第7話
午後からは、リリママとリリー姉様との家でのお買い物でした。
例えるなら、日本だったら、やんごとない名家のお家や、お金持ちの家が、デパートの外商さんを家に呼んで買い物をするようなものだと想像すれば、分かり易いでしょうか。
ちなみに、ドレスを着る時に、クジラのひげを使ったコルセットをするのが嫌だったので、お年頃になる前から、前世の知識で、ウエスト絞りとバストアップに努めています。その甲斐あって、コルセットをぎゅうぎゅうに締めないで済んでます。
ドレスの採寸の時に、お針子さんから「細くていいですね。」と褒められましたわー。
リリママは、ええと、コルセットがあって良かったですね。な状態でした。ええ。公爵家は美食ですからね、気を付けないと後で体形が変わってしまって大変になりますからねぇ。
そのせいで、エンデューロ子爵家では、私以外の女性陣は、しょちゅうドレスや普段着を作っていますから。
リリーは、それなりにボンキュッポンでしたー。あちこちに鬱血した所があったとだけのご報告だけで、それ以上のコメントは控えさせて下さいーーー。
明日からは私もリリーを見習って、牛乳の摂取量増とバストアップの体操をより一層励む事を決めました!
ちっくしょう!ウエストは私の方が細いけど、バストはリリーの方が勝っていたですわよ…。
西洋人にありがちな、腰の位置の高さとか、美脚なのは引き分けでしょうけど…!
前世で50過ぎだった事で女性として色々経験していた事と、子供を産んだ事などで、ドレスの採寸ぐらいじゃ動じないで済んでます。
貴族の女性の中では、採寸するのが恥ずかしくて出来ないとか、誰に見せても(男性でも)動じないとかの両極端な方々もいるので、商会の方も大変だなーとか、買い物中は考えていました。
ドレス用の小物選びとか、靴とか、筆記用具とか、日用品とかの大量な買い物を済ませたら、「大量にお買い上げいただき、ありがとうございます。またのご用命をお待ち申しております。」と言って、ほくほくと嬉しそうに、商人が帰っていきましたけどー。
その後は、私とリリーとリリママの女だけのお茶会が始まりました。
あ、私用に買ってもらった物は、侍女達によって、私の部屋(暫定)へ運ばれています。
お茶会が始まってすぐに、リリママから言われました。
「セレナちゃん、貴女が遊びに来る度に、養女にならないかって誘うのを我慢していたの。」
「え?どうしてですか?」
まさかお茶会で、そんな話から始まるのだとは思わなかったので、素で聞き返してしまいましたー。
「リリーからも、パパからも言われていたんだけどね、貴女自身から「助けて欲しい」ってサインを出すまでは…と思って、私も様子を見ていたのよ。
それなのに、子爵家で追い出されるのを分かっているのに、デビュタントまで済ませてしまうんですもの!家族全員で焦ったわ。だから、陛下にも王太子様にもケイン様にも手を回してもらったのよ。」
「そうでしたか。ありがとうございます。私、あの家から出された後の事しか考えていなかったので、その準備をしなくちゃと焦ってばかりいました。そのせいですね。」
「もうっ!ママったら!セレナが図々しい性格じゃないのは、分かっていたでしょ!」
「ごめんなさいね。貴族の女性にありがちなワザとらしい図々しさが、セレナには無かったんですもの。仕方がないわ。」
あー、えー、おばさんにありがちな図々しさならありましたー。はい。
「で、でも、お茶会の帰りにはいつも余ったお菓子を持ち帰ったり、沢山お菓子を食べたりしてました…。」
「あらやだ、セレナってば、妹らしく遠慮があって可愛らしいわ。他の家のご令嬢なら、ドレスやアクセサリーを頂戴って言ってきていたのよ。それに比べれば、なんて細やかだって思うじゃない。」
「そうよ。他の家のご夫人で、家の中に飾ってある絵画や装飾品を譲って欲しいって言ってきたから、「どの位で?」って聞いたら、公爵家ならお金持ちでしょうから無料で寄越せって言って来る方もいる位なのよ。
セレナちゃんは、私とリリーにはシャンプーとリンスを渡してくれているでしょう?料理長には調理のヒントやレシピを提供しているし、こちらの方が得をしているわ。」
「ママの言う通りよ。セレナが助けてほしそうな素振りをしたら、すぐに養女にするって話がついていたのよ。まったく気付かなくて、ハラハラさせられたわ。」
「ふふ。私、今、すごく幸せです。本心から私を気遣って下さる方と家族になれたんですもの。」
「急ぎになるけれど、公爵令嬢として相応しい立ち振る舞いと知識をつけるのに、明日から学んで欲しいの。教師も既に決まっていて、手配しているわ。」
「はい。子爵家で学んだだけの私では、公爵令嬢として足りない部分があるのは充分、承知しています。」
「リリーと学ぶ内容は違っても、リリーと学ぶ部屋は一緒だから安心してちょうだいね。」
「はい。」
「私も一緒だから、嬉しいわ。姉妹で一緒だなんて、夢みたいね。ね、セレナ。」
「それから、護身術も習ってもらうわ。高位貴族だと攫われる可能性があるから。」
「そうなんですね。はい、分かりました。」
「体力が付くから、いろいろと便利よ。後でわからない部分を私に聞いてくれれば、姉として教えるわ。」
「心強いです。分からない部分はリリー姉様にお聞きしますね。」
「きゃあ!これぞ姉妹の醍醐味ね♪」
「娘が2人いると、華やかでいいわ♪」
「ママこそ、娘の買い物の見立てが2人分出来て、楽しかったんでしょう?」
「あら?バレてたの?」
「んもうっ!パパも昨日の夜に、特産品の話を出来たってご機嫌だったじゃないの。」
「ええ。パパも嬉しそうだったわ。リリーがその手の話題に関心がなかったから、そういう話が出来る娘が出来て、良かったわ。」
んー!今日もお菓子が美味しいわー。しばらくの間は、お見合い話から離れられるって事かしら?
遠慮せずに公爵家で過ごせそうで良かったー。捨てる神あれば、拾う神あり、かー。
さてさて、エンデューロ子爵家では、昨日まで食べられていた白くてフワフワなパンが、今朝から食べられなくなっているんでしょうねー。
あれは、私のストレス解消の為に日頃の鬱憤を込めて捏ねてから、焼いていたし。子爵家の料理人にはパンの作り方も焼き方も一切教えてないからなー。
それに、前世で食べていたから食べたくなって私が作って出していた、いくつかの料理も、子爵家ではもう二度と食べられなくなりましたからー。こちらも料理人には一切、教えていませんよーだ。
弟のフルトは、失敗やミスを押し付ける相手がいなくなったから、どうなるかなー?
妹のシルは、私の私物を自分のモノに出来なくなったから、これからは散財が激しくなるんだろーなー。
カレン姉様は、私の顔をこき下ろして、ストレス発散していたから、両親の言いつけを守れていたけれど、これからはシルにしか文句を言えなくなるから、この先、どうなるかなー。
それに、肉食女子だって言われているって昨日の夜会で知ったけど、高位貴族の令息にさり気なく避けられていた節があったしなー。王太子様とケイン様は、私が子爵家でどんな扱いをされていたのかを知ってしまったから、今更、カレン姉様の毒牙にはかからないだろうし。
ざまーみろー!!
そう考えると、アント兄様以外は、ロクでもない家族だったなー。
離れて客観的にみると、私って大変だったんだー。あの中で暮らしていくのに一杯一杯で、感覚がマヒしていたのかもしれないなー。
私も、アント兄様も、あの家から逃げられて良かったんだと思うなー。
その夜から、リリー姉様とアント兄様は夫婦扱いで、公爵家で生活し始めました。
結婚式は半年か1年後だそうですが、婚姻の手続きだけは1か月後だそうです。
結婚式が半年か1年後なのは、子供が出来たら産んだ後でという、暗黙の状態なんだそうで。へーほーふーん。と、聞き流しておきました。
そんな中、私の公爵令嬢としての再教育も順調に進んでいきました。