陥落1
アルボガル砦跡
魔導光の照らす光は弱く、砦はほぼ闇に沈んでいる。砦のすぐに横を流れる川には二百を越える舟艇が浮かべられている。
「第2輸送ゴーレム隊、積込終わりました。」
「第3、4も完了!」
輸送ゴーレムの体は核となる魔導機械、歩行ユニット、牽引ユニットなどからなるが、前線で修理や整備が用意に行えるように各パーツは分解できるようになっているのだ。
今や小型船の上には魔導砲とゴーレムの部品、そして兵で一杯だ。
「よし、ゴーレムの部品のロープを切れ!」自ら陣頭指揮を執っている基地司令は叫ぶ。
舟艇の一部が少しずつスピードを上げ、川を流れて行く。
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アルバス川 下流
月明かりの照らす中、幾つもの影が蠢くいている。ゴーレムの操縦士、バルナバスもその一人だ。
「はぁ」彼は大きなため息をつく。ゴーレムで魔導砲を舟艇に乗せるよう言われ、それが終わればゴーレムを分解して船に乗せるよう言われ、今は船で下流まで降り立ちゴーレムの組立作業に勤しんでいる。
「上は俺たちを過労死させるつもりか?」
「おまけに、敵の拠点と目と鼻の先だ。」輸送という後方任務に慣れ親しんだバルナバスらは、独特の緊張感に震え上がる。
「これでよしと。」ようやく組立作業が終わりバルナバスは汗を拭い、倒れるように地面に横になる。
「終わったか?すぐに上流から魔導砲を乗せた舟艇が来る。休んでる暇はないぞ!」
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川の沿岸に帝国兵が屯している。その数は1000に近い。
「第一魔導砲隊、配置に着きました。」
「第二、第三も完了!」
「白兵戦隊、配置完了。」
「司令、全部隊の配置完了いたしました。」
基地司令は笑みを浮かべる。
「野蛮人どもに、帝国の恐ろしさを思い出させてやれ。撃て!」幾筋もの青い光が真っ直ぐに街へと向かって行った。
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公城
「何事だ!」就寝中だったツェザールは突然の衝撃で無理やり起こされる。
「敵襲です!」臣下が慌てて部屋に入ってくる。
「なぜだ!街道の見張り部隊から連絡は無かったはずだ!」ツェザールは狼狽する。
「川の上流から侵入したようです。」
「兵舎の兵を叩き起こして、向かわせろ!」
「それが敵は対岸に位置しており、橋も落とされました。堤防の傾斜を考えると突入は無理かと…。」本来なら敵の渡川を防ぐための急で長い堤防だが、完全に仇となっていた。
「弓兵だけでも向かわせろ!」
「鉄の不足で数が十分ではありませんが…」
「構わん。何もせんよりましだ。偵察部隊を派遣し無事な橋を見つけさせろ。」
「歩兵はどうしますか?」
「城の東側へ避難させろ。川の沿岸に陣取っている以上、東側へは撃てんはずだ。」城は小高い丘の上にあるので、丘が射角の邪魔となるのだ。さすがの魔導砲でも丘を粉砕することは出来ないだろう。
ツェザールはバルコニーから街を見下ろす。肝入りの鍛治場は炎上し、城の城壁は所々穴が空いている。完全に崩壊するのも時間の問題だろう。
眩しい光に目を奪われた瞬間、轟音と地響きが響き渡る。屋根からパラパラと木の欠片が落ちる。この建物に命中したらしい。
「大変です!城に火が廻っています!」廊下に居た兵が衝撃で壊れた扉の間から顔を出す。
「公爵、脱出してください。」幼い頃より慣れ親しんだ城に愛着を感じなくはない。しかし、王になれば用済みとなる城だ。
「分かった。私も部隊と合流する。」今は目の前の敵を倒すことに集中せねばなるまい。