第8話
ラノベでありがちだった、貴族名鑑を覚える作業が一番、難儀でした…。
それ以外では、ひと月もすれば、必要ないでしょうとのお墨付きがもらえましたー。
若いっていいわぁ。
50過ぎのおばさんだと新しい事が覚えにくくて、でもせっかく覚えた事も忘れやすかったし、何でも頭の中に思うように入っていかなくて、うがーっと叫んでいたのよ。
それが今は嘘のように、「若いっ!」てだけで、覚えなくちゃいけない事が頭の中にスルスルと入っていくし、忘れにくいんですってばー。
ただ、ね、それでも辞書並みに分厚い貴族名鑑の貴族名を覚える量が多くて、多くて。
リリーも未だに裏覚えだそうです。
「良かったー。私だけじゃないんだー。」って、安心してしまいました。てへへ。
貴族らしい回りくどい話し方も、ママ友や、会社の上役と話す事を思えば、その時の知識や経験を映像を見るように見返しても、その時の方が気が楽でした。
子供関係で役員になって周りに気を遣ったりするよりは、まだマシっていうか、高位貴族だから下位貴族みたく満遍なくその場の皆へ気を遣わないで済むんだってさー。
なるほどねー。身分が高くなったから、格上に対する態度だけに気を付ければよくなった高位貴族になれたから、その辺りは助かったかなー。
子育ても、子供一人に一人の乳母がついて、子育てするから、楽なのかも。
前世の様に、保育所との往復でお迎え時間がギリギリになって、慌てて子供をお迎えして、保育園の先生方に罪悪感からの平謝りをしなくていいのも助かるし、前世に比べれば、子育てに対して手を貸してもらえるし、助けてくれる人が大勢、家に居るのだと思うと、良いのかもしれない。
んー、私個人は愛人とかは作るつもりはないけど、相手がそうでない可能性もあるからなー。
あー、こればっかりは、結婚する相手次第かもしれない。
それでも、私が家に必要な跡継ぎを産むまでか、家に必要な人数の子を産み終えるまでの間は、相手も愛人を作れないって事だから、どこかで私の中での線引きをすればいいのかもしれないけど…。うーん。
前世でも、更年期と仕事と子育てで忙しくて、レスだったし。
前世の夫も、趣味にだけ気力を注いでいたから、子供と私の事を放って手伝いもせず、好き勝手していたんだし、そう考えれば、夫の立ち位置は、前世とあんまり変わらないのかもしれないなー。
なーんて事を考えてましたよー。
それと、公爵令嬢教育で知った大事な大事な事がありましたー。
…王家にはいつの時代も王子が何人もいるのだと。
その王図の中でも一番優れている者が、王太子になるのが決まりなのだそうです。
そして、王子の中にはどの世代でも脳筋と呼ばれるほどの、脳までも筋肉で出来ていると言われる王子が必ず1人や2人、生まれ出てくるのだそうです。
脳筋王子は、将軍になって軍を掌握し、王太子になった王子の手足となるのが当たり前だと思われていて、特に、今の世代は、王太子である次代の王に決まっているバーンノティス様に懐いているのだとか。
あ、脳筋だと言っても、軍を動かしたり、作戦や立案するのには、全く問題ないのだそうですよ。あくまで、体力・筋肉に特化していて、それ以外では他の王子に遅れをとってしまう程度なのだそうです。
現代日本のラノベで言われているような、筋肉だけの王子で、何でも筋肉を使って相手を倒していくような解決方法とか、空気を読めないで突き進んで行動していくようならば、例え王子としても、貴族としても、暴力沙汰をしょっちゅう起こす様な男でいたら、この世界では生き残れていないですから。
現実は、シビアなのですよ。
その他の王子達は、宰相や宰相補佐として、普通に生きてゆくのだそうです。
その際に、王太子以外の王子達は、公爵家へ婿に出るのが通例となっているそうですが。
王家の王子について、私が伝聞調の言い方で表現しているのは、この事が王家と公爵家だけに、口伝でしか伝えられていないからだそうです。
…公爵家令嬢となってしまった私が、王子と結婚する確率がこのせいで、グッと上がってしまった、ん、です、よ…。
何故かって?
そりゃあ、リリーが王子と結婚せずに、アントお兄様との結婚を決めたからですわ…!
本来なら、リリーが王子の中の一人と結婚する予定だったそうですが、それは不可能となりました。
遺伝子検査もないので、親子の関係を証明出来ないですし、そうすると、誰の手も加えられていないご令嬢である必要が出てくるのですよ。
ハッキリ言うと、王家の王子と結婚するのには、清らかな乙女でないといけない条件があるからです。
アント兄様との2人きりの夜を過ごしたリリーは、この決まりから外れました…。リリー、計画的だったのか…!
そこへ、リリーが抜けて、空席になった公爵家のご令嬢の席に、私がやって来ちゃったんですわ。
鴨がネギをしょって来た、ええ、王子に宛がうのに丁度いい私が養女になったのですよ!
それを知らなかった私と兄様は、リリパパやリリママの描いていた通りに動いたと言う事です。
リリパパやリリママは単純に、リリーがとってもとってもとーっても可愛いので、リリーとリリーの好きになった者との結婚を後押ししただけなんだそうです…。
だからか、兄様が責任を取る事について、リリパパやリリママが何も言わなかったのは…。
公爵家に、は、嵌められたー!!
それと、公爵家ばかりに王家から婿に行くと、血が濃過ぎて子供が出来にくくなるのと、奇形が出る可能性が高くなるのが過去の事例から王家と公爵家では知られているそうでして、貴族の端くれで、王家からの血も薄めの私は、子が出来やすいし、奇形も出にくいだろうと白羽の矢が立ったのでしょうね…。
ちなみに、王家の姫は、侯爵や伯爵家との縁組を主にする慣例になっているのだとか。
王子も、公爵家に婿へ行きやすいように幼少時から公爵家の家の娘と交流するのが通例となっており、王子は出来るだけその中から結婚する相手を選ぶようにしているのだと聞きました。
え?国外の王族との縁組は王子や姫はしないのか?ですって?
うん、それもあるんだそうですが、王太子・将軍・宰相・宰相補佐に2人・王太子や役職に付く王子に何かあった場合の予備の1人の6人の王子が必要なので、最低、6人の王子を王妃や側妃、または公爵家辺りに産ませてから、その子供を王家の養子にする事があるのだそうです。
ですが、今の王子の世代は王妃様が頑張って産んだのですが、4人しか王子がいないそうです。
その王子様方は、王太子と宰相と将軍にその予備の4人になっているのですって。
宰相補佐には、実力でその難関を抜けた、侯爵家のケイン様とうちのアント兄様が!!!その役職についているのだと聞いて、大声で叫んでしまった私は悪くないはずですっ!!
あー、だからかー。アント兄様は王子方との公爵家の娘との茶会に王太子様付きだからと参加していて、リリーに見染められたのだと気付きました。
じゃあ、引かなくていい当たり籤を自ら引いた私は、王子様とケイン様を含めたうちの誰か一人を選んで、将来、結婚するのが確定しているのね…、と・ほ・ほ。
リリーに、「図ったわねー!」と問い詰めると、「だってー!アント様を好きになっちゃったんだものー!」と返されてしまったー。不覚…。全力で投げたボールを真っ直ぐに打ち返されちゃった気分…。
リリーが言うには、小さい頃から会っていた王子やケイン様を見ていても、ちっともドキドキしないし、勘弁して欲しいと思っていたのだとか。
いづれ、この中の誰かと恋をして、結婚する気なんて全く起きなかったのに、アント様と出会ったら、凄くドキドキして、結婚したくって仕方なくなっちゃったんだものー!!とブッチャけられましたー。
ううっ、ぐぅ。そこまで言われてしまったからには、私も腹を括らなくては…!!
どうせこの世界には、避妊や、バースコントロールなんて言葉は無いんでしょうに。
公爵令嬢教育でも聞いた事もなかったし。
…うん、閨教育と称して、概要だけをサラッと教えてもらって、「後はお相手の夫となる方の言う事を聞いて、お任せするように。」ってだけでしたから。ある意味、予想していた通りでしたねー。
出来たら産んで育てるか、孤児院を併設している修道院へ預けるしかないんですもの。(特に、貴族間での愛人との間に出来て産まれた子供は、孤児院へ預けられます。自分達の子供に何かあった時のスペアとして。)
そのおかげで、孤児院でも貴族の子も庶民の子も一緒に区別なく養育を施されて、教養も与えられ、不自由なく育てられているし、貴族からの寄付も喜捨も進んで行われていますから。
その辺は、地球の中世とは違うみたいです。不幸な子は少ない方がいいのです!
私に唯一家族らしかったアント兄様と、私の友人だった、今は義姉になったリリーの幸せを考えると、結婚には夢がなかった私なら、政略結婚でも構わないっかなー。とも思ってます。
生まれ変わって良かった点、それは、前世の経験が主に知識として残っているだけと言う事。
前世での夫婦生活や嫁いびりについての具体的な記憶はないんだよねー。
知識として、その内容やその時の気持ちがどうだったかを知ってはいるけれど、自分には関係ない映像や映画を見ているような、関係のない第三者視点な感じで見ているので、生まれ変わった今の私の負担にはなっていないのだー。
その辺りがどうなっているのかなんて、探る必要もないし、知りたいとも思わないから、そのまんまでいいと思ってますし、そのまんまで過ごしてますよー。
この話までは偶数日だけの更新でしたが、次の話からは週一の金曜の昼が更新日となります。宜しくお願いします。