第21話
先週投稿出来なかった分とお詫びの1話分を投稿します。宜しくお願いします。
兄上が気に入っていたセレナ嬢。でも、私も彼女と出会ってから、気になってしまっていたんだ。
兄上が公爵家へ行くのだと聞いて、警護の騎士を装い、無理やりについて行ったけれど、彼女には私が第2王子だと早々にバレてしまい、結局は、兄上と一緒に、彼女の作った軽食と菓子を味わい、彼女との話に夢中になった。
彼女に会って、王城へ帰れば、愛称を呼ぶと言う目標を達成出来なかったと悔しがる兄上。
兄上を横目で見つつ、兄上の妻、王太子妃になるのを嫌がっていた彼女の事を思い浮かべ、父である陛下の元へ、彼女の事を話をしに行ったのだった。
私が父の元へ訪れると、父上は、丁度、リリーの父で、セレナの養父である公爵と話をしていた。
公爵がセレナ嬢の背後を調べ、子爵夫人と名乗っている女性が彼女の母でない事を突き止め、アントとセレナ嬢だけが、あの家で血の繋がりがないと調査結果が出てきたのだと聞かされたのだった。
私は公爵に尋ねた。
「私が聞いてもいい事なのでしょうか?」と聞くと、にこやかに笑って答えてくれたのだった。
「王太子殿下よりは第2王子殿下の方がセレナと話が合うでしょうし、セレナは、王太子妃になるのを殊更、嫌がっておりますのでね、セレナの答えを聞かずとも、自ずと答えが出るでしょう。
それに、王太子殿下のような強引な手や行動に出る殿方をセレナが苦手としているので、王太子殿下はどっちみち、分が悪いでしょうな。
ま、セレナに王太子殿下が振られるのは、確実だと陛下とも話していた所でしたので、ビートエンドラ殿下がお気になさらずとも、誰がセレナの心を射止めるのかが養父としても理解出来ますからね。
ケイン殿と殿下のどちらかだと予想をしていましたが、ケイン殿では、血が濃くなり過ぎるので、陛下とも遠慮したい事態だと言っていたのですよ。だから、殿下には義娘の夫になっていただきたいと期待しています。
あ、妻と王妃様のせいで、私はしばらく王城で生活しますから、相談があれば是非、相談して下さいませ。セレナの好む物をお教え出来ますので。」
…夢だろうか?私が兄上よりも、セレナ嬢の好みだと?!ケインは除外される対象だと?!
父や公爵が話している内容を聞きつつ、彼女が産みの親との対面をする場に立ち会う王家の者を私に指名する所までがその場で決まってしまった。
セレナ嬢の生まれた背景や、その家関連でのきな臭い話を聞いてしまったが、それらを兄上に話すつもりは一切ない。父である陛下も公爵も、王太子である兄上には話さないと言ってくれたので、相応しい時が来るまでは、私もこのままでいよう。
そうして、ケイン殿が電撃結婚をした相手が母親程、年の離れた女性であるのだと言う話が王城を圧巻した日の夜、公爵家で、アント殿とセレナ嬢の産みの親との話し合いの場が持たれたのだった。
もちろん、私が王家からの立会人として、同席した。
セレナ嬢には酷な事実であったが、産みの親の思惑通りに生きる気はないと決別し、籍も公爵家にあるので、産みの親とは関係もなくなったと公爵も公爵夫人もバッサリと彼女の産みの親との縁を切りまくった。
ドリー侯爵家が何もしなければいいがとの不安を残したが、一応、これでこの件の終着を迎えた。
泣いているセレナ嬢を慰めているうちに、ずっと私の腕の中で泣いている彼女の涙を止めたい、彼女を自分のモノにしたいという気持ちを抑えきれず、勢いでキスしてしまった…!
彼女の「初めてだったのに…」と言う言葉で、我に返ったが、謝るつもりも諦めるつもりもない。ケインは自分でセレナ嬢へ向かう気持ちを捨てたのだ。遠慮はしない。彼女を好きだと言う気持ちを表に出すぞ。
…そうして、彼女と私との茶会をする予定を尋ねる手紙が私へ届いた日。
兄上は、公爵家に約束もなく、無理やり押しかけたが、公爵家では彼女と会えず、公爵夫人と王城へ戻ってきたのだ。
公爵夫人と王妃との茶会に参加していた私の所へ兄上が夫人と一緒に戻って来た。
私だって、今すぐにセレナ嬢と会いたくて堪らなかったのだ!それを我慢していたのだぞ!兄上は酷い!
王城へ戻ってきた公爵も私や王妃の居る所へ来て、彼女の気持ちを伝えに来たのだった。
王太子妃になる気はない、王太子殿下の名も覚えていない程、王太子殿下に興味がなかったし、強引な性格が苦手なのだと彼女が溢していたのだと聞かされた兄上は、その場で落ち込んだ姿を見せた。
陛下もその場にやって来た。この場にいるのは、公爵夫妻、私、陛下に王妃に兄上だ。
陛下からも王妃からも公爵家へ無理に押し入った事のお叱りを受け、彼女を諦めるようにと言い聞かされた。その上で、王太子として、国政に有利となる所からの姫君との政略結婚をするようにと王命を下され、近衛騎士達に連れられて、その場から出て行った。
これから兄上は自室での見張りを強化されて、当分の間、軟禁状態とされると聞かされた。
日頃から、弟達だった私達へ強引な手で、言う事を聞かせてきたり、好物を取り上げてきたり、兄上が一番偉いのだと言う態度でいた今までの罰が当たったのだろう。好きになった相手に好かれなかったのだから。
全て、兄上の自業自得だな!
強引な性格も国政や貴族達とのやり取りでは必要なモノだろうけれど、セレナ嬢との間では、不必要でしたね!
私だって、必要があれば、強引な手を使う時もある。それでも、下の弟達に対する兄上の強引さを許せはしなかったし、何度も止めていたのだから。そのせいで、私が兄上に使われる羽目になった事もあったのだ。
まさか、兄上と好きになった女性が一緒になるとは思わなかったが、兄上は嫌われ、私がすかれたのが、兄上の強引さの性格のせいだとすれば、同情は出来ない。
陛下からも、公爵からも、セレナ嬢との婚約をする旨を記載した紙に署名をするように言われて、その場で自分の署名をした。セレナ嬢の署名がしてあったのを見ただけで、じわじわと嬉しくなった。
王である陛下の了承もある。これで、彼女と私の婚約が調ったのだ。嬉しい…!!!!
…そうして、その翌日、公爵家での茶会で、セレナ嬢の健気さに胸を射られた。
私が食べるものを手作りしてくれて、甲斐甲斐しくお茶を淹れてくれる。緊張して昼食を摂れなかった私を見越して、シチューまで用意していてくれたのだ!どれも美味しいし、その気持ちが嬉しくて堪らない!
彼女からの愛称呼びも決められたし、彼女をセレナと呼べる立場になれたし、地に足がついていない感じでフワフワしている!
セレナと沢山のキスをした!!幸せだ!ただ、理性を保つのが大変だったけれど。彼女が幸せそうだったので、婚姻まで我慢するのだ!
…ただし、私達のキスを見ていた覗き魔がいた!
母上と夫人だったので、父上と公爵に交流の邪魔になるのだと教えておいた。次からは覗かないでいるだろう。
父上からは、古参の口の堅い既婚の侍女に、王妃とキスをしていた、閨ごとの最初の方だけを覗いてもらい、彼女の恥ずかしさを王妃に理解して貰ったがな。と、謎の自慢をしていたが。
父上は、変態であったか…。残念だ。
それからすぐに、私とセレナの婚約が正式になったと発表された。余計な手を出されないように、彼女は公爵家で静かに過ごしているのだと公爵に聞かされた。
私も自分の仕事と、彼女と婚約した事で生じた雑務をこなしながら、いくつかの夜会へ参加していた。
彼女には会えない日々が寂しく、会いたくて堪らなかったが、耐えた。兄上を刺激しないようにする意味もあったのだから。婚約しても仕事で会えないと言う姿を見せて、兄上の留飲を下げさせる為に。
はぁ、兄上が面倒。下の弟達が私を慰めてくれるが、会えないのはツラい。
私から彼女へは、毎日、小さくてセレナのように可愛らしい花束と会いたいと書いたカードを添えて贈っている。
彼女からはお返しだと書いてあって、ありがとうのカードと一緒に、刺しゅう入りのハンカチや差し入れの小さなお菓子が届けられていた。
そんな日が続いていたが、彼女から、公爵家の持つ商会で取り扱っている髪を洗うシャンプーやリンス、ハンドクリームに香水が届けられた。彼女だけしか使えない香りのシリーズ一式と書き添えてあった。
同封されていた彼女からのカードには、「貴方の香りに包まれる日を楽しみにしていますわ。」だった。
「うおわーっ!!」と声を上げてしまったが、嬉し恥ずかしの贈り物だ!彼女と同じ香りを私へ使って欲しいのだと、私と同じ香りをまといたいと(一緒に暮らしたいと)の意味が込められているのだから。
会えないのが彼女も辛いと思ってくれているのが理解出来たので、急いで、彼女に贈る物を用意した。
その贈った翌日に届くようにした。いつもは小さな可愛らしい花束が、大きな花束とペンダントになるように。
ペンダントは、ペンダントトップが私の瞳の色と同じ宝石で出来ていて、金色の鎖が私の髪色と同じ色で、彼女が身に着けると、彼女が私のモノだと言う私の執着が分かる代物だった。
彼女が気に入ってくれるといいが。
メッセージカードには、「早く君と同じ匂いをまとって一緒に眠れる仲になりたい。」と書いた。
その日のうちに彼女の家から、お礼の手紙だと言われた手紙が届けられた。
私は我慢出来ずに、執務室の隣にある仮眠室で、こっそりと彼女からの手紙を読んだ。
「愛しのビエンド様
毎日の可愛らしい花をありがとうございます。今日は、とても嬉しいものを頂きました。大事に身に着けて、過ごしますね。
会えない寂しさを感じていますが、私も自分の出来る事を頑張っています。
ビエンド様はお仕事のし過ぎで身体を壊すような、無茶や無理をしないで下さいね。
また会える日を楽しみにしています。 ビエンド様が一番大好きだと思っているセレナより」
なんて可愛らしい手紙だっ!会いたいっ!うおーーーーーっ!!!となった。叫ぶ訳にはいかないので、仮眠室のベッドの上で、ひたすらにゴロゴロと転がった。
ゴロゴロと転がったおかげで冷静になれたが、執務室へ戻った時に、同僚達に「どうしたんだ?」と不思議がられてしまったのは、少しだけマズかった。言い訳をして、誤魔化したけれど。
王子としての威厳を保たねばならないのだから。