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第5話

 兄様が飲み物を取ってきてくれたので、美味しく果汁のジュースを飲んでいても、他の貴族の方からも声をかけられませんでしたよー。ただ、遠巻きには、こそこそと噂をされてはいるようでした。なんせ、陛下からのお言葉を承ってしまったんですもの。やだなぁ、悪口でも言われているんだろうか…。


 でも、近寄ってこないだけでも私の気が楽なので、見ざる聞かざるで、知らない振りで微笑んでおこう。


 ほーっ。ジュースがう・ま・い。一仕事の後のジュースが上手いわー。


 エスコート役とのダンスも終えて、デビュタントも済んだので、すんなり夜会の会場から出られましたー。

 おっと、何だかアント兄様とリリーとケイン様に連れられて、王城内の何処かの部屋に連れて来られましたよーっと。


 どこに連れて来られたんだろうかと首をかしげていると、どこかの執務室のようだなー、どこだろう?

「アント兄様、何処かの執務室のようですが、どうしてここへ来たのでしょうか?」と尋ねると、


「セレナは誰のだと思う?」と、質問に質問が返されてしまいましたー。


 仕方なく室内を見回してから、「王太子様か、宰相様クラスの方が実務を行う部屋だろうと思いますわ。」


 ケイン様が目を輝かせて、「どうしてその考えに至ったのか聞いても?」


 ふーっと溜め息を吐いてから、「まずは、書棚に見えている本の背表紙が納税額一覧と収穫量一覧の年度毎の物があるからのと、安易に持ち出せないようにどの書棚にも頑丈な鍵が付いている事。執務をする机の上には仕事が終わったからでしょうが、重要な書類一枚でもなくさないようにと、何も載っていない事。これらの理由でしょうか。」


「宰相か王太子か判断出来ないのは?」


「私が宰相様の部下の人数を知らないのと、王太子様の側近の人数を知らないからだと答えますわ。人数さえ知っていれば、机の数で判断しましたもの。

 どちらの方にも、書棚に見える資料は必要だから、どちらの方の部屋なのかまでは、ぱっと見ではこれ以上の判断が出来ませんでしたわ。これが、その答えになるでしょうか。」


「アント!とんでもない隠し玉じゃないか!上の妹さんの様に、肉食でないし!頭が回る!男だったら、王太子も側近にしていたよ!」


 ケント様がキラキラおメメで、見てきます。


「俺の自慢の妹だからな…!」


 アント兄様が自慢気ですわ。


 あらいやだわ!兄様ったら!そんなに褒められたなら、照れちゃうじゃない!


 パチパチパチ!手を叩きながら現れたのは、私のデビュタントを担当した王太子様。

「素晴らしいね。ここは私の執務室なんだ。」


 この部屋は、へ?!バーンノティス王太子様の?!


「家ではセレナ嬢は冷遇されているようじゃないか。」


「ああ。このデビュタントのドレスだって、両親がセレナに買った初めてのドレスなんだよ。

 シンプル過ぎて、もう2人の妹の頼んだドレスよりも一番安かったんだ…。

 小物だって、靴だって一番安くてシンプルな物だった。

 執事に頼んで見せてもらったんだ。父宛に届いた請求書を見たら、俺が驚いたほどだ。


 小さい頃から、親戚がセレナを気の毒に思って譲ってくれたドレスか、祖父母が不憫がって年に何着か買ってくれるものしか身に着けられなかった真ん中の妹なんだ…。


 だから、俺が羽織っているこのマントだって、上の妹のカレンの時に作ったものをセレナが刺繍して見栄えを変えてくれた物なんだ。」


「じゃあ、今日の夜会で注目を浴びたドレスを仕上げたのは、セレナ嬢自身で飾り付けたものなのか。」


「セレナ、自分で縫って刺繍をしたんだろう?」

「ええ、アント兄様。髪飾りとか耳飾りとネックレスも作りましたわ。

 最初から、ドレスと靴と扇と長手袋だけしか買ってもらえないんだろうと、常々、思っていましたから。予想した通りでしたわ。」

「そんな…!!」

「リリーにだけは、知られたくなかったし、言えなかったわ。

 家で私がひどい扱いをされていた事、私自身が大事な友人のリリーに変な目でみられたくなくて、その事を言えなかったの。…ごめんなさい。」


 リリーは「ううん。いいの。私がセレナの立場なら同じように思うもの。」と言ってくれたのだった。


「他には?」と、王太子様がアント兄様に問うた。

「勉強だってそうだった。貴族の娘として最低限の事しか教えてもらえていなかった。」


「え?ダンスもか?そんな感じはしなかったが?」

「セレナが独学で、図書館の本を読んで、自分で身に着けたんだ。ダンスの練習には私が付き合ったんだ。

 上と下の妹には、未だに家庭教師が付いている。侍女だって、他の妹2人には何人もいるのに、セレナには1人しかいないんだ…。」


「全部言っちまえ!」

「食事だけは同じだったが、セレナにはお茶に付きものの、菓子が付いた事がない…!」


「は?」

「リリー嬢との茶会で持ち帰らせてもらえた菓子のおすそ分けを俺にしてくれるんだ…、「兄様は仕事で遅くまでお疲れでしょう。甘いものでもいかがですか?」って気遣ってくれて、茶まで淹れてくれるんだぞ!」


「え?」

「弟のフルトは父と一緒で、何でも悪い事、失敗した事をセレナに擦り付けて、両親から高評価を得ている最低な奴だ…。」


「ちょっ…。」

「上の妹も下の妹もセレナが平凡過ぎるから結婚出来ないって、顔の事を引き合いに出して、こき下ろして優越感に浸る材料にするか、悪口しか言わない。」


「…。」

「両親も、セレナは上と下の妹の顔と比べて、可愛くないからと、成人してから嫁ぎ先がなければ、無一文で放り出す算段をしている。この前、デビュタントが済んだら、半年以内に追い出すと笑って両親が話しているのを偶然に聞いてしまったんだ……!!!」


「…最低だな。」

「ああ。祖父母に相談したのだが、家長が父になっているので、どうにも出来ないんだ…。俺も自立しないと、セレナを悪評高くさせていて、都合の悪い事全部をセレナに擦り付けている、要領の良い、本当は出来損ないである弟のフルトを後継ぎにすべく、遅かれ早かれ、フルトが成人したら、役目が終わったとして、俺もあの家から追い出されるだろう。」


「…知られざるエンデューロ子爵家の内情…。」

「貴族の家ではありがちだけど、友人の家が酷いと友人だけは助けたくなるよ…。」

「だから、セレナには嫁入り先を。俺には入り婿の先を少しでも早く見つけたいんだ…。」


「それじゃあ、一旦は従妹のリリーの所へ養女になってから、嫁ぎ先を見つければいいんじゃない?」

「うちがダメなら、ケインお兄様の家でもいいわ!ね?」


 ケイン様がオデコに太い(しわ)を寄せて、考え込んでいるように見えた。


「養女じゃなくて、どっちかっていうと、嫁に欲しいかな。可愛いし、素直に表情が変わるし、努力するご令嬢が少ない中、おしゃれよりも読書が趣味なんて、私と話が合いそうだし。うん、いいね。」

「えっ?」「はっ?」「ええっ?!」順番に、私。アント兄様。王太子様です。


「私は従兄の所だったら、セレナの嫁入り先はどこでもいいわ!ずっと一緒にお茶会が出来るもの!子供達同士で仲良く出来るものねっ!」


 リリーとずっと仲良く出来るんだったら、ケイン様の所へお嫁に行くのも、魅力的かもしれない。


「今日のドレス姿が可愛くて素敵だったし、ダンスもデビュタントにしては、そこらのご令嬢よりは上手かった。その努力する姿勢がいい。王太子妃教育もすぐに終えられそうだ。

 そうだ、公爵家の養女になったセレナ嬢には、王太子の私の方が相応しいと思うんだけど。」

「え・ええっ?!」と驚きの声を上げてしまった私に、

「そこまで!勝手に妹を奪い合いするな!本人の好みも希望もあるだろうが!」アント兄様が助け舟を出してくれました。ほっ。


 私が王太子妃、しいては王妃になるなんて、畏れ多過ぎますっ!無理っ!話を()らさなくっちゃ!


「ねぇ、リリー。リリーの所は、リリーしか子供がいないんだから、うちのアント兄様なんてお勧めするわ。真面目だし、働き者だし、ケイン様とも仲が良くて、私の実の兄だから、私と姉妹になれるわ。

 どうかしら?」


 貴族なら、見目良いのは当たり前だけど、アント兄様もイケメンだし。リリーとだったら、リリーが甘えても、三姉妹の妹がいるからか、女性のあしらいも悪くないし、細やかな気遣いも出来るし、穏やかな性格だから、つり合いが取れて似合うと思うんだけどなー。


 はっ!お見合いババァのような考え方をしちゃった!私はまだ成人したばかりの15才!ババァじゃない!


 考え事に気を取られている場合じゃなかったっけー。


「ケイン様がデビュタントの控室でお聞きになった事への返事をいたしますわ。


 この国では、収穫量が減ると困るのは、主食のパンの材料の小麦ですわ。ケイン様が声に出すくらいですから、主食の小麦だろうと予想したのです。


 小麦ばかりを作っていると、小麦を育てるのに必要な土の中の養分が減っていきますの。それでも作っていくと、収穫量がさらに減って土地もやせ細ります。それを「連作障害」と言いますわ。」


 チラチラとアント兄様を見るリリーが、赤くなっているような気がする。これは手応(てごた)えがあったのかなー?さて、話を続けなきゃ。小麦が不作になったら、この国で暮らしている皆が困るからねー。


「それを防ぐ為には、「輪作」と言う方法を採用するといいのです。これらを説明するのに、何か書くものと紙を貸していただけませんか?」


 王太子様が私へ書くもの、ペンとインク、そして輪作を分かり易く書くのに必要な紙を渡してくれました。


 紙には、地球でのノーフォーク輪作で有名な物を書いた。


 カブ→大麦→クローバー→小麦そして、矢印をカブへ向けて書き、文字と矢印で作物が循環するように書きました。

 カブには冬季における羊や牛の飼料に出来る。クローバーには栽培牧草として放牧するといい。と書き添えた。


 春夏にパセリ(セリ科)やトマト(ナス科)を植えたら、秋と冬には大根やネギを。

 春夏にトウモロコシ(イネ科)やマメ科の植物を植えたら、秋と冬にはニンジン(セリ科)やアブラナ科の植物を植えるように。とも書いた。こうすれば連作障害が起きにくくなる。と。


「今、紙に書きましたが、土の養分になる肥料を与えるのを忘れずに。ですね。放牧すれば、その家畜からの排せつ物が肥料になりますから。


 それと、痩せた土地でも育てやすい野菜として、ジャガイモにさつま芋があります。痩せた土地で育ててみるように勧めてはどうでしょうか。飢饉への備えになります。」


 私がそう言って、紙の上から顔を上げると、王太子様とケイン様とアント兄様が(ほう)けていました。リリーは「セレナは凄いわ!さすが!私の友人ね!」と、上機嫌でした。


 あれ、れ。やっちゃったか、な?


 にんまりと微笑んだ王太子様の笑顔に、何やら黒いものが混じっているような気がした……。こわっ!

「セレナ嬢、王家のどの王子でもいいから、嫁にならない?好みは誰?出来たら私にして欲しいんだけど。だから、「待て!!私もだ!」…。」


 そこに、焦ったような声を上げ、王太子様を遮るようにするケイン様。

「大事にしますから!是非!我が侯爵家へ!結婚して下さい!」


 王太子様には役に立ちそうだからと言う目論見が透けて見えたけど、ケイン様は読書と言う趣味が同じだと、私の努力する姿勢がイイと褒めてくださったし、王子でない所がおススメのような気がする。


 吹き出しそうな顔のアント兄様が「セレナ、嫁入り先がより取り見取りだね。結婚相手をセレナが選べそうだ。良かったね。」と、にやにやしてました。


 選べるなら、正式にお見合いして、選びたいなぁ。でも、見合いに行くにしても、見合いで着るドレスがないんだけど…と悩んだので、それを口から出してみました。

「お見合いして、気の合う方と結婚出来ればいいですわ。でも正式な場で着れるドレスが今、着ている物しかなくって…。 どうしたらいいでしょうか?」と。


「私のドレスを貸すわ!お父様の許可が出れば、姉妹になるんですもの。ねぇ、パパ。良いでしょう?」


 リリーがぐるんと後ろに向くと、ドアの空いていた隙間を大きく広げて、ドアを開け、シルバーグレイの素敵な年配の紳士が入って来たのだった。


「いいねぇ。リリーの見込んだ通りだったよ。パパはセレナ嬢を養女にするのに賛成するよ。ママも娘が1人、増えるのを喜ぶだろうし。嫁入り先も良さそうな所を選べそうだしね。」と、ウインクしながら、私の養女先が決定したのだったー。


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