表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/21

第14話

宜しくお願いします。

「いつの間に、父とエレイン嬢との間に愛情が芽生えたのかは知りませんが、父と彼女は、侯爵家と王家しか知らない極秘にされた結婚をしました。


 私と、今は商家の入り婿となった末の弟は、2人の結婚についての反対もしませんでしたし、末の弟を産んで、亡くなった母の代わりではなく、一人の人を愛せる父の姿に安心もしました。


 そんな時、エレイン嬢の父上が病になり、後継ぎが必要になりました。この国では、女性が爵位を継げる条件が、息子が幼い場合の代わりだと知っていたので、エレイン嬢は、アント殿を産んだのです。


 エレイン嬢が実家の爵位を継いだのと、後を継ぐ孫が生まれたのに安心したのか、エレイン嬢の父上は程なくして亡くなられたのだ。


 アント殿の命をエレイン嬢の身内で、爵位が欲しいと思っている者達から守る為に、父との婚姻をしている事実を隠していたのだが、アント殿の乳は誰なのかを探る手合いが増えてしまって、収拾がつかなくなったんだ。


 アント殿の父を名乗る馬鹿な貴族の次男以降が何人も出てくる始末でね、王家にも相談してある許可を得たんだ。

 それで、エンデューロ子爵家の嫡男との婚姻をした振りをしてもらったのだが、子爵家の今のご当主はその詳細を知らなくて、エレイン嬢と結婚しているのだと思っている。


 その事実を子爵家の先代のご当主である方は知っていて、援助金との引き換えに、父からの依頼を引き受けたんだ。


 エレイン嬢によく似た、一代騎士の家の娘を身代わりに用意して、同じ名前になるように、改名までさせてね。


 エンデューロ家にいるご夫人は、エレイン嬢の振りをすると言う事で、最初から話がまとまっているんだ。貴族の生活がこの先も出来るならって。


 だから、エレイン殿と身代わりの夫人が時々入れ替わって、子爵家の内情をエレイン殿が視察していたんだよ。」


「アントとセレナは、私が産んだ旦那様との間の子供なの。あとの3人は、私の身代わりとなった彼女が産んだ子爵家の子供だから、あなた達とは兄弟ではないの。

 あの子爵家からあなた達が放り出される所までが、今は亡き旦那様との計画だったわ。


 でもね、あなた達が私の手を取らないのだと知ったからこそ、私が家を継ぐ子供を新たに必要とする羽目になったのよ。


 結婚した愛する旦那様は、もうこの世にはいないの。だから、彼の系譜につながる者の中から再婚する相手を選んで、再婚したの。」


「彼女は、愛情表現が下手なんだ。子供に接するのに今でも迷う程でね、セレナ嬢に間違って暴言を吐いたとずっと後悔しているんだよ。

 許せとは言えないが、忘れる努力をしてくれないか?」


 そんな勝手な事を部外者で、子爵家の内情を詳しく知らない人に言われたくはないっ!私があの家で付けられた沢山の傷を無かった事には出来ないわ!今更、消せないの!


 あの家から離れられた今でさえ、夜ごと、悪夢に(うな)されているのよ!無理っ!!出来ない!


 図太いと見えてるおばさんだってね、傷付かないでいられる訳じゃないの!傷付いたのを見せていないだけだから!


 …内心はともかく、私は、私にそう尋ねた侯爵に、首を横に振って、忘れられない、許せることが出来ないのだと表現したのだった。


「ドリー侯爵は、無神経でいらっしゃるようだ。彼女の受けた傷は深く、数も多いし、エレイン殿からの正式な謝罪もないのに、無関係な公爵殿に許せと言われるとはね。


 当人でないのに、許せと言うのは、おかしい話だろう?

 セレナの受けた傷は外から見えないんだから、君がセレナの気持ちを許すと言えるような事でも立場でもないんだよ。


 ああ、ケイン殿も、うちへの出入りを明日から禁止するからね。

 娘達の敬称を呼ぶのも、この場限りとさせてもらおうか。


 何せ、うちの娘よりも、年増の、それも母親と同世代の女性がイイと言う見る目のない男など、娘の近くに公爵家当主でも醜聞が怖くて、遠慮させてもらうよ。万が一、娘達が貞操の危険を受けたらと思うと、安心も出来ないんだよ。


 リリーはね、結婚も決まっているし、セレナも王子達に求婚されているんだ。間違いがあっても困るからね。今後は近寄らないでいてくれたまえ。


 ケイン殿も、ご当主の駒にされただけでも、王太子が嘆くだろうねぇ。自分の側近を駒にされたんだから。

 本人の同意なく、婚姻は出来ない事になっているので、年増の手管に落とされたのかな?君が30を超えた時に、結婚相手が幾つになるかを考えなかったんだね。ま、その頃に、言いなりになった自分をたっぷりと後悔すればいいさ。

 ドリー侯爵家とは、アント殿を婿にするまでの付き合いとさせてもらおうか。それ以降は、貴族間でのありがちな付き合いに留めるのでね。


 ドリーは、大事にする者を間違えたと、後悔するだろう。


 それを踏まえて、エレイン殿は何か言う事があるだろうか?」


「いえ、ありませんわ。謝罪も不要みたいですし、(こじ)れた原因が言う事を信用出来ないと思われるでしょうから。」


「アント殿のついでに、セレナを産んだかのような物言いには、同じ母親として、呆れましたわ。

 あんなに良い子を授かっていて、潰してしまうか、逃げ出されてしまう所だったのよ。勿体ないわ。


 手放す気があったなら、もっと早くから私の子にして、褒めて愛して、もっと素敵な子に育てられましたのに、残念ですわ。


 私、セレナやアント殿の母親には、お会いするまでは、これでも期待していましたのよ。

 期待を悪い意味で裏切るとは思いませんでしたけれど。リリーの義母にも相応しくないようですわ。


 主人の言うように、私も娘達も従うつもりですの。ご用事がお済みになられたようなので、もう皆様も帰られますわよね。」


「お客様のお帰りですって。馬車の用意を迅速にして…!

 私の義妹には、今後、近付かないでくださいませね。」


「子爵家の居心地が悪かった理由が知れました。だから、見せかけの養子とする書類に私の署名が必要だった理由が理解出来ましたよ。

 リリーと結婚する幸せを、セレナが、親達の尻ぬぐいをこの先もさせられなくて済む事を感謝しています。

 ケイン、私との友情は今からもうなくなるけど、仕事では差し支えない会話をするので、大丈夫。」


「私も、あの居心地の悪い家から追い出される前に、公爵家の養子になれて良かったと今では、とってもとっても、思いますわ。


 さようなら。


 育ててもらえた分は、あの子爵家で10年近く、下働きをさせられていたから、返せていると思いますわ。


 私の食事も、3回に2回は抜かれていたし、1日に1回が当たり前でしたのよ。

 服も年に一回しか買ってもらえなかったので、親戚や姉達のお下がりでしたわ。家庭教師も最低限を教えたら、いなくなってしまったので、生き延びる知識を増やすのを目標に、ひたすら、本を読んでいたわ。


 そんな中で暮らしていたのですわ。姉や妹には馬鹿にされ、専属の侍女も1人だけ。弟には、失敗やミスを私のせいにされるだけで、八つ当たりをされるだけだった。両親は、私をいない者と扱う家に比べたら、この家は天国ですわ。


 ですから、エレイン様にドリー侯爵家にこれから先も、係わりたくないのですわ。どんな迷惑や不幸を押し付けられるのかと落ち着きませんもの。だから、許せないし、忘れられないのですわ。


 私の気持ちをお分かりいただけるかどうかは別として、ケイン様を第一候補にしていただけに、残念ですわ。

 さようなら。二度と声をかけないでくださいませ。


 エレイン様、私の事を自分の子だと思えないと、要らない子だと、産むんじゃなかったと散々、子爵家の皆様の前で、長い時間、罵倒して、私が気を失うまで続けた事を私は一生忘れませんわ。


 だから、もう、貴族の集まり以外で、あなた様にお会いしたくないのです。さようなら。」


 私が言うのを待っていたかのように、唖然としたままのドリー家の皆様が執事や従僕の強引な案内で、応接間から出てゆき、帰っていかれました。


 立会人を務めていた第二王子のビートエンドラ王子様が、私に寄り添って、私の頭を撫でていてくれました。涙がポロポロと(こぼ)れていきます。


 キョロキョロと見回す余裕が出来た頃、気付けば、王子様と私しか、応接間にはいませんでした。


「セレナ嬢が泣けるようにと、私を残して、出て行ったんだよ。優しい家族に、私も入れて欲しいと思ったんだ。

 エレイン殿が酷過ぎて、引いたけどね、ケインもよくあんな年上の女性と結婚する気にもなったもんだ。今日一日で、アント殿との友情も、王太子である兄上からの信用もなくしてしまったようだけれど。」


「泣いているご令嬢を慰めるには、相応しい言葉だとは思えませんが、私にだけは効いたようですわ。


 ありがとうございます。」


 お礼を言ってから、涙を拭きました。口紅だけの薄化粧だったので、化粧崩れで、お化けのような顔にはならなくて済んだので。若いっていいですよね。


 ビートエンドラ王子を見上げたら、目が離せなくなりました。段々と、王子様の顔が私へ近付いてきます。


 アップのイケメンが眩しくて目をつぶると、唇に温かく柔らかい何かが触れました。


 あっ!と気付いた時には、王子様に抱き締められていました。甘酸っぱいです。照れますわ。初めてのキスですもの。


「初めてだったのに…。」と呟いた私の声に応えて、上から声が聞こえました。


「嬉しいよ。」って。これでは、好きになってしまうわ!胸の音がドキドキと大きくなって、王子様に聞こえているんじゃないかと思ったぐらい。


 抱き合ったままでいたので、安心したのでしょうか。私、王子様の腕の中で、眠ってしまうと言う失態をしてしまったようです!


 朝食の席で、にやにやしたリリーから、揶揄(からか)われましたんで!それで、昨夜の事を思い出したんですっ!


 起きた時に、自分のベッドの上だったので、深く考えなかったせいです!どうしましょう?!


 は!こういう困った時は、リリママに相談しましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ