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恩人は大恩人

 ドアをノックしてマーヤたちが泊まる宿屋の一室の中に入る。

 不思議そうに僕を見る皆。

 僕はマーヤに近寄って早速用件を伝える。


「刻印の血涙について調べてくれ」


「え?」


「ケルトの魔力が戻らなかった。でもさっきの魔宝石の中の精霊は双子で、刻印の血涙という魔宝石はもう一つあるらしい。そのもう一つを探してくれ」


「……わかりました」


「ちょっと待て、まだ魔宝石をニファンに渡してから一日もたってないぞ!」


 エリックがいうので、肩をすくめておく。


「……ヴィオラン、あなた神話の中の転移の魔法の開発に成功したのですか?」


「さぁてね」


「転移以外でこんなことありえないでしょう」


「そう? まあ自由に想像しなよ。夢が広がるのは素晴らしいことだからな」


「……いつもならペラペラ話すヴィオランが話さないということは、そうなんですね」


 マジナーサが確信を持ったように言っているが、僕は無視する。


「ニファン先生! 確かに刻印の血涙が二つになっていました。もう一つはグレーンさんのところにまだあります」


「もう一度、交渉しに行こう」


 グレーンの屋敷へ向かう道。

 僕の頭の中は不安でいっぱいになっていた。

 もし僕の魔宝石も二つ三つと別れていたら?

 それがバラバラにあったらどれだけ探しても見つかる気がしない。

 一つならまだいい。

 それだけを探し続ければいいから。

 でも魔宝石が複数あったら、それだけ探さなければならない。

 それでも見つけ出すが……見つけ出せるよな?

 今後は複数である可能性も考えて、魔法道具を作り直さないといけないし……。

 大丈夫。

 絶対見つけ出す。

 絶対見つけ出す。

 なんとか自己暗示を続けて、グレーンの屋敷まできた。

 そしてマーヤが無理矢理気味にグレーンと面会する。


「一体どうされたんですか」


「刻印の血涙を譲ってください」


「はて? もうお譲りしましたが……」


「対となる魔宝石をください」


「……なんのことですかな?」


「とぼけないで!」


「私はしっかり渡しましたので。あまり意味のわからないことをおっしゃると、いくらあなた様でも役所に突き出しますよ?」


「……どうしてこんな嘘を」


「勘違いしているのはそちらでしょう」


「……」


 マーヤは押し黙ってしまった。

 僕は似たような体験をしたことがあるので、世界はクソだなって再確認しただけだが、マーヤは結構キツイだろう。

 部屋から追いだされた僕たちは、どうしようかとお互いに顔を見合わせる。


「ふふふ、やっぱりね」


 マーヤが呟いて、いつのまにか用意していた紙をドアに貼った。


『親愛なるグレーン・コーン・ペキローザ様

闇が明け、また闇がおり、それさえ覆うような暗さが街に被さった頃、少女の涙が生み出した魔宝石「刻印の血涙」を頂きに参上いたします。黄金の申し子怪盗サーチより』


 ……え?


「まてまて、マーヤ!? なにこれ、なんの真似だよおい!」


「しー! 先生、グレーンさんにバレるので静かにお願いします」


 いやいやグレーンが金でくれなかったら、予告状を送りつける予定だったけど、なんでマーヤが!?

 しかも黄金の申し子ってなんなの!?

 マーヤが出口に向かうので追いながら問い詰める。


「怪盗サーチなら盗んでくれると思って」


「盗んでくれたとして、どうやって返してもらうんだよ?」


 返す予定ではあるが、なにも知らないはずのサーチがいきなり返してきたらおかしいじゃん。

 いや僕は一応考えてはあるし、それを実行するにしても、マーヤの考えを知ってからでないとやばい。

 屋敷を出て、今度は宿屋に向かいながら思う。


「私が現場にいます。そして逃げる途中のサーチを捕まえて、返して欲しいって言います。そのあと、サーチが刻印の血涙が欲しいというならあげますって感じで」


「グレーンがこの屋敷にマーヤを入れてくれると思うのか?」


「入れてくれますって。私だって刻印の血涙を盗られるわけにはいかないので、警備としていさせてくださいって言えばいいんです」


「ちゃんと考えてたんだ」


 上手くいけば最高だが、果たしてどうか。


「一番の難関は怪盗サーチです。サーチがわかるように大きく宣伝しましょう」


「でも、犯罪という手口で奪うのはどうかと。グレーンさんにも渡せない事情があるのかもしれませんよ?」


 マジナーサがいうが、こういう場合って大体個人的に渡したくないってだけだったり、ぼったくって金だけもらって逃走とかよくあるんだよな。

 深刻な事情があってとかは本当に少ない。

 ……でも一応調べてみるか。

 蜘蛛型の魔法道具をポケットから取り出して、見られないように屋敷の中で放り打てる。

 起動したようですぐに動き出した。

 色々探ったらきっとディゼオの持っている記録の水晶に情報が転送されるだろう。

 この情報は盗むためにも結構使えるはずだ。


「マジナーサさんの言う通りなら私だってこんなことしない。でもグレーンさんは……」


「何か知っているのか?」


 何かを言いかけたマーヤに聞いてみる。


「……今は言わないことにします。信じられないようなことですので、証拠を掴んで確信を持ってからで」


「そうか」


「でも、ニファン先生に関わってそうなことではあるので、わかったらすぐに伝えますよ」


「そうしてくれ」


「ではすぐに宣伝するための準備をしましょう」


「その前に、怪盗サーチが黄金の申し子ってどう言う意味?」


「怪盗サーチが金ぴかの衣装に身を包むからですよ!」


 違う! どうして怪盗サーチの名前の前にそれをつけたのかって意味!

 普通に怪盗サーチでいいじゃん!

 黄金の申し子怪盗サーチってなに!?

 僕そんなの名乗ったことないんだけど!


「まあまあ良いじゃないですか! 目には目を、歯には歯をです。悪い奴には悪い奴を使えばいいんです!」


「それだとグレーンが悪い奴ってことになるけど?」


「悪い奴ですよ。証拠も絶対掴みます」


 マーヤが拳を強く握って決意を固めている。

 いったい何を知ったのだろう。

 スキルというものでどこまで知れるのかも良くわからないが、きっと重大な何かを知ったに違いない。

 ……なんか怖いな。

 僕のこと調べられたら一瞬で正体がバレそう。

 出来るだけ調べられることがないように気をつけておかないと。


〜〜〜〜


 宿屋に戻ってきた僕たちは、早速宣伝用に作るチラシの作成に取り掛かる。

 怪盗サーチがどこにいるかわからないので、世界中にばら撒くんだとか。

 はははっ。それはありがたい。

 どこの国でサーチが見に覚えのない予告状の存在を知ったのか、わからなくなるからな。

 でも設定としては海の破片の展示されていた美術館がある国、ヒロマインツ王国に潜伏していたが、なぜか勝手に予告状が届いたと世間がざわついてる。

 噂を確かめに神聖ミアナッシーク王国へ来て、魔宝石の存在を確かめると同時に偽りの予告状を送った奴を探していると、マーヤたちに突き当たった。

 怪盗サーチになったときはそんな感じで演じよう。

 あらかじめストーリーを考えておけば、ミスも少なくなるものだ。



「では先生。これを各国へばら撒いてきてください」


 完成したチラシをマーヤが渡してくるので受け取った。

 では運び鳥三号を使ってばら撒くか。

 正直、運び鳥三号も飛ばすのが難しいという常識のなかでは異質の存在だが、遠めからではただの鳥。

 全く不自然には思われない。

 手紙を運んでいたとしても、ペットで押し通す。

 だからチラシを降らしていても、全く問題ないな!


「じゃあ行ってくる」


「いってらっしゃい! ニファン先生!」


 マーヤに見送られながら宿屋から出て、リエーナの店のいつもの転移の陣に乗って僕の家へ帰ってきた。

 運び鳥三号を転移の陣でヒロマインツ王国へ飛ばしておき、適当にばら撒いてもらう。

 その間僕はディゼオのところへ急いで向かった。


 今日のディゼオは家にいるはずだ。

 ディゼオの家までチラシをばら撒きながら早足で向かう。


 そしてディゼオの家のノッカーを壊す勢いで叩いた。

 何度も何度も。


「誰だこんな叩くのは! 聞こえてるからもう叩くな!」


 ディゼオが出てきてくれたので、チラシをその顔に押し付ける。

 ディゼオはチラシを顔から剥がして僕のことを睨みつけてきた。


「ニファン、一体どうした? いくらお前でも人の家のドアを叩く趣味があるわけじゃないよな?」


「違うから。それ見ればわかる」


 チラシを指差していうと、ディゼオはチラシの内容を見始める。

 そして僕の腕を強く掴んで引っ張り、家の中に入れてくれた。


「これはどういうことだ? 勝手に予告状を送ったのか!?」


「僕がそんなことするわけないじゃん。僕も予想外なんだから」


「じゃあ誰が予告状を?」


「マーヤ・レイザンガリフ・カワシロ。怪盗サーチファンの彼女が、サーチなら魔宝石を取り返してくれる! みたいな感じで予告状を出していた」


「……馬鹿なのか?」


「僕が言うわけにもいかないから、とりあえず協力してこのチラシを全国に配っている」


「……それならサーチも気がつくだろうが、サーチが来てくれるか? 明らかに罠だと思うだろう」


「挑戦状なんていうあからさま過ぎる罠に自ら飛び込んでいくサーチが、この程度の罠に飛び込んでくれないと?」


「あー、絶対来るわ。……今後は怪盗サーチとして動く前提で行動を始めよう。チラシ配りは任せる。特にヒロマインツ王国には沢山ばら撒いてくれ」


「もう運び鳥三号が配り始めてる」


「流石だ。日時はいつになってるんだ?」


「『闇が明け、また闇がおり、それさえ覆うような暗さが街に被さった頃、少女の涙が生み出した魔宝石「刻印の血涙」を頂きに参上いたします』というのが予告状の内容だ」


「気取ってるな。今まで何の日の何時にこういう宝石盗むからよろしくってのを、丁寧に書いて送っていただけなのに、これじゃあ不自然すぎるぞ」


「怪盗サーチのイメージってこんななんだよ」


「で、この闇が明け、また闇がおりってのが闇の日が二回来たらってことか?」


「よくわかったね。そうらしいよ。マーヤが言ってた」


 闇、火、水、風、無、土、光の日という順番で、一週間の日は決まっている。


「……一週間の授業の始まりの日だから忙しいのに」


 予告の日のディゼオはきっと寝不足だな。


「えーっとそれで闇の日が二回だったな? 闇の日は明日だから……ほぼ一週間後じゃないか」


「時刻は暗くなったら。だから暗い時間帯なら最低でも十二時前に現れれば予告通りになりそうじゃない?」


「そういうことにしておこう。曖昧な言葉ばかりだから、解釈違いでも大丈夫だろう。今度から俺たちもこうやって書くか?」


「言い回し考えんの面倒くさい」


「それはある。時と場合によって変えるか」


「任せる」


「任された。あとは魔宝石の場所と建物の情報も集めないとな」


「蜘蛛型の記録の魔法道具を置いてきた。ディゼオの水晶に情報が送られているはずだ」


「いつのまに……」


 ディゼオが水晶を取り出し呪文を唱え、キーを解除する。

 すると水晶の周りに転移の陣と同じガラスのような画面がいくつか現れた。

 ディゼオが画面に触れて操作を始める。


「なるほど、確かに届いて……? なんだこれ」


「どうした?」


「……そういうことか。さて、困ったぞ」


 ディゼオが画面を睨んで考えこんでしまった。

 しばらくディゼオのことは放っておこうか。

 ディゼオへのプレゼントとして作った分身の魔法の改良をしておく。



「……よし。ニファン、グレーンという貴族だが――」


 しばらくして喋りだしたディゼオが僕のほうをみる。

 僕は満面の笑みでディゼオに魔法書に描いた魔法陣を見せた。


「……お前、分身の魔法なんて作って一体何がしたいんだ?」


 流石魔法学園の学園長。

 一目見てどんな魔法かわかるのはいいことだ。


「これディゼオにプレゼント。これなら表の仕事と裏の仕事を同時に進められる」


「お前どんだけ俺に仕事させんの……。まあありがたいが。あとで魔法陣を写させてもらう。それよりも、だ」


 ディゼオが水晶の画面を操作して、僕に画像を見せてくる。

 どうやら何かの資料のようだ。


「ここには孤児院の経営に関してと、孤児院の子供を売って金にしていることに関しての記録が書かれている」


「えぇー」


 グレーンやべぇな。

 完全に犯罪してるわ。


「しかもグレーンの孤児院は魔力を奪われた子供たちの心の拠り所となっているらしい。心を開き始めた子供たちが魔力を探すことか出来ないように、その子供たちの気持ちを裏切り奴隷として売る。これは全て魔法組織デジメーションの資金調達のために行われるんだと。俺たちの敵の姿が見れたぞ。最低な奴らだって再確認出来たな」


 ……あ、昔の俺かなり危なかったかも。

 俺にはたまたまリエーナがいたが、もしリエーナが声をかけてくれなければ、俺はミアナッシーク王国でその孤児院に縋っていたのではないかと思えてならない。

 そして、魔法組織デジメーションの手のひらの上で踊らされ、そのまま奴隷として売られていた未来があったのだろう。

 ぞっとした。

 こんな酷いこと、魔法組織デジメーションは平気で行うのか?

 マーヤはこれを知ってしまったのだろうか。

 それにマーヤがいっていた通りだが、確実な証拠がない。

 この水晶は怪盗についての記録も大量に含まれているから見せるわけにはいかないし、資料によるといなくなった子供たちも里親にもらわれたってことになっていて行方不明とは思われていないし、それらが書いてある資料もすぐに燃やすようにしているらしく、庭で焼かれている光景が記録として届いていた。

 なんとかして犯罪関係の実物の資料だけでも手に入れたいところだが……。

 どこかに隠し持っていないだろうか?

 それと、子供たちの行方も知りたい。

 僕が助けられるとは思わないが、魔力の宿る魔宝石を見つけたら、返してあげるということは出来る。

 それからなら自力でなんとかできるかもしれないし、できないかもしれない。

 でもやれることは増える。

 探すのは手間だから、どこに行ったかという情報が残っていたらいいな。


「ニファン? 考え込んでどうした? やっぱり魔法組織デジメーションには手を出したくなくなったか?」


 ディゼオが心配してくれる。


「いやなに、リエーナの存在が僕の人生において最も大切だと再確認したまでだ」


「リエーナ? 確か魔法学園を紹介してくれた人だったか?」


「ああ。彼女が僕に声をかけて来なかったら、僕はグレーンの孤児院に縋ってたなって思ってさ」


「っ!? そ、そうか」


「危うく奴隷として売られるところだった。……だからさ、ディゼオ。コイツぶっ潰すぞ」


「……わかった、全力でサポートする。早速分身の魔法を使って、分身をミアナッシーク王国に送ってくれ。現地で情報を集めてながら、アルファード王国で情報の整理をする」


「分身したら感覚が二つになるから慣れるまでは気をつけてくれ」


「了解」


 ディゼオが分身の魔法を使う。

 最初は二つの体を同じようにしか動かせなかったが、一時間すると自由に動き回れるようになっていた。

 ディゼオ天才。

 使いこなすまでに一日以上必要だと思ってたのに一時間とか。

 でもディゼオって平行して色んなことするの得意だし、当然っちゃ当然なのか。

 酷い時は表裏合わせて重要な仕事を何十個と抱え、細々とした仕事沢山を一人で同時に進めてたし、頭どうなってんのマジで。


「脳への負担軽減もしてくれてるし、分身の方も違和感なく動かせるし、使いやすいなこれ」


 ディゼオが言ってるが、これでもかなりキツイはずなんだが?


「ディゼオは平行して物事を考えるのはヤバすぎて僕を超えてる」


 僕でも引くほどの天才っぷりだ。


「いやいや、負担軽減が効いてるんだ。いつも以上に頭の回転がいいぞ?」


「恐ろしいことを聞いた。今度、脳への負担軽減特化の魔法道具も作ってくる」


「おう。よろしく頼む。……なんでちょっと引いてんだよ」


「この魔法、僕でも使いこなせないのにヤバイなって」


「はぁ!? なんてもんを俺に使わせてんだよ!」


「その魔法の劣等版使ったんだけど、感覚が増えて気持ち悪くなってさ。練習すれば使えそうだけど、すぐ魔力切れして練習どころじゃないのが悲しい」


「あー、魔力は仕方ないか」


「それでも一時間以上は練習したんだよ?」


「……」


「ディゼオ天才。まあ魔法に関しては僕のほうが素晴らしいけどね!」


「……とりあえず、この分身をミアナッシーク王国へ連れて行ってくれ」


「わかった。疲れたら魔法は解除して。分身は消えるけど」


「おう、じゃあ仕事に戻るわ」


 水晶でなにかをし始めたディゼオを横目に、僕は自分の家へ向かう。

 ディゼオの分身と一緒に僕の家へ戻ると、またミアナッシーク王国へ転移した。

次話は6月27日投稿予定です


2020/01/29 追記

曜日のことを書き忘れていましたので、書きたしました。

闇、火、水、風、無、土、光の日と一週間が過ぎていきます。

授業の始まりが闇の日なので、闇の日は月曜日のイメージです。

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