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第18話

 私が本を読んでいると、ドアを叩く音がしました。


「パパだ。もう廊下には予定のない来客もいないから、開けても大丈夫だ。」


 ここでパパが来たからと安易にドアを開けてはならないのデス。侵入してきた者達の陽動の可能性を捨てきれないからだと言われているのです。はい。


 執事の寄越した目線に、無言で頷いた。確認をするから、逃げ出せる用意もして欲しいとの目線だった。


 王子妃になる教育では危機管理をするのも、男女の区別なく必要で、当たり前の事なのだからと仕込まれた。


「セレナお嬢様、私共が部屋から出て、まずは確認致します。」


 執事の固い声にもう一度、私は用意が出来たと頷いた。


 侍従と侍女で組んで、部屋のドアの側で待機している。私には、私を守るかのように何人かが私を囲んでいたから、ドアを開けるように指示したのでした。


 一組の男女が部屋から出て行きました。二組目の男女もすぐに出て行きました。


「左右に分かれて、安全確認をしております。セレナお嬢様はしばしこのままで、お待ち下さい。」


 二組の男女が程なくして無事に戻ってきました。私を見て、ニッコリとして、部屋の外が安全だと伝えて来たのです。


 私もニッコリとして、部屋の外が安全だと理解しました。


 その男女二組と一緒にリリパパも私の居る部屋の中へ入ってきていましたけれど。


「セレナ、怖かっただろう。よく耐えたな。」


 パパは、私を褒めてくださいました。貴族女性なら、こういう事態になったら、パニックを起こして、気絶する方が多いのだと教えてくださいましたけど。

 パニックのあまり、飛び出してしまい、侵入者に殺されるご令嬢や夫人もいるのだ、実に嘆かわしいとパパは続けて言っていましたね。


 公爵家の娘としては、私の行動の仕方の方が正解だと言って、もう一度、褒めてくださいました。


「ママが皆に、私を鍵のかかる丈夫な部屋から出さないようにと、何度も言って出かけてくださったので、大丈夫でしたわ。怖かったのは、否定しません。本当に怖かったんですもの。」


 思い出して、ブルっと震えた私をリリパパが私の頭を撫でて慰めてくれましたわ。


 私の味わった怖さを消して、安心させるように。小さい子供の様に、何度も撫でてくれました。


 子爵家でも頭を撫でて褒めるなんてされた事も無かったけれど、前世の記憶と、頭を撫でられた心地が良かったのが嬉しかったので、パパにお礼を言ったのです。


「パパ、私は頭を撫でてもらった事が無かったので、嬉しかったです。ありがとうございます。


 それと、どうして第1王子様、ええと、王太子様がドアを壊す勢いで音をたてていたのはどうしてですの?帰られたのも分かりませんでしたわ。


 それに、王太子を続けられないような醜聞を起こす王子だとバレたら、第1王子様はマズいのではないのでしょうか?」


「ああ。王妃様とママと一緒に王妃様の個人的な茶会に王太子が参加していたことにしたそうだ。ママが一緒に王城に戻って行ったから、もう大丈夫。今はもう、何も無かった事になっている筈だ。」


「そうですか。」


「ママに聞いたけれど、セレナの気持ちの通りに婚約を進めていいと聞いたが、いいのだな?」


「ええ。お願いしますわ。

 申し訳ないですが、王妃になる可能性のある方とただの王子妃との責任は雲泥の差であるのだと思います。


 私に対しての好意を持ってもらえるのは嬉しい事ですが、私自身でも呑み込めないと言う線引きがあるのですわ。無理なモノは無理なのです。


 私は、自分の身の置き所と立場を理解しているからこそ、最初のうちは、ケイン様を選ぼうとしたのですが横やりされて、それが出来なくなりましたし、私を産んだ方の者になったケイン様に大層、失望しましたの。


 私がケイン様との婚約が叶わないと知ったのもあり、一気にケイン様に対する好意が、淡い気持ちが、すっかり覚めてしまいましたわ。


 その時に私を慰めてくださった事が切っ掛けになったとはいえ、ビートエンドラ王子様に淡い好意を持ちました。

 だから、今度は誰かに私の好意や婚約を邪魔をされたくなくて、最初から私の気持ちを正直に言って、ママに相談したのですわ。」


「王太子様の名前をセレナは憶えていないのかい?」


 う、うぐ、痛い所を聞かれたわー!こうなったら、ぶっちゃけるわよ!パパ!ごめん!


「…貴族女性としては致命的でしょうが、王妃と言う地位に興味が無くて、最初から王太子様を除外していましたし、ただ単に、王太子様と呼んでいたのもあって、あの、名前を忘れてしまってます。ごめんなさい。

 公爵家の娘としては申し訳ないと思っています。」


「ぶわっはっはー!!名前さえ覚えてもらえてなかったとは!わっはっはー!!笑えるじゃないか!ぶはっ!」


 公爵家の娘としては、王太子の名を覚えていないのが申し訳なくて、ただただ赤くなって、頭を上げられずにいました。恥ずかしい。


 リリパパもリリママも私の為に家庭教師をつけて、学ばせてくれたのに!ごめんなさい!


「いやー、笑えたよ。して、第2王子以下の名は覚えているかい?」


「…はい。頭脳の第2王子と言われているビートエンドラ様。

 脳筋で、婚約者に頭が上がらないのは第3王子のブライトン様。

 王太子様の予備の扱いをされている第4王子様は、婚約者がいらっしゃるのを内密にされているベントルック様です。」


「ぶはっ!わ、分かった、分かった。王妃様からも陛下からもセレナの婚約については今日のうちに正式な了承を頂いているのだ。

 ただ、王太子様が邪魔をする可能性があるので、ビートエンドラ様を我が家に呼んでの交流となるだろう。セレナはそれでいいな。」


「はい。お願いいたします。」


「ビートエンドラ王子は、今日は手紙をもらえた事で我慢をしたようでな、明日の午後、訪問されると私達に言付けされている。

 パンにはさんだ料理が気に入ったのだと言っていたよ。」


「はい。明日はパパの分の昼食も同じ物を用意して、届けてもらえるように手配致しますわ。」


「そりゃ、楽しみだ。娘のおススメを楽しみにしているよ。

 あ、それと、リリーやアント殿だけでなく、この家とセレナの護衛も増やしたからね。執事から紹介させるので、夕食後に応接間へ行ってくれ。」


「はい、分かりましたわ。危険を避ける事も私の義務と権利ですのね。」


「リリーの時は、護衛を増やすだけの事でも反発して凄かったが、アント殿が一緒だと素直に頷いてくれるので、助かっているよ。」


「まぁ、リリーったら、パパに甘えてワガママを言ったのでしょう。義姉様なのに。結婚も控えているのに、ふふっ、可愛らしい事をされるのね。」


「セレナがパパを慰めてくれたから、気が軽くなったよ。ありがとう。料理長には、パパの方から料理の材料などを用意するように言っておこう。」


「パパのお気遣い、助かりますわ。ありがとうございます。パパとママのおかげで何事もなく、過ごせることが出来ました。ママにもお礼を言っていたとお伝え下さい。」


「セレナは自分の部屋に戻って、ゆっくりしなさい。この部屋にいる者達から詳細を聞いておかないといけないからね。私と話をする予定なんだ。」


「それでは部屋に戻って、ゆっくり致しますわ。皆様、私は先に失礼しますわ。」


 セレナが部屋の外で待機していた執事の案内で自分の部屋に案内されていった後、その部屋の中に入れ替わりで入って来た侍女長と執事長の笑顔が冷たかったのは、その部屋の中にいた者達しか知らないのであった。


 もちろん、リリパパからの説教をされた者達と、お褒めの言葉をもらった者達との違いがあったようだが。


 セレナは、そんな事になっているのも知らず、明日のビートエンドラ王子の訪問を楽しみにして、その日を過ごしたのであった。

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