決着
連合艦隊 旗艦 いずも
「対艦ミサイル、全弾命中!」通信士が報告を入れるが司令の顔は浮かない。
「これだけの被害を受けて、敵は撤退の兆しなしか。この前のように逃げ出す艦もない。今までの敵とは練度が違うのか…」
「練度…ですかね?私には狂気にしか思えませんが。」艦長が口にする。
「日本も昔は似たような、いや、あれより狂気的なことをやってたじゃないか。」司令は苦笑する。
「それも、そうですね。」
「敵は速度を上げこちらへ向かってきている。敵艦隊が主砲の射程に入る前に戦闘機による機銃掃射も行うが、弾数が限られている。効果は限定的だろう。接近戦になるが、心してかかるように。」
「はっ!」CICに詰める乗組員が一斉に敬礼をした。
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アンゴラス帝国 大陸軍 第三艦隊 ローレンス
「残存艦艇、50%を切りました!」
「戦列艦、ザールラント爆発!魔導回路の爆発かと思われます。」
「敵機、襲来!対空戦闘はじめ!」
遥か彼方より表れた鉄の竜が戦列艦に光の雨を浴びせかける。刹那に戦列艦は炎上し爆発音を轟かせる。こちらの砲は当たる気配すらない。そこで司令、エセルバードはふと空飛ぶ筒による攻撃が止んでいることに気が付く。
「そういえば、光の雨による攻撃は敵が姿を晒していた。筒による遠隔攻撃は完全なロングレンジ攻撃だというのに。」司令は立派な髭を蓄えた顎に手をあて考え込む。
「ならば、魔力切れか。あれほどの威力の攻撃だ。そう沢山は撃てんのだろう。蛮族め、待っていろ!死んでいった部下達の死は、決して無駄死ににはさせん!」
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アンゴラス帝国 第三艦隊第一陣より南60km
第二陣 旗艦 竜母 サマルケミス
戦列艦の一室とは思えないほど過剰に修飾された部屋の中、しかし居並ぶ面々の顔はそれに似合わず憔悴している。
「何なのだ…この被害状況は!」第二陣司令バルツァケイヤーは、矢次にもたらされる現実感のない悪報に唖然とする。
「第一陣の詳細は?」
「半数以上が撃沈されたようです。」
「ありえん!」
「バン」と机を叩く音が部屋に響き渡る。しかし、それで現実が変わるわけでもない。
「こちらはあくまでも輸送艦がメインの上陸部隊です。主戦場から距離をとってはいかがでしょう。最新鋭の高価なゴーレムも載っています。無駄にやられるわけにはいきません。」幕僚が言う。
「何を言っておられるのですか!本隊が危機に瀕しているのですぞ!今すぐ竜を救援に向かわせ、艦隊も全速力で第一陣と合流を果たすべきです!」艦長な言う。
「輸送艦の全速力なんて知れています。」
「ならば、護衛だけ切り離して向かわせるべきだ!」
「輸送艦隊を危険に晒すつもりですか!第一、一艦長である貴方が幕僚に意見する権限などない!」
「落ち着きたまえ。」力なく司令は声を絞り出す。
「竜を出しても先のように一瞬で撃ち落とされるのが運命だろう。我々は現在位置で戦闘終了まで待機する。」
「しかし!」
「言いたいことは分かるが、これは命令だ。」
「くっ!分かりました。」艦長は不満そうに頷く。
「会議中失礼致します。見張りより伝達です!」伝令兵が息を切らしノックも無しに入ってくる。余程の非常事態なのだろう。
「どうした!」
「艦隊に白い線が接近中とのことです。」
「意味がよく分からないな。白い線とは何だ?」
「確認して頂いた方が早いかと。」伝令兵は窓の外を指差す。
確かに海面に何十、もしくは何百の白い線が見える。そして、司令はそれが海中を進む何者かが生む波だということに思い至る。
「全艦に伝達!回避運動をとれ!あれを回避するのだ!」
「了解!伝達します!」船はゆっくり進路を変える。これで当たることはないだろう。
「んっ!」司令は白い線の進行方向が微妙に変わっていることに気付く。
「まさか、追って来ているのか!もしや、あれは魔導生物アサルト・マリーン!」アサルト・マリーンとは北極周辺に生息する魔導生物である。通りかかる船に体当たりを仕掛けるため、船乗り達から恐れられている。
「いえ、魔導反応はありません。魔導生物ではないかと。」観測手がすかさず答える。
「生物でないなら、なぜ追ってくる?」
「分かりません。」
船はは蛇行しながら進行方向を変えるがその都度線はついてくる。
「振り切れ!なんとしても…」
突如、爆音が耳を貫く。窓より、炎上している輸送船が幾つも見える。
「仕方あるまい、総員退艦用意!赤竜を全て上げよ。」
「しかし!」
「我々に勝機はない。このままでは全滅するのみだ。かかれ!」
次々と爆音が響き、その都度船が爆発する。その一つ一つに詰まったゴーレムと兵の命は、全く無駄に消費されていく。
「赤竜、全騎発艦。全騎発艦せよ!」
「全乗組員へ告ぐ、総員退艦、甲板上へ!」
「各自、持ち物は取りに行くな!急いで集合しろ!」
「では、我々も行こうか。」司令は虚ろな目をしながら立ち上がる。
「司令、脱出ボートの用意はできております。こちらへ。」士官の案内通り、高級将校達はボートに乗る。海面にはボートだけでなく、飛び降りてそのまま溺れかけている兵も見られる。
艦をボートで脱出した直後、すぐ後ろより爆音が轟く。見れば先程まで乗っていたサマルケミスが炎上していた。
辺りを見渡せば最早戦える船などなく、炎だけが揺らめいている。
「こんなことがあって良いものか…」司令は大きな溜め息を一つつく。
「生存者の救出作業に入れ。ボートに詰めるだけ詰め込むんだ!」
「了解しました。」
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大陸軍 第三艦隊 旗艦 ローレンス
「馬鹿な…第二陣が全滅だと!第二陣は遥か後方だぞ!」司令、エセルバードは突然の悪報に仰天する。
「僭越ながら、撤退すべきかと。」
「ふざけるな!我々の敗北がどれだけ帝国に、世界に影響を与えるとおもっている!敵の一兵も殺さぬうちに撤退などありえん!せめて一矢報いてからだ。」エセルバードは憤慨する。
「しかし、肝心の上陸部隊は失われました。作戦は失敗です。最早、この戦いに意味はありません。」艦長が言う
エセルバードはしばし沈黙する。
「この戦いで何人死んだ?」エセルバードは誰ともなく問いかける。
「すまんな、仇はとってやれなかった。」燃える海を見て司令は呟く。
「撤退だ!反転180度、戦闘海域を離脱する。」
「はっ!」仲間を失った悲しさからか、自分の無力さへの悔しさからか多くの乗組員が涙していた。
アンゴラス帝国軍はこの日、 戦列艦512隻、竜母79隻、竜936騎そして10万以上の兵を失った。漂流していた第二陣の兵は、撤退中の艦隊に回収された。
この海戦は平和を保ってきた世界を根底から変える物となる。




