を見渡した。皆不安げな表情だった。

 「……ボクは、戦うよ。ノアが戦うなら、だけど」

 オーウェンは考えながらそれを口に出した。

 「そっか。……うん。おれはもちろん逃げるつもりはないよ。だって、前世のおれらは何も知らない状況ではあったけれど戦った。前に進めたから、これからだってきっと大丈夫だって思ってるよ」

 その視線は真っ直ぐ一点を見据えていた。

 根性論か、それとも友情や絆なのか、彼を奮い立たせるものは何なのか、私には分らなかった。普通の人間なら、戦争になんか行きたくないし、ましてやお国の為と言って死ねるわけではない。こんな状況になれば、普通は逃げ出すはずだ。だが彼らは馬鹿だ。逃げた方が将来性はあるというのにも拘わらず、逃げ出すことはせず、運命に抗おうとする。

 「オレだって戦うよ。逃げた所で、また捕まったら意味無いし」とルークが言った。逃げる事に対しても、このまま変わらない運命に対しても、何をしようと言う意思は微塵も感じられない一言だった。彼はきっと諦めているのかもしれない。

 「私は正直嫌だけど、ルークが行くなら、行くかな」

 ヘンリーは、自分の意思ではなく、総てルークを基準に考えている。もはや論外だ。自分の意思がさっぱり感じられない。前世でも周りに流されて生きていたんだろうな。

 ずっと黙り込んでいるのは、レオだけだった。前とは違ってサッパリした印象になったレオは、怪訝そうな表情をしていた。

 「……戦って何の意味があるの?」

 ようやく発した言葉はそれだった。

 「意味?」と疑問に思ったノアは聞き返した。

 「だって、国がとられそうとか、また負けるからって言って小さな子供まで巻き込むかな、普通。まあ、巻き込んじゃう国もあるけどさ、小さい男の子に銃持たせて訓練させたりする話もあるし。もしかして、他の理由があるとか? だって、戦争にはこの施設皆行くんだろ?おかしいじゃないか。絶対十歳以下の子供が戦場になんか出れるわけないし、何より女の子だっているんだしさ。ノア。おかしいと思わないの?」

 前世とは打って変わって、真剣な面持ちでノアに聞いた。ノアは黙った。勿論、レオの言っていることは正しい。政府側が間違っていると言っても過言では無い。施設の人間は雇われているだけだから論外、政府直属の組織だってどうせ金と名声目当てだろう。人間はそう言う生き物だ。ルシフェルの友である悪魔の一人が言っていた。人間はそう言う生き物だ、と。

 「確かにおかしいけれど、まだ力のないおれらにどうしようって言うんだ?」

 記憶が戻った事によって、頭だけは大人になった五人だが、実際はただの子供だ。この施設にいる子供とほとんど変わりようない。

 私はふと思い立った。

 「力が無いなら、天使に力を借りたらどうだ?」

 助言ととるか、只の世話焼きだととるか。どうでもいい。私は人間に近すぎた、ただそれだけのことだ。

 「天使、……でも。おれはガブリエルさんに言っちゃったんだ。逃げないって」

 「逃げるという選択肢がなくなったわけでは無いだろう。ノア、時には人の意見は聞くべきだぞ」

 「でも」

 「でも?」

 「……でも、それでもどうなるか」

 「戦場に行ったら間違いなく死ぬ。たとえ天使がいたとしても、必ず守れるわけではない。それに、ラファエルなどの癒しをもたらす天使なんかは闘わないから、きっと死ぬことになる。それを承知のうえで、行きたいのか。このままでいいのか。ノアはもっと考えるべきだ」

 これは忠告だ。

 私はノアから魔力を吸い取り続ける事により、魔力を増幅、そして最大値に回復させてから、爆発させる。つまり、来年の戦争で私は災害をもたらそうとしている。それにより天使もついでに懲らしめようという魂胆だ。ミカエルにだけはそれを邪魔されてはならない。私の天界への復讐はまだ終わっていないのだ。

 「じゃあこうしよう、ノア。期限は今月末まで、逃げるかこのまま今まで通り過ごすか考えよう。そして、決めよう」

 ノアが黙っているのを見越したうえで、オーウェンがそう言った。

 「分かった、それでいいよ」

 「じゃあ解散。ノアが決めてね」

 「どうしておれ?」

 「だってそうでしょ? 戦場にこのまま行くって言ったのあなただよ」

 「あ……そう、だね」

 「でしょ? だから決めてね。期限までまだあるから」

 今は五月初旬。期限まで半年以上はある。それまでにしっかりと他の子供たちの事も考慮したうえで決めなければならない。そして決めた後は、どうも大変そうだ。


   *


 とある施設、会議室には大人が数名。黒ずくめの男たちが手紙を囲んでうーん、と唸っていた。

 「イザヤと言う少年は先月亡くなりました。齢十三だったそうです」

 「そうか。……次なる預言者を探さなければならない」

 預言者はこれから起こる戦争に役に立ってもらおうと考えていた。けれど、その預言者となる「イザヤ」と言う少年が死んだ。持病が悪化したらしいが本当のところは分からない。彼がどういう少年なのかは知らないが、天使と一番近い存在と言う事で、預言者候補になっていたわけだが。

 「候補はあるのか?」

 「一番天使に近いのは、ノアと言う十五歳の少年です。監視カメラの映像から察するに、天使と接触しています」

 そう言って手持ちのタブレットを操作し、監視カメラの映像を切り取った画像をスクリーンに出した。その画像には、少年と、ひとだまのような物体、そして羽の生えていない、頭には光輪のある天使が映っている。天使は皆羽を持っているとされているが、唯一謎である天使が一人、羽を持たない天使がいる。それがガブリエルと言う天使だ。預言者候補の少年たちは皆白い魔法使いだとされている。それは、ガブリエルと言う天使が力を貸している証拠であると。ガブリエルは白い光線を操る。それから由来され、預言者の少年は白い魔法使いと言われているのだ。その白い魔法使いの一人が、ノアと言う少年。ガブリエルは神からの預言を人間に伝える役目を担っている為、接触すると言う事は、可能性があるかもしれない。

 スクリーンの画像を見た男たちは、「おお」と言う感嘆の声を漏らした。

 「何と言う事だ……」

 「天使が降臨した?」

 「彼で間違いないかもしれないぞ」

 そう口々に言い始め部屋はざわめいた。

 「とにかく、彼に接触しましょう。シスターか先生に」

 「ああ、そうだ。そうしよう!」

 皆の意見は合点した。

 そして時を待って、彼との接触を図った。

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