嵐 (中)
日本国 首相官邸
「お忙しい中、急にお集まりいただきありがとうございます。」国土交通相が言う。
「構わん。それほど急を要するということだろ。」総理が言う。
「それはそうと環境相がまだのようですが?」総務相が言う。
「あいつは地元で演説と後援会への挨拶だそうだ。すぐに戻ると言っていたが、数時間はかかるだろう。」総理は呆れたように言う。
「こんな時にですか!」
「まったくだ。先にはじめても構わんだろう。」
「先程、アミル王国沖を巡航している巡視船が救難信号をキャッチしました。報告によりますと、輸送船すずなみがアンゴラス帝国の戦列艦1隻に追尾されているとのことです。」
「焦りすぎたな。」総理は言う。日に日に目減りする食料。どれだけ荒れ地を開墾しても、すぐに食料が手に入るわけではない。まだ田植えの時期ですらないのだ。帝国の旧衛星国であった諸外国は、当然ながらまともなインフラなど持っておらず、物流という概念すら存在していない。せいぜい行商人が荷馬車を使う程度だ。内陸部の城や農村から穀物を運搬するため、鉄道を敷設する必要があるがそれには、大量の資材を要する。
「やはり、護送船団方式にすべきだったのでは?」
「いや、それでは間に合わん。」
日本の食料事情は、諸外国の緊急貯蔵穀物まで買い漁っても次の米の収穫時期まで持つか持たないかという瀬戸際まで追い詰められている。遅い船に合わせられるような余裕はない。
「この時期で、貨物船の損失はたとえ一隻であっても痛いですね。」国土交通相が言う。
「巡視船は間に合いそうか?」
「いいえ。巡視船が到着する頃には恐らく…」
「民間人に被害が出るのは不味いな。」
「そこで、提案なのですが…。」
国土交通相は連れてきた部下を見やる。
先を促されたスーツ姿の男は語り出す。
「失礼します。海上保安庁警備救難部の西原と申します。時間もありませんので単刀直入に申します。しきしま型巡視船には2隻のヘリコプターが乗っております。これにより貨物船の乗員を救助するというのはいかがでしょう?」このような場に立つのがはじめてなのだろう。ガチガチに緊張していることが目に分かる。
「ヘリコプターに武装はあるのか?」総理が問う。
「いいえ、ありません。」西原が言う。
「許可できん。あまりにも危険すぎる。」
「輸送船の乗組員によると、戦列艦は小型のため、波の影響をもろに受け、本来の速度を出せていないようです。さらに空母型の戦列艦は確認されておりません。気象庁によるとヘリが発艦出来るのは嵐が収まっている今だけなんです。」
「私は賛成です。」国土交通相が言う。
「私もです。」経済産業相も同意する。
総理は、頭の中に天秤を作る。1人か2人のパイロットの命とおそらく20人くらいの民間人の命。どちらが重いか。
「分かった。許可する。くれぐれも人死には出さぬように。」
しかし、多くの大臣達の天秤には総理とは違うものが乗っていた。専門家の意見を突っ張ね護送船団方式をとらなかった結果として、民間人の命が犠牲になるということは政権としても看過できる事ではないのだ。
一方、八丈島沖で巡視船が轟沈されて以来、海上保安庁にら特に目だった活動はない。一方、自衛隊は連日連夜引っ張られている。海上保安庁はその事に対抗心を燃やしている。
会議の結果は最初から決まっていたのだ。
巡視船 しきしま
プルトニウム輸送のための護衛として建造されたこの船は、搭載ヘリ2機、機銃4基と巡視船としては異例の重武装である。
その船の後部甲板では何人もの男達が作業をしている。
「風速、発艦の許容圏内。」
「発艦用意よし!」
「甲板上の乗組員は待避!」
作業員が離れた、ヘリのローターがゆっくりと回り始める。
「発艦!」ふわりとヘリが持ち上がり、そのまま曇天の空へと消えて行った。




