第1話
「あーあ、せっかく魔法のある世界にでも生まれ変わっていたのかと思っていたのになぁ。」
前世の記憶を持って生まれたのにもかかわらず、私は普通だった。茶色い髪に緑色の目をした少女。それが私。
魔法もなく、かと言って、前世生きていた世界よりも遅れた文明の国の一国に生まれ変わっただけで。
物心がついて、自分が違う世界に生まれ変わったのを自覚してから、その重い事実を知った時、とても落ち込んだ。
それこそ、その日に一杯頭を使ったというか、その前世と今世の違いを知り、ショックでその日の夜から知恵熱で、1週間も寝込んだっけなぁ。
その事は、私にとっては悲しい思い出の1つだけど、住めば都って諺通りに、そのうち、そんな事も気にならなくなって、この世界でこれからを生きていくのだと心に決めたのだった。
そうだ、この世界には日本という国はないけれど、私の住んでいる国はclouder国と言って、惑星の名も定かではない。
なんていったって、地動説が嘘であり、天動説が本当であるとされているし、その上、この私達が住んでいる大陸の先の海の向こうには大きな滝があり、その先はないのだと言われているのだ。
ある意味では潔いよねー。開き直りとも言うかもしれない。
ここは地球という名の惑星ではなく、日本という名の国もない。だから、幼少時は心細くて、大好きだったご飯が恋しくて、米を手に入れたかった。でも、どこにも見つからず、私はガッカリしたっけなぁ。
そして、この世界の各国には身分制度があり、庶民と貴族、王族が暮らしている。
前世ではそんな身分なんてなかったけれど、庶民と金持ちとの生活水準の違いはあったなぁ。
そんな私もギリギリ貴族の家という辺りの、子爵家に生まれた令嬢です。
それも、兄・姉・私・弟・妹の5人兄弟のど真ん中の中間子ってやつでして。
兄は、後継ぎ。普通に優秀。秀才タイプの努力家で、顔も、10人に聞けば、10人がイケメンだと言うぐらい、顔の良い部類には入るかな。
姉は、持参金なしで嫁いで欲しいと願う者が出るように、兄の継ぐこの家の為に役立つようにと、礼儀作法やら勉強やらを沢山させて、高位貴族への嫁入りを目指し、小さい頃から努力をして育っている。両親の顔の良い所だけをとって産まれて来た、努力するキレイ系の美人。
弟は、ハッキリ言うと兄に何かあった時のスペア。将来は兄の補佐をする様にと育てられている。要領がいいから、自分の失敗やらいたずらをすぐ上にいる私のせいにして逃げていた。兄よりもイケメン度が高いせいで、女性陣からの受けが良い。ま、将来は多分、どこかの貴族の家に婿入りして、この家から出て行きそうだと私は思っているけどね。
妹は、末っ子だという理由だけでも可愛がられているし、実際、顔は可愛い。姉がキレイ系美人とするなら、妹は可愛い系の美人顔。甘え方も上手い。姉に色々と教わっているから、この娘も、将来は苦労せず、普通に良いところへお嫁入り出来ると思う。
私?あー、えーと、美人とイケメンだらけの中で、一人だけ毛色が違う。ええと、私ってさ、普通なんだよねー。
兄や姉は、「庶民の子達に比べたら、かわいいから。」って慰めてんだか、落としてんだか分からない様な褒め方をしてくれるけれど、ねー。良くも悪くも身内びいきってやつ。
貴族ってさ、美男美女が結婚して代々続いてきて出来ているモノだから、庶民よりも綺麗に産まれるのは当たり前。
そんな貴族達の中では、私はその他大勢に埋もれてしまう位の普通の顔だから。だからか、私の将来は、行かず後家になりそうだし、手に職をつけておかないと、この家からもう要らないからとばっさり切られて、サッサと追い出されそうな将来なんだよね、と、予想している。いや、想像出来ている。
姉ほど礼儀作法にも勉強にも両親共、私には五月蠅くない。
その理由としては、私にお金をかけても元が取れないのだと思っているからだと思うの。ま、両親とも、私には投資する程の価値がないって本音では思っているんだと思うけど、万が一って事もあるだろうと、貴族の娘として、最低限の体裁を整えるだけの教育はしてくれたから。
だけど、ドレスも小物やらの何もかも、姉から妹へおさがりが行き、私を素通りしていったわ。
私へのドレスは、親戚の方が不憫だと思って、下げ渡してくれるお下がりのドレスや、祖父母が年に何回か私に気を使って作ってくれるドレスしか与えられていない。
親が私に期待していない分、私も親に期待していないから、お相子だけれどね。
前世の記憶があるので、知識面でも生活面でも助かっているけどね。
ちなみに、私の前世は大卒の主婦だった。50を何年か過ぎて、子供達も自立をしたからと、ワガママな夫と意地悪な姑に振り回され我慢を重ねた生活からか、この先に控えている姑と夫の介護なんてまっぴらごめんだわっ!と、熟年離婚を計画中だった。
そんなある日、棚の上にある物を取ろうとして、乗り慣れない高い踏み台に乗って「取れた!」と思ったら、その高い踏み台から足を踏み外して…あっという間に目の前が真っ暗になった。
前世の記憶がそこまでなので、多分、打ちどころが悪かったのでしょう、そこで人生の幕が降りたのだと思う。うん、今世では同じことをしない様にと気を付けています。貴族だから、使用人達に取ってもらえますから。
私がこの家から自立したら、高い棚を使わない生活をする予定でいます。ここ、重要!!
ま、そんな前世だからか、結婚する気もあまりない。また、嬉々として嫁いびりをするような姑やら、私よりも趣味に没頭して、子育てにも無関心な夫を持つのも、嫌。自分の見る目のなさを何十回も後悔したもの。
この国は一夫一婦制度でもあるけれど、愛人や妾を持つ危険性の高い貴族となんて結婚する気にもなれない。
その証拠に、両親共、お互いに公認の恋人がいます。それでも、夜会へは両親仲良く出掛けて行きます。その神経が分からん!
そんなのを幼少時から見せられていたらさ、余計に結婚したくないって思うでしょ?
日本での倫理観が抜けないからか、私には出来ないけれど、兄妹達はそれを当たり前としているからか、貴族の結婚とは契約で、政略結婚相手と結婚して後継ぎを設けるのは一種のビジネスだと思っている節がある。
その為に、貴族では女性は処女性を重視するし、男子は娼館での手ほどきを受けても非難をされない。それでも、閨での事はおおっぴらにはしない風潮がある。
そして、両親の様に、そこまで政略結婚を割り切れない私が貴族の娘として結婚するのは無理だと思うんだよねー。
はぁー。私だって、前世の幼少時はさ、魔法少女になりたかった。
丁度、その手のテレビが盛んな時期に成長したから。高校生の時にはラノベでの異世界転生にはドキドキワクワクしていたっけ。
でもさー、生まれ変わったのは異世界でも、魔法もない文明も中世の頃のような世界。テンションも下がるよねー。そうしたらさ、後はこの世界で、平凡に暮らすだけの夢ぐらいしか残らないじゃん。
前世で、共働きで結婚、出産、子育てして忙しかったし、色々と苦労したから、今世は、仕事をしながら静かに生きていこうと思ってます。
あー、魔法がないー!悔しーいーなぁ。来世で期待するか。でも、その前に、今世で生きなければ!ね!
宜しくお願いします。