砦跡
サンドール王国 駐留軍司令部
「これが、最終便の物品リストです。」司令部は付きの将校が紙を手渡す。
「食糧と戦闘用魔導杖1000本、輸送用ゴーレム15体か。まぁ、本国にしてはよくやったのではないか?輸送用要員に酒でも届けてやれ。」基地司令は私物の酒を1ダースほど箱ごと渡す。
「はい。」将校はえっちらおっちら荷物を抱えて入ってきたばかりのドアを出る。
「さて、ツェザール領の鎮圧にようやく動けるようになったがどのようにすべきだと思うかね。」基地司令は参謀らをみやる。
「街道を通り攻撃するのが王道では?」
「却下だ。陣形が延びすぎる。しかも、周囲は森だ。奇襲を受けやすいし、魔導砲も生かせん。」
「しかし、街道以外の移動手段など…」
「アルボガル砦跡に魔導砲と舟艇を戦列艦から輸送する。」
アルボガル砦とは、サンドール王国が召還される前の時代に建造、使用された砦であったが帝国との戦闘により基礎だけが残る大きな空き地となった。現在、隣を流れる川と共に美しい景観を作っている。
「ゴーレムを使い潰すつもりで移送しろ!」司令は命令を出す。
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ルーベント街道
交通量があまりなく、整備もあまりされていない街道をゴーレムと護衛兵の一団が進む。
「何だってこんなところにでか物を運ばなきゃなんないんだ?」ゴーレム操縦士のバルナバスは急な坂を見やりながら言う。
「一回ならまだしもこれで3往復目だぜ。全くこっちの苦労も知ってほしいもんだ。」突然の辺境への出向、そして、馬のようにこき使われるとあれば、文句の一つも出るものだ。
ようやくアルボガル砦が見えてきた。数多くの兵達が作業をしている。しかしもはや砦跡が見えてきても、達成感の欠片も感じず、あと何回物資を運べば良いのかと憂鬱になるバルナバスだった。
ツェザール領 公城
城のベランダから城下町の外れに突貫工事で作られた、木造兵舎がずらりと並ぶのが見下ろせる。現在、それらのほぼ全てが兵士で溢れている。しかし、最近になって、村へ帰りたがる兵士が出始めた。もうすぐ種まきの季節であるからだ。正規の兵でない彼らの事情や自分の評判を考えると帰してやりたいが、多数の帝国兵が基地から消えた以上、彼らを帰すことは出来ない。
「斥候より連絡です。今日もミュルンハルヘン街道に敵の姿は確認できず。」家臣の一人、ラグルナーズが言う。
「またか。」王都の間者により、帝国はゴーレムにより魔導砲の輸送を始めたと報告があったのは数日前。報告日を考えると、そろそろ哨戒網に引っ掛かってもいいはずだ。いや、今まで哨戒網にかからないことが異常だ。そもそも、魔導砲を率いた隠れようがない軍勢が引っ掛からないなどあり得ないはずなのに。
そんな事を考えているとノックが響く。入って来た兵は、余程急いで来たのだろう。息を切らしている。
「公爵!帝国兵が見つかりました!」
「そうか。」ようやくの報告に公爵は安堵する。
「今、奴等はどの辺りだ?」公爵は質問を続ける。
「アルボガル砦跡に集結しているとのことです。」
「アルボガル砦だと?なぜそんな所に。あそこには何もないだろう?」てっきりミュルンハルヘン街道を北上していると思っていたツェザールは怪訝そうに眉を寄せる。
「砦の隣を流れるアルバス川は城下の飲料水、生活水を提供する唯一の川です。もしかすると、川の塞き止めや毒を入れるなどといったことを企んでいるのやもしれません。」
「相手の出方次第だな。念のため民には水の確保を命令しておけ。」
「了解!」
アルボガル仮設基地 司令部
「司令、アルボガル砦跡にゴーレム、舟艇、及び人員の配置完了しました。」
「よろしい、作戦の発令は明日の0時だ。心してかかれ。」
「了解。」