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子供嫌い……?

 ディゼオの分身をミアナッシーク王国に放ってから、僕は運び鳥三号のいるヒロマインツ王国に転移する。

 チラシはばら撒き終わったようで、運び鳥三号は転移の陣の前で停止している。

 では別の国にもばら撒きに行こう。



〜〜〜〜



 運び鳥三号を使ってチラシをばら撒き終えた頃には、午前十一時になろうとしていた。

 いつのまにか徹夜していたようだ。

 授業に遅刻しないように慌てて支度をする。

 リビングに行くとユリアとケルトがコインを奪い合うという遊びをしていた。

 ケルトは着々と泥棒の腕を磨いているようだ。


「ニファンは忙しそうだね」


 ユリアにそう言われてしまうくらいなので、本当に忙しそうに見えるんだろう。

 ちょっと最近は頑張りすぎだね。

 ディゼオに怒られそうだけど、僕の魔宝石関係だし、必死になるのも当然だろう。


「最近はちょっと忙しいけど、いつもはもうちょっとゆったりした生活を送っているぞ?」


 とりあえずそう言ってからケルトが四苦八苦して奪おうとしてるユリアのコインをさりげなく奪って見せる。

 ユリアが不機嫌そうに睨んでくるが、奪われるのが悪いんだぞ?

 堂々とコインをケルトに渡すと嬉しそうに笑ってくれた。

 ユリアはため息をついて悔しそうにしている。


「流石、有名なだけあるわ。……それとこれなんだけど」


 ユリアがポケットから見覚えのあるチラシを見せてくる。


「このチラシなんなの?」


 怪盗サーチは果たして刻印の血涙を盗めるのか!?

 とか書いてあるね。


「刻印の血涙を取り戻す為の作戦らしいよ? 僕も協力しているし、頑張るつもりだ」


「……大丈夫なの?」


「問題ないって」


「サーチを捕まえるためとかじゃないのよね?」


「違うけど、冒険者組合はどうだろうな。また出張ってきそうではある」


「……私も手伝おうか?」


「そうしてくれると助かるが、それだとケルトも連れて行くことになりそうだな」


 チラリとケルトを見る。


「わたしもお手伝いしたいです!」


「やる気だな。では当日は僕が教えた魔法を使って、魔宝石が動かないか監視しておいてくれ。怪盗サーチが持っていってくれればいいが、別の者が持っていってしまったら、どうしようもない」


「でも魔法陣がないと使えないですよ?」


「大きな紙に書いたから、それごと持っていけばいい」


「わかったです」


 さて、こんなゆっくりと会話している場合ではないんだが、ついつい話をしてしまった。

 ユリアが僕のポケットからまた時計を盗もうとするので、それをあしらいながらリビングを出る。

 そして白衣に搭載されている身体強化の陣を起動してから、全速力で学園に向かって走った。

 先週の授業も時間を変更して行ったのに、さらに僕が遅刻なんて先生としてダメだ。

 だから本気で急いでいる。

 でも屋根の上を走って時間短縮などはしない。

 それをやると怪盗だとバレそうな行動だから。

 それでも身体強化の魔法は人間離れしてしまうので目立つが、この際仕方ないだろう。


 怪盗の仕事で磨いた回避術で華麗に人を避けながら、教室に駆け込んだ。

 その直後、チャイムがなる。

 ぎりぎりセーフ、だな。

 ハァハァと荒れる呼吸を何とか整える。


「先生、大丈夫ですか?」


 一番前の席にいる女子生徒が少し困惑気味に聞いてくる。


「だ、大丈夫っ……! ちょっと、走ってきただけだっ」


 魔法で水を作り出してゴクゴクと飲む。

 授業の準備は僕のサポートをしてくれるマカロフ先生とクレール先生がしていてくれてた。


「ニファン先生、どうしたんですか? こんなギリギリに来るなんて珍しいです」


 マカロフ先生がいう。

 ゆっくり深呼吸してから僕は答えた。


「昨日から仕事が立て込んでいてね。今日の朝、こっちに帰ってきたばかりなんだ」


 実際他国に転移でチラシ配りに行っていたからな。

 十一時ちょっと前が朝なのかどうかは微妙なところだが。

 ふう、と大きく息を吐いてから、ゆっくりと教壇の上に立つ。


「では授業を始めよう」



〜〜〜〜



 なんだかんだあったが、怪盗サーチの予告状の日となった。

 情報収集も魔法道具の点検もばっちりだ。

 あとグレーンの屋敷の警備としては、当然のように冒険者組合の怪盗サーチ対策部隊の彼らとマーヤ、エリック、スティナだ。

 エリックにはどうにか警備から外れてほしかったが、マーヤが頑張っているのに俺も頑張らなくてどうするといって譲らなかった。

 エリックの前で怪盗サーチの格好してるときは、声を出さないように気をつけよう。

 マジナーサは早急に治癒魔法が必要な病気の患者からの依頼で遠くに行っているので欠席。

 僕も五の魔法使いとしての仕事が大量に入ってしまったということにして、徹夜しないと終わらないかもとかいう理由で欠席している。

 昼の間は普通に授業があったので仕事して、それからマーヤたちに隠れるためにネックレス型の認識阻害の魔法道具を首からぶら下げ、ユリアとケルトと一緒にミアナッシーク王国に転移。

 ケルトが探知できる範囲に刻印の血涙が入る宿屋を見つけ出して、その一室を借り、予告の時間まで待機だ。

 少しすると先にこの国に来ていたディゼオの分身体もやってきた。


「ニファン、やることの確認だ。大まかには刻印の血涙と資料の回収だ。そしてエリック王子には絶対に会うな。探索の魔法は常時使ってくれ」


「わかってるよ」


「あとスリープ系の状態異常もなしだ。相当追い込まれるまでは使うな」


「はーい」


「魔力は出来るだけ温存だ。いつも通り魔法道具を優先で。そして魔法を切る剣は見つけ次第奪え」


「出来たら奪う」


「それでいい。侵入経路と脱出経路のパターンだが――」


 それぞれ口頭で再確認していく。

 紙に書いたら証拠が残るからな。

 まあ書いたとしても燃やせば問題ないけど。


 因みにケルトがこの場にいて話を聞いているが、問題ない。

 少し前に正体をバラした。

 ケルトも勘づいていたようで驚いてなかったし。

 しっかりと事情を話して、どうして怪盗をやっているのか、どうしたら怪盗をやめられるかを話しておいた。

 そしてもしケルトが僕の正体を誰かにバラしたとしても、僕は逃げるし、捕まらないし、怪盗を止めることもない。

 仮に捕まったとしても、抜け出す。僕にはそれだけの技術がある。

 実際にそういう魔法を見せたからよくわかってくれたと思う。

 だからケルトが僕のことを誰かに言うことはないはず。

 出来れば言わないでとは言っているが、言いたくなったら言っていいとも話したから、話してしまう可能性もある。


「――てな感じだ。パターンを覚えたか?」


「問題ない」


 半分くらい話を聞いていなかったが、一応自前に聞いて覚えてはいるし、問題ないだろう。


「道具の点検もしっかりしているよな?」


「もちろん。僕を誰だと思っている?」


「はいはい。俺はしばらく分身は動かさないから、時間まで適当に過ごしておいてくれ」


「了解」


 ディゼオが椅子に座って目を瞑り動かなくなった。

 本体のほうに集中してるのだろう。

 僕は暇になってしまうから、時間までは魔法道具の開発でもしようかな。


「ヴィオランお兄ちゃん、取り合いっこしようです!」


 ケルトが刻印の血涙の片割れであった、半月型の水色の魔宝石を見せてきた。

 物覚えがいいケルトは、ユリアとの遊びですでに高い技術を身につけているので、人前でこの遊びはしないように言っている。

 特にマジナーサの前では。


「魔宝石を投げて、先に取った方の勝ちです。行くですよ!」


 ケルトが魔宝石を上へ投げる。

 まだやるって言ってなのに。

 まあやるけども。

 ケルトは僕をじっと見て、僕が何かしようとしたら動けるように構えていた。

 背の高さ的に僕のほうが取りやすいもんな。

 落ちてきた魔宝石を右手で素早くキャッチする。

 その瞬間、ケルトは魔宝石を盗るために僕の腕に抱きついてくる。

 僕は素早く服の中に魔宝石を隠し、魔法で動かした。

 魔宝石は僕の白衣の袖をとおり、左の袖までやってきたのでそのまま掴んだ。


「どこやったのですか!」


 僕の早業にケルトは魔宝石を見失って、僕の手をぺたぺた触り困っていた。

 その様子がちょっと可愛い。


「こっちの手だよ」


 左手で魔宝石を見せびらかす。


「いつのまに!?」


 ケルトが目を見開いて宝石に手を伸ばすので、手の届かない場所まで持ち上げる。

 それでも一生懸命飛び跳ねるのでおかしくて笑ってしまった。


「隙あり!」


 ユリアが猫のようにジャンプして、僕の頭上を飛び越える。

 ただし、魔宝石も取られたが。

 この僕から物を奪うとは、いい度胸だなぁ?

 振り返るとユリアがドヤ顔で僕を見ていた。


「私だって泥棒の端くれよ?」


 僕はそんなユリアににっこりと素敵な笑みを返す。


「アハハ。そうかそうか。で? 僕から物を奪うのか? ん?」


「え、に、ニファン? どうしたの?」


「僕は物を奪われることが最っ高に嫌いでさぁ。それともなに? お前、僕を裏切る気満々って感じ?」


「なんでそういう話になるわけ!?」


「僕を裏切った奴らは、僕から沢山の物を奪ったんだ。それがかなりのトラウマでさ。だからマジでやめてくれ。奪うにしてもせめて、予告して」


「わ、わかったわ」


 わかったならいい。

 話している途中にユリアから取り返した魔宝石を指で弄びながら思う。


「って、あー! ニファンだって予告せずに盗ったじゃない!」


「知らないなぁ。ユリアが予告してって言わないのが悪いんじゃないか?」


「はぁ!? 私の同情を返してくれないかしら!」


「泥棒は嘘つきに決まってるじゃないか。トラウマは本当だけど」


「そうなの。じゃあニファンの心が壊れるほど心を抉りまくってやるわ!」


「ハハハ! ユリアにならなにをされても傷つかないから、どうぞご自由に」


「腹立つ! でも逆らったら、あなたに預けている魔宝石ちゃんがもう見れなくなるのよね……。これも計算?」


「裏切ること前提にするなら、そいつの大切なものを抑えておくのは当然じゃないか?」


「裏切ることは前提なのね」


「拾ってくれた親同然の恩人を裏切るようなやつだからな」


「まあそうだけど、あなたのことは裏切らないわよ?」


「僕より素晴らしい相手が見つかればそっちに行きそうだ。僕以上なんて滅多に存在しないが、いなくはないし」


「情報を教えるだけで魔宝石がもらえるのよ? そんな人、あなた以外にいないわ」


 まあそうだろうけどな。

 ユリアと話していると、忍び足で近寄ってきたケルトが、僕の手ごと魔宝石を掴んできた。


「捕まえたです!」


 盗られないように動こうとも思ったかが、ケルトの一生懸命さが微笑ましく思え、魔宝石を奪わせとくことにする。


「やったです! 盗れたです!」


「ケルトも奪うの上手くなったなぁ」


 よしよしと頭を撫でてあげる。

 すると嬉しそうにはしゃぎだした。

 ケルトは本当に素直で可愛い。


「ニファン……子供に優しいのね」


「は? どこがだ? 僕はあまり子供は好きじゃないから、かなり辛くあたっているが?」


 全くユリアはなにを言っているのか。

 あった当初は少しだけ好かれるためにいい顔したが、今は自然体だぞ?


「それこそどこがよ! わざと盗らせてるし、頭撫でてるし、微笑ましそうな優しい笑みだし!」


「意味わかんないなぁ」


 ユリアがまだ言いたそうにしていたが、先にケルトが僕に話しかける。


「ヴィオランお兄ちゃん! さっきの魔宝石を一瞬で左手に移動させた魔法、教えてです!」


 ケルトが目をキラキラさせて僕の腕を引っ張った。

 もう、仕方ないな。

 魔法のことなら教えてやろうか。


「まずは魔力操作が出来るようにならないといけないが、頑張れるか?」


「頑張るですよ!」


「では、魔力を感じ取ることは可能か?」


「できるです」


「じゃあその魔力を自由に動かせるように毎日特訓してくれ。何年かかるかわからないけどな」


「そ、そんな難しいのです?」


「難しい。でも頑張れば誰だって出来るさ。魔力操作が出来るようになれば、魔法書がなくてもすぐに魔法を使えるようになるんだぞ。覚えて損はない」


「わかったです! ……どうすればいいのですか?」


「まずは――」


 ケルトに魔力操作を教えていると、ユリアが一緒に魔力操作の使い方の助言をくれた。

 ユリアも魔力操作ができるらしい。

 それから時間が来るまで、僕たちはケルトのために時間を潰したのだった。

次話は7月4日投稿予定です。


毎回授業の内容を書こうか迷って、結局書かない。

でも二つの章のうち一回くらい授業内容も書こうかな、と考えていますが、はてさてどうしたものやら。

気分次第ですかね笑

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