ミール中佐
サンドール王国 駐留軍司令部
艦隊司令のディートハルムは好みに合わないと装飾過多な部屋を片付けさせたため、部屋には必要最低限の家具と酒瓶しか見当たらない。そんな部屋の中、机を挟み二人の男が座っている。
「植民地クレーメンス駐留軍到着致しました。ローテル公国駐留軍、ルッツ王国駐留軍、及び貨物船も明日にはつく予定です。貨物船は銀竜が8騎輸送しており、竜母ラーサルマニスへ搭載される運びとなっております。」マレノール中尉が言う。
「銀竜?本国も大盤振る舞いだな。この調子であと500隻くらい戦列艦を出して欲しいものだが。」
「大陸軍の穴埋めのため、かなりの数が本国へ送られましたからね。そんな余裕ないのでは?」
「冗談だ。」そう言うとディートハルムは酒を煽る。
「幾らなんでも飲み過ぎですよ。」部屋に転がる酒瓶は軽く十を越える。
「目の前で、可愛がってきた部下が次々と吹き飛んでいった。飲まないと、この光景がずっと頭のなかに繰り返し繰り返し映るんだ。」ディートハルムは悲痛な表情を浮かべる。
「休養なされた方がよろしいのでは?」
「おたくの基地司令がそうはさせてくれん。」帝国各駐留軍には基地司令、艦隊司令が同時に存在する。しかし命令系統の混乱を避けるため基地司令の方が上位に置かれ、艦隊司令はそれに従うしかない。
「実戦を経験したのは貴方の部隊だけですし、基地司令の気持ちも分からないではないです。」マレノールは言う。
「お前はどっちの味方だ。第一、ミールという女軍人も実戦を経験してるんだろう?英雄に祭り上げたいのならそいつが司令を務めるべきじゃないのか?」ディートハルムは訝しむ。
「実は、彼女とは同期でして訓練で御一緒したことがあります。」
「ほぉ、どんな奴だった?美人だったか。」
「美人です。街ゆく男どころか女性でさえ振り向くぐらいの絶世の美女でした。」
「ほぉ。」
「しかし、人格破綻者です。それが、司令にさせれない理由でしょう。」
「人格破綻者?どういうことだ?」
「現在、帝国では奴隷への暴行や虐待が横行しております。」
「それでミール中佐もそれを好むと?まぁ、貴重な労働力を快楽のために損なうことは憚られるぺき行為ではあるが…。そんなのよくあることだろう?闘技場でも奴隷が死ぬのを見たがる奴等で一杯なのだし。」
「あの人の場合レベルが違います。細い魔剣で体を刺していくのです。」
「闘技場で奴隷が丸のみされる方が刺激的だと思うが?」
「中佐は医学にも精通しているようで、上手に急所を避けて何回も何回もぶっ刺して…。それで、死にかけたら治癒魔法と輸血で生き長らえさせて、それでまた何度も何度も…。私は耐えきれず、トイレに行く振りをして離れました。ですのでこのあと、何がどれぐらい起こったのかは分かりません。」
「やはり、よく分からんな。闘技場と何が違うのだ。」
「そういうのが好きな連中は喜んで、囃し立てながらそれを見ていたのですが、休み明けにそのうちの半分が鬱病により除隊。もう半分は市民を殺害して逮捕、もしくは治安兵との戦闘で死亡したようです。逮捕された兵達は、発狂していて言葉が通じる状態ではないとのことでした。」
「一体何をしたのだ?ミール中佐は?」
「中佐と私のいた班は、二週間の夏休みを貰っていました。もしかすると、拷問はその最初から最後まで…。」
「まるまる二週間、悲鳴を聴いてりゃおかしくなるのも当然だな。それで、休み明けの中佐の様子はどんなだった?」
「試験で過去最高得点を叩き出してましたね。後、凄く肌が潤ってました。」
「なんというか、中佐の人物像については留意しておこう。」
「すごく気難しい人ですから、気をつけてください。制圧軍にいたときも、司令に殴りかかろうとしたとか。」
「なんで、そんな事をして除隊にならんのだか。」
「キャルツ魔法学校時代の横の繋がりではないかと。」
「はぁ…。」ディートハルムは大きく溜め息を吐くと再び酒を煽る。
「飲み過ぎはよくないですよ。」
「お前が心配事を増やしたのだろ!」
「すいません。」
「だが、部下達の仇を討たせてくれるのならば、たとえ悪魔とでも契約しよう。」そう言うと、ディートハルムは酒瓶を片付け、仕事へと戻るのだった。




