自分で自分の首を絞めた気がする
悔しさを鎮めて、僕は魔法書を本棚に戻す。
「すまん、ニファン殿。気分を害してしまったかのう?」
「いや問題ない。ちょっと感情的になっただけだ。良くあることだし、気にしないでくれ」
「そ、そうかの。本当にすまんのう」
「いいよ。わざとじゃないみたいだし」
僕は仕事をするために机に戻り、魔法道具の作成に取り組む。
といっても、ダイザムとジョセフに見せてもいい魔法道具って何だろう?
適当に魔法道具の用の素材を取り出していく。
魔宝石、魔物の血、ペン、いろいろな布、いろいろな皮、木材、羊皮紙、鉱石、なんかの植物……。
とにかく適当にポケットから出していく。
さて、なにを使おうか……。
皮と布を手に取る。
とりあえずで作るなら、やっぱりあの魔法道具かな。
針と糸とハサミを取り出して、無地の白い布と下級のドラゴンの皮をハサミで切った。
このハサミはなんでも切れる魔法道具で、軽量化を目的に魔宝石ではなく魔石を使用している。
それでも下級のドラゴンの皮くらいなら一時間くらい使っても刃こぼれしない。
流石にゴールドドラゴンの素材を切ろうとすれば、一瞬で壊れるが。
そして蜘蛛の魔物の糸を使って布と皮を縫う。
布には魔法陣を書き、中心にポケットを作る。
そのポケットに魔宝石を入れた。
結構キツキツになるようにしたから、魔法陣に魔宝石がしっかりと触れ合っている。
細かいところを微調整して出来上がったのは、異空間収納付きカバンだ。
カバンというには小さすぎるから、ポーチ?
「ニファン殿はカバンも作っていたのじゃな……」
「本当はカバン職人の人から貰いたいんだけど、本人たちに異空間収納の陣を僕が売っちゃうから、僕が作る必要ないんだよね。でも一番作りやすい魔法道具ではある。改良に改良を重ねていて愛着もあるし」
「売っちゃうって、それでよいのかのう?」
「まあいいんじゃない? それで魔法道具を使う人が増えるなら」
しばらくはよく街で出回ってる魔法道具を作り続ける。
出回ってるやつは、魔法道具職人の見習いでも作れるくらい簡単な物ばかりなので、パパッと作ってしまった。
そろそろ普通に魔法陣開発でもしようかな。
それとも魔法道具の改良でもするか?
今作った自動で雑巾掛けをするという魔法道具を手に取る。
この魔法道具には風と水属性の魔法文字を、使って魔法陣を作成した。
風は、雑巾を乾かす時と、拭くときの移動のために。
水は、雑巾を濡らし、汚れたら洗うために。
でももっと改良できないか?
人が掃除するときと、この魔法道具が掃除するときでは、人が掃除したほうが綺麗になる。
それを人と同じ、もしくはそれ以上にしたい。
人は汚れを見つけたら強く擦るが、この魔法道具はそれができない。風でやろうとすると雑巾の軽さで飛んでいきそうになるし、水では床がびしょびしょになる。
力を入れる感じだと、どうしても土系統の素材を使って土属性の文字を必要としてしまう。
でも土をそのまま使うと逆に汚す魔法道具に成り下がるし、土を焼いて固めたら火属性の文字も必要で、魔法陣が大きくなるし複雑になりすぎる。
金属系を使ったら値段が今以上に高くなるし……。
さて、困ったぞ。
いろいろ考えてみたものの、良いアイデアが浮かばない。
掃除系の魔法道具で困ったときは、学校の清掃のおばちゃんに聞くのが一番なんだけどな。
今度聞くか。
「そういえば、ニファン殿ってサーチのことはどのくらい知っていますか?」
さっきまで僕の魔法の凄さに絶句していたダイザムが、思い出したように聞いてきた。
「まあまあ詳しい方かな? 知り合いに怪盗サーチ大ファンがいるから聞かされるんだよ」
元スパイなのか現役スパイなのかよくわからない牢屋の中の男と、勇者召喚でやってきたらしい元気な娘が。
それに僕はサーチの正体やサーチが使う魔法道具も全て知り尽くしているので、誰よりもサーチに詳しいだろう。
当たり前なんだけどさ。
そう考えていたらハッとした。
今、ナチュラルにダイザムにタメ口で話しかけた気がする。
というかだいぶ前から敬語を使うの忘れてないか?
「ダイザムさん。今更だけど、ため口でいい?」
一応確認しておく。
「全然いいですよ。話しやすい言葉でどうぞ」
「じゃあダイザムさんも話しやすい口調でいいよ」
「そ、そうですか?」
「冒険者らしく行こう」
「しかし私の普段の口調は偉そうだとか言われるのですが……」
「大丈夫だって!」
「……で、では、そのようにしよう」
怪盗サーチのときに見慣れてるダイザムのほうが話しやすい。
いや話しやすいけど、ぼろが出ないだろうか?
まあ僕は天才だし大丈夫だろう。
「しかしニファン殿。冒険者らしくと言っていたが、冒険者だったのか?」
「まあね。でもそんな風に見えないだろう?」
「見えんな。魔法使いの家系の坊ちゃんって感じだ」
「……間違ってはないかな。魔法使いの家系に生まれたし」
「ほう。それなのに冒険者か」
「僕は天才魔法使いだから、かなり優秀な冒険者だったさ。本当は魔法の研究をやりたかったんだけど、その頃はお金がなかったから」
「意外だな。魔法書なしの魔法使いなんて引っ張りだこだろう」
「僕は魔力が少ないし、当時十歳だったから仕方ないよ。冒険者ギルドもそんな子供には、簡単な仕事しか回してくれないし」
「そ、そうなのか……」
「僕は天才だから五の魔法使いになったけどね。僕の言葉を信じていなかった奴は驚いただろうな」
「努力の賜物なのだな」
努力もしたけど、僕は天才だから五の魔法使いになるのは必然だったさ。
「怪盗サーチをそこそこ知っているニファン殿に聞きたいのだが、五の魔法使いとして怪盗サーチをどう見る? もし表に出てきたら、五の魔法使いになれると思うか?」
「……さあ? どうだろうね。確かに凄い魔法使いだけど、技術がどのくらいあるのかわからないし、なんともいえない。犯罪に手を出しているから、相当凄い魔法使いじゃないとなれないかもね」
でも僕は相当凄い魔法使いだからなれる。
「そうだな。……実力がわからなくても、サーチを捕まえる案はないか? 挑戦状という罠を使っても、ダメだったのだが……」
「それ思ったんだけど、何で挑戦状をサーチが有利な夜の時間に指定してるの? サーチが来てくれないと思って昼じゃなく夜にしてるとか?」
ずっと謎なんだよね。
今まで昼を指定した挑戦状ってない。
何時にどこどこの魔宝石を盗んでみせろって感じなのに、全部夜を指定してくれている。
こちらとしては、ありがたいが。
「……盲点だった。ニファン殿、感謝する。今度の挑戦状は昼にしよう」
……僕、何も言わないほうがよかった感じ?
自分で自分の首を絞めた気がする。
「さ、サーチが昼に来るかわかんないのに、挑戦状を出しちゃって大丈夫なわけ?」
なんとか昼を指定されないように誘導を試みる。
「試してみる価値はある。それで来ないなら、それなりの理由があるということがわかる。それだけでも収穫だ」
ダイザムが胸を張っていう。
これはもう無理っぽい。
ディゼオに相談しなければ。
……僕としては、昼でも夜でも宝石は盗みに行きたい。
僕の魔宝石である可能性があるのなら、確認しておきたい。
今の五の魔法使いという地位は、とても魅力的なものだが、最終的には魔法王となる。
例え正体がバレたとしても、それはそれでいい。
まあそうなったら、魔法王になるのもかなり力づくになりそうだが、魔力が戻れば問題無いだろう。
僕の奪われた魔力は膨大で、今身につけている魔法技術も最高峰だ。
魔宝石を取り戻したら、誰も僕には敵わなくなる。
でも今の生活を捨てたくはないなぁ。
「早速、この国の王にサーチが盗みそうな魔宝石がないか聞いてこよう」
ダイザムがそう言って帰る準備を始めた。
そんな急に国王のところ行って会えるものなのか?
ちょっと心配になりながらも、ダイザムを玄関で見送った。
ジョセフとトゥアーサは僕のところに残って見学を続けるそうだ。
次話の投稿は未定。
早くて年内、遅くて来年の1月の投稿になりそうです。




