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精霊くんとお話

 今回の授業内容は魔法の種類、特に精霊魔法についてだ。


「はじめに、精霊はどんな存在か答えられる者はいるか?」


 生徒の半数以上が空気を切る音がしそうな勢いで手を挙げてくれた。

 派手な赤い髪飾りをつけている女子生徒を指名してみる。

 名前はわからないから目立つ生徒を選んだ。

 その生徒が返事をして立ち上がる。

 直立不動なその姿はやはり軍隊にでも入っていそうだ。

 そんな教育してないのになぁ。


「精霊とは、物に宿った膨大な魔力が、何かしらの原因で意思を持ったものです。よく知られているものは魔宝石ですが、他に木や剣などにも宿ります。彼らとは話すことも、ましてや契約することも難しいと聞きました」


「そう。その難しいことをやってのけなければ精霊魔法は扱えない。では今日の授業内容である精霊魔法の説明をしよう」


 僕はそういって魔宝石をポケットの中から取り出す。

 結構大きめのものを持ってきた。

 勿論盗んだものではなく、ちゃんとお金を払って買ったものだ。

 楕円型にカットされた宝石の形、大きめの辞典くらいの大きさ。色は透き通った緑をしている。

 いきなり取り出したので教室がざわつくが無視して説明を始める。


「精霊魔法を簡単にいうと、精霊と仲良くなって人間では扱いの難しい強力な魔法を代わりに使ってもらうといった魔法だ。ただし精霊と仲良くなるというのは非常に難しい。何故かわかる人はいるかな?」


「精霊の警戒心が強いからですか?」


「ちょっと違うかな。警戒心が強い精霊も確かにいるけど、そうでない者もいる」


「契約の条件次第ですか?」


「まあそれで動く精霊もいなくはないが、それだけじゃないね」


 しばらく意見を出してもらったがなかなか正解にたどり着かないので次に進むことにする。


「とりあえず僕が精霊と話して見せよう。皆、近くに来ていいよ」


 言葉を聞いて生徒たちがそわそわしながら僕の傍に来て魔宝石を興味深そうに見つめている。

 そのなかに混ざってマーヤがいる。

 楽しそうにしているので、なんとなくでも授業内容がわかっているのだろう。

 僕は生徒たちが集まったのを確認すると、魔宝石に手を翳した。

 魔力を魔宝石に流し、その魔力に乗せて言葉を発する。


「精霊よ。お前との契約を破棄しよう」


 魔宝石のなかから魔力が跳ね返ってきた。

 契約してないんだが、他の精霊と間違えていないか?

 そんな感じのことを精霊に言われた気がする。


「ごめんごめん。君じゃなかったようだ。でも少しでいいから実体化してくれない? 面倒? わかるけど本当に少しだから。契約もしない」


 交渉した結果、契約しないならと少しの時間だけ実体化してくれるそうだ。

 魔宝石に手を翳すのをやめると魔宝石が一瞬で蒸発したように消えてしまう。

 でもすぐに机の上には半透明な少年姿の精霊が胡坐を掻いて現れた。


《で、実体化したがなんなんだ?》


「ああ。ここに集まっている人間に何故契約したくないか教えてあげてほしい」


《面倒だ。……だがまあ、契約しないと言ってくれた変な人間に免じて教えようか》


 なんだかんだ言いながらもこの精霊は人が嫌いではないんだろうな。

 むしろ好きなんだろう。

 それ故に、契約を嫌うのだけど。


《人間よ。よく聞け。我々精霊は魔力が枯渇しない限り永遠(とわ)に生きる。故に自然の一部となり、ゆるりと時間を過ごすことを好むのだ。人間と契約し、魔力を消費し、人間に合わせて激動の時を過ごしたくはない。何より……契約した人間が死にゆく様を見たくはない。我々にも感情かある。悲しいときは悲しいものだ。……人間と契約しなければ悲しみは生まれぬ。故に契約などしない方がいいのだ》


 教室にしんみりとした空気が漂う。

 もう一つの可能性も話しておくか。


「今の精霊のほとんどが彼と同じ理由で契約を拒む。でも、たまに憎しみの感情を持つ精霊もいる。過去の人間は魔法道具を使うために、精霊の魔力を枯渇させて使っていた。精霊の魔力が枯渇してしまえば精霊は死ぬ。同族を殺された恨みは深いものだ。今は魔力注入の技術が開発されたから殺すことは少なくなったが、それでも殺されることを恐れて敵対する精霊も存在する。それが理由で契約を拒むこともある」


 ほとんどがその二つの理由で精霊たちは人間に情が移らないように話を聞こうとしないし、契約もしない。

 じゃあ彼らとどうやって契約するか。


「精霊との契約は難しい。禁忌でも犯さない限りゼロに等しい。でも契約している者は少ないがゼロというわけじゃない。死んでしまうとしてもその人間と一緒に過ごしたいと精霊に思わせることが出来たなら、契約は出来るんだ。精霊に好かれる人間になれれば精霊は共に歩んでくれる」


《そうだ。正直、そこの人間となら契約していいかもしれないと思い始めている。契約をしないと言っていたのに、こんなにも精霊を知っていてくれるというのはとても嬉しいものだ。我と契約せぬか?》


 精霊が興味津々な目で僕を見つめ、契約を誘う。

 精霊との契約は悪いわけではない。

 いくつもの精霊とどれだけ契約しても、魔力さえあれば問題ないし。

 ただ僕の場合はその魔力が少ない。

 それと僕自身、精霊との契約にトラウマがあるんだよなぁ。


「生憎、もうパートナーがいるのでね。そいつと契約の破棄が出来たら、君と契約してあげるよ」


《精霊が契約を断られるとは珍しい。普通は逆であるのに。ますます貴様を気に入ってしまうだろう?》


「はいはい。気に入ってもらえて何より。でも契約は出来ないから」


《契約を破棄しようとしていたな。契約した精霊の宿る石か何かをなくしたのか?》


 そうやってトラウマを抉ってくるぅ!

 答えるけどさ……。


「なくしたというか、親に売られてしまったんだ。お前は天才過ぎるからって理由で」


《酷い親がいたもんだな》


「でも良くあることなんじゃないか?」


《そういうものか?》


「人間とは結構(みにく)いものなのさ」


 僕の場合は魔法石を売られただけではないんだ。

 僕は僕の意思であの精霊と契約したわけじゃないから。

 禁忌の契約。

 無理矢理精霊と契約する魔法。

 その魔法は人間にも有効で、僕とあの精霊は無理矢理契約させられた。

 あのあと僕と契約した精霊の宿る魔宝石は売られてしまったんだ。

 あのクソ野郎どもめ。

 僕の敵にならなければいい暮らしが出来たものを。


 でも、今は授業中だ。

 生徒たちに無様な姿は見せられない。


「さて。精霊と話せる良いチャンスだし、精霊に何か質問がある者はいないかな?」


 聞いてみると少し興奮した様子でほとんどの生徒が前のめりになっていた。

 この授業の生徒は軍隊に所属しているかのようにきっちりしているからこういうことは珍しい。

 精霊と話せるなんて一般人では不可能に近いから、魔法使いとしてこの反応は当然といえば当然なんだけど。


「では手を挙げた者は名簿順に並び、一人一つ精霊に質問してよし。質問がない者は精霊の話を聞いているか、自習かな。僕に質問があったら聞いてくれていいから」


 生徒たちが僕の言葉通りに行動を始める。

 精霊は困惑している様子だ。

 一応、聞いておくか。


「僕の生徒たちの質問に答えてくれるよな?」


《まあ別にいいんだが自分勝手なやつだな。やはり貴様は面白い。貴様と契約出来ぬのなら、貴様の魔法道具となっても良いかもしれぬ》


「精霊がそんなこというなんて意外だ」


《もともと人間に使われるのは好きだ。魔法道具として使われたこともあった》


「ふーん。魔法道具は考えておこうかな。ただ保管するだけになるかもしれないけど」


《保管はやめて欲しい》


「僕の気分次第だ。じゃあ皆、質問を始めていいよ」


 僕はそう許可をだしてから空いている席に移動して椅子に座る。

 あとに続くようにマーヤが僕の隣に座った。

 マーヤは精霊に質問はしないようだ。


「先生、精霊と仲良くなるの早いんですね」


 マーヤが楽しそうに笑って言った。


「僕は魔法の天才だからね。魔法に関連している精霊のことは結構知っているほうだ」


「売られてしまった先生の精霊はどんな物に宿っていたんですか?」


「ただの魔宝石。つまり石さ」


「何か特徴は?」


「さあ? どんな色なのか、どのくらいの大きさなのかも見る前に売られてしまった。手当たり次第に魔宝石に向かって契約を破棄する意外に見つけられはしないだろうな」


「……酷いです」


「そうだろう? あのクソ野郎どもは僕のためとか言っていたけど、それだったらちゃんと説明して欲しいね。僕を押しのけて僕のことを決める。そんな愛され方なら僕は愛なんていらないさ」


「……それで愛は拒絶すると」


「そう。僕の人生は僕だけのものなんだ。好きにさせて貰う。それで僕がどうなろうと、それは僕の責任だ」


「先生は強いんですね」


「当たり前だね。僕は天才魔法使いだぞ」


 ……それでも諦めかけたこともあったけど。

 まあ僕を励ましてくれた人がいたから、今でも夢を追い続けていられるわけだ。

 その一人であるディゼオはいい奴ではある。

 犯罪の片棒を担いでいるけど、僕にとっては人生のなかで唯一信用している人物と言える。


次話は12月27日投稿予定です。

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