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陥落2

遅くなりました

サンドール王国 ツェザール領 アンゼルマの町

赤い炎が城下町を飲み込み、城にいたっては原型を留めていない。そんな町から出てきた男達が帝国陣地へと決死の行軍を行うため向かっていた。


「弓隊、進めー!」


「おおーー!」逃亡した兵や武器庫に辿り着けなかった兵はいるものの、自らの町を燃やされた彼らの士気は決して低くない。


『せめて、刺し違えてやる』そう思った刹那、暗闇に慣れた目に光が飛び込み一瞬何も見えなくなる。


目を開けるとそこには地獄があった。手を失った兵はのたうち廻り、足を失った兵は手で這ってでも戦場から逃げようとしていた。


「もうだめだ!」


「ひぃーー!」さっきまで意気揚々だった兵達は、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。もしくは勝手に帝国陣地に走り出す。


「落ち着け!落ち着くんだ!」隊長は叫ぶが、もはや統制も何もあったものではない。


「隊長も下がってください。この怪我では戦うことなんてできません。」部下が隊長に言う。


「何を言っている?私は怪我なんか…」そういいかけた隊長は、自らの腕に目をやり絶句する。自分の肘から先が消失していることに気付いた瞬間、一気に痛みが訪れる。


「私の腕が!腕がない!誰か、助けてくれ!うゎーー!」隊長は自分の役目も立場も忘れてて、恐怖のあまり叫びだす。


「しっかりしてください。」


隊長は丘の反対側の仮設拠点に部下によって担ぎ込まれたた。その時にはもう治療の施しようがなく苦痛とともに死んでいったのだった。


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ツェザール領 アンゼルマ 東地区

魔導砲の死角になるこの地区には、各地区より逃げ落ちてきた人々が押し寄せている。

領主のツェザールは、臣下の屋敷を接収し仮設司令部として使っており、その周辺には命令待ちをしている兵が屯している。


「公爵様、弓隊は敗走しました。敵に被害はありません。」ツェザールのいる大広間にはひっきりなしに兵が往き来しており、悪い知らせを持ってくる。


「そうか。時間稼ぎにもならなかったか。やはり何とかして、向こう岸へ渡り数で押すしかないな。斥候からの連絡は?」


「近隣の橋も落とされているようです。やはり大堤防を迂回して渡河するしかないかと。」


「そうだな。」ツェザールは深い溜め息を吐く。


「公爵様!道が瓦礫で埋まっているようで、兵の召集にまだ時間が掛かるかと。」


「兵舎の大半も魔導砲や火事の延焼で消失しています。工期短縮のため、石材でなく木材を使って建設していたため、城下町と比べ物にならない被害が出ています。」


「公爵!道が瓦礫で埋まって第二、第三武器庫にアクセスできません。」


「なんだと!待機させている兵に瓦礫の片付けをさせろ!」基本的に武器は兵舎でなく、全て武器庫に保管されている。1つの武器庫に約4千の武器が保管されているため、武器庫が使用できないことは痛い。いくら、密かに武器を製造していたといっても、予備の武器があるほど数に余裕はない。


「大変です!ラーロンサル隊長の長槍部隊が独断で渡河を実施。試みは失敗し、部隊は壊滅しました!」


「なぜ、そんな勝手なことを!」


「命令違反、もしくは情報伝達が上手く行っていないものかと。」

魔信も電話もないこの国では、戦場の情報伝達は伝令兵が行うため、伝達速度は遅い。伝令兵が戦死しようものなら、永遠に命令が届くことはなくなる。それに加え、この混乱で誰が何処にいるか分からなくなり、伝令兵が人を探し回る場合もあった。


「公爵様!大変です。東地区にも火が延焼し始めました。」


「伝令より連絡です。敵が渡河を始めたようです!魔導砲も一緒です。」


「公爵、お逃げください。」臣下の一人、レノックスが言う。


「そんなことできるか!相手の数はこちらの十分の一以下だぞ!」


「部隊の集結はもはや不可能。それに加え、既に一部の兵は逃亡を始めています。それにいくら数が多くても、我々は所詮は烏合の衆です。」レノックスは無様に逃げ回る味方を見ながら呟く。


「だが、どこに逃げろと。」自分の領地が絶望的な危機に曝されている以上、この国に安息の地などない。


「サマワ王国行きの船なら、なんとか手配できます。亡命政府を樹立するのです。」


「国を離れるというのか。そんなことをすれば私の夢が…。」この後、日本に力を借りなんとか挽回出来たとしても、逃亡した者を誰が王と認めるだろうか。


「生きていれば機会はあります。公爵様。ご決断を。」レノックスは公爵を見つめる。


「分かった。」

公爵と、臣下達はレノックスに連れられ司令部が置かれている屋敷から出る。待機させておいた兵は、恐怖に駆られ逃げたのだろう。千ほどしか残っていない。

突如として、なけなしの軍勢を青い光が襲う。


「公爵様、あれを!」レノックスが指差す方向には、自身の城が見えた。よく目を凝らすと、数は少ないが城壁に魔導砲が設置されていることが分かる。


「急ぎましょう。」一行は闇の帳の中、逃避行を始めるのだった。


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サンドール王国 王都 王城

「なんだこの請求額は!桁がおかしいのではないか!」女王、ローザは反乱の制圧費に声をあげる。


「わざわざゴーレムや物資を辺境まで運んだのです。そのくらい当たり前かと。」アンゴラス帝国の使者は言う。


「残念だが我が国の宝物庫には紙幣も、その額に見合うだけの宝もないのだ。実に残念だ。」もとからすかすかの宝物庫を襲う度重なる出費のせいで、宝物庫は空も同然だ。いくら帝国が人々から恐怖されようとも、物も持たぬ者から物はとれない。


「ならば、代わりに土地を代金としてもらいましょうか。」


「それは困る!第一、協定違反ではないか!」珍しくローザは狼狽する。


「本国より許可は取得済みです。そもそも、反乱を企て協定を反故にしたのは貴方の部下でしょう?こちらが、新しい協定となります。お目通しください。」使者は皇帝のサイン入りの書類を突きつける。


「クッ!」ローザは睨み返すことしかできなかった。


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壊滅的な敗戦により、ツェザール公爵の求心力は完全に失われた。また、ツェザール公爵の製作した武器が流出し農民の反乱、及び食糧目当ての村や通行人の襲撃が増加し、サンドール王国の治安は悪化の一途を辿ったのだった。

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