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第3話

 夜会2週間前に、私のシンプルな白いドレスが出来上がって、家に届けられたのだ。姉様や妹の分は、手をかけたデザインのものらしく、私よりも作るのに時間がかかるようで、2人して、やいのやいのと文句を言っていたけれど、私のドレスを見たら、何も言わなくなった。


 ただの白いドレスで、飾りと言えば、大きな白いリボンと襟元とドレスのスカート部分にある、共布で出来たフリルだけだったのだから。あまりにもシンプル過ぎて、文句も言えなくなったようだけど。


 デビュタントの時は、白いドレスが汚れないようにと、各家の紋章の入ったマントを羽織って娘達が入場し、一人一人がマントを脱いでエスコート役がそのマントを受け取って、エスコート役がそのマントを身に着けるのだ。


 そのエスコート役の男性と並んで立っていたデビュタントの娘が一歩だけ前へ出て、王族や貴族の皆へ向けて自己紹介をするのだそうだ。


 その後は、王家の王子達が(何人かいるそうだけど)デビュタントをしたばかりの貴族の娘と順番に踊ると言う仕来たりになっている。王子と踊ってデビュタントを済ませた娘は、エスコート役の男性と踊ると、無事にデビューを済ませた事になり、いつでも帰って良くなるのだ。


 ま、エスコート役の男性が、デビュタントを済ませた娘を家まで無事に送り届ける所までが初めて夜会に参加する娘のエスコート役の役目と言うか、義務なんだけどね。


 私がデビュタントで着る白いドレスの上に羽織る予定のマントは、姉様の時のお下がりのものがあるのですよ。


 私はそれをお下がりだと気付かれないようにする為に、ドレスが手元に出来てくるまでに多少の刺繍をしていたのですー。


 今日からは、ドレスに刺繍と、貝ビーズとレース編みで作っておいたレースを使って、自分だけのドレスにするんだー。


 そうそう、イヤリングもネックレスも髪飾りも貝ビーズとレースを使って、だいぶ前からこつこつと作ってあったから、問題なし。


 靴や扇や長手袋を作る技術は私にはないので、貝ビーズと刺繍とレースで同じ意匠になるように靴や扇、長手袋に縫い付けて、飾り付けたんだけどねー。


 そうそう、当日は、私の唯一の侍女のイブだけじゃ、私の支度が(まかな)えないから、執事のオットーの手配で、私の乳母だった者とその娘が臨時の侍女として手伝ってくれるようにとの手配も済んでます。


 礼儀作法や、ダンスのレッスンもおさらいが済んでいるし、いつもは貴族の娘らしく、いつ母や父が来ても大丈夫なように、刺繍や読書をして過ごしている時間をドレスの飾りつけに注ぎ込もうっと。


 私が本を読んでいる時は邪魔をしない様にと侍女のイブにも家族にも訪ねてくるな!騒ぐな!と、周知してあるのですよー。


 これだけは、カレン姉様でも妹のシルでも邪魔をするのは、私の地雷だと知っているので、滅多に私の邪魔になるような事はしないのですよ。もちろん、緊急時や用事がある時は仕方ないですけどね。


 なんせ、私がまだ小さい頃、私の読書を邪魔した父や母、それから兄妹達に向かって、一言も口を利かず、表情も無表情で、何も飲み食いもせずに、部屋へ籠ったので。


 3日もすれば、私が根を上げて出てくると思っていたのに、5日も我慢を重ねたうえに、気を失うように倒れた所を見つけた兄と執事のオットーが駆けつけても、(かたく)なに一言も話さなかったんですってさ。


 慌てた執事のオットーが侍医を呼んで、侍医に診察をしてもらい、栄養失調と貧血だと診断結果を告げられるまで、オットーと侍医にしか口を利かなかったのだと、オットーから聞いたっけ。


 私は朧気(おぼろげ)にしか覚えてないんだよねー。なにせ小さかったし、ハンスト後で意識が朦朧(もうろう)としていたから。


 その時からでしょうね。私の読書の邪魔を極力しない様にするという不文律がこの家で出来上がったのは。


 父や母は、姉と妹との差を付けているのを親自体が解っていたので、私の読書には目こぼしをしていたんだと思う。

 自力で色々と覚えてくれれば、お金はかからないですし、私も静かに過ごすので、その頃から一石二鳥だったのではないかと予想しましたんで。


 とにかく、「おさらいが終わったので、マントの刺繍と、読書にかかりきりになるので、邪魔をしないで下さい。」と、食事時に宣言しておきました。これで、邪魔は入らないでしょう。うっふっふっふ。


 その日から、出来上がった小物とドレスとマントの意匠を揃えるように、ちくちく縫い縫い頑張りました。


 そうして夜会の3日前になって、やっとドレスの飾りつけが、正確には縫い付けが終わりましたー!

 魔法少女だったら、お付きの魔法を使う小動物が、ちょちょいのちょいと魔法で片付けるだろうに…!この世界には魔法も何もないから、仕方ないかー。


 そんな考えで、出来上がったと喜んで上向きになったテンションが上から下方へ向かいました…と、さ。と、ほ、ほ。


 そして、夜会デビューとなる王家主催の催しの当日になりましたー。


 ええ!昼前から風呂に浸かって、丸洗いされて、キュウリの即席漬けの様にもみくちゃにマッサージされて、軽食を食べてから、着付けに髪を結って、化粧。飾りつけをしたら、マントを羽織って、部屋に迎えに来た兄様に玄関までエスコートされました。


 玄関までエスコートをしていた兄様がポツリと一言、「私へ言ってきました。

「兄弟の中で、お前だけは今までも、いつでもお下がりで済まして、シルの時には新しく作っているだろう。

 俺も何度か言ったんだけど、父上も母上もカレンもシルも弟のフルトも変には思ってないんだ。

 何でおかしいって思わないんだろう?って思っていたんだ。兄弟で1人だけ扱いが違うのが変だって思わないのが、さ。」

 そんなに済まなさそうに萎れた雰囲気で告げなくてもいいのに。


 私はニッコリと笑って、アント兄様へ話しかけた。

「いいんです。アント兄様やカレン姉様、妹のシルと弟のフルトみたいに美人でないから、お父様やお母様が、私にはお金をかけたくないんだろうって、小さい頃から分かっていましたから。」


 今更です。今更、そんな事を言われたって、遅いんですよ。だから、続けて言いました。

「私がどこにも嫁げなかったら、この家から無一文で追い出されるであろう事も予想がついていますから。今更です。私だけがこの家にとって、有益でないのは理解していますから。

 小さい頃からその片鱗が秀才のアント兄様には見えていたでしょう?」


 そう言って、兄様がそれ以上何かしらを言えないように、私の気分が沈み込んでしまわないようにと、先手を打ちました。

 アント兄様が辛そうな表情をしたので、私の言った事を予想していたのだと分かっちゃいました。さて、気分を切り替えないと。


「前から分かっていた事を嘆いても何も変わりません。それよりも、今は、今夜の夜会の方が大事です。

 貴族の娘として、育ててもらった義務を私は果たさなければなりません。だから、今日は私のエスコート役をお願いしますね。」

 ダメ押しにニコニコとアント兄様の顔を見て、念押しをしました。


「…分かった。但し、お前が家から追い出される時は、私もお前に手を貸そう。せめて無事に働いて生きていけるように手伝うから、な。」


「その時はお願いしますね。」


「ああ。…そうだった、今夜のセレナは綺麗だ。カレンやシルにも負けていない。2人とは違う方向の可愛さがある。俺の知り合いや友人にも今夜はセレナを紹介するから、な。」


「ええ。もの好きな方がいらっしゃればいいんだけど、ね。期待しないで待ってます。」


「ああ。」


 さてさて、戦闘準備はオッケイよー!婚活が上手くいけば、無一文で放り出されなくて済むんだからー!


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