怪盗サーチ対策部隊の訪問
第二章で閑話を入れ忘れてました。
「少女は笑う」と「第二章 登場人物」の間に「閑話 白い仮面の男」を入れておきます。
ケルトたちと別れた日から四日が経った。
生徒たちと戦術祭で使う魔法道具をあれこれと話し合いながら作成している。
まあ、今日は学校は休みなので、家で怪盗衣装に一瞬で着替えられるような魔法を開発中だ。
昼頃、ユリアが飯が出来たと呼びにきたので、リビングに向かうことにする。
ユリアが勝手にここに住みついているが、飯が出てくるので黙認してる。
二階から一階に降りている途中で、チリチリチリと、鈴の音が聞こえた。
門の鈴を誰かが鳴らしたのだろう。
誰だろうか?
「ユリア。客が来たからちょっと行ってくる」
「はーい。いってらっしゃい」
入り口の門に来てみると、見知った顔。
怪盗サーチ対策部隊のダイザム団長じゃないですか。
でもダイザム団長とは五の魔法使いとして会うのはほぼ初めてだ。
ちらりと団長の連れをみると、これまた見知った顔。
五の魔法使いの五の座にいた先代の魔法使いジョセフがいた。
もう一人いるが……すごく緊張して真っ青な顔してる知らない男だな。
門を開けてからニッコリ笑顔を作る。
「こんにちは。どなた様でしょうか?」
「我々は冒険者組合の怪盗サーチ対策部隊です。私はダイザム。こちらは元五の魔法使いのうちの五のジョセフ。ジョセフの弟子のトゥアーサです。ニファン・ヴィオラン・アスタール殿でよろしいですか?」
「はい。そうです。手紙に書いてあった協力の要請ですかね?」
「ええ。こちらモスクワ学園長先生から手紙をお預かりました」
ダイザムが手紙を見せてくる。
モスクワって一瞬誰? って思ったけど、ディゼオの苗字だった。
聴きなれてないとわかんないよね。
手紙をその場で開いて中身を確認。
ディゼオがダイザムと話したことが書かれている。
どうやら海の破片についての話も聞き出せたようで、そのことについても詳しく書かれていた。
協力の報酬に、海の破片が使われている古代の魔法道具を見せてくれることを最低条件にしろ……か。
まあやるだけやってみよう。
「なるほど、まあ上がってください。そのほうがゆっくり話せるでしょう」
ダイザムたちを屋敷にあげる。
リビングに行くとユリアがまた飯を作り始めていた。
お客さんの分を作ってるのか。
「いらっしゃいませー。ご飯、食べちゃってくださいね」
ユリアが確認も取らず、次々とダイザムたちのご飯もテーブルに置くものだから、話をしながら飯を食べることになった。
ダイザムたちが、食事してからここに来ていたのならどうするつもりだったんだか。
……ユリアならそれでも食べさせる気がするな。
「アスタール殿は、我々に協力する気はございますかね?」
ダイザムが聞いてくるが、つい眉を顰める。
交渉の場なので、すぐに笑顔を取り繕ったが。
「ダイザムさん。私のことは姓のアスタールではなく、名のニファンと呼んでくださいませんか?」
「はあ、わかりました。ニファン殿」
「ありがとうございます。協力はしても良いですけど、現地へ行くとかそういう面倒なことはしませんよ」
「ええ、それは構いません。怪盗サーチが残したものや、魔法を分析していただければいいのです」
「……今まではやってこなかったんですか?」
「やってはいましたが、分析が専門の魔法使いは冒険者になりたがらず少ないのです。ほとんどが現場で怪盗サーチを捕まえる役割を任せております」
「なるほど」
「もちろん五の魔法使いたるニファン殿にお願いするからには、報酬も出来るだけ優遇いたしますので」
「なんでいきなり、直接会って交渉しようと? 今までは手紙だったじゃないですか」
「……我々だけでも捕まえると過信していたためです。一瞬で眠らされたため、サーチがその気になればまた眠らされてしまい、盗られ放題になってしまう」
「つまり、危機感からですか。とりあえず、サーチが残したものとか今もってます? 僕の研究分野に入ってれば助言くらいしますよ。もちろん報酬は貰いますが、お試しに、ね?」
「……こちらです」
ダイザムが袋から取り出したのは割れた石ころだった。
……めっちゃ見覚えある。
スリープを閉じ込めておいた魔石じゃん。
「ジョセフはこの石に魔法の痕跡があると言っています。魔法陣も書かれていますが、砕かれていて破片を全て回収は出来ていません。何の魔法陣が描かれていたか、予想はつきますか?」
食事の手を止めて石を見る。
「……触っても?」
「どうぞ、触ってしっかり見てください」
どのくらい魔法陣が残ってるのか確認する。
うわ、結構残ってるから僕ならすぐ答えが出せるわ。
どんな魔法であるかという部分。状態異常っていう魔法文字がしっかり書いてあるし。
きっと五の魔法使いの二と三でも、この魔法陣が何に使われたかすぐわかるだろう。
これは言うしかないか。
「これ多分、あなたたちを眠らせた正体じゃないですか?」
「え?」
さっと見ただけでぱっと答えたことに驚いたのか、ダイザムがポカンと口を開けた。
「流石ニファン殿じゃのう。戦闘専門の儂は大違いじゃ」
ジョセフが言っている。
でもこれは魔法陣をちょっと作れる程度じゃわからないのも仕方ないよ。
状態異常なんて呪術師を目指してる人か、サポート程度に使う程度で、積極的に使う人は少ないし。
使っても状態異常の魔法が発動するのは必ずじゃない。
最悪、魔力切れになってもかからないなんてこともあるし、そんな魔法使うくらいなら攻撃魔法を学んだほうが効率は良い。
だから状態異常系の魔法陣はほとんど知られていない。
わからなくても仕方ないだろう。
「この石が眠らせた正体って、いったいどういうことですか?」
ダイザムが詳しく知りたいようなので教えてあげよう。
「ここには状態異常の魔法陣が書かれています。眠らされたということは、スリープとかそういう状態異常系統の魔法じゃないですかね?」
「道具を使って、あの魔法を使ったということですか?」
「ええ。一瞬で眠らされたとのことなので、かなり改良はされているでしょうが」
「こんな小さい石で、そんなことが?」
「実験してみましょうか」
僕はポケットから魔石を取り出して、そこにライトの魔法陣を描く。
ライトは普段、明るさを制御するために制限をかけているが、制限なしで書いた。
制御しようとしたら、石が小さすぎて書ききれないし。
「行きますよ? ライト」
目を瞑って呪文を呟く。
瞼の裏まで明るくなるほど石が光った。
すぐに魔石の魔力が尽きて光は収まったが。
目を開けると、光に目をやられた皆がいた。
一応、簡単な治癒魔法をかけてあげた。
「ニファン! やばいことするなら言ってよね!」
ユリアがうるさいが無視する。
「このように、一瞬ではありますが、魔法を発動することが出来ました。サーチは魔法陣を模倣されないために砕いたようですね」
「……しかしそれなら壊して置いていくより持って帰ったほうが良くないですかね」
ダイザムが言っている。
こいつは魔法のこと勉強してないのか?
「……ダイザムさんに質問します。魔法使いが火の魔法を放ったとします。その炎で、敵は燃えますか?」
「も、燃えるでしょう」
「その通り。では、魔法使いが火の魔法を自分に放ったとしたら、どうでしょう?」
「え、燃えるのでは?」
「自滅の魔法でない限り、燃えることはありません。つまり自分の体の中の魔力で作られた魔法は自分に危害を与えない。スリープの魔法も同じで、周りの人は眠っても自分が眠ることはないのです」
「……自分の体の中の魔力って言いました?」
「言いました」
「自分の体の外の魔力で発動した魔法は、道具を作った本人にも効くんですか!?」
「その通り。サーチはこの石で発動したスリープにかかったと見て間違いないでしょう。まあ自分で発動したので、ある程度は対策していたでしょうからすぐ眠ることはなく、逃走は成功したって感じですかね?」
「遅い来る睡魔で、海の破片を盗む余裕がなかったってことですね!」
「多分そうですね」
「凄い! 我々が頭を悩ませていたことをこうもあっさりと解決するなんて!」
「僕は天才なので当然です」
「ではこちらの魔法陣も見ていただけませんか?」
「いいですよ。あ、でも海の破片が使われている剣をお見せしてくれると約束してくださるなら」
「……剣のことはどこで?」
「あなたたちが届けてくれた、ディゼオからの手紙で」
「ああ、だからモスクワ学園長は俺たちに根掘り葉掘り聞いてきたんですね」
ダイザムが納得したように頷く。
「では、海の破片をお持ちします。ほかに何か報酬ときてほしいものはありますか?」
「魔宝石がほしいですね。あ、サーチが狙うような凄いのじゃなくていいので、とにかく数をくれればいいです。研究に使うので」
「……それだけでいいんですか?」
「後は魔法関連で面白そうなものあったら見せてください。古代の魔法道具とか、謎の遺跡の場所とか」
「わかりました」
「くれた分だけ仕事しますよ。今日は海の破片を必ず見せてくれるってことで、先に働いてあげます」
「ありがたいです」
ダイザムが深く頭を下げる。
ユリアはそんな僕たちをみて笑いを堪えてたので、手の甲を思いっきりつねってやった。
僕が開発したものを僕が分析して情報を提供する、なんて自作自演みたいなことしてるのは、そりゃ面白いだろうけど。
次話は11月22日投稿予定です。
時間が経って読み返してみると、描写が足りないことに気がつきますね。
どういう動作してるのかわからないとか、登場人物の容姿がわからないとか。
ディゼオとか、エリックとかわからないですよね。
少しずつ改稿していきます。
まあ最優先は完結させることなので、改稿は後回しになると思いますが。




