幻影魔法のアイデア
ダイザムたちも椅子に座って僕たちを見守っている。
魔法の初歩の初歩だから、ダイザムはともかく、魔法使いのジョセフやトゥアーサにそんなに真剣に見つめられるとやりにくいな。
「魔法陣の使い方からやるか。といっても使うだけなら簡単だ」
魔法書を取り出して、ウォーターポールという魔法陣のページを開く。
「体の中の魔力を感じて魔法陣に触れるだけで、魔力を使う準備が出来る。あとは呪文を唱えるだけだ。呪文は魔法陣によって異なるから、どれがどの呪文かしっかり覚えておくこと」
僕は魔法陣に触れて実演してみせる。
「ウォーターボール」
呪文を唱えると、魔法陣の上に水の塊が出てきて球状で浮いている。
「本来のウォーターボールは攻撃系の魔法だけど、今回は水が出てくるだけになっている。安心するといい」
興味深そうにマーヤとスティナが水を見ている。
スティナはメモを取っているし真面目だな。
「使ったあとは魔法陣から手を離すか、体の中の魔力を意識するのをやめれば魔法の発動が終わる。ただ今回の魔法はその場に水が残るので、このままやめれば本がびしょ濡れになるだろう」
「水が残らない魔法、みたいなのもあるんですか?」
スティナが質問してきた。
「あるよ。そういう魔法文字を入れればいいから。でもそういう魔法文字がなくても、ちょっと工夫すると水は消える」
魔法陣の外側の円を指でなぞった。
それだけで浮いていた水が小さくなっていき、最後には消えてしまう。
「魔力が魔法に変化したあとにこうすると、魔法が魔力に戻ってくれる。一度手を離すとダメだけどね」
「毎回円をなぞって消した方がいいんでしょうか?」
「そんなことはない。外で水をばら撒く程度ならすぐに乾くし、ほかの属性でも問題なければわざわざ消さなくても良い。というか、戦闘に使うなら消している時間が命取りになりかねない。森の中で火の攻撃魔法を使うとかなら消したほうがいいけど」
「先生! 魔法書で戦うってどうやるんですか?」
マーヤが手をシュパッとあげて真面目な顔をしている。
話がずれていっている気がするが、疑問は大切だし答えようか。
「魔法書に書かれている魔法陣を使って魔法を発動させる。自分が使いたい魔法陣を集めて魔法書を作っていく人が多いかな。魔法使いは何ページにどんな魔法が書かれているか覚えているし、指先の感覚でそのページを瞬時に開くことが可能だ。それが出来ないと一人前ではない」
「ほえー」
納得したようなので、魔法陣の使い方はこれでいいだろう。
「次は魔法陣の書き方だ。といっても書くだけなら簡単だ。魔法陣の改良や作成となると大変だけど」
魔法陣の書く練習のためにポケットから木の板を何枚か、筆と瓶を二つずつ取り出す。
瓶の中には水を入れておいた。
「とりあえず、さっきのウォーターボールの魔法陣をこの板に書き写してみてくれ」
板は乾いているから水を含ませた筆を乗せれば、若干色が変わる。
失敗しても乾かせば何度でも書き直せるだろう。
「書き写すだけでいいんですか?」
「間違えずに書き写すのは結構大変だよ。魔物の血を使って羊皮紙に書くと基本的には消せないから」
僕が作った魔法道具を使えば消せるけど、今は基礎を覚えてもらうことが大切だ。
「ウォーターボールを書き写せたら別の魔法陣を書き写す。それをそれぞれ五回連続で、一回も間違えずに書けるようになろう。魔法文字も覚えたいなら、本もあげようかな」
「覚えたいです!」
スティナは身を乗り出していう。
「じゃあ初歩的な魔法文字が書かれている本をあげるよ。知りたい文字があれば僕に聞くか、図書館や本屋に行って調べてみてね」
そう言いながら、常に何冊か持っている初心者用の魔法文字辞典を渡した。
それからしばらく魔法陣を板に書き写していたが、何度も間違えてしまう二人。
魔法陣は複雑だし、なかなか難しいだろう。
「あー! これで五枚目だったのに間違えたー!」
マーヤが絶叫している。
間違えたのでストーンバレットの一枚目からだ。
これまでマーヤたちはウォーターボール、ライトボール、ファイアーボール、ストーンバレット、ウィンドカッターと順に書いてもらってる。
マーヤは今ストーンバレットを書いていて、スティナはライトボールだ。
魔法陣を書き写すのが得意らしいマーヤは、初めてにしてはすらすらかけている。
スティナは結構苦戦しているようだが、コツがつかめれば大丈夫だろう。
コツをつかむまでが大変そうだが。
因みに僕も一緒にやっていたが、すでにウィンドカッターまで書き終えた。
今は作った幻影魔法の改良をしている。
作ってみたはいいものの、思ったよりうまく幻影を見せられなかった。
さて、どうしたものかな。
幻影への耐性がある人でも見られるように、催眠の効果がある魔法文字も入れてみたんだ。
一応決めておいた催眠の呪文「あなたは幻影の中にいる」と唱えて幻影を見やすくするだけだが、それでもぼやけたり、ぶれたりしてしまっていた。
特に幻影が動くとひどい。
人が走っている様子を見せようとしたら、いろんな色が混じった謎の玉が転がっているみたいにしか見えなくなったし。
「はあ……私、間違えすぎでしょう……」
「ドンマイ、スティナ。とりあえずライトボールを終わらせよう。焦らなくていいからね!」
「マーヤ様、ありがとうございます。頑張りますね」
マーヤたちが頑張っているのをぼーっと見つめながら考える。
止まっている状態でなら、誰にでも同じ幻影を見せられるには見せられるんだ。
ただそこに幻影を動かすという魔法文字を付け加えるだけで、止まっている状態でもぼやける。
困った。本当に困った。
アイデアが出ないときは、人に話を聞くか、外を散歩するかすることが多い。
しかし今は散歩は無理か。
「止まっている状態でははっきり見えるのに、動かそうとするとぼやけるし、ぶれる」
なんとなくそう呟いてみる。
「なんの話ですか? ニファン先生」
マーヤが食いついてきた。
「いやちょっとな。動く絵本のようなものを作りたいんだが、上手くいかなくて」
「動く絵本……絵ってことはアニメですか?」
「……あにめ?」
「あー、絵が動くみたいなものです。例えばそうですね……そうだ! 落書きしてもいい本とか持ってませんか?」
マーヤのいうとおりに本を出す。
落書きというので一応ペンとインクも出して置いた。
そのペンを手に取って本に落書きしていくマーヤ。
しばらくすると書いたものを見せてくれた。
これは……ただの丸だな。
「見ててくださいね」
ページをパラパラとめくるマーヤ。
するとなんと、丸が動いた!
びっくりして本を凝視してしまう。
ボールが弾んでいるように見えたぞ!
「どうなってる? ちょっと見せてくれ」
「はいどうぞ!」
ページを前と後ろでどう違うか確認していく。
ちょっとずつずらして絵を描き、次の動きにつなげ、動いているように見せているらしい。
なるほど。
この方法を魔法でもやってみよう。
幻影魔法を紙に描いた魔法陣と魔宝石を使って発動し、人に見せる幻影を記録していく。
記録と同時に、ちょっと魔法陣を書き換えておこう。
僕が今使っているこの幻影魔法は一応古代魔法文字を使っているから、発動するだけでもなかなか大変だ。
まだ解読され切っていない古代魔法文字のわかる部分だけで魔法を構築しているわけなのでより大変さが増してる。
僕が提案したことなので、自業自得か。
記録が終わるとそれぞれの魔法陣を順番に重ねた。
そこでさっき書き換えたところに魔力が満タンの魔宝石を触れさせる。
「アニメ」
マーヤが言っていた謎の言葉を呪文とし、魔法陣が発動する。
するとテーブルの上をマーヤが書いたようなボールが跳ねた。
といってもボールは立体だ。
そしてその映像はぶれることもぼやけることもなく、しっかり見えた。
「せ、先生すごい! リアルにアニメが混ざりこんでる!」
「まあ僕は天才だから当然のことだ」
でもマーヤの知識には助けられた。
それがなければ開発が遅れていただろう。
あとは耐性のある者にでも、必ず見せられるようにならないといけない。
催眠の魔法文字だけでは足りないだろう。
ほかにも沢山の幻影を記録するから魔法陣の数も多くなるし、記録することに時間がかかりそうだ。
その辺は学園でやるか。
「アニメなら音声もつけるんですか?」
「……音声?」
映像だけのつもりでいたので、マーヤの言葉に困惑する。
でも考えてみた。
物語の中の存在が、目の前で喋ったり戦ったりする。
それはとても夢があるし、本当の戦闘ではないので間近でみても怪我はしない。
大魔法でも武器を使った戦いでも、動く人だけでなく音もあったら最高だ。
戦いだけじゃなく、現実では不可能なことでも見せられるんじゃないか?
人が空を飛ぶことはまだできていないが、この魔法で見せられはする。
幻影なのだから自由だ。
そういうのってわくわくする!
幻聴の魔法陣を作るか?
いやこれは普通に音にすべきだ。
耳で聞いたほうが、絶対いい。
魔法の爆発なら大きな音を出そう。
音は空気を震わせて、本当にそこで爆発が起きているように感じられるだろう。
妄想が止まらなくなってしまい、にやにやしてしまった。
「マーヤのアイデアは素晴らしいな! もっと魔法が作りたくなってしまう!」
「先生もすごいですよ。すぐ魔法を作っちゃいますから」
「天才だから当然だ。マーヤのアイデアも素晴らしいけどね」
「じゃあ私が作ってほしいものとか紙にまとめて持ってきますね! 私が知っているものってこの世界のものとは違いますから、先生なら有効活用できるでしょ?」
「……できなくはないけど、いいのか? 魔法を習っているんだから、自分で作ることもできるんだよ?」
「いいんです。先生のほうが何倍もい良いものが作れますからね!」
そのとおりだからマーヤが望むならそうしよう。
僕の魔法技術も向上するだろうから。
途中からダイザムたちも魔法陣を描く練習を始めていた。
見ているだけでは暇だったのだろう。
ダイザムは初心者の二人よりは描きなれているが、それでも何度も間違えている。
ジョセフとトゥアーサはすでに魔法使いの初歩などとうに習得しているので、ささっと終わらせていた。
その日のうちに間違えずに魔法陣を描くことが出来なかったのはスティナだけだった。
まあ人には得意不得意がある。
魔法陣を描くことが苦手でも、魔法文字を覚えて魔法陣の構造を理解すると間違えないという人もいるし、その逆もいるから、気にすることはない。
それに描くときに間違えるだけで、魔法陣自体を描けないというわけではないんだ。
スティナは治癒魔法を使った道具の開発をしていたから、それを今後も頑張ればいいだろう。
落ち込むスティナを励ましながら、家の門までマーヤとスティナとサーチ対策部隊を見送った。
次話の投稿は未定です。二月には投稿します。
あとこの世界の曜日のことを書き忘れていたので、「恩人は大恩人」という話に説明を付け加えました。
この世界は、闇、火、水、風、無、土、光の日で一週間が過ぎていきます。
闇の日が授業の始まりの日ですので、そこが月曜日という感じです。




