第13話
遅れましたが、宜しくお願いします。
アント兄様と一緒に帰宅した人は、私の婚活本命だったケント様と、まさかここで会うとは思わなかった、私を産んだエレイン様と言う名の母親でした。
その2人の後ろから、ひょっこりと姿を現したのは、ケイン様の父上であらせるドリー侯爵家ご当主のヘイルズ様で、私は混乱してしまいました。
私の元の家だった子爵家でも、子供であった私でも、夜会デビューの時は別とすれば、お母様を見る機会が娘の私には、あまりなかったのです。
それでも、私を自分の子供だとは思えないとエレイン母様に、家族みんなの前で、私一人だけを罵倒してきて、それも、私が気を失うまで続けたのですから。
小さな頃の私が受けたあの日の悲しさを私が忘れた事はないし、家の中ですれ違っても、いない者のような扱いだったのです。
それなのにどうして?どうしてここに来たの?また私を馬鹿にするつもりで、ここまで来たの?という気持ちが胸の中に溢れ、私を揺さぶっていたのです。
その動揺した私の気配を隠すようにした理由は、私の女としての意地でした。
だって、ケイン様と一緒に訪問をしてきたのが母様だった時点で、ケイン様の結婚相手がエレイン母様だと理解して、相手が母様だと直感でも思えたのだから。
家で惨めな扱いを受けていた私はね、この家に来てから変わったの!私本来の姿と気持ちで生きていけるようになったんだから!だから、母様なんかには負けないわ!
いいなと思ったケイン様だって、私の婚約者候補だっただけだから!余裕よ!と気合を入れ直したわ!
余裕がない時ほど、余裕を持っていそうに振舞えるのがイイ女よ!
だから、いかにも、急な訪問をされてまで、どうしたのでしょう?と言う分からない振りをした私は、来なければ良かったのに。母様に二度と会う気はなかったですわ。という意味を込めて、ニッコリと冷たく見えるように微笑みましたとも!
もっと笑え!笑うんだ!私!
若さと女としての立場も、母様のような年増に、私が劣っていないのだと言う余裕を見せるんだ!
私を育児放棄して無視していない者扱いをしていた母様なんぞに、自身の婚約者候補だった男を取られて惨めだと思われないようにするんだ!
エレイン母様なんぞ、前世と今世を足したら、私よりも年下なんだから!私の方こそ、年上の余裕を見せなくてはいけないわね!馬鹿にされちゃ堪らないわ!と気力を奮い立たせた。
皆に分からないように、落ち着くようにと願いを込めた小さな深呼吸を一つしてから、来客である方々の為に、案内の言葉を述べました。
それは、成人したばかりの貴族のご令嬢が、急な訪問者に驚いたのだと見えるようにして。元庶民だったおばさんでも、生まれ変わったし、年増の貴族には負けないんだからと、更に、気合を入れたんで。
「ようこそ、皆様。我が公爵家へいらっしゃいました。」
リリパパもリリママも、それに、親友で義姉のリリーも、私が話している間は黙っていてくれました。
私と母様の間にある確執についても、私から家族となった方々に、養子になってからすぐに話してありましていたからか、私が話すのを待ってくれています。
優しい人達と家族になれたのを感謝しつつ、公爵令嬢としての自分を演じ続けます。
カーテーシーでご挨拶をしてから、私が義娘として、公爵家を訪問された人達へ向けて話す、残りの言葉を言いました。
「今夜は、私の事とアント兄様の事で訪問されるお客様がいるのだとお義父様から前もってお聞きしておりました。ですので、娘である私が皆様をご案内いたしますわ。
今日のホストは私ですの。
この家の娘として、今夜の訪問した方々の接待を家長であるご当主様から任されましたの。よろしくお願いいたします。
ですが、私、成人したばかりの未熟者ですので、未熟な私の後見と保護者として、この公爵家の家族を同席するのをお許し下さいね。」
初めての接待を任された、嬉し恥ずかしの乙女が、頬を少しだけ赤く染めて、年増には出来ない若さを前面に出しながら、ニッコリと笑って、皆様を応接間にご案内しました。
「ほぉ」と言うどなたかの溜め息を聞かなかった振りをして、愛想を振り撒きましたわよ!
前もって、侯爵家の方々が訪問されるのを聞いていたので、ティーワゴンの用意と執事と従僕を応接間に配置していましたわ。
侍女は余計な話や尾ひれを付けたおしゃべり好きが多いので、同席すらさせたくないし、させません。
多分、これから話し合われる事は、他言無用な話でしょうし、この事を黙っていられるような人選をお義父様がして下さいましたので、その選ばれた執事と従僕だけをこの部屋に入れていたのです。
お義母様からは、どういう物を茶菓子として用意したらいいのかを実践で教えてくれたのです。
それと、厨房での手配の仕方を教えてくれて、私の補佐までしてくれました。
それから、この場での立会人として、第2王子のビートエンドラ王子が応接室で待ってくれていました。
これもお義父様の采配ですわね。
私や、リリーの婿になるアント兄様が不利にならないようにと言う配慮からの手配ですもの。
ビートエンドラ様も王家も、宰相補佐のケイン様の突然の婚姻の詳細を知りたいでしょうし、ね。良い配采です事。
私は、皆様にお茶を淹れた執事が、従僕に茶を配らせ終えたとの合図をされたので、口を開きました。
「今宵は、我が公爵家へようこそいらっしゃいました。皆様のご訪問の内容まではお聞きしていない為、茶会と同じ用意しかしておりませんが、酒の必要な話ではないのだと教えられていましたので、ご希望する方だけには、酒を飲めるように手配しておりますわ。ご遠慮なさらずに、仰って下さいね。」
乙女の全開笑顔で、微笑んでおいた。
「では、司会の方を立会人である私が受け持とう。皆、異論はないな?」
「殿下にお任せいたします。」
「ええ、お願いします。」
この場での権力の高いお二人、そのお義父様とドリー侯爵家ご当主のヘイルズ様が同意したので、他の人達は異議を言い出せませんから。
「では、この度の王太子付きの側近であるケインの突然の結婚についてと、アント殿とセレナ嬢についての話もあると聞いている。説明の最初の方は、ヘイルズ殿の方からされるそうだと聞いている。
ヘイルズ殿、頼む。」
「私、ヘイルズが息子、ケインも詳しくは知らない事情をお話しいたしましょう。
私には不出来な弟がいました。その弟は、若い時から女性にだらしない男でしたから、今はもう廃嫡され、ただの平民となった後に、平民の妻をとられた何人かの男達と揉めていましたし、最後は誰かの連れ合いにでも刺されたようで、野垂れ死にしたと連絡が来ましたよ。遺体を引き取って欲しいからって。
その愚弟がエレイン嬢の元婚約者でした。
エレイン嬢の家は、この国の侯爵家のうちの一つであり、一人娘だったせいで、公爵家には入れる婿を探していました。だからか、私の父の強引さで、その愚弟の引き取り先になったのです。
ですが、その時の弟は、とある平民の娘に夢中で、合間に何人もの平民の娘や妻をつまみ食いしている状態でした。
その挙句、あろうことか、愚弟からエレイン嬢に婚約破棄を一方的に告げて、逃げ出しました。
そこまで酷く愚かだと思っていなかった私と父に残されていた手段は、愚弟を廃嫡するしかなかったのですよ。
エレイン嬢の家の怒りを収め、エレイン嬢を慰めたのが、愚弟との婚約を強引に押し進めた父でした。」
「とても素敵な方でしたわ。」
頬を赤くした年増の女に言われたくない台詞だわ!それよりも、気になる続きをカモン!
先週の分と今週の分とで、あと1話、投稿予定です。