護送船団(上)
客船 にっぽん丸
アンディーおじさんは自室より、暮れる夕日を眺めていた。近頃、移動ばかりで疲れきっている。日本に着けばさらに忙しくなるだろう。休めるときに休むのも仕事の内だ。注意不足による失敗を二度と繰り返したくはない。
「おやっ?」アンディーおじさんは先行する軍艦が進路を変えたことに気付く。
それとほぼ同時に、貨物船や今乗船している船が軍艦と反対方向に進路を変え始めた。少し経ってアナウンスが流れてくる。
「アンゴラス帝国艦隊の接近に伴い、にっぽん丸は進路を変更いたします。ご搭乗の皆様にはご迷惑をお掛けしますことを謝罪いたします。」
アンディーおじさんは不安になる。いろいろと経験して、日本の技術力はアンゴラス帝国を上回っているだろうことは分かった。信じられないことではあるが。しかし、それでも護衛の軍艦が二隻というのは心許ない。それに加えて、アンゴラス帝国の船は木造船とは思えないくらい速いのだ。貨物船や民間船の足では逃げ切れまい。
「ゴォーーーッ」と軍艦から大きな音が響き、身を強ばらせる。
「そんな、まさか。あり得ない。!なぜ我が国の最新兵器がここに!」アンディーはミサイルが煙を引き翔んでいくのを震えながら見ていた。
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艦隊旗艦 ラーサルマニス
「竜騎士隊、全機連絡途絶!」艦隊司令ディートハルムは机に拳を打ちつける。
大陸軍壊滅を重く見た帝国政府は、佐官級の軍人にまで日本やヒルメラーゼ共和国との戦闘記録を公開するに至った。その結果は散々な物だった。千隻に近い損害を出しておきながら、敵艦は10隻すら沈められていない。純粋に帝国の有利を信じていた佐官達の衝撃は計り知れなかった。それと同時に列強の中でも1位、2位を競り合う強国というのもかつての栄光で今は序列最下位だと知った。それに加えて、本当の序列2位の国が日本を全面的に支援しているとのことだ。自らの根底にあるアイデンティティが音を立てて崩れていったかが、それでも彼らは軍人である。失意のなかでも戦い続ける。
「やはり、無茶だったのですよ。騙し討ち以外で、撃破できた戦闘行動中の敵はたった一隻。それも帝国軍500隻対敵艦2隻という戦力差でです。やはりいくら敵の数が少なくても、50隻では足らないのでしょう。」副官が言う。
「それも竜の体当たりという、狂気的なやり方でだかな。」あまりにも頼りない味方にディートハルムは溜め息を吐く。
「大陸軍1000隻を投入してすら、敵艦を一隻たりとも沈めることはできなかった。私はこんな作戦反対だった。もっと戦力を集中してから叩くべきであったのに。」
「ならば、なぜ上層部はこんな作戦を?」副官が問いかける。
「時間稼ぎの陽動だそうだ。本国では戦争が始まって数十万の兵を徴用したが、まともな訓練すら終わっていない。なにもできないひよこが鶏になるには時間がかかる。」
地球側の世界では戦争が始まってから徴兵を行うので平時は士官過多で下級兵士が少ない傾向にあるが、アンゴラス帝国始めこの世界の国々は300年も戦争をしておらずその傾向がより顕著である。
「前方より何かが接近中!」見張りが叫ぶ。
情報を公開された高級幕僚達はすぐにその正体に気付く。
「回避行動をとれ!」
50隻全ての船が進路を変えようとするが、いくら小型の船とはいえそれには時間がかかる。
「戦列艦ブランドン、コニリアス撃沈!」
「マーリス、ニールも炎上しています!」
ディートハルムは初めて見る圧倒的な破壊を前に、すくみそうになるが、それを消し去るように大声を張り上げる。
「回避運動やめ、全速前進!次の長距離攻撃が来る前に敵を射程距離内に納めるのだ!」
夕陽の照らす赤い海、ディートハルムにはそれが毒々しい血のように映った。




