逃走
人が来る前に秘密の資料がある部屋に入ったら、マーヤと一緒に片っ端から羊皮紙や本を集めて僕のポケットの中に詰め込んでいく。
どれが必要な情報なのかはわからないが、持って行って損はないだろう。
「いい情報があったら私に手紙を頂戴よ?」
マーヤの言葉に頷いておく。
ちらっと見た限りでもなかなかの情報が書かれているし。
例えば、法王サマは魔法組織デジメーションの幹部の一人らしいということとか。
まあやっぱりな、って感じだな。
あらかた資料を盗み終えたので、さっさと帰ることにしよう。
というか、
「勇者マーヤ様はこのまま私と一緒に見つかると共犯とバレるのでは?」
「……バレるね。サーチ、今から戦ってるフリしてくれない? さっきの壁を壊した音も戦闘してたらっていう設定にすれば、サーチがちょっとアホなのバレないよ!」
「アホ言うな」
そう言ってからはっとして俺は口元を押さえる。
今の完全に素だった。
マーヤもキョトンとした顔をして俺を見つめる。
「なんでもないですよ?」
今の俺の発言がマーヤに聞こえなかったことに賭けてみた。
「……プッ、あはは! サーチ、今の絶対に素だったでしょ! なんか普通の人っぽくて一気に親近感が持てたわ」
ちゃんと聞こえていた様子。
くそ、表の仕事での知り合いだからか、いつもの感じて喋りそうになる。
気を緩めないようにもっと集中しないと。
「今の発言は忘れてください」
「やーだ。サーチが私に心を開き始めたみたいで嬉しもん」
「開いてませんから」
「んー、じゃあ今はそういうことにしてあげる」
マーヤは笑顔で僕の方に手を伸ばしてくる。
何をする気だ?
「スキル『聖剣召喚』」
そう呟くと、マーヤの伸ばされた手に純白で神々しい光が集まってくる。
これ、やばい。
神話とか伝説でしか聞いたことのない、聖剣をマジで召喚する気だ。
本当に勇者なんだって、そう信じざるを得ない。
マーヤの手の中に光と同じ色の、けれどしっかりとそこに存在していると感じさせるほどの強い力を持った剣が現れた。
ねえ、これ戦うフリだよね?
「マーヤ様。その剣でやりあったら、私、死にます」
「でも私が本気を出してるように見えるでしょ?」
「そうですね。でも私はどうしろと?」
「適当に避けて、適当に攻撃して頂戴。積極的に物を壊しちゃって!」
もうなるようになれ、だな。
ポケットから派手な破壊が出来る枝のような形の魔法道具を取り出して、魔力で覆った空気を高速で放つ。
壁は突然爆発したように吹き飛んだ。
「……サーチ、なにしたの?」
「ただ、魔法を放っただけですよ。脱出用壁破壊魔法として作りましたが、人に当たると普通に死にます」
「魔法が見えなかったんだけど? 避けようがなくない!?」
「大丈夫ですよ。放つときはどこに当てるか見ますので目線で避けられます」
「んな無茶な! サーチ、自分が仮面してること忘れてない!?」
「ああ、そういえばそうでした。では勇者マーヤ様にこれをお渡ししましょう」
マーヤにネックレスを投げつける。
これは防御結界を張ることができる魔法道具だ。
しかし魔宝石は付いておらず、ネックレスの使用者の魔力を強制的に使って発動する道具である。
「それを首に下げておけば怪我はしませんよ」
「わかった。じゃあ行くよ!」
マーヤがネックレスを身につけてから、剣を振りかぶってくる。
大振りなので楽々と避けられた。
これだったら逃げられるかもしれない。
しかしマーヤの剣が床に当たった瞬間、石で出来た床が地響きのような音を立てて深くえぐられた。
……当たったら、やばい。
余裕ぶっこいて避け損ねたら大惨事どころじゃない。
本気で逃げなければ。
出口に向かいながらマーヤの剣から逃げる。
地上へ続く階段を見つけたが、すでに冒険者たちで埋め尽くされていた。
さて、どこから外に出るべきか?
「サーチっ! 魔宝石は持ってる!?」
ユリアの声がした。
一体どこにいるかはわからないが、とりあえず頷いておく。
本当は刻印の血涙を持っているのはマーヤだけど、これでいいだろう。
この後ユリアはエリックの足止めに向かってくれるはずだ。
「サーチ? 仲間がいるの?」
マーヤが驚いたように声をあげる。
仲間というより協力者だが、まあ仲間と似たようなものだろう。
信用の出来ない仲間と言い換えてもいい。
とりあえず答える気はないので、マーヤのすぐそばの壁をぶち壊すことで返事をする。
「おわっ!? 危ないじゃない!」
圧倒的にマーヤの剣のほうが危ないだろうが。
多分だけど、それで魔王を倒すんだろ?
俺のは攻撃用に作られてないのに、マーヤのはバリバリ攻撃用!
危ないなんてもんじゃない。
もうさっさと逃げよう。
探索魔法を使って周りを確認。
人がいないのは左右と下だけか。
仕方ない。
最悪屋敷が崩壊するかもしれないが、その時は皆も避難するだろう。
ポケットから槍の形をした棒を取り出して、その魔法道具を床に突き刺し穴を開ける。
すると地面には一メートルを超える穴ができ、俺は落下した。
さらに穴の中で下へと穴を開け続けると、土が見えてきた。
ある程度土の中へ潜れたら、軌道修正して横へ向けて掘り進める。
ここまで、時間は一秒もたっていないだろう。
どんなに早くても、一秒もたてば穴に人が入ってくるので、追いつかれないスピードで魔法道具の出力を最大にして穴を掘り、身体強化の魔法陣を使い全速力で走った。
次話は早くて8月15日、遅くて9月1日投稿となりそうです。
まずは、予定通りに投稿できなかったことについて謝罪いたします。すみません。
理由を書くと、就活中でまだ内定をいただけなくて小説がほとんど書けてないんですよね。
まあ言い訳ですが……。
とりあえず内定もらうまでは、かなり不定期になりそうです。
個人的には定期的に書き続けて、完結まで持っていきたいんで、出来るだけ予定通りに書きたいんですけどね。
でも無理はできないので、定期的には諦めて、ゆっくりペースでも完結までは持っていきたいと思っております。
落ち着いてきたら、また一週間投稿したいですし。
ですので、怪盗サーチを読んでくださる方がいらっしゃれば、できればですが、完結まで付き合ってくださると幸いです。




