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嵐(下)

黒い空の間を時々稲妻が迸る。荒れ狂う海に浮かぶ船は、まるで木葉のように頼りない。


戦列艦 ゲルトルーデ

各地の駐留軍における、大規模な配置変えと作戦変更により帝国本土の遥か南の島に駐留していたこの船も39隻の船と共に前線へと引っ張り出された。しかし、視界不良により本隊とはぐれてしまい今に至る。

艦の左面に並んでいる10門砲が発光し、光の線が前方に向かい伸びていく。そのほとんどは鉄の船を掠める子となく海と空に吸い込まれた。

「何処を狙っている!」艦長ロータル・アーメントが怒鳴る。


「船が揺れすぎて照準が定まりません!それに、現在は有効射程距離ギリギリです。当たったとしても大したダメージにはなりません。」砲術長が言う。


「なら、とっとと距離を詰めろ!」


「天然風が強いのに合成風の出力をこれ以上上げるのは無茶です。転覆しかねません。」


「ぐぬぬぬ!」もともと名門貴族であったアーメント家は彼が生まれた10年後に没落した。彼の父が事業にことごとく失敗し続けたせいだ。労働するということを考えた事のなかったアーメントは、食いぶちを繋ぐために軍に入らざるを得なくなり仕方なく入隊した。多くの貴族が駐留軍の司令官や、大陸軍の要職に着く中、彼が拝命したのは戦列艦の船長であった。財力と役職は比例するのだ。だからこそ、何かしらの手柄を立て、自分を見下した連中の度肝を抜いてやりたい。彼はそう思っていた。


貨物船 すずなみ

「また、光が来ます!」言い終わるか終らないかといところで船は衝撃に襲われる。帝国軍の攻撃が一発、右舷を掠めたのだ。


「第三区画に浸水警報が!隔壁閉鎖します。」


「くそっ!ヘリはまだか!」


「速力下がりました!」本来20ノットを出せるこの船も、各所で起こる浸水のせいで、今やその半分も出せていない。


「海上保安庁より連絡、間もなくヘリが到着するようです。」


「よし、操縦をオートパイロットへ切り替えろ 全員いるな。甲板に出るぞ。」


「はい!」



勢いよく肌に当たる雨粒が痛みを感じさせる。その間にも幾筋もの光が船の近くを通りすぎる。


「当たってくれるなよ。」船長は手を合わせ言う。


「船長!あれ!あれっ!」乗組員の一人が空を指差す。そこには待ちわびた物が居た。


「助かったのか…」

「そうだ、助かったんだ!」乗組員達は歓喜の声を上げる。


遠くに見えていた点が徐々に大きくなる。そして船の真上に陣取ったそれは、ゆっくりと降りてくる。


「お待たせしました。怪我人や要救助者はいませんか?」


「船長の神崎です。全員無事です。」


「良かった。では、急いでご搭乗ください。時間がありません。」


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戦列艦 ゲルトルーデ

「なんだあれは!」彼方より現れた見慣れぬ物体を見て、ロータルが叫ぶ。


「共和国自慢の飛行機械とか言う物でしょう。赤竜どころか白竜と比べても速度はとろいですね。」副艦長が言う。


「そうではない。あれは何をしてるかと言っているんだ!」


「船の乗組員を救助しているのではないでしょうか。」操舵士が言う。


「いや、わざわざ危険を侵してまで来ているのだ。救助せねばならないほどの要人が乗っていると見るべきだろう。」副艦長が言う。


「だったらあれが船から発つ前に沈めねば!」ロータルが言う。


「この距離と天候下では不可能でしょう。」


「だったらみすみす要人を逃がせと言うのか!」


「付近に友軍もいない以上、仕方ありません。」そう言っている間に羽虫は再び空へと羽ばたく。


「くっ!このまま追尾を続ける。魔導砲を打ち続けろ!」


その後、戦列艦ゲルトルーデは3時間ほど無人の貨物船を追い続け、ようやくそれを沈没させるに至った。この功績が認められロータルは勲章を授与され、栄転することとなる。

一方日本においては、英雄的な救出劇が話題となりマスコミに大々的に取り上げられた。映画化も予定されているようだ。だからといって安全確保を怠った政府への追求が無いわけでもなかったが、それは微々たるものだった。

後日、危険海域航行法が制定され日本近海以外の漁船、貨物船単独での航行が禁じられ、護衛船団方式が正式に導入された。今回の事件を受け、財界からの圧力なくスムーズに施行に至ったのだった。








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