帰って来たアンディーおじさん1
アンディーおじさんは驚愕した。
雲を引き裂かんとする建築物群に。
調理器具や掃除機が話しかけてくることに。
共和国に比べ、圧倒的に大きい飛行機や船がひっきりなしに往来することに。
ヒルメラーゼ共和国を圧倒する国力に。
アンディーおじさんは家電、書物、電子機器を財布の許す限り買い漁った。まだまだ調査したいことは山ほどあったが、長い滞在とお土産で資金が底をつき帰路へと就いた。
「一刻も早く知らせねば。しかしこちらの国にもカメラがあってよかった。」機械類を全て置いてきてしまったアンディーおじさんにとっては、記録媒体は必要不可欠だ。それがなければ荒唐無稽と報告書はゴミ箱行きだろう。
「アンディーさん、お久しぶりです。」
客船のカフェでくつろいでいた所、急に後ろから声をかけられて飛び上がる。
「これはドルンレイブさん。ご無沙汰ですね。」
彼はアミル公国で活動していた時、何度か顔を合わせたアンゴラス帝国諜報員だ。
「お元気そうでなによりです。」
「そちらこそ。」アンディーおじさんは、暗に年のことを指摘された気がして少し不快になるが、表情は能面のようなニコニコ顔を保持している。
「何か収穫はありましたか?」アンディーおじさんは新しく買ったであろうスーツケースの山に目を向ける。
「ほどほどに。そちらは?」ドルンレイブ
「こちらも一緒です。」荷物の内容を明かさないことは、分かりきったことなので一種の社交辞令のようなものだ。
「あの国、どう思いました?」アンディーおじさんはアプローチを変えてみる。
「建築様式がヒルメラーゼ共和国に似ている気がしますね。」個人の意見なら別に問題にはならないということなのだろう。意外にもあっさり返事をくれる。
「ご冗談を。あの規模の街が数ヶ月でできるわけない。」
「似ていると言っただけで誰が作ったかには言及していないつもりでしたが。」
「それは失礼した。」アンディーおじさんは罪悪感など微塵も感じさせない笑顔で言う。
「それでは失礼。まずは荷物を部屋に持っていかなくてはならないのでね。」ドルンレイブはスーツケースを抱えて人混みへと混ざってゆく。
彼ほどの人間ならばあの都市が一朝一夕でできぬこと、ヒルメラーゼ共和国は介入していないことを理解してくれるであろう。共和国がとばっちりを受けるのはごめんだ。