嵐(上)
アミル王国より北東300kmの海域
雨が降り、うねる海を巨船が進む。アミル王国で穀物を積み込み、帰路に着く貨物船『すずなみ』である。4つのトップサイドタンクを4つ備える日本有数のばら積み貨物船だ。
「すごい嵐だな。日本海でもここまでは荒れん。」船長が言う。
「まったくです。これじゃ床に入っても寝付けませんね。」
「お前に限ってそれはないだろ。」笑い声がブリッジに響く。
「ひどいですよ船長。」
笑い声が収まったブリッジを、再び雨音が支配する。
「なんか、昔見た怪獣映画を思い出しますね。」
「ゴミを投棄しに来た船が怪獣に襲われるやつか?その心配はいらんだろう。おれの日頃の行いはいいからな。」
また、笑い声が響く。
「なんでそこで笑う!」船長は言う。
「だって、ねぇ。」船員達は顔を見合わせる。
そのタイミングで航海士が気付く。
「船長、前方より船3隻が接近してきます。」
「同業者か。こんな嵐の中ご苦労なこった。」船長が言う。
「このままでは衝突コースです。」
「何だって!取舵一杯、進路を変えろ。無線で苦情を送ってやれ。どこ見て走ってるってな!」船長は怒りながら言う。
「取舵一杯。」
「無線、繋がりません。」
「繋がらない?この嵐だ。向こうのマストが折たのかもしれんな。それでレーダーもいかれたか。」
「船団、こちらの進行方向に合わせて向かってきます!」
「航行には支障はないようだが。何か事故でもあったのか?」船団の不可解な行動に船長は唸る。
「船長!前方を!」
「どうした?」前を指差したまま固まっている部下を見やり、双眼鏡を覗き込む。
「なっ!」
そこには金属製の貨物船ではなく、帆を一杯に張った帆船が映っていた。
「取舵一杯!反転だ。それと救難信号連絡を出せ!」
船はゆっくりと進路を変えるが、船が大きい分その動作は遅い。その間に帆船は距離を積めてくる。帆船のくせして信じられないほど速い。
「無線、繋がりました!」通信士が船長に無線を手渡す。
「こちらは海上保安庁巡視船しきしま、救難信号を傍受しました。どうなさいましたか?」
「こちら貨物船すずなみ、例の帆船に追われている。なんとかしてくれ。」船長は無線に向かい叫ぶ。無線越しども相手の息を飲む音が聞こえた。
「直ちに急行します。30分ほどかかりますがその間、なんとかして逃げ切ってください。」
「不可能だ!こちらは貨物船だぞ!あんたらと違って速度は出ない。」
「こちらもできるだけ急ぎます。」船長は文句を言っても仕方がないと言うのとに気付く。
「どうかお願いします。船には18人の船員が乗っているんです。」
船長には子供のときより慣れ親しんだ海が、まるで命を喰らうのを待っている貪欲な魔物に見えた。




