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04―生活

 おれたちの生活する場所は、学校の隣に位置する寮だ。男子寮と女子寮に分かれていてそれぞれ同じ造りをしている。各部屋六人ずつの共同の部屋で、おれたち五人は同じ部屋だ。おれは寝相が悪いからベッドの一段目、オーウェンは同じ二段ベッドの二段目。ルークは一段目でヘンリーは二段目、レオは一段目を使っていて二段目は皆の荷物を置いている。部屋は広くて大きな本棚が二つ、大きな机が一つに椅子は六脚。

 おれたちはそれぞれの時間を有意義に過ごしていた。おれはベッドに寝転んで魔法学の勉強、オーウェンはおれのベッドに座って難しい本を読んでいる。ルークとヘンリーは本棚の前に立って何やら探し物をしている様子。レオはいつも座っている椅子に座って読書をしていた。

 「全く、ガブリエルの奴め……」

 不意に声が聞こえてきた。おれはゆっくりと体を起こし、オーウェンの座りに座り直す。

 「ねぇ、誰か今喋った?」

 耳元で聞こえたくらいの声量だった。だから怖くなって思わず聞いてしまったわけだが。皆首を横に振って、知らないと答えた。

 「誰もしゃべってないよ」オーウェンはそうおれに言った。

 「じゃあ、誰が」

 「私だ」

 声の主はおれの体をすり抜けていった。

 「え!?」

 その姿はまるで青い炎だ。小さな悪魔の羽が生えている。浮遊するそれはどこから出る声なのか分からないが高笑いをした。

 「私は冥界の王、サタンこと、ルシファー様だ!よく覚えているがいい」

 ルシファーがそう言うと、部屋の中は静寂に包まれた。一呼吸置いておれは口を開く。

 「えぇっと、ルシファー……様は、どうしてここに?」

 「ガブリエルが私を浄化しようとしたな。貴様に憑りついた邪気は払えるが、私ごと払えるわけなかろうが」

 と、ルシファーは自信満々な声色で話した。

 「……そんな」

 「もう直ここに天使がやってくるだろう。それまで、貴様に憑りつかせてもらう」

 「やめてよ!せっかく払ってもらったのに」

 「ふん。安心しろ、邪気はもう簡単には憑かない。勝手に私がついていくだけだ」

 「そ、そう」

 おれとルシファーの会話の行く末を、他の四人は静かに見守っていた。

 「そうと決まればさっさと行くか。出迎えがあるだろうからな」

 そう言ってルシファーはその小さな羽でおれを引っ張った。小さな羽なのにすごい力がある。どうやって引っ張っているのはおれにも分からない。

 「わっ、ちょっと!」

 ルシファーはおれを引っ張ったまま、部屋を出た。後ろからオーウェンが走って来ておれの腕を掴んだ。力が無いのか、腕を一瞬掴んだが手からするりと離れてしまう。

 「待って!どこへ行くの?」

 その声をきき、ルシファーは止まった。

 「貴様は、……そうか。確かに似ている。丁度いい、貴様ら、共に来い」 

 そういってオーウェンや扉越しから様子を窺う三人に目を遣る。三人は顔を見合わせ、頷くとこちらへ走ってきた。

 「ふん。まさか五人全員がこの場に集まるとはな」

 誰に言う訳でも無くルシファーは呟いた。それを聞き取ったオーウェンは、「どういう意味?」と聞いた。

 ルシファーは「後に分かるさ」と言葉を濁した。

 「さあ行くぞ」

 やってきたのは南の方角に位置する教会。教会の周りには百合が狂い咲いていた。教会の中へ入ると、ガブリエルの時と同様に天井から壁までぐるりと天使の絵画が装飾されていた。

 「大天使ミカエル軍団長だ。私の因縁の相手でもある」

 ルシファーはおれの前をふよふよと浮いていた。そして正面に歩いていると、美しい五枚の羽を持った天使は目の前に現れた。

 「懐かしいな、少年たち。私は天使軍軍団長大天使ミカエルだ。ルシファー、貴様がまだ生き残っていたという話を聞きつけて来た。……しかしそのような滑稽な姿になっているとはな」

 ミカエルは馬鹿にするようにわざとらしく笑った。

 「ふん。私はどこまでも逃げるさ。いつかまた冥界に戻り王に君臨するつもりだ。それと滑稽な姿とはなんだ!」

 「威勢だけは良いな、ルシファー。良いだろう、またモグラ叩きでもしてやるさ」

 因縁の相手だというだけはある。二人とも会って数秒で睨み合っている。

 おれに気付いたミカエルがこちらに歩み寄って来た。

 「やあ、ノア君。会えて嬉しいよ」

 そういっておれに微笑みかけた。おれの手を取り、握手を交わした。それに続き、他の四人にも。

 「君たちは覚えていないだろうが、一度会ったことがあるんだよ。私やガブリエル、他の天使ともね」

 「ガブリエルさんから聞きました。一度会ったことがあると」

 「そうか……やっぱり、覚えていないのだろうか」

 ミカエルは寂しそうな顔をして言った。すると、今まで黙っていたルークが口を開いた。

 「オレは知ってるよ」

 その場にいた全員の視線がルークに注がれ、そして皆が驚愕した。

 「夢に、誰かが現れたんだ。悪魔のようなでも天使のような男の人だった。その人がオレに近づいてきて、記憶みたいな、曖昧な何かが全部オレの中に入っていったんだ。これ、ヘンリーにしか言っていなかったけど」

 衝撃的な告白だった。

 ルシファーはそれを聞いて思い当たることがあったか、「サマエル」と呟いた。「サマエル?」とおれは聞いた。

 「昔、私と瓜二つの姿をした天使がいた。盲目の熾天使だった。私と共に神に逆らい、蛇の姿になってエデンの園にいたエヴァを騙した。赤く不吉な蛇だ」

 その天使に対して、「知らない」と言う感情はわかなかった。まるで知らない本の中の登場人物を知っているような不思議な感覚だ。おれはその人を知らないのに、記憶のどこかにあるような。

 「サマエルは、ウリエルと言う天使と共に私が殺した。いや、あれは自爆だったか」

 昔の事を思い出すようにミカエルは話した。

 「私はあの場に来るなと忠告したにも拘らずあいつは出てきて、さっさと死んでしまった。」

 まるで惜しい人を亡くしたとでもいうように、ルシファーのその声は悲しいという感情が入り混じっていた。

 「何はともあれ、悪さをする気配はないようだ」

 そういうとおれや他の四人の顔を見渡し、「細かい事は彼から聞くと良い。話を聞くところによればすべて思い出したようだしね」と言った。

 ミカエルはそれだけ言うと頭を下げ、神々しい光に包まれて消えてしまった。

 「さて、戻るか」とルシファーは振り返って教会を出て行ってしまったので、その後に続いて教会を出た。

 「何しに来たの?」とおれは聞いた。

 「ミカエルの来る気配がしたから来たまでさ。自ら下界へ現れたら教会の中から出られないからな」

 「逆に言えば、こちら側が祈れば出て来れるって事?」とルークは言った。

 「ほう。話が早いな、貴様。名前は?」

 「ルークだよ、隣にいるのが双子の兄のヘンリーさ」

 「似ているな、まるで私とサマエルみたいだ」

 「一緒にしないでよ!」とヘンリーは怒った。

 「そう怒るな。なあ、ルーク。寮に戻ったらこいつらに教えてやれ。……すべてを話せ」

 「何で?」

 「自分だけが分からず、周りが理解しているのは苦しい事だ貴様も分かるだろう? 私は他の四人を気に掛けて言っているのだぞ」

 「……分かった」

 少し考えてからルークは頷いた。

 寮に戻り、それぞれの椅子に座って机を囲む。机の上でルシファーはふよふよと浮遊していた。

 ルークは自分がサマエルから授かった自らの“前世”の記憶の全てを話した。自らの生い立ち、死後の世界、そこで出会った仲間、そして悪魔や天使との戦い。そのすべてを話してくれた。彼の人生は壮絶な物だった。皆真剣な表情で彼の話を聞いた。

 「思い出したか?」とルシファーはおれに近づいてきて聞いた。「いや、……でも他人事じゃない事は十分わかったよ。思い出せていないけど」

 「そうか」とルシファーは残念そうだった。それをみて、オーウェンはルシファーに聞いた。

 「サマエルがそんな事が出来るなら、あなたにはできないの?」

 ルシファーはその質問に答えた。分からないが、サマエルの事を思い出しながら答えるようだ。「サマエルは最期、少しの間だけだが心に光が差し、天使だったときの心が戻った。だからルークに記憶を授ける事が出来たんだ。人間に接触し力を与える事が出来るのは、天使だけだ」

 つまり、サマエルは特別だったわけか。だから、悪魔のルシファーには出来ない。

 「そう……」

 「私もしてやりたいが、きっとまたこの中の誰かの夢に現れるかもしれない。用心しておけ」

 「どうして、用心するの?」

 「突然忘れていた記憶、忘れたかった記憶を流し込まれて大丈夫な人間がいるか?」

 「……そっか」

 「では、今日はこれまでだな」

 そう言うとルシファーはおれの布団の中に入っていった。

 「え?」

 「しばらく一人にしてくれ。大丈夫だ何も悪さはしない」

 それを見たオーウェンは立ち上がり、「信用できない」とルシファーから布団を剥ぎ取った。

 「おい」

 「どうして一人にする必要があるの?」

 「……力を蓄えているのだ。人型になる為にな」

 「人型?なる必要があるの?というか、なったらなったで悪さするでしょ」

 「しないと誓おう。一国の王だぞ? そんな小さな悪さでは事足りん」

 「……」

 つまり、いつか大きな厄災を振りかけようとしていると言う事か。おれはオーウェンを宥め、「一人にしてあげよう?」と言うとオーウェンは渋々、「分かった」と言ってくれた。

 「おれたちは当番があるから、食堂に行くね」

 「なあ、ルシファー様、は何か食べるの?」とレオが聞いた。

 「食べようと思えば食べれるが、何故?」

 「え?え、えっと。い、一緒に、どうかな、って、思って」

 自信なさそうにレオが答えると、ルシファーは少し黙り込んだ。

 「……ありがとう。ただ、遠慮は不要だ。早く行ってこい」

 「あ、……うん」

 「じゃあ行こうか。ルシファー様はそこにいてね」

 「ああ」

 心配ではあるが、ルシファーを部屋に置き去りにし、五人で食堂の厨房へ向かった。

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