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念願の実験

 翌日、鈴の音で目が覚めた。

 うるさく鳴り響いているので、イライラしながら身支度を整えて門へ行くと、マーヤが満面の笑みを浮かべて手をふっていた。

 今日は学園で授業があることをダイザムたちに伝えているので、彼らは来ないと思いのんびりしていたが、マーヤがもう帰ってきていたんだったな。

 マーヤを家の中に招いて、仕事の時間までのんびりさせておく。

 ふふふ、今日はマーヤと二人っきりになれる時間があるのだろうな。

 さっきまでのイライラがワクワクに変わり、マーヤをもてなしながら今日は何をしようか考える。

 マーヤで実験することがやっと可能になるんだ。

 まずはマーヤの利益にもなる比較的安全な実験にしよう。

 その方がマーヤも実験に協力しやすくなるだろうし、実験に抵抗もなくなるだろう。


「先生、なに笑ってるんですか? 気持ち悪いですよ」


「なんでもないよ。ちょっと楽しみなことがあるだけだ」


 まずは午前の授業を終わらせてしまわないとね。



〜〜〜〜



 今日の学園での午前の授業終え、昼食も食べ終わり、マーヤと共に学園の僕の研究に来ていた。


「今日も魔力操作の修行ですか? それとも昨日みたいに魔法の基礎を教えてくれるんですか?」


 マーヤがニコニコしていて楽しそうだ。

 久しぶりにマンツーマンで、僕から魔法を教えてもらえるのが嬉しいのだろう。


「マーヤ・レイザンガリフ・カワシロ。君に素敵なことをしたい」


「……」


 僕がそういった瞬間、マーヤは何かを察したのか、スッと笑顔を消して虚ろな目をした。


「約束は覚えているよね?」


 一応再確認しておく。


「なんのことか、さっぱりわからないですー」


 感情のこもらない声で言っている。


「ダンジョンに一緒に行くために、マーヤに実験していいっていってたよね?」


「……い、言いましたけど、まだ約束のダンジョンには行ってませんし!」


 マーヤがなんとか実験を回避しようとしてくるが、もう遅いぞ。


「ダンジョンに行ったあとに逃亡されたら嫌だなぁ」


「に、逃げませんし!」


「今まで断ってきたのに、信じられないなぁ」


「せ、先生も一緒にダンジョン攻略してくれる約束を守ってくれるかわからないですよ!」


「今までのことを思い出してみてくれ。僕がマーヤとの約束を断ったり破ったりしたことあったかな?」


「えーっと……」


「それにマーヤで魔法に関わる実験をするのに、約束を破ると思う? 魔法が大好きな僕が」


 そういうと、マーヤは諦めたように大きなため息を吐く。

 そして叫んだ。


「もう好きにしてくださいよ!」


 いい子だ。

 例え逃げたとしても、マーヤにあった時に追跡の魔法陣を刻んであるため見つけられるのだが、逃げないというならそのほうがいい。

 では始めようか。

 マーヤの手を握って、魔力に干渉する。

 その魔力をいつも僕の魔力を扱うように、操ろうとしてみた。

 しかし、そう簡単には操れないようだ。

 まあ当然か。

 同じ魔力の波長でも、自分の体から生み出される魔力ではない。

 それにマーヤの体がバリアのようになっていて、俺の魔力を受け付けていないようだ。


「ふむ」


 ではそのバリアをどうにか外すか、通り抜けるようにするにはどうするべきか?


「あ、あの先生。手を握るのはなんのためですか?」


「実験のため。いつものように魔力を操ろうとしてみろ。別の魔力があるのが感じられるだろう?」


「え? ……あ、確かにあります!」


 では今度はマーヤの魔力の動きに合わせてみる。

 さっきはマーヤの魔力を僕の魔力の動きに無理矢理合わせさせようたから。

 上手くマーヤの魔力の動きに合わせると、バリアがなくなるともに、マーヤの魔力と僕の魔力が混ざるような感覚。

 その感覚は、沼に落ちた時みたいに粘つく泥が体にへばりつくような気持ち悪さだったため、ついマーヤの手を離して距離をとってしまった。


「うわあああ!? 何したんですか先生!? 気持ち悪い感覚したんですけど!!」


「うん、それは僕も同じだ」


 普通なら混じるようなことにはならず、波長の合わない魔力は勝手に体外へ出て行く。

 しかしマーヤとは混ざってしまい、お互いの魔力が一つの魔力となろうとしていた。

 その前に干渉をやめてしまったから、もう一度やろう。

 今の現象と感覚と魔力の感じをメモしてから、またマーヤの手をとる。

 また気持ち悪い感覚を生み出してみた。

 マーヤはギャーギャー騒ぐが手を力強く握って、逃さないようにする。

 魔力が混じり、マーヤの魔力は僕がなにをしても抵抗がなくなって、僕の魔力と変わらなくなった。

 まるで膨大な魔力を取り戻したような感じだ。

 それをゆっくりと動かす。

 マーヤの体をグルグルとゆっくり回るように。


「あ、あれ!? 魔力がいつもとは違う動きしてるんですけど!」


「僕が動かしている。この感覚を覚えられるか? 早く魔力操作を習得できそうじゃないか?」


「や、やってみます!」


 マーヤが魔力を動かそうとするので、僕は魔力を動かすのをやめる。

 しばらく魔力が頑張っているのを眺めながら、記録をつけていった。

 しばらくして違和感を覚える。

 なんだか、魔力が減っていっているような……。


「あ! 動かせました!」


 マーヤが言った。

 慌てて魔力に意識を向けると、確かにマーヤは魔力を動かせていた。

 しかもマーヤの体の中を高速でぐるんぐるん回っている。

 これだけ動かせるのなら魔力操作はマスターしたとしてみていいだろう。


「じゃあその状態で、簡単な魔法を僕が使ってみよう」


 マーヤの魔力で、僕がライトの魔法を使ってみた。

 問題なく使えるようだ。


「どうやるんですか?」


「……まず、身体強化の魔法を教えよう。といっても、マーヤがやっている魔力グルグルを、腕や足、頭にも経由させるんだ。魔力が体に行き渡ることで、体が強化される。魔力を使った身体強化はそんな感じだ」


「なるほど!」


 マーヤの場合、魔力が大量にその体内にあるので、循環させなくてもできる魔法だ。

 しかしより魔力を体に行き渡られせるのなら、動かした方がいい。

 オンオフの切り替えにも役立つだろう。


「で、次にライトの魔法。僕がさっき生み出した光の玉だ」


 僕は紙にささっと魔法陣を描く。


「この魔法陣がライトだ。それを魔力で描いてみてくれ」


「……え? 魔力で、ですか?」


「最初はゆっくり描いていい。次第に一瞬で魔法を使えるようになるから」


「……魔法書の魔法陣ではなく、自分の魔力で描いた魔法陣で発動させるってことですか?」


「そのとおり。利点としては、両手が開くし、ページをめくる作業がない。訓練次第で瞬時に魔法が放てるし、同時にいくつもの魔法を発動できる。魔法書を落としてしまうとか、そういった心配がない」


「でも魔法陣を覚える必要がありそうですね」


「でも魔法陣を覚えなくても身体強化は扱えるから、習得した意味はあるだろう」


 マーヤは頷いてから、ライトの魔法陣を魔力で描こうとする。

 習得したばかりで上手く操れないようだが、やっていけば慣れるだろう。

 なんとか歪な魔法陣を完成させて、ライトを使うマーヤ。

 光の球が現れたので、上手くいったんだろう。


「先生はどうやって魔法を発動しているんですか? やっぱり記憶力がいいんですか?」


 彼女の質問に僕は答える。


「記憶力は結構いいほうだと思う。魔法に関しては。……でも即席で魔法を作って発動させることもあるかな」


「魔法を作るって大変だって聞きましたけど、先生はぱぱぱっと作れちゃうんですよね」


「そうだ。天才だろう」


 ……やっぱり魔力が減ってきているな。

 魔法を使ったがそんなに魔力を使う魔法を使っていない。

 ここまで減るのはおかしい。

 何が原因だ?

 やはり他人の魔力と自分の魔力を混じらせたり、魔法発動に他人の魔力を使ったりするのは効率が悪いのか?

 なんか違う気がする。

 しばらく観察してみようか。


「……先生、魔力がちょっとずつ減っている気がするんですけど、なにかやってます?」


「特になにも。でもしばらく待ってみよう。どうなるのか気になる」


 魔力が体の外へ出ている感じではない。

 でもどこかへ行ってしまう感覚はする。

 どこへ行ってしまうのかは全くわからないし、魔力を追うことも出来なさそうだ。

 辿ってもぶつりと途切れてしまっている。

 しばらくすると、魔力の減りが大きくなってきた。


「せ、先生! なんか怖いんですけど、これ!」


 ……仕方ないのでマーヤの手を離した。

 出来ればしっかり検証しておきたかったが、マーヤを怯えさせては次の実験に支障をきたす。

 しかし今起こったことと仮説はメモしておいた。


「今の魔力が減る現象ってなんですか?」


「……たぶん、僕の呪いだよ。僕と契約している精霊が、マーヤの魔力は僕の魔力だと認識して食べ始めたんだ。マーヤの魔力を僕が使って魔法を放つことはできるけど、精霊が食べ始めてしまうからマーヤが自分で魔法を使ったほうが効率がいいな」


 それでも魔宝石のようにマーヤを扱えるということだ。

 ただ魔宝石の場合は、中にいる精霊と魔力の波長が合っていないので、精霊の魔力は上手く扱えない。

 しかも精霊が補助をしてくれるかどうかで魔法の威力がかなりかわる。

 補助がないと精霊は魔力をあまり使わせてくれないんだ。

 人間嫌いの精霊相手だと、逆に人間が魔力を使われてしまうほどだし。

 精霊の魔力に干渉するために自分の魔力を使う必要があるので、魔法道具のように干渉せずに魔法の効果を発動することも難しい。

 マーヤ相手なら話をしてくれないということも少ないだろうし、魔力の波長が僕と同じなので補助も必要ない。

 抵抗する術もたぶんないと思うので、僕はマーヤの魔力を使い放題だ。

 まあ僕の場合、呪いがあるのでマーヤを魔宝石として扱ったとしても、魔力をロスするのでどっちもどっちか。

 普通に魔法道具を使った方がいいが、こういう実験の記録が役立つこともあるだろう。


「……先生の呪いって、やっぱり酷いですね」


 だが、マーヤとの実験でもしかしたら魔力を少しでも増やすことが出来るかもしれない。


「あとは魔力の移植とかしてみたいな」


 移植で増やしてもそのぶんを精霊が食べてしまうのなら、意味ないかもしれないが、それでも試してみるだけ試してみたい。

 魔法は未知が多いので、もしかしたら変な作用を起こして、僕の魔力が増える可能性だってある。

 ……魔力移植はまだ成功した事例がないので、まず成功までもっていきたいな。

 考えただけでワクワクしてしまう。


「移植とか命に関わりませんか?」


 マーヤが不安そうだ。


「魔力が人の命に関わることは少ない。魔力を体内で高速に動かしても人体に影響はないし、短時間で大量の魔力を消費しても問題ない。危険があるのは、大量の魔力を体内に溜め込みすぎるとかかな」


「そうなんですか……」


「まあ実験はまた今度やろうか。今日はなかなか有意義な時間を過ごせた。マーヤも十年かかる魔力を操作できるようになったし」


「そうですね。危険じゃない実験ですものね。いつ危険な実験になっていくのか……」


 まだ警戒しているようだが、実験前よりは警戒心はとけただろう。


「また実験させてね」


「……次からはどんな実験をするかを言ってください! 危険性とかもあったら絶対に言ってくださいよ!」


「わかったよ」


 この後は二時半から授業があるのでその準備をする。

 午後はまた戦術祭の魔法道具作りを進めることになるだろう。

次話は3月に投稿する予定です!


追記2020/03/28

投稿をお休みします。

次の投稿は未定ですが、書けるまでお待ちいただけると幸いです。

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