帰って来たアンディーおじさん2
サマワ王国 トランスト港 入国監理局 男子トイレ
片田舎の国とは思えないほどの清潔で、明るいトイレで男が二人並んでいる。
「これはアンディーさん。お久しぶりです。」サマワ王国の民族衣装を着こんだ男がそう声を掛ける。
「アンディー?どちら様とお間違えで?私は今はリュードベールですが。」アンディーはとぼけたように言う。
「失礼、リュードベールさん。お久しぶりです。」
「いやぁ、お久しぶりです。何年ぶりでしょうかね。」
今アンディーおじさんが話している相手こそ彼の同僚、つまりヒルメラーゼ共和国の若き諜報員であるカールである。何回か一緒に任務をこなした仲である。
「相も変わらずお元気そうで。」
「まさか、体の節々が痛みますよ。若さが羨ましい。しかし、私と世間話をするためにこちらにいらしたのではないでしょう?」
「ええ、勿論。貴方の成果を本国へ持ち帰るために参りました。」
「それなら話が早い。この鞄の中に詰まっています。」アンディーおじさんは鞄とスーツケースを見せびらかす。
「お預かりいたします。では、こちらをどうぞ。」古ぼけた茶色い鞄と引き換えに、黒くて大きい鞄を渡される。
「何ですかこれは?」アンディーおじさんは新たにもらった鞄を開けようとするが、カールに止められる。
「宿屋を押さえてありますので、そこでご覧下さい。ここで見られるのはちょっと…。」カールは言いよどむ。
「分かりました。」
「では、お先に失礼します。一緒に出ては怪しまれますから、時間を少し置いて出てきてください。」
「何年諜報員をやっていると思っているのですか。」
「もうそろそろ良いか。」カールが去って、10分経ちアンディーおじさんはトイレを出る。
「ちょっといいですか?」突如響いた声に、アンディーおじさんは振り替える。そしてその声の主は警官の格好をしていた。
「なんでしょう?」
「3月15日の午後一時頃、港の職員を殴り飛ばしたの貴方ですよね?」
「なんのことでしょう?」
「とぼけても無駄です。カメラに映ってましたので。」
「よく分かりませんが?」監視カメラが無いことは確認したはずだ。と思って上を見上げる。白くて丸い物や、黒い半球状の物はあるが、やはりカメラは見当たらない。
「貴方の写真を公表した結果、酒場の人達が面白い情報を伝えてくれました。貴方と一緒に出掛けたリュードベールさん。遺体となって発見されました。署までご同行願いま…」
突然、閃光と爆風が狭い空間を満たす。屋内、それもトイレという狭い空間で爆発したため、鞄の中の爆弾は十全に威力を発揮した。騒ぎを駆けつけた空港職員は、アンディーおじさんとそれを取り囲んでいた警察官だったものを目の当たりにし、カウンセリングに通院することになる。
カールはアミル王国行きの船を待ちながら、遠くで爆発の様子を眺めていた。
「間抜けな老いぼれが。さっさと引退すればよかったのに。」
諜報員が捕らわれ、情報を吐かれるということは間違ってもあってはならない。長年勤めてきた諜報員とあればことさらだ。
「さて、出発時刻までまだ暫くあるし昼食でも食べようか。」カールは宿屋へ歩を進める。