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閑話 白い仮面の男

〜〜〜◆〜〜〜


 高く白い天井にぶら下がり、淡い光を放つシャンデリア。彫刻された壁の赤黒い模様は、天井まで伸びていて、絨毯もその模様に合わせるように真っ赤である。家具なども並べられ、どこかの国の城の一室のような豪華さ。しかし窓もなく、模様から鉄のような匂いがすることを除けばの話だが。

 そして部屋の中心にある大きな円状の机を挟むように、二人の男が話をしていた。


「五の魔法使いの五のせいで、優秀な魔法使いに溢れているな」


 白髪を後ろに纏めた魔法使いを思わせる男がいう。

 細くつりあがった目と裂けるように笑う口の白の仮面を彼だけが顔につけている。

 彼の正体を知るのはこの組織の幹部のみだ。


「申し訳ありません。五を止めることはなかなか難しく……」


 金色の髪に白髪がまじる男が、仮面の男に向けていう。


「どうにか制御できないか? マジナーサのように」


 仮面の男は指にはめた大きな宝石つきの指輪をさする。

 その宝石は聖女マジナーサを思わせる、白色である。


「教師をさせて私に近寄らせない作戦も、そろそろ変えた方が良いんじゃないか? 魔法道具も作らせないようにしたいが」


 白髪まじりの男は、仮面男の言葉に苦い顔をした。


「しかし教師という職をやめさせると、ニファンがボスに近づきかねんのです。それに彼は縛られることを嫌うので、下手をすると我々の支配から抜け出してしまうかと」


「では事故を起こそう」


 その言葉にゴクリと、息を呑み白髪まじりの男は聞く。


「……殺せ、とおっしゃっているのですか?」


「いやなに、そこまでは言っていない。殺さないために魔力の没収をしているのだし、お前では五を殺すなんて出来ないだろう」


「ではどうすれば?」


「事故に見せかけて、腕をもぎ、呪いで再生しないようにしよう。魔法道具を作れなくするには十分じゃないか?」


「いえ、彼は四六時中、自らを守る結界を張る魔法道具を身につけており、その結界を破るためには高火力の魔法をぶつける必要があります。やるからには腕だけではすまないかと」


「ふん。やはり五は面倒な奴だ」


「しかし彼の持つ技術を組織に流しております。それを研究していれば、彼は脅威となることはありません。さらに我々の技術力も上がり、ボスも今まで以上に素晴らしい力を発揮できます」


「増えている優秀な魔法使いはどうする?」


「我々が技術を身につければ、ただの雑魚と化すでしょう。今は危ないので優秀な子たちの魔力を奪っておりますが」


「しかし優秀な者が多い分、沢山の人の魔力を奪い過ぎてはいないか? 我々の存在に勘づかれていてもおかしくはないほどだ」


「我々の手のものは、至る所に潜入しております。例え勘づかれていても、揉み消せるでしょう。ニファンは揉み消せる対象ですし、勘づかれていても問題ないのでは?」


「ふむ……まあそうか」


 納得したように、仮面の男は腕を組む。

 そして話題は次の人物へと移り変わった。


「しかし怪盗サーチはダメだ。あいつはグレーンの奴が持っていた資料を盗んだ。まだ正体は分からんのか?」


「申し訳ございません」


「魔宝石目当てなら、我々と手を組めるというのに、接触して話もできないとは……」


「逃げ足が早いのです。気がついた時にはどこにもいない。神出鬼没で話は愚か、触れることさえ叶わんのです」


「怪盗サーチ対策部隊も罠に嵌めようとしたものの、逆に罠に嵌ったくらいだ。こんな有能な魔法使いは放っておけない。仲間に引き入れるか、どうにかして魔力を奪うか出来ないか?」


「まずは会話することを最優先に行動いたします。接触できないことには魔力を奪うことも出来ませんので」


「そう言ってもう何年も接触できていないじゃないか」


「も、申し訳ございません」


「もう待ってられん。どんな手を使っても接触しろ」


「……仰せのままに、ボス」


 頭を垂れる白髪まじりの男。


「裏切れば、わかっているな?」


「……もちろんですとも。私と彼の魔力を奪うのでしょう?」


「そうだ。簡単な魔法も発動できないように、な」


 服従するしかない白髪まじりの男は、どんな手を使って怪盗サーチと接触するか、今まで避けていた方法も候補に入れて、作戦を頭の中で組み立て始めた。


「もう行って良いぞ」


 仮面の男に言われて、白髪まじりの男は部屋を出て行った。


〜〜〜◆〜〜〜


「あの子、大丈夫かしら?」


 先ほどまでいなかったはずの女が、仮面の男が座る椅子の肘掛に腰掛けていた。

 仮面の男は驚く様子もなく、壁に立てかけてある青い魔宝石が先端についた杖を手に取る。


「心配しなくていい。裏切れはしないさ」


「裏切ったら魔力を奪うものね。私だったら死んでしまうわ」


「君は精霊だからね」


 仮面の男は杖の先の人の頭ほどある魔宝石に触れる。


「実体化しても、魔宝石が消えないほど魔力が残るのは、私のおかげだ」


「感謝してるわ。あなたの魔力は大きくて素晴らしい」


 女は羽衣のようなふわふわとした淡い青色の衣装を揺らしながら、仮面の男の上を魚が跳ねるように空を飛ぶ。

 仮面は興味なさげに魔宝石をこんこんと小突いた。


「もしものときはお前が頼りだ」


「ええ、魔力をくれたぶんの働きはするわよ」


「契約、だからな」


「契約、だもの」


 仮面の男は、着地してくすくす笑う女のピンクの髪を掬う。

 女は仮面の男の頭を抱き寄せ、その大きな胸に押しつけた。

 男なら羨ましい光景であるが、仮面の男は女を突き飛ばした。

 そして苦しげに咳き込む。


「お前は水の精霊なのだから、そんなことされたら溺れる」


 びしょぬれになった仮面を顔から外さずにポケットから取り出した白い布で拭く。


「酷いわ。私だって人間の真似事がしてみたいのに」


「ほかの人にしてくれ」


「い、や、よ。うふふ」


 女は頬を赤く染めたままウインクして、笑った。


「困った女だな」


 仮面の男は肩をすくめるのみ。

 彼女の人間を真似する行為には慣れているのだ。


「精霊が人間を愛することは多々あるわ。でもその中でも私は、特別なのよ」


「そうか。私も人間の中では特別な存在だ」


「そうでしょうよ」


 女は男の手をとり、指を絡めるようにして手をつなぐ。

 男もその手を握り返し、お互いの温度に浸った。


「お前は冷たいな」


「私は水だもの。あなたは温かいわね」


「人間だからな。冷たくなったら、死んでいる」


「死なないでよ。私はあなたの温かさが好き。こうやってくっついていたら、私はあなたの温度になるわ」


 女は男に体を寄せた。


「……私は精霊には好かれずらいのだがな」


「そういう点でも私は特別なのよ。あなたの魅力に気づけた唯一の精霊だもの」


「特別は守られるべきだな。いや、私たちが守らなければ」


「ええ、守りましょう。私たちのボス。私だけのあなた」


 女は男の頬を撫でて恍惚とした表情をした。

 男に酔いしれ、男にほれ込んでいるのが、誰の目でも明らかだ。

 そんな彼女を見つめる男は、仮面の中で何を思っているのか。


〜〜〜◆〜〜〜

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