英雄
にっぽん丸
輝いていた夕陽は地平線へ沈み、代わりに星が煌めいている。アンディーおじさんが物思いに更けながらそれを見上げているとアナウンスが聞こえる。
「間もなく東京港へ到着です。にっぽん丸は現在、武装勢力の影響により3時間の遅延が発生しております。ご迷惑をおかけすることをお詫び申し上げます。」
「もう、そんな時間か。」アンディーおじさんは荷物をまとめ部屋を出る。目的地は船上デッキだ。先日から日本という国がどのような国なのか気になって気になって仕方がない。ようやくその答えにありつくことができるということもあり、早足で廊下を駆け抜ける。
そして、アンディーおじさんは驚愕する。星など比べ物にならないほど輝く都市。そして、圧倒的な数の高層建築物。共和国の首都さえ、田舎に思えるほどの都市がそこにはあった。
「我々は、化物をこの世界に呼び込んだのかもしれんな。」アンディーおじさんは都市の美しさに息を飲むのだった。
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サンドール王国 司令部
「作戦、ご苦労だった。」基地司令が声をかける。
「労いをかけられるに値する戦果など持って帰っておりませんが。」ディートハルムは悪態を吐く。
「しかし、次は戦果をあげれるはずだ。駐留軍より抽出された150隻の船がこちらへ向かっている。最先任の貴官に司令を務めさせようと思う。」
「私は敗軍の将です。とてもではありませんが引き受けられません。それに、それだけの兵には何を食べさせるのですか?ここにはそんな兵力受け入れる余裕などないはずです。」
「徴発される民間船が中型船にまで拡大された。本国から物資も来るだろう。」
「ならば、我々が戦った意味はなんだったというのですか?なぜ、部下は犬死にしなければならなかったのですか?」ディートハルムは憤慨する。
「因果関係が逆だ。貴官らの敗北が本国にこの決断をさせたのだろう。植民地と衛星国からとの交易が滞り、商人達はかんかんだ。中には国に愛想を尽かして外国へ資産を移したり亡命を試みたりする者も出てきているらしい。勿論ほとんどが逮捕されているが、一定数は脱出しているだろう。」
「しかし、いくら150隻の援軍が来てもあの化物にかなうとは到底思えません。」必ず当たる砲撃。それが一秒に一回のペースで放たれるのだ。どうやっても勝利のイメージが湧いてこない。
「ところで、貴官はミール・シュルトハーム中佐を知っているかね?」基地司令は突如、話題を変える。
「最高学府を首席で卒業しながら、軍に入った変わった方でしたよね。帝国でも5本の指に入る魔力をもっているだとか。制圧軍の敗北により、駐留軍に左遷されたと噂で聞きましたが、それがなにか?」話をはぐらかされたディートハルムは怪訝に言う。
「応援の艦隊の副官を彼女が務めているらしい。」
「お言葉ですが、どんだけ優れた人材であろうと一人の力ではなんとも成りません。現に制圧軍は壊滅しております。」確かに部下が優秀であることは大切だが、そんなレベルではないのだ。
「分かっている。しかし、本国は彼女を英雄に祭り上げたいらしい。」
「また無茶苦茶なことを。この前も、商船一隻沈めた艦長を祭り上げたばかりだというのに。」
「それだけ劣勢だということだ。」
「最高学府を卒業しながら、前線で華麗に戦う女将校。最高のプロパガンダだろう。ああ、そうだ。内務省の広報部の役人も船に同乗する予定だ。」
「燃える戦列艦でも撮るつもりですかね?」
「そうならないことを期待してるよ。」
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サンドール王国 トランスト軍港 竜母エルケミス
古い竜母の甲板に、金髪を靡かせ一人の女性が立っている。たちまち男の水兵が寄って集って来そうなものであるが、彼らはむしろ彼女から逃げるように遠ざかる。
「久しぶりの戦場か。あのときは無能な上司のせいで全く活躍できなかったからな。今回は好きなだけ暴れさせてもらおう。」
ミール中佐はそう言うと、司令部に歩を進めるのだった。




