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猫被り王子と神の使徒

 翌日、朝一番に国王からの返信が来て、パーティーに出席しなくていいからそのあとの時間。大体一時くらいに来てくれとのことだ。

 初めからそうしておけば良かったものの。

 僕にこの国の人と結婚させて、この地を離れられない理由を持たせ、国から離れないのならと安心してこき使うつもりだったりしたんだろう。

 僕がパーティーは嫌いだと知っていながらそんな手紙を寄越すんだ。

 結婚させるため以外に考えられない。

 まあ僕が魅力的なのはわかる。

 魔法の天才で、容姿も良いし、地位も名誉もまあまああるし、ミステリアスで男女関係なく心惹かれるものを僕は持っているのだ。

 僕は罪な男だな。

 ただ気になるのは、パーティーが一時という時間にに終わるとは思えないというところだ。

 その辺はまあ、適当な時間に行けばいいや。


 さて。僕の素晴らしさを確認し終えたから、学園へ向かおう。

 服を着替え、白衣を身に纏い、必要なものをポケットへ入れていく。

 今日も教師として頑張ろうか。



〜〜〜〜〜



 国王からの手紙が来てから五日がたった。

 今日は王族主催のパーティーだ。

 身内だけのパーティーらしくて、国外の者はほとんどいない。

 偶然来ていた他国の貴族とかはいるみたいだけど。

 テーブルに置かれた料理が空き皿に変わって来ているからお開きムードではある。


「ニファン・ヴィオラン・アスタール様でございますか!?」


 興奮しているのか頬を赤らめたどこかのご令嬢が、胸元が大きく開いたドレスを着て、祈るように手を組み上目遣いで僕をみる。

 面倒くさいのに見つかったかも知れない。

 でも一応対応はしないとなぁ。

 笑顔を顔に貼り付けてご令嬢に向き合う。


「初めまして。五の魔法使いのうちの五であるニファン・ヴィオラン・アスタールです」


「ここで会えるとはなんて運命なのでしょう! この後お時間ございませんか?」


 デートにでも誘うつもりか?

 嫌だなぁ。


「残念ですが、この後国王陛下と面会させて頂く予定ですので……」


「では空いている日はございませんか?」


 ご令嬢は肉食獣のような目で僕をみて、嘘くさい笑顔で聞いてくる。

 やっぱり面倒くさい。

 こいつ挨拶もしないし、名前も名乗らないし、礼儀もなってない。

 だから無視して国王のところに行きたい。

 というかこいつ、よく僕に話かけようと思ったな。

 僕はいつもの白衣姿だぞ?

 場違いすぎてパーティーの参加者じゃないことくらいわかりそうなものだ。

 わかっていながら話かけてくるのなら余計に面倒くさい。

 とりあえず、拒絶する。


「普段は教師をしているので空いている日はほとんどないのです。教師の仕事が休日の日でも陛下からのご依頼を受けていたり、魔法道具の作成や魔法の開発の仕事もやっていたりしますので……」

 

 要約するとお前のような面倒なやつに構ってる暇はないんだってことだ。

 わかってくれ。


「なんと素晴らしいお方なのでしょうっ!」


 わかってくれないだと……!

 ご令嬢は感動しているが、魔法道具の作成も魔法の開発もほぼ趣味なので、趣味に没頭していたいと言っただけとなる。

 金にもなってるから仕事とも言えなくもないのだけど、やらなくてもいいし。

 それを素晴らしいと言ってくれるのは嬉しいが、今はそうじゃないんだ。

 もうこうなったら最後の手段だ。

 魔法道具の時計を白衣のポケットから取り出した。

 時計の針はもうすぐ二時半を指す。

 約束の時間は一時。

 あっちゃー。

 国王との面談の時間めっちゃ過ぎてるー。

 わざとだけど。

 

「申し訳ございませんが、そろそろ陛下との約束の時間ですので失礼させて頂きますね」


 約束の時間過ぎてるし、本当は急がないと罰金か名誉や称号の剥奪をされるんだ。

 でも僕の場合、五の魔法使いという称号は特別だからこの国の王だけでは剥奪出来ないし、金も有り余ってるからちょっとした罰金なら問題ない。

 僕がやる気になれば金くらい幾らでも稼げるし。


「えっ。あっ、ちょっとお待ちください!」


「……国王陛下より大切なご用がございますか?」


「あ……その、ごめんなさい」


「いえいえ。いいんですよ。では、さようなら」


「さようなら……」


 よし。これでつき纏われることもないな。

 あとは王族か国王本人を見つけて話かければいい。

 パーティー会場をうろちょろして探していると見知った顔を見つけた。

 第一王子のエリック・アウズローフ・アルファード。

 僕が学生だったころの同級生だし、ちょっと挨拶してこよう。

 ついでに国王の居場所も聞き出せればいいな。


「ご機嫌いかがですか? エリック・アウズローフ・アルファード殿下」


「これは……ニファン・ヴィオラン殿」


 エリックがいつもの作り笑いを僕に向けてきた。

 アスタールという家名を呼ばないのは好感が持てるな。

 ただ、僕は何も話してないのに事情を知ってるということは僕について色々と調べたということ。

 怪盗サーチだということはバレてはいないだろうが、油断は禁物か。


「父様に会いに来たのですよね。ご案内しますが?」


「お心づかいありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」


 エリックについていき、人気のない廊下に出た。

 絨毯に吸収された足音がぽふぽふとなるのみだ。

 久しぶりの城に変わらないなぁと思いながら歩いていると、僕の横を歩くエリックがじっとりとした目で僕を睨んできた。


「ニファン。今何時かわかってるよな?」


 さっきのザ・王子サマなエリックではなく、剣士としてのエリックの口調で話しかけてくる。

 学園に通っていたときは、いつもこの口調のエリックだったのに。

 王子という地位にいるから仕方ないことか。

 で、今何時かって? 二時半だねぇ。


「一時の約束のはずだと言いたいわけ? 一時って絶対にパーティー終わってないだろう。嫌だって書いたのに国王は出席させるき満々じゃないか。本当にこの国を出て行こうか悩んだぞ」


「出ていかれちゃ困る。ニファンがいるだけでどの国も我が国には戦争を仕掛けてこないんだ」


「知ってる。だから僕は脅している。僕にとって帰る家はどこにあっても困らない。別にいつ出て行っていいんだ。そこを忘れずに、と国王にも言っておけ」


「わかった。……ちなみに好きな女性の好みは?」


「魔法について詳しく、僕の邪魔を絶対にしない人だ」


「マジナーサ様のような?」


「マジナーサ? 五の魔法使いのうちの三であるあいつか? あいつはない。僕の邪魔にしかならない」


「そうなのか?」


 マジナーサを思い出す。

 上から下まで真っ白なあいつが、神に祈りを捧げている姿が浮かんだ。


「あいつは神への信仰心で魔法が発動し、魔物ではなく自らの血で描いた魔法陣のほうが威力が高まると信じて研究している。僕は神とかどうでもいいし、魔力をたっぷり含んだ魔物の血で描いた魔法陣が一番いいと思っている。魔法について話していても理解し合えた試しがない」


「そ、そうか」


 神に祈りを捧げるとか、意味不明過ぎだろう。

 なに?

 全ての人間が特別であり愛されてるって?

 愛されているが故に苦しみという試練を与えると?

 はっ。

 だったら盗みを働く今の僕は、神から見れば試練を乗り越えられない愚かものってか?

 馬鹿らしい。

 そんな試練を与える神なんていなくていいとさえ思える。

 人の夢を踏み躙って、ああ可哀想って哀れむと?

 神なんてクソ食らえだ。

 それに人間至上主義にも気に食わない。

 人間も魔物も植物も皆、等しく生きている。

 確かに人は知能が高いし、特別ではあるだろう。

 でもそれは他の動物にも言える。

 例えば蟻。

 地面に巣を掘って集団で自分たちより遥かに大きな食べ物を運ぶ。

 例えばペンギン。

 空を飛ぶことを放棄したが、その身一つで寒いところで生活でき、冷たい海の中を泳いで魚を捕ることが出来る。他の鳥には難しいことだ。

 植物も人間では考えられないほど生命力があるだろう。人間なら指を少し取られたら自然には生えてこないが、植物は根や枝を少し取られても問題なくまた生えてくる。

 それぞれの特別がある。

 ならば神なら生き物を皆等しく愛するべきだ。

 でもまあその神を信仰しているマジナーサのことは嫌いではないかな。


「彼女の研究は理解は出来ないが、なかなか興味深い。僕には考えつかない魔法を作ることもあるし」


「ふーん。なるほどな」


 意味深げに頷くエリック。

 というか、なんで女性の好みなんて聞かれたんだ?


「エリック、僕に見合いとか合コンとかさせようとしたら本気でこの国を出て行くからな?」


「そんなことしないから警戒するなって」


「女性の好みとか聞いてきたし怪しいんだけど」


「……いやなに。これから会わせる女性と恋仲になっては困るからな」


 少し頬を赤く染めてそっぽを向くエリック。


「女性? 少女のことか?」


 そこまで言ってからハッとする。

 少女を女性と呼ぶということは、そのまま少女のことを女性として認識しているということ。

 つまりエリックはその少女に恋をしたと?

 それって……。


「エリック。お前まさか、犯罪を……?」


「ち、違う! 断じて違う! それにその女性はこの国の法では成人している! 俺たちとも五歳しか離れてないから!」


「それって十八歳ってことか?」


「まだ誕生日来てないから十七歳だな」


「僕の祖国では普通に犯罪なんだけど」


「そ、そう言われるとなんかちょっとアレだな……」


「でもまあ、この国は十五歳で成人なんだっけ? ならいいんじゃないか?」


「……ただ彼女とは立場が違いすぎてな」


「ってことは庶民?」


「いや、僕より上の立場の人で」


 一瞬沈黙が降りた。

 王族より上って何?

 しかもエリックは次期国王となる男だ。

 それより上?


「神か何かか?」


「神の使徒なんだ」


「エリックの頭がイかれたのか」


 なんて哀れなことだ。

 この国の未来は暗い。

 王子がこんなことを言い出すなんて……。


「本当のこと言ってるからな! 極秘事項だからあまり話せないが本当だからな!」


 ここまでエリックが取り乱すのも珍しい。

 いつもは冷静沈着で誇り高い剣士か、猫を被って素敵な王子サマやってるかのどちらかなのに。

 思わず吹き出してしまうと、エリックがまだ弁解しようと焦っていたから、それがなんだか余計に可笑しくて、腹を抱えて笑い続けた。

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