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02―子供たち

 豊かな自然に恵まれ、囲まれておれたちは育った。大きな山がおれたちの庭だ。施設のシスターや先生はとても優しくて心強い人たちで、いつも一緒に遊んでくれるし分からないところがあれば丁寧に教えてくれる。

 おれたちが孤児だと知ったのは物心がついた時。虐待を受けていた子供も少なからずいて、そう言う子供には支援をして、一緒に学校へ通わせている。病気の子供もいる。色んな子供がいた。けれど、シスターや先生は平等に扱ってくれた。おれたちがただの「兵器」だと知るまでは、彼らの事が大好きだった。おれたちの事が兵器だと言った人は誰もいない。けれど、自ら気付いた。おかしいと思ったから。


    *


 今日からおれも十二歳だ。文字もせっかく教えてもらったので、ここに記しておこうと思う。覚えたての言葉だから拙いけれど。


 おれはいつも通り、仲の良い五人で遊んでいた。おれと、ルーク、ヘンリーの双子兄弟、オーウェンと、それからレオ。レオは五人の中では最年少で、十歳。ルークやヘンリーは十一歳、オーウェンはおれと同じく十二歳。無口で体育の成績は断トツで、けれど体が弱くていつも最後は倒れてしまうんだ。ルークは大人しいけれどどこか大人びていて、少し羨ましい。双子の弟で、ヘンリーといつも一緒。そのヘンリーはルークの事が大好きで、成績も優秀。レオは弱虫で臆病者。けれど優しい性格で皆の事をよく想ってくれる。髪が長いから目つきが悪く見えてしまうのか、おれたちの他に友達が出来ないらしい。

 そんな兄弟でもあり仲間である彼らと一緒にいるといつも楽しかった。今日はかくれんぼだ。

 「ルーク!待ってよー!」

 「ヘンリー、早くしろよ!見つかるぞ!」

 今日はおれが鬼だ。二人は大体同じような場所にいるから、片方がいる場所を予想できれば容易に捕まえられる。あとは二人、オーウェンは体力的に遠くへはあまりいけないだろうと判断、レオはどうだろう。臆病なレオは一人になる事を嫌う。きっと誰かと一緒にいるだろう。

 「……きゅーう、じゅう! よし、早く見つけてやらないとな」

 広い庭。山全体がおれたちの庭だ。遠くへはあまりいけないし、山を下りたらだめだと言われているからきっと遠くへは行けないはず。まずは二人を見つけよう。ルークとヘンリーだ。獣道をずっと突き進み、藪を抜ける。すると誰かが通った後を見つけた。二人分はあるだろう。これはきっとあの兄弟だ。

 「よし、そこだな!ルーク、ヘンリー!」

 「あーあ、見つかっちゃった」

 「だから言ったじゃないかヘンリー」

 通った形跡は途中で途切れていた。そのため、どこか別の藪へ飛び移ったと思ったがそうでもなかった。そうなると、木の上か動物の巣穴くらいしかない。あの二人は動物が嫌いだから、きっと木の上だろうと判断した。それが的中したわけだ。

 「やっぱりノアは凄いなあ」

 ルークはそう言って木から飛び降りた。

 「私も明日は負けないからね!」

 「はいはい」

 残りはあの二人だ。

 早く見つけようと思った丁度その時、レオの叫び声が聞こえた。

 「うわーっ!こっち来ないでー!」

 「なんだ?」

 「何だろうね、行こうよルーク」

 「おれが行くから、二人は戻ってて」

 「はーい」

 ルークとヘンリーを見送った後、叫び声が聞こえた方へ急いだ。

 そこには熊とそれに怯えるレオの姿があった。

 「レオ!」

 「あ、ノア……た、助けて!」

 ああ、どうしよう!

 おれは咄嗟の思い付きで、習いたての魔法を使う事にした。魔法で熊を殺すことまでは出来ないから、怯えて逃げてくれることを期待している。おれは腰から棒きれのような杖を握り、出した。実戦経験は全くない。授業ではいつも失敗していたから、どうなるかは分からないけれど、レオに当たらないように慎重に、慎重に。

 「フロート!」

 熊に向かって杖を向け、叫んだ。すると、黒い霧のようなものが熊を包み込み、その大きな体を浮かせた。黒い魔法なんて聞いた事が無かった。

 「え?」

 レオとおれは動揺した。熊が浮いた事にも驚いた。けれど、黒い魔法が出てしまったから。

 熊は一目散に逃げていった。

 その場に取り残された二人は顔を見合わせた。

 「の、ノア……?」

 「……できた」

 「え?」

 「おれにもできたー!」

 嬉しかった。先生にやっと認めてもらえるんだ。

 「あ、そうだ。レオ、戻らないと」

 「あ……忘れてた。ごめんよ、かくれんぼしてたのに」

 「はは、良いよ。危ない所だったしね」

 レオを見送り、オーウェンを捜しに行った。

 オーウェンの見た目は特徴的だ。銀髪の短い髪、紫色の瞳、おれより少し背が低くて女の子みたいな顔立ちをしている。きっとこの山の中では一番目立つかもしれない。だから、きっと分かりにくい場所に隠れているはずだ。見つけてあげないと。

 気が付けば山の奥へと入って行ってしまっているようで、辺りは暗くなってきた。正直怖い。ここまで来た事が無かったから。この先に行けば先生たちに怒られてしまう。引き返そう。

 ……とそう思った、その時。銀色のきれいな髪が見えた。

 オーウェンではなかった。けれど、どこか見覚えのある髪だった。肩くらいまでの長さのウェーブの髪。その人のいる場所だけ日光が当たっているのかキラキラして見えた。きれいな女の人の様だ。

 「わあ……」

 思わずつぶやく。咄嗟に手で口を覆った。聞こえてしまっただろうか。彼女とは少し離れた場所にいるから、聞かれることは無いだろうが、その人はこちらを向いた。

 「え?」

 驚いてまた声が出てしまった。紫色の瞳、顔立ちも、オーウェンにそっくりだ。誰だ? どこかで見た事がある。けれど、大人は施設にいる人しか知らないし、子供なら十五歳以上はあそこにいないはず。誰だろう。どこで見たんだろう。疑問は積み重なるばかりで解消されることは無かった。

 気がついたら、その人は消えていた。いたはずの場所には日光なんて当たっていなかった。

 きれいな人だったな。また会えるだろうか。その思いも空しく、おれはかくれんぼを再開した。林の中をひたすら走った。オーウェンはどこだ。どこにいる?

 「いた」

 やっと見つけた場所は、施設の裏側だった。

 「こんなところにいたのか、ぐるぐるまわってたよ」

 「ごめん、ノア」

 「別に謝る事じゃないよ、さ、行こっか」

 「……うん」

 帰る際に、オーウェンは見つけてくれないと思った、と言っていた。だから、おれは言ってあげた。

 「どんなに遠くにいようと、必ず見つけてあげるさ」と気障に。

 そうしたらオーウェンは笑った。しばらく一緒に過ごしていたのに彼の笑顔は見た事が無かった。

 もう一度彼の顔を見て思ったが、あの時に見たきれいな女の人とやはり似ている。

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