動員
アンゴラス帝国 首都キャルツ
政府機関や銀行、百貨店などが軒を連ねる大通りはいつも活気に満ちているが、今日は一段と騒がしい。ホレイシオ商会会長、ハリソン・ホレイシオは、人混みが嫌いであるが、政府からの突然の呼び出しのため渋々と歩みを進める。
「号外!号外!」新聞の売り子が叫んでいる。ホレイシオは記事が気になり、金を払いそれを1刊もらう。
「なんだと!」見出しには、「アンゴラス帝国政府が戦時特別令を発令。ヒルメラーゼ共和国と戦争になるのか?」と書かれている。すかさず読み進める。
近頃、アンゴラス帝国駐留軍と戦闘を重ねている日本。その強さの秘密が政府筋より明らかとなった。ヒルメラーゼ共和国が日本に軍事支援をしていたのだ。いかに精強をほこるアンゴラス帝国軍とはいえ、植民地や衛星国に駐留している戦力は僅かであるため遅れをとったが、大陸軍の出征で片がつくと思われる。。
先のアンゴラス、ヒルメラーゼ共和国海戦を発端とする国境紛争でヒルメラーゼ共和国は本格的な介入を開始したと考えられる。ヒルメラーゼ共和国は全石油輸入の15%を帝国に依存しており、貴重な外貨獲得源となっている。現在、油田は卑劣にも奇襲攻撃を行った日本、及び反旗を翻した現地政府により占拠されている。日本とヒルメラーゼ共和国が繋がっていることは明確である。
ホレイシオは二の句を告ぐことができなかった。
基本的に帝国は鎖国政策を執っており、多くの国民は国外のことをあまり知らない。しかし、ホレイシオ商会の会長ともなると話は変わってくる。
「勝てるわけがない。」ホレイシオの呟きは喧騒にかき消された。
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アンゴラス帝国 軍務局
薄暗い会議室の中には、軍人だけでなく経済界のそうそうたる面々が揃っていた。ホレイシオはたった一つ残っている席へ腰を掛ける。ご丁寧に下座を残していてくれたらしい。
「いやいや、お待たせして申し訳ない。」慇懃に笑みを浮かべホレイシオは言う。
「いえ、5分前とはいえ間に合っていますし問題はありません。」軍人が言う。
「ご存知の方も多いと思われますが、今日午前11時戦時特別令が発令されました。現時点を持って、皆様の商会がお持ちの船、ゴーレムを買収させていただきます。」
「輸送業を営んでいるものとしては、困りますな。」アルフレッド商会会長、アルフが言う。
「私も同意見です。経済にどれだけの損害を与えるのか少しは考慮して頂きたい。」ホレイシオが言う。
「もちろん船に損害が出た場合、戦争終結後国庫より費用は補填させていただきます。」
「ヒルメラーゼ共和国と戦争になるのだろう?列強対列強の戦いだ。何年続く?その間我々は何で飯食えばいいのだね。」アルフが言う。
「貴方達の考えはどうであれ、これは決定事項です。覆ることはありません。」軍人は淡々と言葉を紡ぐ。
「何て傲慢な!」
「我々を誰だと思っている!失礼だぞ!」
「こんなことになるのも政府の怠慢のせいじゃないか!」
「もしも、拒否なさるなら戦時特別法第32条に基づき逮捕します。」
「くそっ!」
総動員は、国中の商人達の反発を招いた。