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13―戦場

 怖い。怖すぎる。

 目の前には大勢の共和国軍がいる。

 後方には合衆国軍の戦車が見える。

 挟まれた。

 もう、終わりなのだろうか?

 この絶体絶命なこの状況を打開する術はあるか?

 「ノア、魔法使おうよ!ノア!」

 オーウェンは共和国軍の発砲に応戦して隠れながら赤い光線を放っている。おれは同じ場所に隠れながら様子を窺っているが、恐怖によって手が震え、魔法が出せないでいた。

 「ノア!」

 オーウェンだって怖いはずだ。

 どうしておれだけ怖くて魔法が出せないんだ。手の震えを抑えようと、片方の手で手を掴み、固定しながら杖から白い光線を出した。まだ弱い。もっと意志を強く持たないと。

 けれど、何度やっても、弱弱しい光線しか出なかった。

 ――まさか。

 「嘘、でしょ?」

 ルシファー様に、――ルシファーに魔力のほとんどを抜かれた。

 どうして、許してしまっていたのだろうか。

 どうしてこんなことになる前に止めなかったんだ。

 ――殺される。

 「ノア、どうしたの?」

 「……魔力が、ほとんど、残って……」

 おれの体は、恐怖が支配していた。体は小刻みに震えている。

 「ノア……」

 オーウェンはおれを抱きしめた。

 「大丈夫、大丈夫だよ。ほら、念じてみて、天使を呼ぼう?」

 オーウェンに抱き締められ、自分でも体の震えを抑えようとしながらゆっくりと頷く。

 ――ガブリエルさん、力を貸してください。

 けれど、周囲に変化はなかった。

 何故?

 いつまで経っても銃声の発砲音楽、戦車の向かってくる音、それしか聞こえない。いや、悲鳴があちらこちらから聞こえる。

 戦争音楽は鳴りやむ事を知らない。

 すると、おれの腕が散った。

 何故ならおれは無意識のうちに立ち上がってしまったから。

 「ノア!?」

 自分でも分からなかった。

 おれの左腕が飛び散った。

 鮮血がオーウェンの顔にまで散った。

 ――痛い? あれ、なんで?

 「う、うわぁぁあああああっ!!」

 膝から崩れ、右手で左の肩を抱く。

 今まで味わったことの無い痛み。

 ぼたぼたと垂れる血。

 目から大量の涙が溢れて落ちる。

 これが戦争。

 自分の国の為に使わされる奴隷兵士。

 こんなの、おかしい。そう思った所でもう変える事は出来ない。

 「ノア、……し、止血しなきゃ」

 オーウェンは自分の服を千切り、おれの左腕の場所に巻いた。布はすぐに血に染まった。何重にも強く、きつく巻いた。

 それでも垂れる血の量は相当な量だった。

 「ノア、死なないで!お願い……あなたが死んだら、私、どうすればいいの?」

 オーウェンの心は前世の時の「エリーザ」だった。

 「お願い、お願いだから……」

 オーウェンの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

 すると、地面に何かが激突する音が聞こえた。

 大砲か?

 そう思ったが、予想は幸いな事に外れた。

 「何があった?」

 ミカエルさんの声が背後から聞こえた。

 オーウェンが呼んでくれたんだ。

 「これは酷い、……ラファエルを呼ぼう。おい、君。今すぐラファエルを呼んで」

 他の天使がいるのだろう、ミカエルさんはそう言伝を頼み、おれの腕を見てくれた。

 「腕が弾け飛んだか、辛いだろう。私に癒す力はない、だがすぐにラファエルが来て癒してくれるからな。それまでの辛抱だ。さて、君は二人きりでどう立ち向かおうとしていた? 他の皆はどうした?」

 「……ほとんど、散り散りになってしまって、皆がどこにいるか、皆目見当もつかず……」

 「そうか、よく頑張った。もう大丈夫だからな、絶対に死なせたりしない。私も君達と応戦しよう」

 「でも、いいの? 人間を殺すの?」

 「神の意志に逆らっているとしたらやらないよ」

 「……そうですか」

 「ああ、だから大丈夫だ。ほら、隠れて。まっすぐ頭部を狙え」

 「はい」

 ミカエルさんはオーウェンの指導に当たった。

 おれはまだ、理解が追い付いていなかった。頭がボーっとして、しばらく体が言う事を聞かなかった。

 腕が無い事への違和感、現状把握能力の低下、おれの頭の機能は麻痺している。まるで、遠くから自分を見ている感覚だった。他人事のような感覚に陥っている。

 頭がボーっとする。

 視界が虚ろになる。

 視界が霞む。

 嗚呼、もうだめだ。

 「ノア、しっかり意識を持て!ほら、君!ノア君を支えてあげて!」

 天使の一人がおれの体を支えた。腕から血が滴るのが分かる。布が耐え切れず、血が隙間から垂れているんだ。

 「絶対誰かが死ぬと思っていた。だから行かせたくなかったんだよノア君。他の誰かではなく、君たち五人のうちの誰かが死ぬって分かってたんだよ」

 だから、止めようとしたのか。

 だから、――

 その時、おれの目の前に天使が現れた。

 「私はラファエルだ、ノア君だね? 今楽にしてあげよう」

 ラファエルさんが胸の前で手を組み、目を瞑った。すると、痛みが嘘のように消えた。頭はまだボーっとするが、何か癒されたような、心地いい感覚になった。

 「どうだい? 少しは楽になったろう?」

 声を出そうとして喉が枯れている訳でも無いのに声が出ず、やっとのことで「はい」と答えた。

 「良かった。それで、悪魔は?」

 「先程バルベリスを退治した」

 「ほう!それはよかった、だが、まだまだこの戦争では悪魔が悪さをしていそうだ」

 「この戦争を終わらせるためには、グレシル、ソネリオン、そしてオリヴィエ。最後に冥王であるルシファーを倒さなければならない。今頃は前者三人をカマエルが処理してくれているはずだ。私たちはルシファーの元へ急がねばならない」

 「なら、天使軍の半分とガブリエルで」

 そう言えば、どうしておれが念じた時、ガブリエルはこなかったんだ?

 「いや、この二人を守らなければならない。ガブリエルの到着を待つわけには」

 意識がだんだん遠のいていく。

 「そういえば」とラファエルさんが言った。「ガブリエルの気配を感じないな。天界にもいなかったし、下界でも何も感じないよ。どこにいるんだ?」

 「ノア君、君はガブリエルを呼んだ?」

 ミカエルさんの質問にゆっくりと頷いた。

 「彷徨っているのかもしれない。ノア君の魔力はほとんどゼロだから、感じ取れないんだ」

 「なら、今どこに?」

 「いた! やっと見つけられたよー!」

 とミカエルさんに抱き着くガブリエルさんの姿があった。

 「ごめんね、ノアく――ノア君!? どうしたんだ!そんな姿に……なんてひどい、これは神殿に行って」

 「もう無理だ、ガブリエル。」

 「ミカエル、なんてことを言うんだ!早くしないと」

 「出血量的にもうじき死ぬ。これはどう足掻いても無理だ」

 ラファエルさんがガブリエルさんを説得した。

 血の気が引いていく。

 頭が痛い。

 頭がボーっとする。

 ラファエルさんの力では一時的に痛みは引いたものの、やはり痛い事に変わりはなかった。ずきずきと腕辺りが痛み始める。

 「魔力が少ないのは、やはりルシファーのせいなのだろうか?」

 ガブリエルさんはおれを見下ろしながら言った。

 「だろうな。とりあえず今のままではオーウェンまで死んでしまう。一時的に退散しよう。ラファエル、ガブリエルは二人をどこか安全な場所へ避難させてくれ。我々はルシファーを探す。」

 「御意!」

 ラファエルさんはオーウェンを、ガブリエルさんはおれを担いで空へ飛んだ。それと同時に、おれの意識も遠のいていった。

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